Mac再発見の旅

user-pic
   

 この本はプログラミングの本ではありません。Macのユーザーインターフェイスに関して,その歴史を紐解きつつ,アップル社の得意としている操作性が,どんな考え方で成り立っているのかを紹介しています。

 Cocoaプログラミンクをするのには,技術的な知識があれば事足ります。しかし,Macのソフトをつくるとなると,技術的な知識だけではなく,「Macらしさ」というものについて,ある程度の認識を必要とします。そうでないとMacらしいソフトをつくることが難しいからです。

 そもそもアップル社からは「ヒューマンインターフェイス・ガイドライン (Apple Human Interface Guidelines)」と呼ばれるドキュメント資料が古くから提供されていて,Macの操作がどんなものでどうあるべきかを詳細に唱えています。特にOSX以前の版のドキュメントは,神格化されるほどではなかったにしても,多くの人々の関心を集め,インターフェイスを論じる際の古典の一つといっても差し支えないでしょう。

 なぜそのような一技術資料が,それほど注目されたのでしょうか。それはインターフェイスの問題が,Macというパソコンの世界観をいかに表示や操作として具現化するかという問題だったからです。そして,Macの世界観とは,それはどうしたらパソコンが人間にとって使いやすい道具やものであれるのか,それを追究する世界だったのです。ある意味,ソフトをつくる人間にとっては根源的な問いです。


 Macらしいとは,そうした追究を踏まえ,エレガントな答えをもって解決することを指向した在り方です。アップルは独自のデザインプロセスを持っているといわれています。たとえばこのBusinessWeekの記事には,アップルのシニア・エンジニア・マネージャーのMichael Loppが触れたいくつかのプロセスが紹介されています。

1) Pixel Perfect Mockups
2) 10 to 3 to 1
3) Paired Design Meetings

 1)は寸分たがわぬ完璧なモックアップをつくること。曖昧さを排除するためです。2)は全く異なるアイデアを10種類出し,そこから3つ,そして1つに絞り込んでいくこと。Macらしい,新しいアイデアを生み出すためです。3)は他者肯定的なブレインストーミングと他者批判的なプロダクションミーティングの2つの会議を毎週持つこと。どんどんアイデアを出しつつ,一方ではシビアに実現性を検討していくためです。

 こうした飽くなき探究があるからこそ,Macらしいソフトが生まれ,Macの操作性が高まり,ひいてはその世界観が研ぎ澄まされていくというわけです。


 本書は,そうしたMacのインターフェイスや世界観を語らせれば右に出るものはいない柴田文彦さんの著書です。過去のMacが歩んできたインターフェイスの歴史をたっぷりと紹介してくれます。
 Xcodeの紹介本の方は,正直あまり良い出来映えではないと思いますが,こちらの本は柴田さんの十八番です。Macのソフトをつくるのであれば,一読しておくべきだと思います。

 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://con3.com/mt/cgi-bin/mt-tb.cgi/75

コメントする