2021年度末だった

あっという間に年度末を迎えた。

コロナ禍も3年目…と季節の風物詩のように聞こえ始めたり,21世紀だというのに遠い異国で戦争が始まったり。正直,かなりおかしな精神状態で過しているように思う。

2021年がどんな年だったか,大して振り返らずに2022年に入って,とうとう年度末。

2021 関連資料
https://ict.edufolder.jp/archives/1340

ああ,Clubhouseの熱狂も,#教師のバトンの発狂も,どこかのGIGA端末の発煙も,いじめと自殺の発覚も,デジタル庁や教育DX推進室など組織変革も,全部昨年のことだった。

たくさんの出来事があっただろうに,本当に何にも手中に残っている感じがしない。ただでさえ遠くで起こっていることが,コロナ禍でふらふらと近づいて言葉を交わしてみることもなく,通り過ぎてしまったからか。

関係者は,いよいよ高等学校が舞台となることで動いているようである。

GIGAスクール構想のもとで変わり始めた小中学校から卒業し,進学する先の高等学校がGIGAスクール対応できていなかったりすれば残念なことになる。

そうでなくとも,高等学校における共通教科「情報」は,令和7年度からの共通テストで試験が課されることが決定し,その対応をどうするかでテンヤワンヤが始まっている。

なるほど,今度は高等学校GIGAが大きな焦点にはなりそうだ。

一方で,小中学校も端末整備が一段落して,今度は活用を深めていくフォーズに入ったといわれる。

ICT機器の使い方に慣れてきて,授業や学習でどのように活用するのか,そのポテンシャルを引き出してみようという試みがあちこち出てくる。それに伴って,学習観のようなものを発展させていくことも進められなくてはならない。そうした教育や学習支援の技量を身につけるため教師自身がより学びを深めていけるような条件整備や支援が必要になる。

とはいえ,実際のところ,どうなるのかは関係者の発信を期待して耳をそばだてていないとわからない。

りん研究室は,この2年間,ドタンバタンと落ち着きのないまま迷走してきた。

新年度からは,生き残っている取り組みを,もう一度体制を整えて取り組んでいきたい。

それについては,また新年度に入ったら書いてみよう。

高等学校のGIGA端末整備の準備はお早めに

2021年12月27日付で「GIGAスクール構想における高等学校の学習者用コンピュータ端末の整備の促進について(通知)」が発出されました。

20211227(通知)GIGAスクール構想における高等学校の学習者用コンピュータ端末の整備の促進について
https://www.mext.go.jp/content/20211228-mxt_shuukyo01-000003278_001.pdf

小中学校段階と高等学校段階の違い

義務教育(小中学校)段階のGIGAスクール端末整備は,幾度かの国の補正予算によって「公立学校情報機器整備費補助金」として以下のような事業に補助金が交付されてきました。

  1. 公立学校情報機器購入事業
  2. 公立学校情報機器リース事業
  3. 都道府県事務費
  4. 家庭学習のための通信機器整備支援事業
  5. 学校からの遠隔学習機能の強化事業
  6. GIGAスクールサポーター配置促進事業
  7. 公立学校入出力支援装置購入事業
  8. GIGAスクール運営支援センター整備事業
  9. 学校のICTを活用した授業環境高度化推進事業

一方の高等学校段階は,学校設置者である都道府県等の取り組みを尊重する仕組みのため,自治体の整備進捗は様々となっています(上記の補助金の中には高等学校対象もあります)。2021年1月〜2月に調査実施した「高等学校における学習者用コンピュータの整備について」では,47都道府県中5自治体は整備自体の検討段階であること,整備に取り組むとした自治体でもその具体は様々でした。(資料

通常,学校に対して何か予算を確保するとなると「学校設置者」が予算を工面することになります。

小中学校(義務教育)段階は,市町村区立であることが多いですから,市町村レベル(基礎自治体と呼ぶこともある)で予算確保することになります。一方,高等学校段階は,県立であることが多いことから,都道府県レベルで予算確保をします。

