あの日にかえりたい

令和元年度を経て、令和2年度が始まります。

新型コロナウイルス感染拡大という事態は,昨年12月に中国・武漢の感染者発覚から表面化し、年明けから中国はもとより世界を襲い始めました。

1月31日にようやくWHOが「緊急事態宣言」を出し、日本では2月3日以降クルーズ船「ダイヤモンド・プリセンス」号での感染症対策活動に関する報道を通して,徐々に危機感が高まりました。

その後、2月27日に突如全国的な臨時休校要請が発表され,その他の社会的要請とも相まって,人々の社会的行動や経済的活動に甚大な影響を及ぼして今日に至っていることはご承知のことと思います。

3月2日から始まった臨時休校は,3月20日には要請の緩和方針が打ち出され,文部科学大臣は年度初めから従来通りの学校再開を目指してガイドライン等を準備するといった流れでした。

東京オリンピックの延期決定,そして東京都の感染確認人数の増加と感染爆発(オーバーシュート)による重大局面。国内における「緊急事態宣言」がなされるかどうかを巡って思惑や情報が錯綜しています。

厳し目の予測をして慎重な対応をすることが重要と考えていますが,事態の深刻さにもかかわらず,適切な情報や実感が掴みにくい現状に,正直なところ,何かを考えて語ることの難しさだけが押し寄せていました。

この間,教育とICTの世界に関して言えば,ネットワークとコミュニケーションサービスを利用した「オンライン学会」や「オンライン授業」といった取り組みに注目が集まり、さらに臨時休校中の家庭における学習を支援する様々なコンテンツやサービスの無償提供が注目されました。

オンラインで家から授業を受けるという未来予想図に押し込められていた取り組みが,全国一律の休校要請によって,すべての学校関係者にとって等しく大きな関心事になったというのは,これまで無かった一大事です。

全国の児童生徒1人1台の情報端末の整備をうたったGIGAスクール事業が決定した時でさえ,学校関係者の関心にほとんどのぼらなかったというのに,厄災である新型コロナによってデジタル教材やオンライン授業が関心事にのぼったのは皮肉という感じもします。

しかし,臨時休校緩和の方向が示され,地域の実情に即してとはいえ新年度から従前通り学校を再開するとなってから,盛り上がったオンラインへの関心も(大学を除いて)急速にしぼみつつあります。

基本的に学校は「通常状態」(いつもと同じ)に戻りたがる組織です。

逆に言えば,いつもと違うことを嫌がりますし,何かが起った場合には「あの日にかえりたい」と常に思いをはせる場所でもあります。そうならないために,あらゆることを遮断もします。

ただ,それでカバーできない事態が起ると,学校レベルや教育委員会レベルでは思考停止をする他なく,国レベルの指導を求める傾向が極めて強いのです。

そういう制度的な仕組みにしてしまっているので,良いも悪いもないのですが,少なくとも,何かをより良く変えることが難しいことの一因ではあります。

新型コロナウイルスの感染拡大という緊急事態は、いろいろな側面から,こうした仕組みや体質,傾向などを明るみにする機会となっています。また,これからの学校教育では不測の事態に迅速的確に対応する能力の育成もねらいに込められていることを考えると,現況への対応一つ一つがすでに新たな学校教育の取り組みそのものなのだということも見えてきます。

であるにもかかわらず,驚くほど何もできていない私たちや日本社会の現実について,やるせなさを感じます。

いろんなことでのチグハグさを目の当たりにして考え込んでしまうのです。

たぶん,理不尽な物事にも何かしらの事情や思惑があるのだろうと,違う立場での捉え方に想像を巡らせてみるのですが,限られた情報や知識のもとでは想像にも限界があります。

理屈で考えても納得できないことは幾らもあり,最終的には「今までがそうだから」が理由なのだろう…としか結論づけられないことも多いのです。

私個人は,これを機にいろんな見直しや変化が起ることを臨んでいる立場ですが,一方で、心のどこかで「あの日にかえりたい」と思ってしまう気持ちもどこかで理解できたりします。

感染症拡大は波のように何度も押し寄せて、次第に弱まっていく形で長期に付き合うことになるのだと思います。物事の変化も似たようなものなのかも知れません。一気に盛り上がれば,一気に下がるタイミングもある。それを繰り返しながら徐々に浸透するのかもしれません。

令和2年度も引き続き徳島文理大学にて在職しています。新たな挑戦を模索しながら新年度も頑張っていきたいと思います。

JSET全国大会の試行的オンライン化

2020年2月29日-3月1日に長野県・信州大学教育学部で日本教育工学会(JSET)の春季全国大会が開催される予定でした。

しかし,新型コロナ肺炎の感染拡大防止の社会的な動きに対応するため,現地での全国大会開催は中止。予定されていた発表は「されたもの」として扱うことが決定されました。

その上で,この機を捉えて試行的にオンラインで開催することが提案され,学会側の柔軟な承認と開催校の手腕によって短時間のうちに条件が整えられていきました。こうして緊急事態に直面したピンチをチャンスに変えて,JSET全国大会が試行的にオンライン化されることになったのです。

