デジタル教科書を教科用図書とする動き

 2013年12月13日にフジテレビと毎日新聞で次のような報道がありました。

 「規制改革会議作業部会、電子教科書を認めるべきとする方針固める」  (フジテレビ)

 「デジタル教科書:政府、16年度にも解禁へ実証研究」  (毎日新聞)

 フジは規制改革会議,毎日はIT戦略会議でと報道されていて,いつの間にこんな話が議論のまな板に載っていたのだろうと情報を探しました。

 どうやらIT戦略本部側で始まった「新戦略推進専門調査会 規制制度改革分科会」で作成している「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン(案)」の中に今回の論点が盛り込まれ,それが規制改革会議側へも手渡されるという流れになっているようです。

 件のアクションプラン案の中身は非公開。記事録も公開されていないので、いつの間に(学習者用)デジタル教科書を教科用図書に含めるという案件が出てきたのか確認することはできません。文部科学省がどの程度関与しているのかもわかりません。

 しかし,火のないところに煙は立たず。

 さきほどの規制制度改革分科会の構成メンバーの名簿を確認してみたら,案の定、デジタル教科書教材協議会(DiTT)のあの人物が名を連ねていました。まさにメインフィールドで本領を発揮されているようです。それ自体は良いことです。

 フジテレビと毎日新聞の2社しか報道していないところを見ると,限定された情報源から聞き出した程度の信憑性なのでしょう。そうなるとまだ文部科学省側がその気になっているわけではないという可能性はあります。

 特に教科書検定制度の見直しまで言及するとなると,省内で相当議論しなければならないはずです。つい最近出した現政権にゴマをするような形の「教科書改革プラン」にデジタルのデの字もなかったことを考えると,なるほどアクションプランが非公開であったり、こうやってアドバルーン報道の形で鎌を掛けてみている状況はさもありなんという感じです。

 文部科学省の情報教育課では,デジタル教科書データの標準化に関する話が少しずつ進行しているようですが、こちらはこちらで出番が来る時のために粛々と作業しているというだけみたいですし、全体としてデジタル教科書を指導者用,学習者用を含めて,どのように位置づけ展開していくべきか,どこかにたずなを引いているところがあるわけじゃないというのが悩ましくはあります。

 まあ,ざわざわとした様々な動きの中からいつの間にか紡ぎ出されていくのかなという感じで,その中の大きな変化を掴み取って読み解くしかなさそうです。  

師走の研究室内整理

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 今日は,本当に久し振りのNo授業,No会議,No出張の日でした。

 もう師走ですので、研究室内の掃除をしたいところです。しかし,掃除するにも文献資料が乱雑に積み上げられているため、まずは文献資料整理から始めなければなりません。

 この数年間は研究室内を放置したも同然だったので、上の写真でご覧いただけるような有り様です。奥に隠れているデスクへ移動するのも大変。

 ぼちぼちまとまった文章を書きたいので,とにかく執筆のための資料を文字通り掘り起こすべく,整理作業に着手しました。

 作業を始めると,辺り一面文献が散らばりますし,興味深い目ぼしい文献を見つけると読み始めたりもするので,10時間経過した状況は整理どころかむしろ渾沌。

 けれど,いままで自分が買い溜めてきた蔵書を見返すと,自分が何を考えてきていたのかリフレクションもできるので,こうした作業は無駄ではないと思います。

 何故にこんなに蔵書を抱え込んだのか。

 私自身に本を買うと安心するという悪い癖がないわけではないのですが,むしろ,いつか自分の研究室生を持った時に,彼/彼女らが資料探しで困らない環境を作りたいなと漠然と考えていたことが大きいと思います。

 図書館が整備された都会であれば図書探しもいくらか楽かも知れませんが,地方の都市だと図書館がそれほど充実していないところも少なくありません。それに教育と情報に関する分野の充実度もバラバラでしょう。

 できれば,りん研究室は文献資料の充実した場にしたいなと思ってきたのです。

 そんなわけで,こんなに散らかっているのですが,ちょっと文献の量に対して研究室が手狭なので困った事態になっているというのが正直なところ。

 そして残念ながら,未だ研究室生はいません。

 少し寂しくはありますが,もうしばらくは気楽な独り研究室です。  

THE WALL (リコー)

 株式会社リコーには「TAMAGO Lab.」というプロジェクトがあり,ビジネスに役立つ卵的なソリューションを生み出す活動をされています。

 主にモバイル端末用アプリの開発を通してアイデアの提案をされているのですが,その中には学校で使うにも面白そうなものがいくつかあるのです。

 たとえば会議資料の配付や回収の便利な「Smart Presenter」は,少人数での話し合いの場で資料配付するには手軽なアプリです。(本格利用の場合は別途サーバーソフトを購入することで350名までの会議ができます。)

