Cocoaプログラミングには長い歴史がありますが,その歴史を支えてきたツールというものがあります。それがProject BuilderとInterface Builderという開発ツールです。そして現在,Project BuilderはXcodeと名前を変えて依然歴史を支えています。
XcodeとInterface Builder(以下 IB)は,Windowsの世界でいうところのVisual Studioにようなものです。とにかく,ソフトウェアの開発に必要な機能などが統合されたものなのです。C言語を使う人,Javaを使う人,Rubyを使う人,そしてもちろんObjective-Cを使う人でも,MacOS Xでプログラム開発するのであればXcodeを使うことになります。こういうものを開発環境といいます。
昔はプログラミング言語毎に異なるツールやコンパイラが用意されて,開発環境も別々だったのですが,いまやXcodeとかVisual Studioといった開発環境のツールにまとめられたというわけです。
さて,前置き長くなりましたが,本書はそんなXcodeの紹介本です。Xcodeで何ができるのかを紹介していると考えた方がよいでしょう。ゆえに残念ながら「プログラミングの入門書ではありません」。
プログラミングの入門的なことはやって見せてくれているのですが,そもそもXcodeの紹介なので,こういう風にXcodeでプログラミングしていくんですよという雰囲気を伝えるので終わってしまいます。プログラミングそのものを学習したくても,それに関する情報は,ほとんどありません。
またXcode自体にしても,なにゆえそのようなものがあるのかといった解説はされません。とりあえずこういう機能がありますよ的に使って見せてくれるだけなのです。
対象読者は,Xcodeという開発ツールとはどんな感じのものかを知りたい人向けです。プログラミングが初めての人にとっては,「へぇ〜そういうツールでこんな感じでつくっていくんだ,実際,簡単なのかな難しいのかな」程度でしょう。プログラミングに長けている人には,「Xcodeってこんな顔つきのツールなんだ。ああ,そうやって選択するのね」的な感想を持たせる程度かも知れません。
Xcodeの紹介本で,解説書ではありません。そのため,Xcodeの機能を知るためのリファレンスには利用できません。また知らなかった機能を知って得するということも,ほとんどないと思います。
そしてご承知のようにXcodeは10.5でめでたく3.0になりました。本書はもともとXcode1.0の紹介をした初版があり,Xcode2.0が登場して刊行されたものでした。その理屈からいけば,Xcode3.0が登場した今,新しい版が準備されているのではないかと思われますが,同じような調子なら,わざわざ購入するほどのものではないと思います。
ただし,iPhone OSとiPhone SDKが正式リリース予定されている現在,Xcodeも3.1へとアップし,iPhoneとiPod Touch上で動くCocoa Touchソフトの開発にも使用することが見えてきました。
そうなると歴史を支えてきたXcodeが,さらに新しい歴史を紡いでいくことになり。注目度は断然高まるというものです。Cocoaプログラミングの世界に多くの新しい仲間や興味を持つ人たちが集まってくることになります。そういう意味で,Xcodeの紹介本にも,今までとは違う意味での必要性が出てくるかも知れません。
Cocoaプログラミングの中核を担うXcodeとIBは,CocoaプログラミングがNextコンピュータからMac OS X,そしてiPhoneへと広がっていく中で,様々なプログラミング言語に対応しつつもObjective-Cを軸にしっかりとその開発基盤を支えています。Intel-MacとMacOS X 10.5によってMacが元気になり,iPhoneとiPod Touchというデバイスに対する世間の関心が高まっている今日,XcodeとIBをあらためて紹介し直してみることも大事なことなのだと思います。
そういう意味で,次の版に期待しましょう。