その裏舞台紹介に関しては開催校からすでに情報発信されています。

「学会全国大会のオンラインでの試行開催の運用メモ」日本教育工学会2020年度春季大会実行委員会(信州大学)
https://cril-shinshu-u.info/archives/1473

私自身は,いろんな事情から事前申込ができずにいて,開催される場合でも居住地・徳島と開催地・長野という遠距離を移動して参加すべきか悩んでいる状態でした。そこへオンラインで開催するニュースが届き,さっそくオンライン学会のための参加申込の手続きをしたわけです。

参加者側から

新たな設けられたオンライン開催(試行)への申込受付は,前日(2/28)までを締切として特別に用意されたものです。

段取りは通常の事前申込と同じで,Web上の申込が済むと2通のメールが届きます。一つは「申し込み確認メール」,もう一つが「決済完了通知メール」です。そして「決済完了通知メール」に参加者向けの学会WebページURLが掲載されています。講演論文集PDFもそのページからダウンロードできます。

上記の開催校の裏舞台紹介でも書かれているように「オンライン開催向け情報」は別途Webページが用意されることとなり,ビデオ会議システムZoomを利用したオンラインの学会会場の情報は,基本的に別途用意された側を参照することになりました。

付加的に急きょ準備されたため,当然のことながらWeb導線が煩雑になってしまうのは仕方ないことでした。

たとえば,今回のオンラインに参加する/しない発表者の情報はPDFにまとめられましたが,そのPDFは現地開催向けのWebページにリンクが用意され,オンライン開催向けWebページに進んでしまうと見落としがちでした。
また,会議室へのURLを掲載したPDFは,上のPDFとは別途用意されたため,多少混乱することもありました。くわえて別途Webページ版も用意するなど,間口を広げる配慮が,うまく機能する場面もあったし,逆に迷いを誘う結果ももたらしていたところはあったと思います。

Zoom会議室への参加は,Zoomアプリのインストールに成功し,少しばかり操作等を覚えれば,視聴する分には問題はなかったのではないかと思います。それぞれのセッション進行も,事前の説明資料も用意されたり,事務局側が段取りイメージを固めていたこともあって,ほぼ問題がなかったと思います。このあたりは短時間にも関わらず,いろんな想定をして準備を整えた信州大学の皆さんの功績です。

質疑は「手を挙げる」機能を利用することで発言の意思表示を行なって,司会者から指名を受けてからマイクをONにして発言する流れでした。

当初私は,初代iPad ProからZoomに参加していましたが,このiPad版だと,質疑応答に少々問題が発生していました。

iPad版Zoomアプリは,チャットと参加者一覧を画面内の脇に常時表示できない(画面中央を陣取ってしまう)問題があるのと,「手を挙げる」ボタンが参加者一覧と別メニューに用意されている問題(パソコン版は参加者一覧に統合されている)がありました。

そのため,質疑応答の際に,参加者一覧を表示して他の参加者の「手を挙げる」様子を眺めつつ手を挙げることが難しく。タイミングを逃すことや,手を降ろし忘れるといったことも起りがちでした。

その上,初代iPad Proのパワー不足か,それともiPad版全般の問題なのか,ビデオ会議の通信がたまに目詰まりのように止まってしまうことも起っていました。調子が良い範囲なら快適ですが,この目詰まりが質疑応答のタイミングでやってくると相手の発言を取りこぼしてしまうこともありました。(1日目は途中からMacを併用し,2日目はMacを使いました。)

会議室の切り替えは,会議室URLを選択すれば,退室確認アラートに答えることで簡単に切り替えができます。

ただし,オンラインでの入室退室はすべて把握されているので,誰かが入退室するたびにそのことが通知されますし,参加者一覧で誰が参加しているのかも把握できる状態にあります。この辺が,対面型の学会と違うため,ちょっと覗くとか,部屋の外から聞くような距離感での参加は気持ち難しくなります。

もっとも,参加者と座長以外は基本的にビデオOFF,マイクOFFで参加しており,表示される名前に関して特に設定ルールがなかったので,偽名を使ってずっと視聴する形の参加も可能だったといえば可能です。

一方,対面型の学会ならば,挨拶もせず,話をしていなくても,参加している姿を見かけるだけで生存確認や近況を拝察するといった意識掛けができますが,オンライン学会の場合,相手が完全に気配を消してしまうと認識できる可能性はゼロになります。仮に名前を発見しても,相手が発信行為をしていなければ様子を伺い知ることはほとんど無理です。

今回は懇親会もオンラインで開催するという試みが行なわれ,司会をしてくださった先生のおかげで,いろんな方の声や様子を聞くことができたのは良かったと思います。しかし,これが恒常的に行なわれるかどうかは,工夫をしないと難しいかも知れません。

シンポジウムはZoomからYouTubeライブへ配信する形で公開されました。

質問などはZoom側のチャットから拾うことになりましたが,実際のところ視聴者の書込みが賑やかだったのはYouTube側のチャットでした。ただし,YouTubeへの配信は30〜40秒程度遅れるため,チャットのタイミングも少し遅れてしまうことになります。それもあってZoomチャットからの質問受付けになったのだろうと思います。ただ,Zoom側のチャットは発表者や参加者に書込みが通知されるという特徴もあってか,書き込むのを遠慮している感じでした。