しかし,ご存知の通り,自治体財政はどこも厳しいものがあり,それぞれの地方税収だけでは成り立ちません。ほとんどの自治体が地方交付税という国からの分配金に頼っているというのが現状です。

特に小中学校の設置者である基礎自治体は,規模から考えても大きな予算を自由に確保することはできませんから,国の方針に従うための諸々の予算を地方交付税の中に含ませて交付してもらう必要があります。この交付金と自分たちの税収をまるっと合わせたものが「一般財源」というものになり,自治体ごとに使い道を独自に決めていきます。

高等学校の設置者である都道府県も基本的には似たような仕組みで予算を確保していますが,市町村レベルよりは財政規模が大きくなるので,国から面倒見てもらえる範囲が狭くなります。

たとえば,小中学校は学校整備の補助が直接的で分かりやすく整備費補助金として交付されたりしますが,高等学校における整備の補助は直接的に面倒見てもらえず,教育予算とは銘打っていない補助金を上手に理由付して利用しなければならないことが多くなります。

今回も高等学校段階のICT環境整備の費用負担について…

・設置者負担で進める場合には,一般財源とともに,新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金や国の補助制度を活用することも含めて検討すること。

を留意するように当初から通知されています。

なお,従来から同時に走っていた「学校のICT環境整備に係る地方財政措置(教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度))」は高等学校も対象となっています。

新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金

2020(令和2)年度の補正予算から経済対策として「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」が創設され,私たちも報道などで見聞きする様々な補助金が交付されてきました。

「新型コロナウイルス感染症対応」とか「地方創生」とか銘打たれているため,学校教育の環境整備のために使えるなんて想像できないのが一般人の感覚ですが,実際には,コロナ禍の学校教育を何とかするための事業であれば,補助対象となりうることが(そもそも)想定されています。

公開されている活用事例集には,各省庁から示されたであろう様々なジャンルや事業が掲載されています。その中には,環境整備やGIGAスクール構想支援の予算も堂々と例示されています。

つまり,高等学校にGIGAスクール端末(と呼ぶかどうかに関わらず)整備することも,事業趣旨を臨時交付金の趣旨に寄せて申請すれば,十分対象になるということになります。

また,こちらのWebページの「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の活用が可能な事業(例)」では,

◆新たな暮らしのスタイルの確立
(新たな時代に相応しい教育の実現)
・オンライン・遠隔教育のための人材育成、教材、機材、通信費等支援
・高等学校等におけるPC・タブレット端末、LTE通信機器等の導入支援
・教員等の追加配置や人材マッチング支援
(後略)

と明確に端末の導入やその支援に交付金を活用してよいと例示しています。

冒頭でご紹介した通知も,このコロナ臨時交付金が柔軟に活用できることを周知しようとしています。実施計画書など関係書類の提出期限は「2022年1月31日(月)12:00【厳守】」となっています。

臨時交付金が活用されない問題

ところが,国の意向とは裏腹に「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」(コロナ臨時交付金) があまり活用されていないようです。

自治体の担当者がコロナ臨時交付金について,十分な情報を得られていないため,申請に至らないという場合もあります。知らなければ活用もできないというわけです。

また,臨時交付金の存在は分かってはいるが,自治体組織の仕組み上,学校教育関係部署の人間が勝手に地方創生の交付金に申請できないルール(関係部局長の稟議承認が必要など)となっている自治体もあるのではないかと思います。

同じ都道府県とはいえ部局がまたがるような事務手続きが必要な場合だと迅速に事を進められず,担当者によっては,しり込みしてしまって申請に至らないケースもあるのかも知れません。

こうした状況に陥っている場合,当人に対して発破をかけるよりも,全体を統括する立場の人間に働き掛けて,縦割りを越境しやすくする配慮を効かせてもらうなどが必要かも知れません。

端末は義務教育より上を選定する

文部科学省は,高等学校に導入するGIGAスクール端末について,小中学校の導入の際に示された「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」などを参考にするよう言及しています。

