20151017 日本教育メディア学会年次大会

 2015年10月17日と18日に日本大学文理学部キャンパスで「日本教育メディア学会年次大会」が開催されたので出席してきました。今回から学会理事の仕事を拝命したので,理事会出席も兼ねてでした。

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 日本教育メディア学会は,名前にカタカナが使われているので比較的新しい学会のように見えるかも知れませんが,実はこの分野では老舗中の老舗,長い歴史を持った学会です。

 というのも,もともとは「日本視聴覚教育学会」(1964年発足,前身の協議会は1954年発足)と「日本放送教育学会」(1955年発足)が1994年に統合してできた学会で,1998年から「日本教育メディア学会」と改称したからです。

 というわけで,日本教育メディア学会とは視聴覚教育と放送教育を主な研究領域とした歴史の長い学術団体ということになります。そしてメディアはICTと無縁ではありませんから,教育と情報に関心を持つ私も無縁ではなく,いろいろご縁をいただいたことで理事へのお呼びがかかったということになります。

 正直なところ,視聴覚教育も放送教育も,私個人としてはまだ十分深められていないので,歴史を追いかける作業の中でこれから学ぶということになります。そのような人間に理事が務まるのかはなはだ疑問ではあるのですが,せっかくの機会をむしろ利用していろいろ学べたらと思います。

 そうそう,今回の年次大会の基調講演は,国立情報学研究所の新井紀子先生でした。新井先生といえば,デジタル教科書懐疑派としていろいろなメディアにコメントを求められたり,問題提起の書を書いたりしていることは,この分野ではよく知られています。

 この日,私のサイフの資金が空っぽになってしまい,金策のためATMを探しに出かけて,基調講演には遅れて出席しました。その後の懇親会も,いつものように片隅で過ごしていたのですが,突然呼び出しがあって,連れて行かれた先が新井先生のもと。

 デジタル教科書問題提起本が出たときに,その出来に不満を抱いた私があちこちに書いたものをお読みになって,たぶん私が何か言いたいのだろうと気にしてくださっていたようで,直接呼び出しとなったそうな。こってり絞られました ^_^;。

 周りの皆さんも巻き込んで,いろいろ宿題をいただいた感じになりましたが,私たち学会関係者が取り組まなければならないことがあるというのも本当のことですので,可能なところから取り組みたいと思います。

 

20151015 文部科学省「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」全体会

 2015年10月15日に文部科学省「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」全体会が東京で開催されましたので出席しました。これはICT環境整備をしようとする自治体を応援するために文科省持ちでアドバイザーを派遣する事業です。そこで蓄積されたノウハウを全国の他の自治体とも共有することが目的です。

 先にお知らせしたように,私もアドバイザーの一員となっていますので,午前中の授業を終えてから飛行機に飛び乗って参加した次第です。

 

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 アドバイザリーボードには37名が登録しています。ご都合のつかなかった方を除いて,多くの人たちが全体会の場に集い,派遣された場合の段取りやアドバイス活動に利用する過去の記録や報告物の説明を受けたりしました。

 また,この日はワークショップも盛り込まれて,架空の自治体の資料を題材として,その分析やアドバイスに資料をどのように活用するのかといったことをグループに分かれて取り組みました。

 アドバイザーに就任した方々のバックグラウンドや現在の立場は様々なので,分析するときの枠組みや切り取り方も様々で,大変勉強になったワークショップでした。一般的に自治体や学校への助言活動というと個々人に依頼があって,それぞれの経験やノウハウで対応していました。つまり助言活動にも場数の違いで経験に差が出てしまいます。

 助言機会の富んでいる人はより富み,機会の乏しい人は乏しいままといった感じで,そこで経験が共有されることもほとんどありませんでした。従来であれば,教え子や弟子に経験を伝授していくといったこともあったのですが,教育の情報化分野は後継者問題(若い関係者不足問題)に直面していることもあり,なおさら経験が局所化してしまい,全体の展開につながらない懸念が生まれています。

 今回の全体会とワークショップは,助言者の立場の人間が一堂に会したという意味でも大変貴重な機会だったと思います。今回の事業は自治体における教育の情報化やICT環境整備を促進することが目的ではありますが,裏側では,この分野に関わる関係者同士のネットワーク形成や経験の共有が進むことに大きな意義があるように思います。それらがうまく次の世代の人々にも引き継がれる(あるいは踏まえてもらえる)ように残していくことが大事だなと感じた会でした。

 

タンジブルな教材

 りんゼミが始動して3週目。まだ専門ゼミナール自体の運営をどうしていくのか,共通理解を形成する段階です。私が持っているイメージを伝えた上で,これからゼミ生達と少しずつ積み上げてこうと思います。

 りんゼミでは「各個人の卒業研究テーマ」と「分担する調査報告課題」の2本と,「興味深い文献のゼミ講読」ができればと考えています。

 各個人の卒業研究テーマは,Googleスライドを共有しながら書き出してもらう形で,まずは関心を広げたり細かくしてもらい,その後絞り込んでいく予定で先週から始まっています。