視聴者側のバックチャンネルのことまで開催側が配慮するのは変な話ですが,現実の場を共有していない分だけ,参加者からのちょっとしたアクションを上手に集めて進行に反映させる工夫が必要なのかも知れません。それでいて,ある程度自由というか開放感が伴っていないと視聴者からのアクションが生まれないという難しさも課題です。

JSET全国大会のオンライン開催(試行)は,シンポジウムの成功によって無事に幕を閉じました。短時間の準備にも関わらず,この結果は開催側にとって大成功だといって差し支えないと思います。

さて,残るは参加者側の問題ということになります。

今回の試行は有志による参加が中心であり,それなりに知識・経験を前提できたことと,不参加だった発表者の部分が時間的空白になったおかげで,参加者に時間的余裕があってことが成功に寄与していたと思います。

しかし,オンライン学会を本来のスケジュールで本格実施すると,同時進行している発表会議室間のタイミング合わせは今回よりもっとシビアになるし,画面を切り替えるだけとはいえ,その操作は慌ただしいものとなります。今後はトラブルが発生した場合に復帰作業をする余裕を確保する必要があるかも知れません。

一方で参加側の視聴スタイルは柔軟になります。従来も発表を聞きながら自分の発表準備等を内職するといった行為はあったわけですが,オンラインになると飲食しながら視聴が可能になりますし,複数端末を使って複数の会議室を同時視聴することも可能になります。良いことなのか悪いことなのかは,正直なところわかりません。

また今後,オンライン学会に移行した場合,会期日の予定をそのために確保することをしなくなる人もたくさん現れると思います。自分の身体を開催地に縛りつける必要がなくなれば,そのために貴重な時間を確保するといった判断が難しくなる人もいると思います。自分の発表部分だけ参加し,あとは別の予定を入れてしまうことも可能ですから,学会員としての共同意識が薄れてしまうといった懸念も起り得ます。

もちろん,すべてをオンラインにするのではなく,オフライン学会もしっかりと開催しつつ,その一部をオンラインにするとか,別に小規模のオンライン学会を開催するといった形など,いろいろな手法を組み合わせればよいことだと思います。その辺の全体像をどうするかはこれからいろいろ試していけばいいのではないかと思います。

というわけで,長らく願っていた学会のオンライン開催が,多くの方々の参加のもとに実現したことは,とても嬉しい出来事。今回の経験が,次につながることを期待したいと思います。

あらためて,今回のオンライン開催に尽力された開催校の皆様と学会事務局の皆様に感謝しつつ,そのご苦労を労いたいと思います。

動画中継のススメ

感染症予防に端を発して,様々な催事が開催中止となり,一部の企画でオンライン配信する形を模索する動きが起っています。

教育・学術界隈でも,この時期に開催される予定だった研究会や学会が同様な動きをとっています。

以前から研究会や学会をネットに動画中継する試みは散見されますが,必ずしもポピュラーではないのが実情です。

動画中継が難しい理由

なかなか普及しない理由はいくつかあります。

○映像撮影・配信向けの機材準備・運用のノウハウが別途必要になる。
○配信範囲を制御したり,視聴側とのやり取り等が難しい。
○配信内容によっては著作物使用許諾等の権利処理が必要な場合がある。
○記録された映像を残した場合の取り扱いを考える必要がある。
etc..

まず,映像撮影と配信に関する知識と技能が新たに必要になるのは,大きなハードルです。でもこれは,一度乗り越えればなんとかなりますし,昨今はわりと敷居が低くなっています。後でご紹介します。

中継すること自体は容易になってきましたが,配信範囲を制御したり,視聴者を管理したり,配信中にイタンラクトしようとするとまだ難しさがあります。この辺がノウハウ部分になるのかも知れません。

研究会や学会における情報発信は,オリジナルの情報も多いとは思いますが,どちらかといえば他者の知見を参照しながら新しいものを発掘する作業にもとづくことが多いので,他者の著作物を映像で見せざるを得ない場面が発生することも少なくないわけです。ここで権利処理問題が出てきます。

次に,配信には「中継」と「録画」があります。中継配信とは「ライブ配信」「生中継」「生放送」のようなもので,撮影しているものを即時配信処理して,可能な限りリアルタイムで視聴してもらう試みです。

もう一つ,録画配信は,撮影映像を記録しておき,撮影対象の催事が終了して以降に配信する形です。録画をそのまま配信する場合と,編集作業を施してから配信する場合などがあります。

中継配信していた映像を同時に録画しておいて,中継以降に録画配信することもできます。しかし,その場合,録画配信をいつまで可能にしておくのか,録画された映像の権利を誰が持つのか,再利用に対してどう対応するのかといった課題が盛りだくさんでやって来ます。

現時点で,公開状態にあるものは,関係者の暗黙の緩やかな合意によって細かな問題を一端保留にして動画共有を優先していることも多いです。

ざっくり考えても,以上のような問題が思いつくわけで,これらに対応することを考えると,そうそう気安くは動画中継に手が出せなくなるのも分かります。

それでも動画中継は有用

考慮しなければならない事項があるにしても,動画中継にはいろんな有用性があります。

端的には遠隔地との映像視覚的な情報共有が可能であること。テレビ放送のことを考えれば,全く同じではないにしても,その威力を理解することはできます。

冒頭に書いたように,感染症予防に関わる催事の開催中止の代替企画として,直接集会することなく遠隔地の人々と情報共有する際の手段として中継配信を利用することができるのは,大きなメリットです。