しかし,高等学校の生徒用に導入する学習者用端末を選定する際には,金額ベースで言うならば小中学校の補助金額の2倍を想定すべきです。(小中が4.5万円であれば,高等学校は9万円を想定したい)

性能的には,動画編集がストレスなく作業できるもの(動画視聴ではありません)が望ましいことになります。

そのような端末を9万円程度で購入すること自体が困難であるのは承知していますが,金額に関しては時間とともに安価になるものですので,できるだけ性能の高いものを選定したいものです。

昨今では,省電力技術が進んだパソコンも増えてきており,バッテリー駆動時間が長くなったり,高負荷でも発熱が抑えられたものも登場しています。こうしたものを選定できれば使用にストレスを感じず日常の活用頻度も高まります。

文部科学省は「標準仕様書を参考に」しましょうと言いますが,文部科学省のICT活用教育アドバイザー(3月まで)の私はあえて「標準仕様書は無視」しましょうと申し上げます。

コミュニケーションから捉える教育学習


2021年12月3日に経済産業省・産業構造審議会 商務流通情報分科会 教育イノベーション小委員会 第3回 学びの自律化・個別最適化WG が開催され,傍聴者に対してYouTube配信されました。

テーマは「学習者視点での「教育データ連携と個別学習計画」に基づくパーソナルトレーニングの確立」というもの。パーソナルトレーニングという言葉は,議論のため暫定的に提案されたもののようですが,探究する学習者に寄り添った支援を組織的制度的にどう実現するのかを考えたいようです。

今回のWGの中でデジタルハリウッド大学の佐藤昌宏先生が次のようなスライドを示して,評価の仕組みをアップデートする必要があると提起していました。

YouTube配信より

評価の議論も興味深いのですが、今回取り上げたいのは,座標系の話。

「多様な指導・学習形態」を表わすために用いられている「対面−遠隔/同期−非同期」軸による座標系です。

佐藤昌宏研究室の大学院生さんのWeb記事に,上図とは軸向きがあべこべではありますが、同じような座標系が掲載されているのでそちらもお借りしてみます。

例示に若干のムリクリ感はありますが,なんとなく言いたいことは分かります。


あらためて,「対面−遠隔/同期−非同期」座標系で教育学習の場面を捉えると,そこで提示される場面は(佐藤先生のスライドを大ざっぱに振り返ると…)次のように区分されているようです。

「対面×同期」は,学校の教室での授業のこと。(場所は学校/他者と学習)
「対面×非同期」は,学校での自学自習のこと。(場所は学校/自分で学習)
「遠隔×同期」は,同時参加のオンライン授業のこと。(場所は不問/他者と学習)
「遠隔×非同期」は,学校外の自学自習のこと。(場所は学校外/自分で学習)

これで多様な指導・学習形態をカバーしているともいえるし,逆に区分が曖昧な場合もあって,たとえば授業のオンデマンド動画を受講することは,同期(ライブ)の「オンライン授業」ではないにしても,自宅等でドリルや読書等をする自学習と同じ範疇に入れてもよいのか,という疑問に対しては明解でないともいえます。

もっとも,多様な指導・学習をキレイに分類したものをつくるのは難題です。

学校での対面授業だけ考えていればよかった段階と違い,コンピュータとネットワークの技術を自在に組み合わせて様々な教育・学習形態を生み出せるようになりましたから,二軸では足りないだろうし,仮に軸が増えれば分かりやすく描くのは難しくなるのも当然です。


最近はお蔵入りさせているので,ご披露する機会はありませんが,かなり前は,私が担当している授業や講演の中で「コミュニケーション・モデル」に関する知見から教育学習のコミュニケーションを考える題材を扱っていました。

