教育系SNSは日本で普及するのか

 教育系SNSとは,教育利用に特化したFacebookあるいはmixiであると喩えることが出来ます。教育に特化しているわけですから,そこには授業や教育課程,評価などの要素が加わっているわけです。

 教育系SNSは,授業支援ばかりでなく,授業と家庭学習をつなげたり,先生同士をつなげて教育リソースを交換するなどの手助けをしてくれます。また保護者を招き入れて授業の進捗を見てもらったり参加してもらうことも出来ます。

 古くは「学級王国」と揶揄され閉鎖的だと批判もされてきた日本の学級も,新しい指導方法やツールによって,ますます世界に開かれるとともに,そのような世界に抗していく弛まぬ努力がいままで以上に必要となってきているのです。

 教育系SNSは,一般的なSNSほど外界と接続するわけではない点で,公道ではなく自動車教習所のような空間になり得るのかも知れません。SNSの持つ利便性を教育学習に生かしつつも,その光と影を学ぶことが期待されているのだと思います。

 「教育系SNS」は,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム/サービス)が注目をされてからの言葉ですが,これと似たものはeラーニングシステムなどに見られます。  専門的にはLMS(ラーニング・マネジメント・システム)あるいはCMS(コース・マネジメント・システム)といわれるシステムの中に含まれ,古い呼び方をするなら「電子掲示板」によるソーシャルなコミュニケーションの展開が企図されていたわけです。

 現存するものは,だいぶ現代風になって柔軟に使えますが,当時のシステムはメニューや機能の区分あるいは場所が決まっており,レクチャーとコミュニケーションを有機的に繋げるのが難しい代物でした。掲示板に書き込むことも敷居の高さがありました。

 それがSNSといったコミュニケーション手段の台頭で,ネット上でのグループ対話のしやすさが増したように思われます。Twitterが「つぶやき」という考え方を前面に出したことで,素朴な疑問を文字にする活動に力を与えたともいえます。

 それまでは高等教育や先進的な高等学校で使われるのがせいぜいであったLMSでしたが,教育系SNSの登場によって,小中学校段階での活用にも可能性が見いだされてきました。

 教育系SNSが盛んなのは,やはり米国です。  大小様々なサービスが展開していますが,有名なのが「Edmodo」と「Schoology」の2つです。どちらも日本語化されており,日本からも利用できます。

 もっとも,どちらも日本語化については言語切り替えに対応したという段階で,サービス全体が日本語化しているというわけではありません。しかし,さすが大手の教育系SNSだけあって機能はどちらも充実していて使いやすいです。

 ちなみに,EdmodoはFacebookにイメージがよく似ており,シンプルな使い勝手です。Schoologyはコース概念をハッキリと打ち出して,LMS的な使い方にも対応しているといった印象です。それぞれの長所短所があります。

 日本産の教育系SNSも登場してきていますが,Edmodoの日本語化によってサービス強化の動きも強まっていくのかも知れません。機能競争はもちろんですが,むしろ日本の学校で使ってもらうためには学校の実情に合わせてサービスを手厚くできるかどうかも問われてくるわけで,単に高性能であればよいということはありません。

 教育系SNSが日本の学校に普及するのかどうか。

 もちろん,学校のICT環境整備に大きく影響を受ける事柄です。月並みに書けば,現在のところは,まだ普及を議論することさえできないといった段階。

 しかし,情報端末とネットワークを組み合わせる利用方法において,自分たちの活動を記録する場所をインターネット上に確保する必要があることも事実で,その選択肢の一つが教育系SNSであるということも確かなことです。

 今後どのように利用したらよいのかを研究していくことは大変重要だと思います。

「教育と情報の刊行物探訪」の本音

 ニューズレター「教育と情報の歴史通信」第2号を配信しました。

 今回の冒頭コラムでは,教育と情報を主題にした定期刊行物について振り返ってみました。私が知り得る範囲でどんな刊行物があったかを表にまとめてあります。

 各刊行物の刊行期間をあらためて確認していたのですが,それだけでも結構大変な作業になってしまいました。日頃からまとめておかなかったツケが回ったわけです。しかし,こうして表にしてみると,刊行数は多いような少ないような。でも感慨深いですね。

 『NEW教育とコンピュータ』の休刊はまだ記憶が新しいとばかり思っていたら,もう7年前のことになります。その後,この分野の市販定期刊行物はありません。ほとんどが企業PR誌であるのはコラムに書いた通りです。

