[徳島]フューチャースクール公開授業迫る

 今年度から始まった総務省「フューチャースクール推進事業」は、初年度の追い込みに入っています。
 あらためて、フューチャースクール推進事業とは何でしょうか?
 総務省のWebサイトには次のような説明が掲載されています。

 学校現場でICTを利活用し、児童がお互いに学び合い、教え合う「協働教育」を推進するため、公立小学校を対象に、タブレットPC(全児童1人1台)やインタラクティブ・ホワイト・ボード(全普通教室1台)、校内無線LANの整備、協働教育プラットフォーム(教育クラウド)の構築等のICT環境を構築し、「協働教育」の実現のために必要な情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析する実証研究。

 つまり、
 ・児童1人1台のタブレットPC
 ・各教室に1台ずつIWB
 ・校内無線LAN完備
 ・教育クラウドも用意
 という環境が、教育を行なうにあたって直面する課題を調べる事業です。

 全国で10校の小学校が、この事業の実証校として選ばれました。(→リンク
 全国を東日本と西日本に分けて、2つの事業者が推進事業を請け負っています。
 事業の進め方はそれぞれの事業者で異なるため、事業推進や環境導入の方法などの差違も今回の調査研究における興味深い主題の一つです。
 つまり、10年後に全国の学校で情報環境を導入することが成功するように、今のうちに問題となる事柄を洗い出して解決の糸口を明らかにしましょうということです。
 そのためにも10校で起こる出来事や問題が多様であることに意味があるのです。

 私は、徳島県・足代小学校の担当研究者です。
 今回の事業では、各校に担当の研究者が割り当てられています。
 また、総務省にも研究会が設置され、現場の研究者とは別の研究者が構成メンバーとして組織されています。
 いろいろな壁もあって、すべての研究者のコミュニケーションが密であるとは言い難いですが、可能な範囲で連携しているといったところでしょうか。
 個人的には、総務省付の研究会がもっとメッセージを発してもよいと思いますが、事業者へ委託した以上、口出しは最小にというスタンスのようです。
 こういう萎縮した動きになってしまうのは、表面的なクレームを恐れているところもあるようですが、最近は少し緩和されてきたようです。

 実証校では公開授業を催すことになっています。
 ただ、残念ながら一般の人々に公開されるものではなく、対象は教育関係者(現場の先生方や教育委員会)や関連事業者などです。
・石狩市立紅南小学校(北海道)  2010年12月8日(水)
・寒河江市立高松小学校(山形県) 2011年1月28日(金)
・葛飾区立本田小学校(東京都) 2011年1月26日(水)
・長野市立塩崎小学校(長野県) 2011年2月9日(水)
・内灘町立大根布小学校(石川県) 2011年2月1日(火)
・大府市立東山小学校(愛知県) 2011年2月9日(水)
・箕面市立萱野小学校(大阪府) 2011年2月21日(月)
・広島市立藤の木小学校(広島県) 2011年2月25日(金)
・東みよし町立足代小学校(徳島県) 2011年2月3日(木)
・佐賀市立西与賀小学校(佐賀県) 2011年1月27日(木)
 いくらか公開授業の感想も公開されていたりして、いろいろな意見を見ることができるので楽しみです。指摘をどう成果に盛り込むべきか、悩ましいところもありますけれど。
 とにかく公開授業があちこちで実施されています。

[FS推進事業] 事業仕分けの判定

 すでにニュースでもお聞き及びと思いますが,2010年11月15日から行政刷新会議の事業仕分け第3弾(後半)が行なわれ,1日目のワーキンググループAにて「総務省・フューチャースクール推進事業」が扱われました。
 行政刷新会議のWebサイトには,結果の概要として次のように書かれています。

(継続分)廃止(看板の掛け替え。中身について文部科学省が主導的な役割を果たすべき。文部科学省実施事業において、現場の影響が最小限になるような努力はするべき。)
(特別枠)見直しを要する

 以前の事業仕分け時(2009年11月13日)に「ICT利活用型教育の確立支援事業」として仕分けの対象となり,結果「来年度の予算計上は見送り」と判定された事業が,「フューチャースクール推進事業」として予算計上されたと捉えられて問題視されました。
 外側から見えている事実(解釈?)をもとにすれば「看板の掛け替え」と指摘されても仕方ないところがあります。