教育とコミュニケーションモデルに関しては,磯辺武雄「教育過程としてのコミュニケーション・システムに関する考察」が詳しく検討を加えているので参考にしてください。

この先行知見にインスピレーションを得て,簡略化されたコミュニケーションモデルで教育学習活動を整理できないかなと思ったわけです。

まず「同期−非同期」に代わる軸を,コミュニケーションから検討してみようと思います。

コミュニケーションモデルの説明では「導管メタファ」(conduit metaphor)とよばれる捉え方があります。意味は言葉の中に含まれていて,言葉を導管を通して相手に届けることでコミュニケーションが成立するという考え方です。

たとえば,シャノンとウィバーによって提示された「通信システム」の図は,これをよく象徴しています。

クロード・E・シャノン,ワレン・ウィーバー『通信の数学的理論』より

導管メタファによるコミュニケーションのモデルは,情報通信や知識伝達を主目的とする場合には都合のよい捉え方です。こうしたコミュニケーションを「直線的コミュニケーションモデル」と呼んでみます。

(もっとも,シャノンとウィーバーは,この通信システムを検討する際に,通信の問題を3つのレベルに分けて論じており,現実的なコミュニケーションと通信システムの違いについて認識していただろう事は付言しておきます。)

コミュニケーションモデルの議論には,意味は言葉の文脈や相互過程によって生成されるもので,言葉のやり取りを通してコミュニケーションが収束していくことで成立すると考える立場もあります。

たとえば,ロジャーズとキンケイドの「相互理解のコミュニケーションにおける収束過程モデル」はその一例です。

M.ロジャーズ『コミュニケーションの科学』より

こうした相互のやりとりによる過程を重視したコミュニケーションの捉え方にも様々なバリエーションがあるため「導管メタファ」のようなズバリ言い当てた呼び名が決まっていません。

「相互作用モデル」ともいえるし,「相互過程モデル」もありかもしれません。ネットを検索すると「協働構築モデル」という名付けをしているものもありました。江戸時代の学びについて論じた辻本雅史が日本人の受容様式を「染み込み型」と指摘していましたが,そういうニュアンスも含めたい気持ちにもなります。

松岡正剛が『知の編集工学』で「編集の贈り物交換モデル」という図を示しているのを目にしました。

松岡正剛『知の編集工学』より

松岡氏は編集というキーワードで語られる方なので,モデル図が示しているメッセージを包み込む立方体のことを「編集の贈り物」と呼んでいるのですが,それをブレークダウンして呼ぶと「意味の箱」になります。

つまり,送り手は言葉(メッセージ)に何かしらの意味を付与して投げ出し(図では箱に入れて放り出す感じ),一方,受け手は投げ込まれた言葉だけを自分自身の解釈で引っ張り込む(図では自分で用意した意味の箱ですくい取る感じ)でコミュニケーションが展開していきます。(この辺を掘り下げたい場合は,深谷昌弘・田中茂範『コトバの〈意味づけ〉論』などが面白いのではないかと思います。)

この「編集の贈り物交換モデル」の面白いところは,意味の箱が直接相手に渡るわけではなく,メッセージだけが交換されるという点。つまりお互いが似たような意味の箱を生成して収束していかなければならないことを意味しています。場合によっては永遠に収束しないかも知れませんが,コミュニケーション自体は成立するといったところなのです。

それでこのモデルをイメージした「媒介的コミュニケーションモデル」という呼び方を考えて,先の「直線的コミュニケーション」と対にして捉えようと思ったわけです。

これで「直線的−媒介的」という軸ができました。

「同期−非同期」とは違って,情報や知識の理解の方に関心を寄せて軸を作ったことになりますが,これらが同期的に展開するのか,時間差を含んで非同期に展開するのかという視点を交わらせると面白く置き換えられるのではないかと思います。


さて,もう一つ軸を作るにあたって,「対面」と「遠隔」を考えます。

それは「オンライン」と「オフライン」と呼ばれるたりもするわけですが,もう少し違った切り口でこれを表現することはできないだろうか,といつも感じます。

というのも,直接会う「オフライン対面」もあるし,画面越しの「オンライン対面」もあり得るわけで,やがて技術の進歩や革新がオフライン/オンラインを意味のないものにする可能性があるんじゃないかと思われるからです。