 「Idea Card」というアプリは,個々の端末でデジタル付箋を作成して,司会者端末にどんどん共有していくことができるアプリです。班活動のときのアイデア出しに便利だと思います。

 他とは少し違うテイストのアイデアが盛り込まれたアプリを開発しているのがリコーの「TAMAGO Lab.」なのです。

 2013年11月に,新しい卵として「THE WALL」がリリースされました。

 これはWebとiPhoneアプリを組み合わせたWebベースのディスカッションツールです。Webブラウザ上に表示したホワイトボードは,ペンと消しゴムで自由に書き込むことができて,ページも増やすことができます。

 ページは小さなサムネイルで一覧できるだけでなく,サムネイルをドラッグ&ドロップしてページに貼り込むことも可能です。サムネイルはクリックするとページジャンプをするので,簡単なハイパーカード的作品を作ることもできるのです。

 基本機能はこれだけのシンプルなものです。工夫次第で複雑なハイパーリンクスライドを作ることもできるというわけです。

 しかし,このTHE WALLの肝はそこじゃありません。

 THE WALLに書き込まれたデータを保存したり,再度開いたりする方法がユニークで,他にはなくエレガントなのです。

 THE WALLのデータを保存する場所としては,ユーザーのGoogle Driveを指定するようになっています。Google Driveに保存できることは少しもユニークではありませんが,それは核心ではありません。重要なのは,どうやって個別のユーザーのGoogle Driveに保存させるかなのです(保存場所などは要望次第でDropboxやEvernoteにすることは技術的に不可能じゃありませんから)。

 THE WALLでは各ユーザーにiPhoneアプリをダウロードさせて,それぞれの端末上でGoogle Driveの利用承認の手続きを最初の一回だけ行ないます。あとはWeb画面にある保存ボタンを押して出てくるQRコードを使って,Web画面で作業したデータと各ユーザーのGoogle Driveを紐づけ,インターネット上で保存処理するように動かすのです。

 つまり保存は,画面の保存用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。  逆に開く場合も,画面の開く用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。

 QRコードを読み取るだけで,みんなで見ているパブリックなTHE WALLと,自分だけ閲覧できるプライベートなGoogle Driveとをデータが行き来するのです。しかもログイン手続を一切省いて(すでに承認済みだから)。

 電子黒板と生徒用の端末とをリンクするために電子黒板にQRコードを表示させて端末で読み取るという仕組みはすでにありましたが,Google Driveといったプライベートな領域をつなぐところまでは届いていませんでした。

 個人ストレージというプライベートな領域を,学校の電子黒板といったパブリックな領域と接合する方法も,ログイン手続きの煩雑さを考えると決して簡単なものではなかったわけですが,そこにiPhoneアプリを噛ませるというアイデアは実にエレガントです。

 この仕組みであれば,先生がTHE WALLに板書した内容は,各自がQRコードにiPhoneをかざすだけで各自のGoogle Driveに転送されるわけで,授業中に板書で忙しいために講義内容を聞き漏らすということも防げます。講義中は必要最低限のノートだけ取れば,板書はあとで保存できるからです。

 また,各自がTHE WALLを使って作成し,Google Driveに保存したデータを,教室の大画面に提示したい場合にも,各自のiPhoneでQRコードを読み取るだけで,自分のGoogle Driveから教室の大画面に転送されるため,先生が支援システムを操作したり,ファイルサーバから開いたりする手間が省けます。

 これはApple TVなどのAirPlay切り替えにも似ていますが,AirPlayと違ってQRコードを読み取るという物理的な行動が必要になるため切り替えミスを防ぐこともできます。

 THE WALLは,自由線と消しゴムとページ・サムネイルで作画するシンプルなHTML5ベースのディスカッションツールで,まだまだ進化する余地は大きいですが,iPhoneアプリを使った保存と開く操作のアイデアは他にはない素晴らしいアイデア機能です。

 自分一人で使う分には,iPhoneとQRコードを使う保存方法は回りくどいだけですが,それぞれプライベートな保存領域を持った者が関わりあう場で使うツールの保存方法としては理想的なやり方です。

 今後は,他のノートアプリと連携して使えるようオープンな形で発展して欲しいと思います。

教育情報化年表2013年11月版

 私がフューチャースクール推進事業や学びのイノベーション事業に関わるようになって,これまでの歴史的経緯を理解する必要を痛感したことで,つくることになった日本の教育の情報化年表。すでに日本教育工学会の研究会で公表済みですが,年表作成作業自体は随時進行中です。

 隔月刊ペースで定期的に更新しようと思っています。今回は2013年11月版です。

 教育情報化年表2013年11月版

 次回は2014年1月版として更新予定です。

 2014年度からは,教育と情報の歴史研究会(仮名)を数回ほど開催して,皆さんと情報交換が出来ればと考えています。