 印刷媒体の方が残り方が成熟していると書いたものの,実はこの話には続きがあって,企業PR誌がメインとなっている現状には問題があると書きたかったのです。

 企業PR誌は,広範に配布しているものも少なくありませんが,たとえば国立国会図書館に納本されているものはほとんど無く,企業側にもバックナンバーが無い場合もあり,最初に入手できなければ,後から遡って参照することが電子情報以上に困難な場合も少なくないのです。

 所詮は企業PR目的の媒体なのだから,保管価値はないという考え方もあるかも知れません。しかし,ときどきの実践記録やICT活用事例を掲載しているのは確かですし,ものによっては専門家や研究者による解説も掲載している場合もあり,一般定期刊行物が少ない今日においては,責任を持って残しておく努力も必要なのだと考えます。

 国立国会図書館が企業PR誌の納本を受けつけていないことも考えられるため,調べて対策を考えないといけませんが,とにかく何らかの形でこれらの情報が集約され共有されるように努力する必要があると考えます。

 刊行物探訪には,まだまだ語るべきことがありますが,それはまた続きのコラムでゆっくりと書ければと思います。

佐賀県・県立高校 電子教材導入トラブル(その後)

 佐賀県の県立高校で教材を一斉にダウンロードしようとしたものの時間内に完了しないなどのトラブルが発生した件で続報があり,目的の教材についてはSDカード(USBメモリ)経由で導入が完了したことが伝わってきました。

職員が手作業で教材インストール 県立高タブレット」(佐賀新聞)
「タブレット授業、週明けにも本格開始」(読売新聞)
「タブレット不具合に教育委員も苦言」(佐賀新聞)
「さが教育新流 全国初の取り組み準備不足」(佐賀新聞)
「佐賀県のタブレット障害問題、日本MSは「デバイスの問題ではない」」(マイナビ)
「【EDIX2014】佐賀県教育委員会のICT導入、明らかになった課題とは」(リセマム)
「県立高タブレット、インストールほぼ完了」(佐賀新聞)

 一部の記事にあるように,催事の中とはいえ公での関係者発言もあり,どうやら今回のトラブルの主な原因が技術的には…「教材配布サーバーのキャパシティが十分でなかったこと」そうした事態を招いたり大きくしてしまった周辺問題として…「教材配布方式がメモリ媒体経由にできなかったこと」  「普段から個々の端末や無線LAN接続に少なからず問題があったこと」 が分かってきました。

 利害関係者の見解を鵜呑みにすることはできませんが,最初の導入作業に成功した高校もあった報道や,無線ネットワーク設備に相応のコストをかけたとする発言を信ずるならば,教材配布サーバー側の能力不足は十分有力な原因候補になります。

 もちろん,そうは言っても無線ネットワークにつながらない端末,すぐに接続が切れてしまうなどの問題が発生することは十分考えられる事態であり,これに対処する術であるはずのメモリ経由導入が著作権の関係で制限されていたということについて,もう少し慎重に対応できていれば,1ヶ月も待たせる事態は回避できたかも知れません。

 そういう意味で「見通しが甘かった」部分は責められるべきかも知れませんし,これについては謙虚に反省して次年度以降改善していただきたいところです。

 県立高校入学生へのタブレット端末購入と活用を推進されている副教育長が,教育ITソリューションEXPOで講演するというので傍聴しました。この件についてどんな発言をされるのか興味があったからです。

 講演自体は,佐賀県の取り組みについて過去から今後に至るまでのことをきっちり準備された通りにお話されていました。それに補足する形でスライドが挟まれ,今回の一件についても少なからず触れていました。

 メモがないため言葉は正確ではありませんが,発言の要旨は「各社の教材データが様々な形式と容量であったため,ダウンロード作業が想定通りにはいかなかった」ということでした。また著作権への配慮から教材会社との契約でメモリ経由のインストールができなかったという報道記事にもあるような説明がなされました。

 同じ講演内で,無線ネットワーク環境については国のフューチュースクール推進事業の成果などを参照して,特別に配慮したシステムを導入するため予算申請を行ない議会に認めたもらったことを語っていらっしゃったので,ネットワーク関係が貧弱であったと想像することは難しくなります。実態は調べてみなければ分かりませんが。

 副教育長の説明は,多少前のめりな雰囲気が漂うとはいえ,責任者として妥当な内容であり,むしろ優等生的なものだとさえ聞こえます。タブレット端末導入の目的がICT利活用そのものではなく,あくまで生徒の学習に貢献するツールなのだという金言も添えている以上,単に金言に沿って取り組んでくださればよいだけです。