 しかし,どうして総務省が「フューチャースクール推進事業」を予算化したのか。これには民主党が掲げた「政治主導」という物語が大きく関与してきます。端的に言えば,当時の総務大臣が原口一博議員だったことが理由です。
 2009年12月22日に当時の原口総務大臣が「原口ビジョン」を発表。国家のIT戦略とも絡めて,ICT維新ビジョンを掲げたのでした。
 その後,首相官邸のIT戦略本部が2010年5月22日に「新たな情報通信技術戦略」を決定し,そして,それを踏まえた「新成長戦略 ~「元気な日本」復活のシナリオ~」を2010年6月18日に閣議決定したのはご存知の通りです。
 これらにも教育分野におけるICTの利活用がうたわれています。たとえば「新成長戦略」には以下のような文言があります。

子ども同士が教え合い、学び合う「協働教育」の実現など、教育現場や医療現場などにおける情報通信技術の利活用によるサービスの質の改善や利便性の向上を全国民が享受できるようにするため、光などのブロードバンドサービスの利用を更に進める。

 予算見送り判定は出たけれども,こうした国家戦略としての重要性を鑑みたときに教育分野のICT利活用に関する取り組みを後退させることはできなかったというのが現実だったのです。

 ところが,今回の事業仕分け議論は,そういった文脈はほとんど考慮されず,むしろ過去の事業仕分けに従わなかったことが大きな問題として展開しました。
 つまり,看板付け替え・ゾンビのような予算要求に矛先を向ける今回の事業仕分けにおいて,その姿勢を世間にアピールするための格好の獲物にされたわけです。
 もちろん,仕分け側の指摘もまた検討する必要のある事項を含みますし,私自身も事業の推進方法には改善の余地があると思いますから,その点では指摘を真摯に受け止めて改善していく必要があると思って方途を考えているところです。
 けれども,閣議決定とも通ずる事業であるにもかかわらず,こうした切り口だけで「廃止」を判定され,世間的にその情報が流布されるのは大変なマイナスです。
 その点で,私たち関係者は困惑しています。

 事業仕分けの現場では,総務省の皆さんが事業の意義について,熱意を持って語っていましたし,教育分野を所管する省庁ではないとはいえ真剣にやっていることをアピールされていました。それに嘘はないと私は思います。
 ただ,もう一歩踏み込んで,世間一般に抱かれている教育の情報化にまつわるイメージ(機器導入で終わってしまうばらまき事業的な受け止められ方など…)をどう払拭するのかという戦略を立てなければならないと思います。
 あるいは根本的な理解を正すことも必要かも知れません。つまり,教育現場がビジネスの対象として健全な市場となる必要性があるという認識です。
 人々は,教育の情報化の話を「教育」の話で捉えて,文部科学省の取り組みとして一本化すべきだと考えたりします。しかし,教育の情報化は,教育の話であると同時に「ビジネス」の話なのです。
 私たちは,よりよい教育活動を実現するために,どのようなビジネス活動で関わっていくべきかを明らかにしなければならないのです。
 誠実なビジネスとは,具体的にはどういうものなのか。今後,教育の世界がよりよく社会とつきあっていくためにも,教育現場を対象に商売することの健全なモデルを作り出していかなくてはなりません。
 そのような取り組みは,文部科学省にはできません。総務省や経済産業省が関わる意義は,そういうところにあると思うのです。

[徳島]だだっ子

 なかなか情報更新ができずにいます…。
 FS実証校に,インタラクティブ・ホワイト・ボード(IWB)や児童用のタブレットPCが導入されました。東日本地域の実証校の様子を紹介したWeb記事も登場しています。
20101013「「タブレットPCは子どもの意欲づけに効果」、葛飾区のフューチャースクールで実証実験始まる」(ITpro)
 西日本地域とは細かいところが違ったり,そもそも学校毎でアレンジも違うため,東京の実証校のイメージだけで全てを語ることはできませんが,写真の風景はどこでも似たような感じだと思います。

