[徳島]工事と機器確認

 フューチャースクール推進事業の環境構築が進んでいます。他のところでも公開資料の情報がまとめられていますが、実際の進捗は、学校行事との兼ね合いを配慮したり、機材の手配などの現実的な事情から、多少遅れた形になっています。

 という訳で、私は本日、担当している小学校にお邪魔して、搬入された機材の実地確認が行なわれている現場を見学しています。

 普通、研究者が機材整備作業に付き合うことは、高度な科学技術設備ならいざ知らず、パソコン機材程度ならほとんど無いと思います。なので、私は変な部類の研究者です。正しくは暇人かも知れませんが…。

 けれども、こうした業者の皆さんの地道な努力部分こそ、私達がまず巨額の投資をする対象であるし、そこが丁寧になされることで、学校現場の先生方が安心して環境を利用できるわけですから、しっかり見届けることが関わる者としての責務と思います。

 基本、見学ですから、口挟むなんて大それたことはしません。隙間に、整備されつつある環境について専門の担当者の方のお話を聞き、後はひたすら作業を眺め、学校内を徘徊して雰囲気を感じ取る努力をするだけです。

 明日は実証校の運動会の日。

 学校全体が前日準備のために大忙しです。

 本来なら工事も導入作業も断りたいところだと思いますが、日程的にはこの週末しかないようで、先生方のご協力のもと、エンジニアの皆さんが一生懸命作業を進めて下さってます。

 私はどちらも手伝えず、ただ、ぼーっと眺めるだけ。私的にはそれだけでも面白いので、問題無いのですが、忙しく動いている皆さんに対しては申し訳ないなと思います。

 西日本で導入されたタブレットPCは富士通のFMV-T8190という製品。あえて普通に使えるスペックのごく普通のタブレットPCをチョイスしたというのは良心的だと思います。未来とは言えないとしてもね。

 ネットワーク環境は、決して派手な構成ではありませんが、最新の機器を丁寧に調整していきます。この辺は、市町村単位で環境を整えていく考え方ややり方もあり得るので、全国展開する場合には、地域の協力があると心強いのですが、やはり地域差は出てきそうです。

 サーバ機器も特別高価なものを使っているわけではなく、今回使っていくコンテンツをキャッシュできるごく普通のサーバです。ネットに普通に上がっている動画をキャッシュすることは難しいですが(そういうのは馬鹿高いらしい)、今回のような特定のコンテンツをメインに使う目的なら十分のようです。

 あとは児童用タブレットを一台一台動作確認する作業です。まだまだ続いています。

 こうして導入される環境をどう活かすのか。ぼちぼち、ボールが渡ってきそうです。過去の成果も踏まえて、地道にやるしかないですね。

日本教育工学会第26回全国大会に参加

 9月18日から20日まで,愛知県の金城学院大学にて日本教育工学会全国大会が開催されていました。連休まるまる缶詰めになって学会参加してきました。
 ご報告すべき事柄,考えたことなどたくさんありすぎて,文字で書き記すよりもしゃべり倒してしまいたい気持ちです。ともかく,まずは参加した感想を順に書きたいと思います。

 今回の日本教育工学会は,教育工学研究に携わる者同士の「研究」と「学会活動」というものを同調させる契機となるものだったと思います。
 四半世紀の歴史を刻むに至った日本教育工学会を一つの場として,教育工学という学術研究に関わる者の世代・関心・姿勢などが多様化する中で,「教育工学」という学術研究活動をどう織りなしていくべきなのか。
 そうした問題はじわじわと露になっていたのですが,ようやく全会員の共通問題として立ち上がったというのが今回なのかなという感じです。
 つまり,教育工学研究は,これまでの探究の道のりの中でたくさんの荷物を抱え込んだ状態にあるのだけれども,いまその状態で基本に立ち返るためには何が必要なのかを問い始めたところだということです。
 周回遅れで教育工学を考え始めた人間にとっては,「なぜそんな基本のキみたいな問いを?」と思えるのですが,それが「歴史は繰り返す」の一側面なのかも知れません。