 あえて問題を指摘するなら,この事態について,ここまで報道がなされたことについて鈍感すぎるということです。事態について公的な説明を発信する必要があります。

 どうも副教育長を始め関係者は「地方自治体での先進的な実証事業に一つなのだから,一つ一つのトラブルはあって当然で,いちいち公に正式な説明をする必要はない」と考えているようですが,佐賀新聞だけでなく読売新聞,朝日新聞など大手新聞社のWebにも記事が配信された以上,一地方の先進的な取り組みの成否は全国の教育情報化を推進する関係者にとっての成否にも影響する問題になっていることを自覚すべきです。

 催事の場での関係者の講演や発言が報道されれば,それなりに伝わることも確かですが,なにより当事者自身の正式見解を公的な方法で発信することが誤解を正したり,問題解決に貢献することも事実です。早く正式な説明を発信することをお勧めします。

 佐賀県の県立高校入学者のタブレット端末購入と活用については,ネット上に様々な形で情報が伝搬しています。そうした経路で出回る情報の方が真実を伝えている可能性もあるかも知れません。また,そうした情報が伝搬されることについて私は否定しませんし,私自身も情報収集の際には吟味をすることがあります。

 しかし,そうした情報の多くは,問題の切り分けをするどころか,便乗して問題を膨らませていることの方が多いように思います。

 教材ダウンロードが完了しなかった問題を論じているはずが,そもそもタブレット端末の購入の義務化決定が問題だと論じてしまったり,関係者や担当者の利害について勝手に思いをはせたり,確認されていないことを原因として事実と異なる批判を展開したりする傾向が少なからずあります。

 あるいはそれが真の問題や原因なのかも知れませんが,誰にも事実が共有できていないところで,そのような議論を展開されても,それは議論の浪費というものです。

 今回の一件や佐賀県での取り組みについて,部外者の私たちにできる事は,皆で共有できる事実を丹念に確認しながら,それを踏まえて必要に応じて発言や介入をし,場合によっては黙って推移を見守るくらいしかないのだと思います。

佐賀県・県立高校 電子教材導入トラブル

 佐賀県県立高等学校で今春入学者から一律に購入となったタブレット型学習端末で使用するための電子教材を導入(インストール)するにあたってトラブルが発生し,ニュースとして報道されました。

タブレットで教材DLできず 県立高34校」(佐賀新聞)
「佐賀県立高タブレット、教材のダウンロード間に合わず」(朝日新聞)
「授業用タブレットで不具合続出...開始に大幅遅れ」(読売新聞)
「授業用タブレット不具合続出 佐賀の県立高:九州」(読売新聞)
「授業用タブレット不具合 文科省が実態調査へ」(読売新聞)

 総務省フューチャースクール推進事業や文部科学省学びのイノベーション事業に関わった人間として,今回の事態が発生したことは大変残念に思います。

 報道内容だけではトラブルの原因を正確に特定することは難しく,たとえば「ダウンロードに時間がかかって完了できなかった」ことと「エラーとなってインストール作業が中断した」ことでは,全く異なる原因を考えなければなりません。

 原因を正確に把握した上で,避けられたかも知れない問題については,何が足りなかったのかあるいは何を怠ったのかを考えていく必要があります。

 ところで,直近の国の事業で示された成果は,こうした事態を回避するのに十分なものだったのか。そのような問いも投げ掛けられるでしょう。

 佐賀で起こったトラブルを回避できなかったということは,国の事業成果に不足があるか,国の事業成果が利活用されなかったか,あるいは想定外のトラブルであったなどが考えられます。

 今回のケースはどれにあたるのでしょうか。もう少し情報を集めてから考えてみたいと思います。

[追記]
 後日,こんな報道がされました。 「県立高タブレット端末導入でICT研修会」(佐賀新聞)

20140425 大阪市学校教育ICT活用事業推進会議

 事業に関わるアドバイザーとコーディネータ(どちらも研究者)が集まる推進会議が大阪市の教育センターで開催され,新任コーディネータとして初出席しました。

 アドバイザーの先生と他のコーディネーターの先生方,計8名の方とは面識はあるので,私の面倒くささも先刻承知。事務局の皆さんに慣れていただくのに多少時間はかかると思いますが,なるべく迷惑かけないように分け入ってみようと思います。

 今回は今年度初めての会議なので,取り組みの方針やスケジュール確認,そして来年度から全市展開するための「大阪市スタンダード」をつくるべく,授業づくりに関する枠組みのようなものを検討するといった内容でした。

