【講義後記】20081110

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 名古屋へ寄ったり,静岡に研究調査へ出かけたり,慌ただしい週末を経て,本日も非常勤先で教育関連の講義。せっかく指定したテキストを使って,淡々と授業をしようかと思っていたが,まあ,どうしても先日のNHK「クローズアップ現代」を活きが良いうちに皆で見たいと思い,ビデオ観賞会と相成った。

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 自治体の厳しい財源事情を背景とした非正規教員への依存の強まり。しかし地方によっては,非正規教員の確保にも難儀することで,授業に穴を開けてしまう事態が発生している。番組は,とある中学校現場等を取材し,非正規教員の実態の一例を紹介している。収入や雇用の不安定。そのような非正規教員の増加が,非正規教員本人はもちろんのこと教師集団や正規教員への負担増加をもたらし,学校教育自体のポテンシャルを削いでいる現実。深刻な問題である。ゲストは,教育社会学者である藤田英典先生。


 正直,このような内容の番組を教員志望やそこで迷っている学生に見せることに,いくらか不安はある。現場の厳しい現実を見てしまうと,考え込んでしまうんじゃないか。教育に関わる意欲を失わせてしまうのではないか。あるいは,こういう泥臭い側面を扱うことは望ましいのかどうか。
 むしろ,いかに教師という仕事が誇り高いもので,子どもたちの可能性と進歩成長は大きな喜びであるか。そのための困難に立ち向かえる教師力量を形成するために自己研鑽していくことに意欲的であること。そこにフォーカスし,教育内容や教育方法の知識を講義すれば,それで私の役目は十分なはずである。

 けれども,そんな風に笛を吹いて教育の世界に誘っておいて,「あとは自分で現実を知ってね」ということが後ろめたく思える。少なくとも私自身が非常勤で働いている手前,見えているものを見えていないふりをすることが難しい。
 だったら,むしろ現実の一側面をしっかりと認識してもらって,その上で悩んでもらい(最近「悩む力」もブームだし…),乗り越えてもらった上で,教育に携わって欲しい。そういう気持ちで,こういう問題を扱うのが私の流儀である。

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 前回の授業で,カリキュラムが,国レベル,地方自治体レベル(都道府県/市町村),学校レベル(学校長/教師)において具体的な形で決められていくことを説明した。少々乱暴だが,今回の番組が扱っている主題も,実はそれぞれのレベルで展開した政治的・財政的な問題の絡み合いによって起こっていることを解説してみた。
 学習指導要領や教育課程を作り教育を運営・実践していくという動きの土台のところで,資金や権限に関する影響力の及ぼし合いみたいなものが激しく動いている。そのことに無知でいることよりも,自覚的であるべきだと思う。

 多くの学生たちが,自分たちの身近なあるいは,進み行く先で起こっている問題として,強い関心を持って番組を見ていた。ビデオ上映は大いに眠気を誘う手段だが,ほとんどの学生が食い入るように見たり,メモを取りながら見ていた。私も番組進行中の横で,必要な事柄を板書していた。


 少なからぬ学生たちが「ショックであった」とか「知らなかった」など,危機意識を持ったとコメントしてくれていた。特にもともと地方から出てきた学生たちは,自分たちの地元の実態がどうなのかを気にしていた。また,実際に自分たちが通っていた中学高校の先生に非常勤講師がいたり,自分のサークルの先輩が非常勤講師だという人もいて,番組の内容と自分の現実とを繋げて考えている人も多かった。


 国や地方自治体がやっていることにやるせなさを感じるのは確かである。一方で,それを無視して教育に情熱を注ぐという生き方もできるとは思う。いまは,問題があることを認識した上で,それでも自分たちを励まして,教育に意欲を持って関わっていくことを励まそう。でも,その現実は必ず何かの機会に変えていくことができるはずだ。第44代アメリカ大統領にオバマ氏が選ばれて,世界も変化に前向きだ。私たちもそうした世界の流れから学ぶべきことがある。


 タイムリーな話題や番組を使って,そんなような話を展開した。さて,これからがいよいよ専門知識の出番だ。厳しい現実の中で,頼りにできるのは,自分自身の知識だけである。そのような知識を得て,はじめて知識を媒介とした人々との連携も可能になる。そして教師という仕事は,そのことに関して常に誠実であることによって喜びを得ることができる。もちろん具体的には子どもたちとのかかわり合いという形に落とし込まれていくわけだが,それも教師自身の学びによって支えられているのである。そんな先生の育成に少しでも役立つ授業になればと思う。

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 もう一つの授業の方も,個人個人の課題決めをして,いよいよ具体的な行動に移すよう仕向けていく。調べたい教材教具を決めて,調べる項目についてラフに考えたもらった。次回は,予備調査報告として,この一週間で対象をざっくりと探ってもらって,その報告をしてもらう。面白そうなら,より深く調べていくことになる。

 題材決めから調査の内容,調査対象へのコンタクトまで,ほとんど学生たちに自前で頑張っていただくことになる。その成果をうまく発表などで披露してもらい,全体で共有していく中から次のステップや行動に結びつけていくように授業の場をコーディネートしてくのが私の仕事。どちらの努力も欠けてしまうと上手くいかない。頑張らねば。

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