時間的な調整と各自が場所を確保できれば,集まる場所の確保といった手間を省くことができます。また,記録を残せるという意味でも便利です。昨今では音声認識技術が向上してきていますから,会議の文字起こしも自動化できるようになってきています。

気軽に実施する事例として,たとえば,私たちは何年か前から,ちょっとした洒落のつもりでネット上のビデオ会議システムを使った集いを継続してきました。

今回,その活動で行なっているテレビ会議の中継配信方法を紹介したスライドが作成されたので,ご紹介します。

スナック・ネル的オンラインコミュニケーション術
https://docs.google.com/presentation/d/1j23K0CCa5u86kRJA_lBUS5ZWV5pZVIcznrTgwzamlVs/edit?usp=sharing

ビデオ会議サービスのZoomとYouTube,それとFacebookの3つを組み合わせているところが特徴的です。

いわゆる「ビデオ会議」と「ウェビナー(Webセミナー)」の2つのタイプを合わせたものになっています。その上で,ウェビナーの視聴者同士の交流が可能なようにFacebookグループを用意して,同時進行的にコメントや好きにやり取りをしてもらっているのです。

この方法は,動画中継を気軽に覗いてもらうためスピーカーとフロアを分離する形をとりつつ,緩やかにつながりあうことを狙ったものです。

手続きや見映えはともかく,気軽に始めようということが大事です。

動画中継実施のタイプ

あらためて,研究会や学会をオンラインで実施する場合,「中継内容」「配信形式」「視聴者行動」の組み合わせでタイプ分けができます。

【中継内容】には,ある場所に集っている様子をネット中継する「現場中継」と,いろんな場所から参加しているビデオ会議の様子を中継する「多元中継」があります。
【配信形式】は,中継動画を「公開配信」するか「限定配信」するか,「リアルタイム配信」するか「録画配信」するか,などがあります。
【視聴者行動】とは,視聴者が「視聴のみ」なのか,チャット等で「参加する」のかどうかです。チャットやフィードバックのシステムを使ってコメントしてもらうこともあるし,映像や音声で接続してもらってある程度対等に質疑応答するといった方法も考えられます。

オンライン催事の趣旨や目標に沿って,どう組み合わせてタイプ構成するのか考える必要があります。

動画中継に必要なツール

中継内容によって配信に使うツールは決まってきます。インターネット接続は当然用意するとして,最低限次のようなものが必要です。

【現場中継型】
ハードウェア:映像を配信する端末,配信を確認する端末,Webカメラ,イヤホン,マイク,各種ケーブル等
ソフトウェア:Webブラウザ,動画配信サービスの登録(YouTubeやFacebookなど),動画配信アプリ(OBSなど)
【多元中継型】
ハードウェア:映像を配信する端末,配信を確認する端末,Webカメラ,イヤホン,マイク,各種ケーブル等
ソフトウェア:ビデオ会議サービスの登録とアプリ(Zoomなど),Webブラウザ,動画配信サービスの登録(YouTubeやFacebookなど)

単に現場を中継するだけであれば,スマートフォン一つで手軽に可能です。

しかし,催事をしっかり中継することを考えると,音声と映像をちゃんと届けられるように機材準備する必要がありますし,そのため機材を操作する人が別立てで居た方がよくなります。

ソフトウェアやサービスも,目的に応じて準備する必要があります。

現場中継するだけであれば,たとえばYouTubeに登録してセッティングすれば可能になるため無償で実現できます。Facebookの場合も同じです。使うソフトはWebブラウザだけで済みます。

専用の動画中継アプリといったものもありますが,特別な理由がなければ使う必要はありません。仮にその必要があってもOBSというアプリはネット上に無償で公開されているのでやはりコストはかかりません。

中継配信のプラットフォームはYouTubeやFacebook以外にも,Periscopeニコニコ生放送といったものがあります。それ以外にも手軽な配信サービスはいろいろありますが,催事中継向けがどうかは検討が必要です。

多元中継の場合は,ビデオ会議システムを使いますが,サービスによって無償のものや有償のものがあります。たとえばZoomは有償サービスですが,40分制限付きならビデオ会議機能のみ無償で使えたりします。

ビデオ会議サービスは他にもSkypeとか,Wherebyといったものもありますが,それぞれ特徴がありますので使い比べてみる必要があります。

公開範囲の設定

おそらく,中継配信をするにしても不特定への全面公開ではなく,参加申し込みをした人だけ,会員だけ,料金を払った人だけ,といった限定的な公開をしたい場合が多いのだと思います。

YouTubeを使う場合,「限定公開」という設定を利用すればYouTube上から検索や閲覧ができず,URLを知っている人だけが直接視聴できるように限定できます。逆にいえば,URLが分かれば誰でも視聴できます。