 私自身は,ここでも繰り返しお知らせしてきたように,大会の初日に「ワークショップ」の企画を担当しました。別のエントリー記事でご報告をしたいと思いますが,結果的には興味深い議論の時間を持てたように思います。
 そして,教育工学に対する私自身の捉え方についても,今回の大会のシンポジウムや課題研究における討議は,いくつか開眼に値する認識をもたらしました。
 正確には,現状をどう理解して,何を目指して動いているのか,自分の中で整合性を持って理解できるようになってきたということです。
 拡大直後のグーグル・マップが,ぼやけた地図画像しか表示していなかった状態から詳細な地図画像を順に表示してハッキリしてくる動作をしますが,それが教育工学あるいは教育工学会に対して,私の中でようやく起こったという感じなのです。

 ようやく視界がハッキリし始めたという意味で,今回の日本教育工学会全国大会は,興味深いものでした。
 私がワークショップで扱ったタッチデバイスに関しても,そういう括りは難しいとしても,個人単位での学習ツールを活用した教育実践の研究が来年にはもっと増えてくるのではないかと思います。
 フューチャースクール推進事業に関わる先生方とも少しばかりご挨拶しましたし,その成果を発表していくことの意義のようなものも自分なりに組み込めそうに思えてきましたので,来年の全国大会では発表の側に立つことになりそうです。

[徳島]第1回FS協議会

 9月9日午後からフューチャースクール推進事業・徳島県の第1回協議会が開催されました。実証校の先生方と教育委員会の方,事業者の皆さんと研究者の私といった構成メンバーでした。
 ご挨拶のあと,総務省で行なわれた第2回研究会の報告と,実証の実施計画や記録について検討が行なわれました。協議会自体は1時間ぐらいの予定で,そのあと導入するタブレットPCなどの紹介と学校との事務打ち合わせが組まれていましたが,あれこれ検討しているうちに時間は延びてました。

 さて,フューチャースクール推進事業の進捗なのですが,まだまだ準備段階。今月は環境を整えるための機器備品の選定や導入作業や工事を各学校の事情に合わせて整えていくので精一杯です。
 来月は学校行事が目白押しの中で,先生や児童たちが整備された環境の使い方を学んだり,ICT支援員さんが各学校に入って関係を築いたりするだけで精一杯。
 落ち着いて実証に取り組めるようになるのが,ようやく11月になってからではないか。というのが私たちの想定です。この辺は,総務省サイトに公開されている研究会の配布資料などから情報を得ることができます。

 私は,西日本地域の中の徳島県に限って関わる研究者です。西日本地域のその他4つの都道府県にも研究者の方がいます。お名前をお聞きして知っている方もいるし,会ったことのない方もいらっしゃいます。今はそれぞれがバラバラに担当校に関わっている状態です。
 一方,東日本地域の様子を断片的に聞いたところによると,統括する研究リーダーがいらっしゃり,研究者が連携して各校を担当しているようです。必ずしも地元の研究者が担当するわけでもないみたいです。また,研究リーダーが各校を巡回することもあるらしい。
 東日本と西日本では,そんな違いもあったりしますが,事業者間では定期的に連絡をとり合い,お互いの事業が全体としてうまく進展するように情報交換もしているようなので,東西で大きな開きが生まれることはないでしょう。

 そんな感じで,現段階では,フューチャースクール推進事業を請け負った事業者の皆さんが各地域を見通して全体を把握しており,実証校も研究者も,それぞれの範囲で取り組んでいるという状況です。そのため各校毎かなりの温度差もあるようですが,本格開始すれば,そうした状況も徐々に改善されるのではないかと思います。
 とにかくまだ何も始まってもないに等しいので,辛抱強くお待ちいただき,今後も行方を見守っていただければと思います。

成熟社会とデジタル技術

 鈴木寛『「熟議」で日本の教育を変える』(小学館)が書店に並んでいます。サブタイトルは「現役文部科学副大臣の学校改革私論」とあります。
 私たちにとっては「スズカン」という名を聞くと「コミュニティスクール」という連想が自然に出るくらい,2000年前後に起こったコミュニティスクールの議論において金子郁容氏とともに活発に動かれていました。
 アメリカのチャータースクールも注目を集めていたときでしたから,それと基本的には同じ考えであるコミュニティスクールにも注目が集まったわけですが,違いは何なのか,教育バウチャーとの絡みはどうなのか,そもそも現行制度との整合性はどうするのかといった疑問も飛び交い,話題としては一歩下がったところに落ち着くようになりました。
 結局,アメリカのチャータースクールの事例について,成功したところと失敗したところの落差もあって,当初の手を上げた人達が学校を作っていくというコミュニティスクールのイメージから路線変更し,地域で学校を支えていくという形で各地に広がっていったように思います。
 今回の新しい本でも,コミュニティスクールについて3段階あるとし,第1段階を「土曜学校,放課後」,第2段階を「学校支援地域本部」,そして第三段階を「本格的コミュニティスクール」と説明しています。