 物事には,見栄えの良い部分と同時に,人には見せにくい困った部分もあるものです。私も,人一倍粗探しが好きですから「効果的!」なんて報道も,だいぶ割り引いて捉えたりしますが,実際,苦労は束になってやってきます。
 徳島の実証校では,まだまだ導入した機器たちが大人しく動かず,あれこれだだをこねる場面が出現しています。
 もちろん私たちは文句を言います。^_^
 文教製品や学用品が,想定外にだだをこねてもらっては困るからです。
 でも,パソコンや技術に関心のある皆さんは,「だだこねている」と表現しているところで,具体的な問題はともかく,それが起こっていることに「さもありなん」と理解を示してくださると思います。
 要するにPCはいまだに家電レベルにない商品なのです。
 問題に対処すべく,事業者の方々が努力してくださってます。
 それで,まあたぶん何らかの形で解決するのだと思います。
 皆さんは「やっぱり事業者やメーカーは酷い」とか,私たちの文句と一緒になって思われるかも知れません。フューチャーとか言いながら,結局は官製事業の悪しき伝統を繰り返しているとかなんとか…。
 それを否定するつもりはありません。たぶん,そういう伝統に乗っかってます。どこかで変わったという話は,トンと聞いたことがありませんから。私もその中で溺れている一人なのだと思います。

 でも,私たちは文句を言う一方で,こうも考えます。
 いい加減,そのパターンは終わりにしましょう,と。
 私たちは,それぞれの人たちが,それぞれに置かれた立場で,それぞれ振る舞わなければならないという事実を知っています。
 あまり理想的でもないのに,その状態で安定してしまっていることを知っています。ですから,「文句を言っている」私たち自身もまた,その理想的でもない安定状態に組み込まれていることを知っています。
 「官製が悪い」とか「事業者が悪い」とか「研究者が悪い」とか「学校現場が悪い」とか,そういう常套句で済ませること自体が,この変わらなさに某か荷担していることを自覚しないといけないと考えています。

 だから私は,辛辣かも知れませんが,パターンを崩すために習慣変える必要性を訴えます。関係者の振る舞いを変えるために必要なことを,みんなで新たにつくらなければならないと考えています。
 それは商品の開発から始まって,導入のための段取りや,利活用を継続的に支えていく日常的な関わりまで含めて,学校教育活動と商業活動がちゃんと対等に渡り合えるしくみをつくることが必要と思うのです。
 地域経済との関係も,今後,雇用対策の面も絡み合いながら議論されていかなくてはなりません。本当に新しいグランドデザインが必要とされているのです。

 私は,ご一緒に仕事をしている方々のことを信用しています。
 ご一緒している方々の努力を賞賛します。
 そのうえで,その努力が次にも活かされることを願うだけです。
 それが不十分になりそうなら,いくらも厳しくあたります。
 どうでもいい存在ではないからこそ…。
 すみません,考え方が教育関係者なんです私。

 さて,機器導入のごたごたはしばらく続きそうですが,しばし我慢を積み重ねて,解決の時を待つことにします。
 昨日,実証校にお邪魔したとき,放課後,子どもたちがタブレットPCで楽しそうに遊んでいました。ゲーム要素を取り入れた学習ソフトをあれこれいじっていたのです。
 まだまだ残る問題に直面しながらも,子どもたちなりの回避方法を編み出したりしながら,タブレットPCと戯れます。
 できることなら,その何気ないひとときの場を,総務省の担当者の方にもじっくりと観察していただきたいと思ったりします。スーツの上着を脱いでもらい,教室の床に膝をつき,子どもたちと同じ目線の高さで,その様子と時間の流れを見ていただきたい。
 タブレットPCがどういう挙動をしているのか,子どもたちがどうタブレットPCとつきあっているのか,充電ラックもまじまじと眺めていただき,取り出しから収納,そして充電までの一連の流れを味わっていただきたい。
 そこに文教製品として学用品としての何が欠けており,何が必要とされているのか。私たちとともに語り合って欲しいとさえ思います。
 残念ながら,省庁関係者がやってくるとなれば一大事ですから,そんな日常の風景を見ていただくことは難しいかも知れませんが,私と一緒にふらっと学校に寄っていただければ,そんな場面はいくらでもご案内できると思います。
 まあ,そんな願いかなう前に,私みたいな「だだっ子」は今年度で事業から干されちゃうかも知れませんけれど…。^_^;

[徳島]工事と機器確認

 フューチャースクール推進事業の環境構築が進んでいます。他のところでも公開資料の情報がまとめられていますが、実際の進捗は、学校行事との兼ね合いを配慮したり、機材の手配などの現実的な事情から、多少遅れた形になっています。

 という訳で、私は本日、担当している小学校にお邪魔して、搬入された機材の実地確認が行なわれている現場を見学しています。

 普通、研究者が機材整備作業に付き合うことは、高度な科学技術設備ならいざ知らず、パソコン機材程度ならほとんど無いと思います。なので、私は変な部類の研究者です。正しくは暇人かも知れませんが…。