限定した人にだけ教えるとともにURLを得た人たちは外部に漏らさないよう協力する必要があります。

少し手の込んだ事をして,動画をWebページに埋め込み,Webページにパスワード設定するという方法もありますが,この場合,視聴登録のような仕組みも合わせて採用しないと,パスワードが漏れれば誰でも見れます。

そこで,Facebookを使うと,グループ機能を利用して限定公開することが可能になります。

あらかじめ限定的に試聴させたい相手をグループに登録する手続きが必要になりますが,Facebookのライブ配信機能はグループ向けに限定配信できるので,グループに登録していない人は見ることができません。

ただし,この場合,試聴する者が全員Facebookアカウントを所有していることが前提となります。

MoodleやMOOCシステム等を利用して,そこに登録してもらった上で、システム内にだけ配信するという方法も考えられます。この場合はYouTubeの限定公開機能と組み合わせるパターンもあるでしょうし,独自の仕組みを利用する場合もあるかも知れません。

動画配信のプラットフォームとしては,ニコニコ生放送も実績あるサービスですが,こちらはある程度ニコニコ生放送の仕組みや文化的なものを理解しておく必要もあります。情報処理学会などは公式チャンネルを開設していたることからも分かるように,本格利用するには準備が必要です。

公開範囲の設定とともに,視聴者からのフィードバックをどのように得るかについても,段取りや使うツールの選択を考えなければなりません。

たとえば、昨今ではMentimeterslidoといったツールが注目されています。以前にはGoogle Form,responPadletのようなものも使われてきました。

音声が最重要で,映像は次

動画中継というと,映像がキレイに配信されることが重要だと思われがちですが,実は映像よりも音声がクリアに届くことの方が遥かに重要です。

そのため,現場中継の場合はマイクによる集音が成功しているかどうかが一番大事なチェックポイントです。

多元中継の場合は,参加者が必ずイヤホンを利用しながら参加することが重要になります。音漏れすると会議音声の品質がグッと悪くなるからです。

音が小さかったり,反響したり等,音声が聞き取りにくいと,中継配信は本当に役に立ちません。

映像もキレイであるに越したことはありません。たとえばスライドや資料を表示する場合に,文字が見えないと残念な気持ちになりますから,映し出されたスライドをカメラで撮影する時はできる限りアップにしたり,あるいはスライドを直接パソコンから共有配信できるとよいわけです。

しかし,再度書きますが,映像のキレイさは二番目。一番大事なのは音声をクリアに届けられることです。そのための準備や工夫は重要です。

機材選び

いまはスマートフォン一つで中継配信ができる時代です。

スマートフォンは「ネット回線+カメラ+マイク+イヤホン端子」が合わさった機器なので,これに配信アプリが加われば,即配信できるのも当たり前です。

Webブラウザを介してYouTubeやFacebook,もしくはビデオ会議のZoom等を使う場合には,機材の組み合わせを揃えなければなりません。

手っ取り早いのはノートパソコン内蔵のカメラとマイクを使うことです。ビデオ会議の場合,これにイヤホンを取り付けるパターンと,外付け式又はインカム式のマイクとイヤホンを取り付けるパターンなどがあります。

中継ではWebカメラを使った方が便利でしょう。Webカメラは「カメラ+マイク」が合わさったものをUSBケーブルでパソコンと接続できる周辺機器です。Logicool社のものが有名ですが,サンワサプライ社やバッファロー社のものもあります。価格の幅も広いです。

音声が一番重要であるという観点から,外付けマイク選びは大変重要になります。ただし,マイクほど奥が深く安易な選択をすると失敗しやすい機材はありません。

たとえばサンワサプライ社のマイク製品Webページを見るだけでも非常にたくさんの種類のマイクがあることがわかります。会場の音を集音する場合は無(全)指向性を選ぶことになりますが,それなりの性能を期待するとなると、お値段もそれなりになります。1万円以下のものを選ぶ場合は気をつけなければなりません。

また,企業のビデオ会議のような複数の人間が音を聞きながらも話をする状況では,個々人がイヤホンやマイクを持つようなことはできないので,スピーカーホンのようなものを使います。この場合,専用のものを使わないと快適ではないので,たとえばYAMAHA社のシステムのようなものが必要です。

もしも複数のカメラや映像ソースを切り替えたいとなると,専用ソフトウェアか,AVミキサー(スイッチャー)が必要になります。たとえば,ローランド社のAVミキサーは,複数のカメラからHDMIケーブルで繋げた映像を切り替えてパソコンにUSB入力できるものです。ただし,お値段はそれなりに。他にはCerevo社のLiveWedgeBlackmagicdesign社のATEM Miniといったものがあります。

機材は凝り出したらキリがない

素人にできる動画中継のクオリティを高める方法は,安定高速なインターネット接続を確保することくらいです。

パソコンやカメラ,マイクといった機材も性能の高いものを使うのが良いに決まっていますが,正直なところ,これはキリのない世界です。

正直に申せば,ちゃんと動画中継したいなら,素人は頑張らずに,プロに任せた方がいいです。その方がプロの知識と機材を利用できて,仕事に失敗がない。

ただ,プロに頼むことができない事情もあったりします。

私たち自身で中継配信ができる!そういうことが可能になったというのもこの時代の有り難さでもあります。自分たちの都合に合わせて,いろいろ組み合わせながらも情報発信や共有をするのは楽しいことです。