 今回は,「分担する調査報告課題」を発表。卒業研究をまとめるためのウォーミングアップをしてもらうために,あるものをそれぞれ調べて毎週のゼミで継続報告してもらいます。そうすることで調査や分析の方法や整理して発表する段取りなど身に付けて欲しいと思っています。

 今回のゼミ分担課題は「タンジブルな教材」。

 具体的には,Tangible Play社の「Osmo」とOrbotix社の「Sphero 2.0」とタカラトミー社の「JOUJOU Cube touch」をそれぞれ分担して調べます。

 それぞれはタブレット端末(iPad)で使うことを前提としたゲームや玩具で,画面の中のものだけではなく「実在するもの(タンジブルなもの)」とを組み合わせて楽しむという点で共通しています。

 「タンジブル」(tangible)という言葉は聞きなれないかも知れません。辞書的には「明白な,疑う余地のない」「触知できる,触れられる」「有形で実在する」といった意味があるとされています。

 昨今は,電子工作のようなものがメーカームーブメントとして流行っているといわれるのも,タンジブルなものに対する関心が高まっているからだと思います。

 もちろんこれは,デジタルとアナログの雑な対比の中での,アナログ的なものがいいという意味合いでは決してありません。「見る」だけではない「触る」という身体的に感じられる知覚手段を合わせて使うことで,もっと経験に拡がりが生まれるだろうという期待だと思います。

 そんなことから,教育・学習的にもタンジブルなものに関心を寄せることができそうです。

 りん研究室でも,いくつかこうしたものを集めていましたので,ゼミ生達にこれらを貸し出して,しっかりとエキスパートになってもらおうと思っています。そして,このブログにもゼミ生達に,それぞれ担当したものの紹介や奥深さについて投稿してもらおうと思っています。

ICT活用教育アドバイザー

 文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」における「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」に関して,ICT活用教育アドバイザリーボードが設置されました。

 参考記事:「公立校の情報インフラ整備に指南役 文科省が派遣」(日経新聞 20151004)

 これから学校教育の情報環境を整備する自治体に対して,文部科学省もちでアドバイザーが派遣される代わりに,他の自治体の参考になるようなガイドや情報を整理してまとめなさいという交換条件です。

 いったいどんなアドバイザーが揃っているのか,それが一番問題とも言われていますが,強者揃いの中に,力不足を承知で私も名前を連ねています。枯れ木も山の賑わいというか,面白いのが一人いた方がよいでしょうと推薦されたご縁です。プロフィールは顔以外ちっとも面白くないですが…。

 基本的には申請書に書かれた取り組み内容に照らして,事務局がアドバイザーをマッチングするため,特定のアドバイザーをご指名いただくことはできません。ご縁があれば,お手伝いしに行くことになると思います。

 文部科学省によるアドバイザー派遣自体に効果や意味があるのかという疑問はあるかと思います。とはいえ,少なくとも特定地域の教育情報整備をより良く進めるお手伝いができることには一定程度の価値があると考えます。

 また,事業自体の成否よりは,むしろ文部科学省としてのスタンスを表明している事業なのだとご理解いただく方が現実的かも知れません。

 学校設備の地域格差が大きく開きつつある現実の中で,情報環境整備という側面からでもその差を埋めることができないものか。そういう焦りのようなものが,こうした形で出てきているのだということを国民の皆さんに読み解いて欲しいというのが本音なのだと思います。

 教育と情報の歴史研究をしている私としては,他のアドバイザーの皆様の実績や過去の偉業を知る良い機会なので,内側からいろいろ記録を残せたらいいなと思っているところです。

日本教育工学会 SIG活動 成果物 2015

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SIG-04 教育の情報化

 学校の情報設備環境を整備するための指針「整備ガイドライン

SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション

 ゲーム学習とオープンエデュケーションの研究動向と研究リソース「SIG-05レポート2015

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 日本教育工学会(JSET)は,2014年度からSpecial Interest Group(SIG)という活動形態を始めました。

 学会という場所は,人々が集まって多様なテーマを追いかけている場なので,これまでも学会大会で「課題研究」という形の特定テーマについて束ねて発表をする機会が設けられていました。そうすることで旬な研究テーマについていろんな研究を求めていくことができるというわけです。

 とはいえ,1年1回の学会大会の場が軸になったのでは,この目まぐるしい速度の時代に対応するのも難しくなってきたことも事実で,もう少し柔軟な研究活動形態が求められていたということになります。そのためのJSETにおける一つの提案が「現代的教育課題に対するSIG 」という活動でした。

 JSETのSIGは6つでスタートし,今年新たなものが加わって全部で11のSIGになりました。

 先行したSIGではすでに様々な活動が行なわれ,活動記録は学会のホームページ「SIG活動」にも掲載されています。

 いくつかのSIGは成果物という形も出してはいるのですが,学会のホームページに掲載するということになると,その辺はまだ事務手続きの世界が残っているため,2015年10月3日現在でも掲載されていないというのが実情。そこから脱して動くのがSIG活動の意義ですから,実際のところはソーシャルメディアなどを経由して公表されていたりします。

 ここでは,2015年9月にあった学会大会で紹介された2つの成果物を掲載します。また,日本教育工学会では「日本教育工学会倫理綱領」を定め掲載しました。