そこで,私たちが他者と関係性を持つ場面を想像したときに,何か意識の違いとして区別できるものはないかと考えたときに,「つながり」と「場の共有」という2つの形を思い浮かべられそうでした。

場は共有していないけれども,お互いはつながり合っているという状況を表わす「ネットワーク型」,同じ場を共有してやり取りを展開している状況を表わす「フィールド型」。

これは物理的な空間や手段に規定されるものでは必ずしもないため,場合によっては,バーチャル空間やメタバースといったデジタル空間をフィールドとしたコミュニケーション状況を説明する場合にも使えるのではないかと思っています。

そうなるとこの2つの違いは何なのか?ということになるのですが,今のところ「情報・知識や活動が占める帯域の違い」といった感じなのかなと考えています。

こうして「ネットワーク型−フィールド型」という軸ができました。


「直線的−媒介的」と「ネットワーク型−フィールド型」というコミュニケーションの軸を設定しましたので,これを使って座標系がつくれます。

2010年ごろまでは,この2つの軸を直交させて,単純に掛け合わせてできた4種類のコミュニケーションを紹介したり,説明したりしていました。

その後,長らく寝かしたままでしたが,最近になってこれを見直してみたのです。座標系ではないなと。

それで描き直したのが冒頭の図でした。(下に再掲)

MOOCが話題になったりして,ブレンディッド・ラーニングというのも出てきましたし,最近ではハイブリッド型授業やハイフレックス型授業というのも注目されていましたから,座標ではなくて領域にしてベン図的に表現した方が現実に近そうです。

赤文字が掛け合わせでできたコミュニケーションの説明。

青文字は具体例を考えるとしたらこんな感じ?という書き込みですが,まだ練り足りないかも知れません。


こうやって整理をしたからといって,評価の仕組みの議論には何か役に立つかと問われると,答えに窮してしまいます。単に複雑さを増しただけともいえます。

それでもGIGAスクール構想の実現によってもたらされた情報端末とネットワークの環境が,こうしたコミュニケーションの多様性を学校に持ち込んだことを確認することはできそうです。

こうした多様なコミュニケーションを教育や学習に生かす方法は,まだ見えていない部分もあります。その知見を一歩一歩積み上げていくことが大事なのだろうと思います。


ちなみに,遠隔教育に関しては次のような類型化が行なわれていました。

2018(H30)年の6月と9月に開催された「遠隔教育の推進に向けたタスクフォース」のもとで「遠隔教育の推進に向けた施策方針」(2018年9月14日)がまとめられ,その中に「遠隔授業の推進に向けた類型化」が示されています。

合同授業型」「教師支援型」「教科・科目充実型」です。

これらのポイントを伝える概要資料には次のようなイメージ図が示されました。(資料

この「方針」は,学校教育における遠隔授業という観点でまとめられていることもあって,受信側/送信側を明確にした上で,授業を成立させる遠隔の在り方を類型化しています。

しかし,この方針が検討されたタイミングは,新型コロナウイルス感染拡大によるコロナ禍よりも前。

まさか,すべての児童生徒が自宅等に閉じこめられて,その学習機会を確保するための遠隔教育が必要になるなんて,夢にも思っていなかった中で検討されたものだともいえます。

その他,通信教育の文脈では,N高校のような「広域通信制高校」の急拡大を受けて「「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議」を設置し,新しい時代の通信制教育を議論しています。

コンピュータを使った学力テスト

それをなぜ「学びの保障オンライン学習システム」と呼んだのかは分かりません。

文部科学省がコンピュータを使用して実施するテスト(CBT)を実現するため開発したシステムは「MEXCBT」(メクビット)と名付けられました。

CBTとは「コンピュータ・ベースド・テスティング」(Computer Based Testing)の頭文字をとった言葉で,文字通り,コンピュータ上で受験することを意味しています。コンピュータ使用型調査とも書かれます(紙を使った筆記型調査は「ペーパー・ベースド・テスティング」Paper Based Testingとなるわけです。あまりそう呼ぶことはないですが…)。

