米国4月3日に新しいタッチデバイス「iPad」が発売されました。日本発売は4月末とされているので,正式に手に入るのは5月以降といったところですが,米国ユーザーのレビュー情報や,持ち帰ってきた人々による感想から,凄い製品であることは伝わってきます。
Enjoy Cocoa(当ブログ)的にはiPhone OSベースのマシンである点から見えてくるiPadの可能性に期待をしています。iPhone OSはご存知のようにMac OS Xと同じコアをiPhoneのために書き直したもの。アプリケーションを作るために用意されているフレームワークをタッチデバイスに適したものへと載せ変えたのです。そのフレームワークをUIKitと呼んで,それを利用したiPhoneプログラミングのことはCocoa touchプログラミングと呼んだりします。
Macでマウスを,Newtonでスタイラスを,PoweBokkでトラックボール/トラックパッドを,iPodでホイールを採用するというように,Appleのマシンは入力デバイスを革新していくこととセットで進化してきました。iPhoneはとうとうタッチパネル(タッチスクリーン)に至り,ディスプレイを前提とするマシンの入力方法としてはほぼゴールを達成しました。残る音声入力と視線入力と三次元操作が実用になるのにまだ時間が必要だとすれば,しばらくはタッチパネルが主要な入力デバイスの地位に留まるはずです。
それゆえ,iPhone OSは今後のタッチデバイスプラットフォームとして大変重要な存在です。これをAndroidが追いかけており,そのポテンシャルは高いと考えますが,iPhone OSの「ヒューマン・インターフェイス・ガイドライン」に代表されるプラットフォームレベルのユーザー・エクスペリエンスの作り込みは,そう簡単に真似られそうにありません。
米国4月8日にはiPhone OS 4.0のプレビューが行なわれるようで,噂としてはアプリの同時起動と切り替えが可能になるといったものがあります。iPhone OSは着実に進化していくと考えられます。一方で,Appleはユーザビリティとセキュリティの観点から,iPhone OSを無制限にオープン化することは無いといえます。たぶん本当の意味での「rest of us」に向けた道具とするためには,PCと同じアプローチでは難しいと考えているからだと思います。
おそらく水面下ではiPhone OSとMacOS Xの融合研究が進められているでしょう。タッチしてダイレクトにスクリーンを操作する方法とポインタをスクリーンに待機させながら操作する方法は,それぞれにメリット/デメリットがあります。この辺を最終的にはタッチ操作の中で上手に解決し,Mac OS Xを進化させることでiPhone OSとのプラットフォーム共通化が実現されれば,App StoreでMac/iPhone/iPad向けのアプリが並ぶことにもなると考えられます。iPhone/iPadに関してはこれまで通りセキュリティを理由にApp StoreやiTunes経由でアプリをインストールする縛りを維持しつつも,Mac上ではすべてのアプリが利用できるようになるかも知れません(あくまで想像です)。
そんなOSが登場するまでは,iPhone OSが着実に進化し,MacOS Xも残るでしょう。
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iPadが世界を変えるデバイスになる。そのような表現を採用すべきかどうかは,それぞれの人の感性も関係してくる問題ですので,その妥当性を突き詰めたいとは思いませんが,そんな表現を生むほどインパクトがあるには違いありません。
スクリーン上を精確にポインティングするのに指タッチは不向きです(少なくとも補助機能を使う必要があります)。それゆえ,すべてのデバイスがiPad的なものになるとはいえません。しかし,精確なポインティングを多少犠牲にしても通用する場面は数多いわけで,そうした用途にiPad的なデバイスが活躍することは増えてくると考えられます。そして,これまでのところ,様々なレビューや感想を見た限りでは,増えるどころか埋め尽くすのでは無いかと思えます。
長々書いたのですが,iPadに可能性や魅力を感じるのは,本体が単純素朴なデザインで完結していることです。一枚のコピー用紙のように曲げたり折ったりはできませんが,板状のスクリーンのみで構成されているため,紙同様にいろんなシチュエーションに埋め込むことができます。机の上に平たくポンと置くこともできるし,台を使って立てて使うこともできる。そういう使い方を適当に決められるデバイスは,今までほとんどなかったわけで,iPadの登場はその意味でも重要なのだと思います。