日本語のCocoaプログラミング本を精力的に執筆しているのは木下誠さんです。そうした活動から,現在ではアップルが主催するプログラミングセミナーの講師もされています。そしてセミナー講師の経験を踏まえて上梓されたのが,この『たのしいCocoaプログラミング』という入門書です。
Cocoaプログラミング入門書としては,素晴らしい出来だと思います。すべてを網羅していないのは当然ですが,Cocoaプログラミングを取組み始めるにあたって気になる事柄を上手に盛り込んでいます。独特な文体を採用して気楽さを演出しているのも,何気ない情報を盛り込む工夫の一つともいえます。逆にあっさりと解説されてしまって通り過ぎてたということもありますが,おおむね工夫は成功していると思います。C言語に関する基本解説も盛り込み,復習組にも役立ちます。
ただし,読者には学習に対する柔軟さを求められる部分もあります。リファレンス的要素も適度に織り交ぜられているため,具体的な使い方を読者自身で想像しなくてはなりません。サンプルであるRSSリーダーは,大変興味をそそられる例題であるにもかかわらず,RSS0.9や2.0などのRSS規格やその関係に対する理解がないと,複雑に見えてしまう結果を招き得ます。
とはいえ,本に対するフィーリングの問題さえ無かったり,避けられるのであれば,入門書として読み解く価値のある情報の詰まった本であると断言できます。
本書の対象は,プログラミングが気になっていて始めたいという人です。Macに対する知識や理解は期待したいところですが,それはおぼろげとしてもプログラミングに是非挑戦したいんだという意欲のある方なら本書は役に立つと思います。
前提知識があればあるだけ,本書を読むのも楽になりますし,詰められた情報への理解も深まります。しかし,とりあえず本の通りに操作して,サンプルプログラムを製作することから学ぶこともできます。
さて,この本は入門書として十分な価値があることは,上に紹介したとおりですが,残念なお知らせもあります。本書の対象としている環境が,10.4上のXcode2.4もしくは2.5までだということです。
10.5とXcode3.0以降については,操作の説明がそのままでは通用しなくなっています。また図版面でも,画面デザインの変更で雰囲気が変わっているため,この本を手にして10.5上で演習するのは,かなりの読み替えを必要とする面倒があります。
10.5対応の本書新版が登場する可能性やタイミングはわかりませんが,非常に魅力的な入門書なだけに,その可能性を期待したいと思います。私自身も復習やリファレンスに重宝しています。
冒頭ご紹介したように,本書は木下さんのセミナー講師経験から執筆されたわけですが,そのセミナーの資料や内容がアップル社によって提供されています。そして,2008年に入り,10.5とXcode3.0対応でセミナーを開催されたので,そこで公開されている資料も10.5対応となりました。『たのしいCocoaプログラミング』は10.4対応ですが,10.5対応を期待されている皆さんは,一足先にアップルのセミナー資料で勉強されるのが一番だと思います。
Cocoaセミナー資料
http://developer.apple.com/jp/documentation/japanese.html#CocoaSeminar1
本書サポートサイト
http://hmdt.jp/books/enjoyCocoa/index.html
コメントする