つまり,CBTシステムは,テスト実施システムのこと。

ところが,令和2年度補正予算説明で,文部科学省製CBTシステムを「オンライン学習システム」と呼称して,堂々と「CBTシステム」とも併記しています。

この無茶苦茶な呼称混乱は,小さく「・学習(問題解答)実施」と書き添えていることから,命名者達の意図したことをちょっとばかり想像することはできます。(この文言はその後の図では削除されています)

つまり,ドリル問題を解く活動を「学習」だと思えば,「学習システム」と言えなくもないでしょ,という事のよう。

タイミングはコロナ禍によって,全国一斉休校を体験した後です。学校教育が停止し,「学びを止めない」として様々なオンライン教材が提供されたことが社会的にも知られていましたから,それと似たようなものを導入するのだと説明した方が通りがよかったのだろう事も推察されます。

実際,当時の文部科学省の様々な取り組みが「学びの保障」というキーワードで統一的に情報発信していましたから,CBTシステムもその一環に組み入れたのは方略として当然だったのだろうと思います。


こうして,CBTシステムのプロトタイプ版開発事業が始まったわけですが,ロードマップとしてはこうなっています。

そして,MEXCBTのプロトタイプ版は,こんなイメージのシステムです。

利用者には一人ひとりIDとパスワードが割り振られ,MEXCBTシステムのもつ認証システム部分でログインして,CBTシステム部分でテストを行ないます。

場合によっては,この他にも利用している学習コンテンツとかサービスとかがあるでしょうけれど,そちらはそちらで登録して利用しているので,別の範疇ということになります。

上図は,簡略化したイメージです。

正確性を期すため,構想段階の図をNIIシンポジウム資料から拝借したのがこちらになります。(動画資料

プロトタイプ開発を請け負ったのは「内田洋行」(表立っては「オンライン学習システム推進コンソーシアム」)で,国際学力調査で利用されている既存のCBTシステム「TAO」を基盤として,そのCBTシステム部分に,内田洋行が開発した実証用学習eポータルシステム「L-Gate」を認証システム部分として組み合わせたのが「MEXCBTプロトタイプ版」というわけです。

このことが,令和3年後期から始まる「MEXCBT拡張機能版」の活用事業において,他社製の学習eポータルも交え始めたときにややこしさを抱かせることになりますが,その話は後述します。

下が、活用事業を始めるための機能改善や拡充の説明スライドです。

ここでMEXCBTにどんな変化が起ったかというと,認証システム部分とCBTシステム部分を明確に分け始めたことでした。

プロトタイプ版のシステムではくっ付いていた,利用者のログイン作業を担う「認証システム」部分と,問題の出題や解答・採点を担う「CBTシステム」部分を,拡張機能版では分かりやすく引き離したのです。

その上で,「CBTシステム」部分のみを新ロゴのもと「MEXCBT」と呼び,「認証システム」部分は「学習eポータル」と呼んで,いろんな会社が開発して提供してもよい形に移行したわけです。

(システムに出入りする認証システム部分が分離されたといっても,MEXCBT側に直接接続することはできず、必ず認証システム部分である学習eポータル側を経由しなければならないのが上図の肝です。)

文部科学省 総合教育政策局 教育DX推進室の桐生室長は,このようなシステムを部分部分に引き離した形を「ブロック」が組み合わさるイメージで説明します。

たとえば,おもちゃのレゴブロックが一定のルールにもとづきながら多様な部品で大きなブロック作品を構成できるように,このようなコンピュータシステムも,各社が国際規格のルールにもとづいて協調して開発することで,一つの大きな学習・CBTシステムを構築することができると考えるわけです。

かつ,各社が競争的に部品開発を行なってくれれば,特色あるユニークな部品を利用できる可能性も生まれることになります。利用者(この場合,教育委員会レベル)は複数の選択肢から,よりよい「学習eポータル」を選ぶことが求められます。