 けれども、こうした業者の皆さんの地道な努力部分こそ、私達がまず巨額の投資をする対象であるし、そこが丁寧になされることで、学校現場の先生方が安心して環境を利用できるわけですから、しっかり見届けることが関わる者としての責務と思います。

 基本、見学ですから、口挟むなんて大それたことはしません。隙間に、整備されつつある環境について専門の担当者の方のお話を聞き、後はひたすら作業を眺め、学校内を徘徊して雰囲気を感じ取る努力をするだけです。

 明日は実証校の運動会の日。

 学校全体が前日準備のために大忙しです。

 本来なら工事も導入作業も断りたいところだと思いますが、日程的にはこの週末しかないようで、先生方のご協力のもと、エンジニアの皆さんが一生懸命作業を進めて下さってます。

 私はどちらも手伝えず、ただ、ぼーっと眺めるだけ。私的にはそれだけでも面白いので、問題無いのですが、忙しく動いている皆さんに対しては申し訳ないなと思います。

 西日本で導入されたタブレットPCは富士通のFMV-T8190という製品。あえて普通に使えるスペックのごく普通のタブレットPCをチョイスしたというのは良心的だと思います。未来とは言えないとしてもね。

 ネットワーク環境は、決して派手な構成ではありませんが、最新の機器を丁寧に調整していきます。この辺は、市町村単位で環境を整えていく考え方ややり方もあり得るので、全国展開する場合には、地域の協力があると心強いのですが、やはり地域差は出てきそうです。

 サーバ機器も特別高価なものを使っているわけではなく、今回使っていくコンテンツをキャッシュできるごく普通のサーバです。ネットに普通に上がっている動画をキャッシュすることは難しいですが(そういうのは馬鹿高いらしい)、今回のような特定のコンテンツをメインに使う目的なら十分のようです。

 あとは児童用タブレットを一台一台動作確認する作業です。まだまだ続いています。

 こうして導入される環境をどう活かすのか。ぼちぼち、ボールが渡ってきそうです。過去の成果も踏まえて、地道にやるしかないですね。

[徳島]第1回FS協議会

 9月9日午後からフューチャースクール推進事業・徳島県の第1回協議会が開催されました。実証校の先生方と教育委員会の方,事業者の皆さんと研究者の私といった構成メンバーでした。
 ご挨拶のあと,総務省で行なわれた第2回研究会の報告と,実証の実施計画や記録について検討が行なわれました。協議会自体は1時間ぐらいの予定で,そのあと導入するタブレットPCなどの紹介と学校との事務打ち合わせが組まれていましたが,あれこれ検討しているうちに時間は延びてました。

 さて,フューチャースクール推進事業の進捗なのですが,まだまだ準備段階。今月は環境を整えるための機器備品の選定や導入作業や工事を各学校の事情に合わせて整えていくので精一杯です。
 来月は学校行事が目白押しの中で,先生や児童たちが整備された環境の使い方を学んだり,ICT支援員さんが各学校に入って関係を築いたりするだけで精一杯。
 落ち着いて実証に取り組めるようになるのが,ようやく11月になってからではないか。というのが私たちの想定です。この辺は,総務省サイトに公開されている研究会の配布資料などから情報を得ることができます。

 私は,西日本地域の中の徳島県に限って関わる研究者です。西日本地域のその他4つの都道府県にも研究者の方がいます。お名前をお聞きして知っている方もいるし,会ったことのない方もいらっしゃいます。今はそれぞれがバラバラに担当校に関わっている状態です。
 一方,東日本地域の様子を断片的に聞いたところによると,統括する研究リーダーがいらっしゃり,研究者が連携して各校を担当しているようです。必ずしも地元の研究者が担当するわけでもないみたいです。また,研究リーダーが各校を巡回することもあるらしい。
 東日本と西日本では,そんな違いもあったりしますが,事業者間では定期的に連絡をとり合い,お互いの事業が全体としてうまく進展するように情報交換もしているようなので,東西で大きな開きが生まれることはないでしょう。

 そんな感じで,現段階では,フューチャースクール推進事業を請け負った事業者の皆さんが各地域を見通して全体を把握しており,実証校も研究者も,それぞれの範囲で取り組んでいるという状況です。そのため各校毎かなりの温度差もあるようですが,本格開始すれば,そうした状況も徐々に改善されるのではないかと思います。
 とにかくまだ何も始まってもないに等しいので,辛抱強くお待ちいただき,今後も行方を見守っていただければと思います。