 鈴木副大臣は昔から一貫して,教育の工業化は終わりを迎えており,オーダーメイドの教育が必要であることを訴えており,そのための制度的な変革としてコミュニティスクールを唱え,そして学びの手法としてはコラボレーティブラーニング,つまり熟議のような方法で学ぶことを提案しているわけです。
 これに絡めてデジタル技術についても,熟議カケアイの場を支えるものとして触れているだけでなく,学びのイノベーションを起こすために必要なものとして位置づけています。そのためのデジタル教科書・教材なのだというけです。
 繰り返しになりますが,このような主張は,従来の義務教育システムの前提であった同一水準,同一内容の教育を提供するという考えに転換を迫っています。
 統一的な到達目標を目指して指導を展開していた教育のあり方を,個人ごとの到達目標の設定を前提として指導を展開していくわけです。それだけ教員側に柔軟で高度な対応力が必要とされます。
 だからこそ,本書でも教員自身のセルフラーニングの必要性が強調され,さらに教員養成と教師教育,教育大学院の重要性が記されているわけです。

 カリキュラム研究の分野からすると,この問題は「工学的アプローチ」と「羅生門的アプローチ」で有名な議論と重なり合います。
 カリキュラム開発に関するこの2つのアプローチにおいて,教育目的の設定と教育方法,さらには教員養成に関する項目にまで違いが指摘されています。
 特に羅生門的アプローチにおいては,教員養成の重要性が指摘され,教師の即興性が必要とされると掲げられていることからも,教員の資質の向上を何らかの形で支援していくことが必要なのは間違いありません。
 私個人は,教員に対して,人的支援,金銭的支援,知的支援を行なう条件整備をなるべくはやく構築することが大事だと考えています。
 人的とは,現在いる教員を支えてくれる秘書的な教育支援教員のような役職の制度的な確立を。金銭的とは,教員個人又は個別の学校に裁量権のある研究費の支給を。知的とは,教育実践や自己研修に必要な情報リソースの拡充を。
 こうした制度的条件整備を行なうことで,教育産業的にもビジネスが成り立つ目処が立ち,また子ども達に掛かりきりになる教員を外部と結びつけるための窓口ができ,普段からコラボレーティブな人的環境で仕事ができるようになる可能性が開けると思います。
 成熟社会における教育を実現する方法は様々あるとは思いますが,ますば教員がそのような社会にステップアップして参画できるように,デジタル技術などを駆使して,支えていく必要はありそうです。

[徳島]第1回FS協議会の予定

 2010年8月27日に総務省「ICTを利活用した協働教育推進のための研究会」の第2回が行なわれたようです。総務省の研究会の構成メンバーが増えたことや「協働教育」の考え方について整理した資料が公開されています。
 西日本の徳島地区では近日中に第1回協議会が行なわれる予定です。各校ごとに細かいスケジュールは異なるので,すでに会が済んで取組みが始まっているところもあるでしょうし,まだこれからのところもあるようです。
 東日本と西日本の実証実験には,多少違いもあります。それは総務省・研究会で配布された資料をご覧いただくとわかります。

 素朴な疑問。この時点で実証実験にかかわる「私」には,どんな連絡が届いていたり,どんな景色が見えているのでしょうか。
 答え。事業請負業者から職場への依頼書と地区の第1回協議会の簡単な資料が届いただけ。総務省・研究会の情報は国民と同じくWebで見る。

 協議会の場で総務省・研究会の報告を短く受ける予定であることがわかっていますが,特別な資料や全体の実証研究に関わる意志疎通のための懇談会みたいなものがあるわけではありません(いまのところ…)。
 個人的に学会繋がりで関係の諸先生方に連絡をとることができないわけではありません。ただ,情報交換や意志疎通を新しい文脈で構築するにあたって,属人的な繋がりにだけ頼ってしまっては,全国展開でたくさんの人々を巻き込むときの役に立ちません。
 後日の協議会で,どれだけ見晴らしがよくなるのか,またご報告したいと思います。