今回は動画中継の勧めでしたが,学校教育においては動画教材を制作するということが古くから取り組まれてきています。配信はともかくとして,動画を制作することは,これからますます機会が増えていくと思います。

RasPi4iPadPro

小さな実力者

2012年に登場した安価な小型コンピュータ「Raspberry Pi」(ラズベリーパイ:ラズパイ)は,第4世代モデルが登場するまでに至って,なお世界中で人気のコンピュータです。

名刺入れサイズ面積の厚さ3センチ弱の箱に納まるミニサイズながら,立派なコンピュータで,1万円を切る価格で提供されていることが特徴です。

オープンな基本ソフトであるLinuxと各種ソフトが動くパソコンとして,また業務用に匹敵するLinuxサーバーとしても使えます。小さなLinux環境。

英国ラズベリーパイ財団によって,もともと教育向けを主眼として開発されたこともあり,コンピュータサイエンスやプログラミング教育で利用されることも多いです。中高の教科「情報」で使う学習ツールとしても適しているのではないかと思います。

ただ,この日本では,まだそれほど浸透している気配はありません。特に学校教育の導入事例は大変限られていると思います。

理由は,いろいろ考えられますが,端的には,ラズパイがデスクトップパソコン的に使わざるを得ない機器だからだと思います。

たとえば雑誌『子供の科学』関連で企画された「ジブン専用パソコン」はセレクトパッケージとして大変人気で売れ切れ状態の商品ですが,明らかに据置き指向の構成です(一式持ち出せますが…)。

はじめよう!ジブン専用パソコン(子供の科学)
http://prog.kodomonokagaku.com/jibun/index.html

独自の筐体パッケージを提供する「Kano」や「RasPad」のようなもありますが,つまりは如何様にでもなるDIY的な利点が,大量に導入というときの選択肢になりにくいということかも知れないのです。

Kano
https://kano.me/row/store/products/computer-kit-touch
https://kano.me/row/store/products/kano-pc
RasPad
https://www.raspad.com

せっかく小型で比較的安価なコンピュータをもっと活かせないものか。

Linux環境を一つずつ

Linux環境は,教科「情報」やコンピュータ科学を学ぶ中で,良い土台となるものの一つです。なにしろ本物のコンピュータですから。

でも,GIGAスクール構想の端末候補には入れてもらえなかった。

いやいや,1人1台学習者用端末というのは仮の姿,実は着々と進みつつあるのは1人1つLinux環境なのです。

Windowsは「Windows Subsystem for Linux」という互換機能を提供してLinux環境を付加しています。mac OSはもともとUNIXというLinuxのお父さん(?)と互換です。Chrome OSはAndroidと同じでほぼLinuxでできています。iOSは家出(?)しましたが元はmac OS(UNIX)の家系です。

ほとんどのコンピュータがLinux環境と縁があることになります。

なので,GIGAスクールのモデル端末のどれを選んでもLinux環境と付き合うことに…ああ…ならないのが一つありました。iOS/iPad OSです。親戚のくせして自分の環境を使わせてくれません。

そこで,ラズベリーパイの登場です。

シンプルに独立したLinux環境をプラスすれば,端末個別に存在する細々とした違いを気にすることなくLinux環境を確保して操作することができます。

そこで,今回はまず,iPad Proにラズパイを組み合わせることをご紹介してみようと思います。実は,新しいRaspberry Pi 4なら,ゲーブル一本でiPad Proに接続することができるのです。

RasPi4をiPadProにつなぐ

ラズパイZeroという超小型版をUSBで接続することから始まったテクニックなのですが,ラズパイ4がUSB-Cコネクタを採用したことから名刺サイズ版でも可能になったとのこと。

Pi4 USB-C Gadget(Ben's Place)
https://www.hardill.me.uk/wordpress/2019/11/02/pi4-usb-c-gadget/
Connect your Raspberry Pi 4 to an iPad Pro(Raspberry Pi F.)
https://www.raspberrypi.org/blog/connect-your-raspberry-pi-4-to-an-ipad-pro/

大ざっぱな手順はこうです。
1) 別のパソコンでラズパイ用の基本ソフトを入手する [LINK]
2) 手順通りにラズパイをセットアップする
3) ラズパイを最新状態にアップデートする
4) ブートローダーのアップデートをする [LINK](最近は済んでいて不要かも)
5) 情報提供ブログの箇条書きの通りに設定する [LINK]
6) iPadアプリを用意してアクセスする
こんな感じ。

手順5)の中でいくつかファイルを編集したり作成したりする必要があるのが面倒ですが,当該ブログにアクセスしてコピペしながら作業すれば,少しは省力化できます。

といっても,これだけでは初めての人にはまったく分からないので,機会をみつけて動画で紹介できればと考えています。

セッティング作業には,別途ディスプレイと,マウス,キーボードが必要になりますが,作業完了してしまえばラズパイ単独をUSB-CケーブルでiPad Proにつなぐと起動して,iPadの設定アプリで「Ethernet」項目が現れます。