2021年11月1日に行なわれた「MEXCBT(拡張機能版)」活用に関する説明会の時点では,4社のシステムが名乗りを挙げていました。(順不同)

教育プラットフォーム主要4社がそろって学習eポータルに対応(教育とICT Online)
https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/110200287/
どこまでが無料?「学習eポータル」対応サービスを比較
https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/111100298/

各社とも,文部科学省が「活用事業」の予算化している間は「無料」提供するとしているので,とにかくどこかのシステムを選択して試してみればよいということになりますが,いずれは本格利用のタイミングで有料化されるため,導入に携わる関係者は頭を悩ませているのです。

そして,ここでややこしい問題は,内田洋行の「L-Gate」です。

内田洋行は,MEXCBTプロトタイプ版の開発にかかわっている会社のため,文部科学省に提供した学習eポータル「実証用学習eポータル L-Gate」とは別に,自分たちで販売できる商品のための学習eポータル「商用学習eポータル」を開発する必要がありました。

文部科学省に差し出したとはいえ「実証用学習eポータル」の開発ではノウハウが蓄積されたでしょうから,別途「商用学習eポータル」を開発するといってもゼロからというわけではなかったはずです。(おそらく実際には逆で,商用開発していたものの機能制限版を実証事業に提供していたと思われます。)

ややこしい問題は,商用と実証用とで同じ「L-Gate」というブランド名を使っていることと,文部科学省に差し出した「実証用学習eポータル」は文部科学省から継続的に無料で提供される予定だということです。

だったら,そのまま実証用でよくない?とか,同じL-Gateに移行したらいいんじゃない?とか,そういうなかなか微妙かつもっともな疑問が出てくるわけです。

ところが,同じ名前なのに実証版から商用版へはそのまま移行できないし,実証用が継続されるという話もいつまでなのかは国の予算次第で,いつ放り出されるかわからない。

4社から選ぶという話は,やはり避けて通れない話なのです。

(20211203追記)

株式会社COMPASS社が,同社のQubenaを学習eポータルとしてMEXCBTと連携できることを発表しました。


学習eポータルに関して,詳細やより専門性の高い解説はこちらの記事が参考になります。

特に,認証システム部分のシングルサインオンに関しては,児童生徒教職員の膨大なアカウントに関わる話ですので,学習eポータル選びで一番重要な検討項目でしょう。3つ目の記事が参考になります。


システムのお話がこうして進行している一方で,CBTシステムを使って行なう学力調査に関しても,準備は進んでいます。

2021年11月26日には,全国地方自治体の関係者を対象とした「地方自治体の学力調査等のCBT化検討研究会」がオンラインで開催されました。

MEXCBTシステムを利用する学力調査は,全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)だけではありません。

それぞれ地方自治体が独自に行なっている地方の学力調査もMEXCBTシステムを利用してCBT化することが可能です。つまり,CBTシステムを各自治体で準備・維持する必要はなくなるうえ,全国や国際的な学力調査もほぼ共通の使い勝手で受験できるメリットがあります。

こうした分かりやすいメリット以外にも,各地方自治体が協力し合うことで,MEXCBTを利用した学力調査をより質の高いものへと育てていくことができるはずですが,そこには課題や問題もあり得ます。

今回の研究会は,MEXCBTシステムを地方の学力調査というより児童生徒に近いところで利用する際,そのメリットを最大限活かすためには何が必要なのか,どんな問題があるのかといったことを共有し,解決策を探り始めるため設置されたと考えることができます。

とはいえ,議論する時間的猶予はそれほど多くは残されていません。

MEXCBTシステムの導入は,全国学力・学習状況調査のCBT化によって避けられない道ですし,CBTシステムから返ってくるデータをどのように児童生徒の学習活動や教職員の教育活動に生かすのかという「データ駆動型」の取り組みにも目配せをしないわけにはいかなくなっています。

こうした情報をなるべく早く吸収しつつ,皆さんの経験や考えのもとで向き合っていく必要があります。