 午後からの会議に出席する前に,午前中,自分が新たに担当する「むくのき学園」に訪問することが出来ました。

 以前訪問したのは「中島中学校」の校舎の方だけで,そちらから「啓発小学校」の敷地に中学校がお引っ越しした形なので,現在の敷地への訪問は完全に初めてでした。

 (ちなみに,中島中学校・旧校舎は特別支援学校として利用されるとのこと。ちょうど26日に中学校校舎お別れ大同窓会が開催されるとのことで,きっと地域で賑やかに集ったのではないかと思います。)

 1年生から9年生までが同じ敷地で学んでいるわけですが,もともと小学校校舎は規模が大きかったこともあり,建て増しすることなくすべての児童生徒が納まったようです。それなりに年季の入った校舎であり,建物や備品のそこかしこに歴史を感じさせる面影があります。

 道路一本挟んだ敷地に元は地域の施設だったものを転用した2つ目の体育館が用意され,各学年2クラスの間には学習室が用意されています。また,もともと小学校にはランチルームがあって利用していたようです。

 そして,各学級には70インチ相当の電子黒板が設置され,3年生から9年生まで1人1台のiPadを用意されているという環境となりました。もちろん電子黒板用パソコンとApple TVも用意されています。

 やはり70インチ程度あってようやく黒板と張り合う感じで設置できるので,「これは良い選択をした」と心の中で賞賛していました。しかし,面白いことに「70インチもいらんかったかな」という声も関係者からちらち聞くので,活用を進めてその声がどう変化するのかこれから興味深いです。

 歴史ある校舎で新たな小中一貫校としてスタートを切った「むくのき学園」における学校づくりは,私が想像するよりもはるかに大変なことだと思います。ゼロからではない分,2つの文化をどう折り合い付けて融合させるのかというより難しい問題があるからです。

 また校区外から新たに「むくのき学園」に入学転入してきた児童生徒たちもいます。その子たちや保護者にとっては,真新しい環境や文化への期待と不安がいろいろ混ざりあっている感じなのかなと思います。

 始まったばかりの学校の様子を一通り見せていただき,まずは1年生から9年生までが集う学校自体の雰囲気をどう作り上げていくのかが最優先なのだなと感じました。

 一方で,ICT活用や英語教育など教育事業モデル校としての役目を務めなければならない現実もあり,この数年間は先生方にとっても大変慌ただしく,場合によっては苦しい期間になるかなとも案じています。

 機会があれば,できるだけ覗きに行こうかなと思っているところです。

 すでに他のICT活用モデル校7校は1年目の取り組みから2年目に入り,授業づくりを刺激する枠組みの具体化にコマを進めるようです。

 教育センターとしては,さらに教員研修の機会を設けて,管理職や教員を対象にひろく普及させる計画も練っています。モデル校の公開授業も各校2人が出席するように方針が決められたそうなので,今年度で一気にICT活用を全教員共通課題に持ち込もうという意気込みが伝わってきます。

 それとはまったく別個に,この日(25日),大阪市の平成26年度補正予算案が提示され,ました。「平成26年度予算(当初+補正案)について~『大阪の再生』への確かな歩み~」と題し,再選した橋下市長が改めて様々な事業を打ち出してきたわけです。

 その中には,この事業についても「全小中学校へのタブレット端末の貸し出し(平成26年12月〜)

 補正 2億4,800万円」(フリップ10~16)とあり,スタンダードモデル作成と教員研修事業に合わせて,実際の機材についても提供する準備を示したのは,理屈として真っ当だと思います。ちなみに補正予算にはその他にも教育関係の項目がいろいろ含まれています。

 率直に書けば,こうした追い風のほとんどは政治の側から吹いているので,学校教育の側にとってみると思わぬ強風に髪が乱れ始めているといったところかなと思います(関西色に合わせると「乱れる髪の毛もないわ」と落とすべきところかも知れませんが…,もうちょっと受け入れてもらえるまでふざけは控えめにします)。

 渦中の人々にすれば変にハードル上げられても追いつかないというのが正直なところ。そこで,どうすれば前向きな歩み寄りへと踏み出せるのか,その一歩や次の二歩目を丁寧に考えないといけないなと思います。

 会議自体は,先行している物事をいろいろ学べたという点で大変興味深いものでした。まだ要領を飲み込めていないので,根掘り菜掘り聞いたりしてしまいましたが,とりあえず各学校での取り組みを今後も見守っていくという感じでスタートするようです。