2008年3月アーカイブ

 これは「Professional Mac OS X」というムックです。かつて発行されていた「オープンソフトウェアマガジン」という月刊誌に掲載されていたMac OS X関係の記事を集めてつくられました。そして,このムックには連載「Undocumented Mac OS X」の第1回から第5回までが掲載されています。

 白山貴之さんの連載「Undocumented Mac OS X」は,雑誌休刊のため終わるまで,都合14回続いたことになります。以下が14回分の内容リストです(特別編は実際には連載の中に埋め込まれていたように記憶しています)。

第1回:initを置き換えるlaunchd(Web版:前編後編
第2回:plistとFoundation(Web版:前編後編
第3回:OpenDirectory(Web版:前編後編
第4回:HFS,HFS Plus の基礎的概念(Web版:前編中編後編
第5回:HFS Plus独自の機能(Web版:前編後編
特別編:Safariの脆弱性に学ぶBAHとusroリソースの働き(Web版:本編
第6回:Universal Binary(Web版:前編後編
第7回:Mac OS XとWindowsファイル共有
第8回:Bonjour
第9回:Objective-C
第10回:キー入力/マウス操作がアプリケーションに届くまで
第11回:I/O Kitによるデバイスドライバ(前編)
第12回:I/O Kitによるデバイスドライバ(後編)
第13回:カーネルランドドライバ作成の実際
第14回:Mach IPC

 ムックはオープンソースマガジン発行中に出されたもので,雑誌がその後も続いていたならば,ムックの続編か,連載記事が単行本になる可能性もあったかも知れません。しかし,残念ながらオープンソースマガジンは休刊,そして連載も終わりました。

 その後,「ITmedia エンタープライズ」上で「Undocumented Mac OS X」の記事が公開されました。連載時の回数でいえば,第6回までをWebで読むことができます。しかし,第7回から第14回までの内容は依然としてバックナンバーを掘り起こして参照するしかありません。

 オープンソースマガジンのバックナンバー自体,特集によっては売り切れたものもあり,確実に入手したければ,CD-ROMによるバックナンバーを入手するほかありません。

まるまるオープンソースマガジン2006
http://www.sbcr.jp/books/products/detail.asp?sku=9951200613


 長々と連載に関する情報をご紹介しましたが,この「Undocumented Mac OS X」はその名の如く,あまり日本語では解説されたことの無かったOSXの技術情報を記事として取り上げた点で大変貴重な連載でした。

 アップル社の技術ドキュメント資料は,ほとんど英語です。いくつかは翻訳されて公開されていますし,ボランティアで翻訳をしたものを公開している方々もいますが,やはり膨大な量の資料のすべてをカバーすることはできませんし,新しく加わった情報にまで手が回らないというのが現状のようです。
 「Undocumented Mac OS X」に取り上げられた情報は,確かにアップル社の英語ドキュメントで読める内容のものですが,日本語をメインにする私たちにとっては,日本語で解説が読めると腑に落ちる確率も増えるように思います。ただし,これが下手な翻訳物だったら逆効果ですが...。


 この連載ではI/O Kitに関する話題が取り上げられており,ちょうど私も知りたかった事柄なので,その仕組みを理解するのに大変大きな助けになりました。英語のままフワフワしていた理解が,日本語で解説されてスッと入った感じです。記事の内容も10.4がリリースされた頃の比較的新しい情報なので有り難かったです。もっとも10.5が登場した今となると,さらにまた違った変化があることも承知する必要がありそうです。基本は変らないとは思いますが...。

 第9回のObjective-Cの記事は,荻原さんの『Objective-C Mac OS Xプログラミング』を底本としながら,コンパクトにObjective-Cを解説してくれています。あくまでもコンパクトであって,やさしいとか入門とかではないのですが,プログラミング経験がある人なら,参考資料として便利かも知れません。


 対象読者は,MacOS Xプログラミングの経験者です。日本語で解説される機会の少ない,こうした情報について関心があれば参照してみるという感じになると思います。上級者の方にとってどうなのかはわかりません。アップルの資料が英語で直接読める方々は,直接そちらにアクセスされた方がよいでしょう。

Mac再発見の旅

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 この本はプログラミングの本ではありません。Macのユーザーインターフェイスに関して,その歴史を紐解きつつ,アップル社の得意としている操作性が,どんな考え方で成り立っているのかを紹介しています。

 Cocoaプログラミンクをするのには,技術的な知識があれば事足ります。しかし,Macのソフトをつくるとなると,技術的な知識だけではなく,「Macらしさ」というものについて,ある程度の認識を必要とします。そうでないとMacらしいソフトをつくることが難しいからです。

 そもそもアップル社からは「ヒューマンインターフェイス・ガイドライン (Apple Human Interface Guidelines)」と呼ばれるドキュメント資料が古くから提供されていて,Macの操作がどんなものでどうあるべきかを詳細に唱えています。特にOSX以前の版のドキュメントは,神格化されるほどではなかったにしても,多くの人々の関心を集め,インターフェイスを論じる際の古典の一つといっても差し支えないでしょう。

 なぜそのような一技術資料が,それほど注目されたのでしょうか。それはインターフェイスの問題が,Macというパソコンの世界観をいかに表示や操作として具現化するかという問題だったからです。そして,Macの世界観とは,それはどうしたらパソコンが人間にとって使いやすい道具やものであれるのか,それを追究する世界だったのです。ある意味,ソフトをつくる人間にとっては根源的な問いです。


 Macらしいとは,そうした追究を踏まえ,エレガントな答えをもって解決することを指向した在り方です。アップルは独自のデザインプロセスを持っているといわれています。たとえばこのBusinessWeekの記事には,アップルのシニア・エンジニア・マネージャーのMichael Loppが触れたいくつかのプロセスが紹介されています。

1) Pixel Perfect Mockups
2) 10 to 3 to 1
3) Paired Design Meetings

 1)は寸分たがわぬ完璧なモックアップをつくること。曖昧さを排除するためです。2)は全く異なるアイデアを10種類出し,そこから3つ,そして1つに絞り込んでいくこと。Macらしい,新しいアイデアを生み出すためです。3)は他者肯定的なブレインストーミングと他者批判的なプロダクションミーティングの2つの会議を毎週持つこと。どんどんアイデアを出しつつ,一方ではシビアに実現性を検討していくためです。

 こうした飽くなき探究があるからこそ,Macらしいソフトが生まれ,Macの操作性が高まり,ひいてはその世界観が研ぎ澄まされていくというわけです。


 本書は,そうしたMacのインターフェイスや世界観を語らせれば右に出るものはいない柴田文彦さんの著書です。過去のMacが歩んできたインターフェイスの歴史をたっぷりと紹介してくれます。
 Xcodeの紹介本の方は,正直あまり良い出来映えではないと思いますが,こちらの本は柴田さんの十八番です。Macのソフトをつくるのであれば,一読しておくべきだと思います。