あとは,決め打ちで設定したIPアドレスに対してSSH接続をすると,このEthernetを経由してiPad Proからラズパイを操作できるようになるというものです。

ところで,ケーブル一本でつながるのはシンプルでいいものの,長時間作業しているとiPad Pro側のバッテリーを使い切ってしまうのではないかという素朴な事実が浮かび上がります。確かにそうです。

シンプルな構成でも数時間なら問題ないので,出先はこのスタイルで運用するとしても,デスク作業の際はやはりiPadを充電しながら接続したい。

USB-Cコネクタが2つ付いているUSBハブを挟めば,ACアダプタからiPad Proとラズパイに通電しながら運用できます。仮にUSB-Cコネクタが一つで残りUSB-AコネクタしかないハブでもラズパイにつなげるケーブルをA->Cにすることで同じことができます。
(確認済みですが,ハブやケーブルによってはうまく動作しない可能性はあります。写真はサンワサプライのものです。 https://direct.sanwa.co.jp/ItemPage/400-HUB075BK

ラズパイを扱うためのiOSアプリ

iPadからラズパイを操作するにはアプリが必要ですが,そのためのアプリはいくつか候補がありますのでご紹介します。

PiHelper - ラズパイアシスタント
https://apps.apple.com/jp/app/id1369930932

このアプリはラズパイを遠隔管理する目的で開発されたもので,今回の用途にドンピシャだと思います。CPUやメモリ,ディスク容量の表示やSSHとSFTP接続機能があり,再起動や停止メニューもあって便利です。慣れてくると使い勝手の要望がいろいろ出てきそうですが,手始めとしてのPiHelperは申し分ないです。

VNC Viewer - Remote Desktop
https://apps.apple.com/jp/app/id352019548

Linux環境というのは文字ばっかりのテキストコマンドライン環境がベースですが,もちろんウインドウ表示するグラフィカルデスクトップ環境も用意されています。しかし,その場合iPad Pro側はVNCという方法でラズパイを覗かなければなりません。そのためのアプリがVNC Viewerです。

Textastic Code Editor 9
https://apps.apple.com/jp/app/id1049254261
テキストエディタ LiquidLogic
https://apps.apple.com/jp/app/id1458566442

そもそもLinux環境で何をやるのかは人それぞれですが,コーディング(プログラミング)作業をする人たちにとってはエディタソフトは必携です。いろんな選択肢がありますが,ここでは2つご紹介。SFTP接続することでラズパイ上のファイルを読み書きできます。

Blink Shell
https://blink.sh

ラズパイとiPadをSSH接続するときに一番紹介されるのがBlinkです。といってもApp Storeでは有料アプリ。実は中身は公開されているのですが,アプリの仕上げを自分でしなければならず,そう簡単ではないので手間代ですね。

Prompt 2
https://apps.apple.com/jp/app/id917437289
Code Editor by Panic
https://apps.apple.com/jp/app/id500906297

これもBlinkと同じく有料のSSH接続アプリが「Prompt 2」です。その会社が出しているエディタアプリ「Code Editor」も有料ながら使っています。個人的な好みで以前購入していたので,これらを使っています。

プログラミング学習(高校編)

さて,これで何をするのかというお話も少し。

中高の新しい教科書は採択や検定段階なので,たとえば「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」とか,共通教科「情報Ⅰ」におけるコンピュータとプログラミングの具体的教材レベルの情報は少ないのが実情です。

高等学校 情報(教科書教会)
http://www.textbook.or.jp/textbook/publishing/high-info.html
中学校 技術・家庭(技術分野)
http://www.textbook.or.jp/textbook/publishing/junior-technique.html

ただ,高校に関しては文部科学省の教員研修用教材が公表されています。

文部科学省の「高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材」の第3章「コンピュータとプログラミング」がベースイメージになるのでしょうか。

高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材(本編)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416756.htm
第3章 他プログラミング言語版
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1421808.htm

Python版の第3章108頁にある「Mu」エディタはラズパイ用もありますので,問題なく使うことができます。

Mu for Raspbian - Instructions
https://codewith.mu/en/howto/1.0/install_raspberry_pi

もっともiOSには「Pythonista 3」という有名Python開発環境アプリがあるのでPythonの場合はそれを使った方がいいかも知れません。

Pythonista 3
https://apps.apple.com/jp/app/id1085978097

正直なところ,文部科学省の教員研修用教材は環境構築に関しての記述は皆無で,チュートリアル的でないところは少々不親切です。検定教科書はもっと見栄えがよくなるんでしょうけれど…。

プログラミング学習(中学編)

中学校の方はいくつかヒントになりそうな資料が上がっていますが,見たところ双方向のところはScratch 1.4のMESH機能を使っていたり,Linux環境はあんまり出番がないかぁ…。

中学校 技術・家庭の広場(東京書籍)
https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/kyokah/chu/gijutsu-katei/
平成30~令和3年度用移行期資料 中学校技術・家庭 技術分野(開隆堂)
https://www.kairyudo.co.jp/contents/02_chu/gijutsu/h33iko/index.htm

いやぁ,ちょっと待って。

もっとラズパイ+iPad Proで面白いことができるはずなんですが,それはやはりコンピュータサイエンス部みたいなマニアックな活動向けかなぁ。

CS研には手を出すな!…みたいな。

 

GIGAスクールネットワークとGIGAスクール

あらかじめお断りしておきますが,今回も読むべき内容は何もありませんので,いつもの駄文とご理解ください。

さて,こちらの2つの図をご覧ください。

令和2年度概算要求主要事項1
令和2年度予算(案)主要事項

GIGAスクールに関わる予算説明スライドです。上が令和元年8月に公表された概算要求時のもの,下が令和2年1月に公表された令和2年度予算案に添付された令和元年度補正予算のものです。

関係者の方にとっては涙目になりそうな並びの2つのスライドですが,ご承知の方がいらっしゃるように,概算要求時には「GIGAスクールネットワーク」となっていたものが,補正予算が絡んできたことによって「GIGAスクール」と改名されました。

GIGAスクールネットワークで描かれていた青写真が,GIGAスクールのものより,もう少し緩やかであったということはお分かりいただけるのではないかと思います。

消費増税による景気悪化を回避するために大型補正予算を組むという路線が進められていたわけですが,この10兆円規模を目指した補正予算に「学校に1人1台端末」がいつから項目として上がったのか,これは地方に住む田舎研究者には知る由もありません。

消費税アップが決まれば,それと合わせて景気対策が必要であることは既定路線だったわけで,政治臭覚鋭い議員の人々にとれば,そのために超党派の議員連を作って働きかけを続けてきていたわけだし,規制改革推進会議の場での議題に取り上げられた時から,誰かの腹の中にはGIGAスクールネットワークがGIGAスクールの前座の役目でしかないというシナリオが温められていたかも知れません。

そういう意味では,年末年始から今に至っても続いているGIGAにまつわる関係者の苦闘を,それさえ最初から予想していた人たちもいたのだと思います。

当初予算に盛り込める予算金額枠は,財務省が緊縮財政を路線としている以上,当然限られています。せいぜい全国の中の1万校を整備しようというGIGAスクールネットワークの規模程度です。

全国の学校内ネットワークインフラを一気呵成に整備するような規模(それでも割れば微々たる規模の)予算と,小中学生への1人1台学習端末の整備というそれなりに大きな額の予算を確保するには,今回のように15か月予算というスパンでとらえ補正予算によって確保する他ない…おそらく,そういうストーリーなのだろうと素人解釈で思います。

しかし,補正予算扱いにするからには法律上,その緊急性が問われることになっています。当初の計画になかったものが割り込むのですから,その理由が必要というわけです。

ここで多くの人々が思い当たると思いますが,その理由の一つに挙げられたのがPISA2018の結果とその解釈でした。曰く,デジタル読解力に課題がある。考えられる要因には日本の学校のICT環境や活用頻度が乏しいからではないか。これはまずいぞ,大変だ…といった緊急性です。

その他にも,教育情報化の実態調査はこれまでもずっと国内における整備格差の存在を示し続けてきました。さらに本格実施される学習指導要領は情報活用能力を始めとした資質・能力の育成を前提としたものなのに,学校の教育環境はそれを実践する条件を満たせてないこと。プログラミング体験・教育が本格的に始まることも待ったなしの緊急性に数えられると思います。

経済対策としての即効性と早期着手を必要とする緊急性,さらにインフラ整備事業という性格から来る様々な制約に追い立てられた状況の中で降りてきたのがGIGAスクール構想ということになります。

財政や経済が私の専門ではありませんので,この現実をどのように捉えて付き合うべきか,正直なところ答えを持ち合わせていません。(そもそも全体解釈も専門家から見れば違っているのかも知れません。)

この問題には様々な次元(レイヤー)があって,政治,財政,教育行政,地方自治,学校,教職員,児童生徒,産業界,学術界,市民住民などなど,どのレイヤーで理解したり,批判したり,主張したりすべきかは人や場面で変わり得ます。

莫大な支出が伴うことを肯定するのか否定するのかも,レイヤーが異なれば変わり得ますし,どういうスパンで議論するかによっても違ってきます。

効果があるのかないのか,十分活用できるのかどうなのかという論点も,ICT整備を教具や文具を揃えるという観点で捉えるのか,学校が備えるべきインフラ条件という観点で捉えるかによっても,議論の幅が広がっていきます。

実際のところ,こうした物事の決まり方は酷く乱暴です。

これをもっと丁寧に実現することができないものかと,私たちはいつも考えます。今回の件で苦しんで,文句の1つも2つもたんさん言いたいという人たちの心情も,痛いほど察します。そう思いつつ,いま目の前のこと,協力もしあいながら,理解も示しながら,なんとかやっていくしかない。

でも一方で,こうした酷い事態を招いてしまったのは,この国の在り方をそのまま引き継いでしまったことにも遠因があるわけで,実のところ私たちもその一端を担ってしまっていたことを考えたとき,百も言いたい文句の中に,一つくらいは「だったらこうしてはどうか」と前に進む言葉も入れたいと思いもします。

現実を相手にされている皆さんには,なんら慰めにもならない話で終わりましたが,宛てもないブログで私が書けるのはこの程度のお話でした。