最近の国立国会図書館

この御時世に…とは思うものの,たまたま出張のお仕事を多くいただく年と重なったため,今月も東京出張をしていました。

その一環で,久し振りに国立国会図書館に立ち寄ることになったのです。

国立国会図書館は永田町の国会議事堂の隣に立地した施設。18歳以上であれば利用者登録のうえ誰でも利用することができます。

ただし現在は,感染症拡大予防のため入館制限を行い,事前予約をする方式をとっています。申し込み多数の場合は抽選となります。利用したい週の前週水曜日正午までにインターネットから申し込みが必要です。

申し込み日は複数可能で,私も複数の候補日を申し込みました。めでたく一日分当選しましたので,入館できた次第です。

普段は本館と新館の2つの入口があるのですが,現在は本館の入口のみ。

まず指先消毒を行ない,エントランスに設置されたカメラ式検温センサーをクリアした後,仮設受付で予約当選確認を行なう段取りとなっていました。

午後から利用したので,朝の開館待ち状態がどうなっていたのか分かりませんが,おそらく間隔を空けて列に並び,開館と同時に順番に上記の段取りで入館していたのだろうと思います。

マスク着用が必須とはいえ,入館後の利用方法に特別な変化はありません。全体的な座席の減数やカウンターの飛沫防止カーテン設置などは行われています。

入館制限により,館内の雰囲気はゆったりしていますし,貸出や即日複写の受付も集中するタイミングはあるもののスムーズに処理されていました。

思いついたときにふらっと立ち寄れる利便性が制限されているのは残念ですが,今回もあれこれ調べものができてよかった訪問でした。

私の遠隔授業裏舞台

私の職場は、今年度4月下旬から遠隔授業がスタートしていた。

幸い、何年も前から大学のメールシステムはGmailシステムに切り替えられ、その流れでなんとなくGoogle Appsも使えるようにはなっていた。最初は私のような物好きと語学担当の先生方数人が利用しているにすぎなかったが、GSuiteに名称変更されたあたりから少しずつ学内認知度も高まってきた。

ICT活用がとりたてて得意という職場ではないものの、こうした素地のようなものがあって、新型コロナ禍に伴う遠隔授業の実施方針もGoogle Classroomベースで行うというミニマムな方法を基準として打ち出すことができた。

他大学はGW(ステイホームウィーク)明け以降に遠隔授業を開始するというところが多いにもかかわらず、私の職場が早々に4月下旬から始められた理由は、徳島県が全国的にみても感染者判明数がほぼゼロに近く、感染拡大といった事態と無縁だったことはもちろん大きい。

遠隔授業の取り組みそのものに対しても、先に書いたように、なんとなくそういうものがあると意識が広まっていたおかげで抵抗感が少なかったのもあるが、実際のところどれだけ大変なのか訳が分かっていなかった人たちが多かったこともプラスに働いていたのかもしれない。

情報センター等の関係部署の方々は、突貫作業とはいえマニュアル作りや緊急研修の準備など取り組まれて、そうした努力にも支えられてスタートできたのだろうと思う。

私自身も従来までGoogle Classroomを授業の補助ツールとして使用し続けてきたので、そこでの経験を踏まえて遠隔授業の環境準備を行うこととなった。

実のところ私は、対面による授業で、典型的な口頭伝達的講義と、典型的な実技演習授業を行なってきた、極めて旧来型のステレオタイプな授業手法採用者である。

アクティブ・ラーニングの重要性は承知しているし、試みていないわけではないものの、担当している部分が知識習得を担うタイプの科目であり、その先の知識活用を担う授業科目へ学生達を引き渡すという位置づけを期待される度に、派手な取り組みはお任せした方がうまくいくことを感じている。

そのため、Zoom等のリアルタイムコミュニケーションツールによる同期型の授業はほとんど行なっていない。大学院の担当科目で文献購読を行なう際、Google Meetを使ってマンツーマンで議論している程度である。

講義授業については「毎時課題+オーディオ講義+教科書・講義資料」というオンデマンド型オンライン授業を採用している。

演習授業については、本来であれば対面による授業が解禁されるまで休講にしてもよかったのであるが、「情報処理」という名のパソコン基礎操作演習なので、「実演動画+毎時課題」によるオンデマンド型オンライン授業で進めてしまうことにした。

講義授業

教科書があるので、基本的にはそれに沿って授業を行なうが、毎回は、学習部分に対応した「調べ課題」を毎時課題として用意し自学予習の機会を作ってからオーディオ講義を聴いてもらう段取りにしている。

教員による解説講義を聴く前に自学しておくことによって、内容に見当をつけることができるし、解説をピンポイントで聴くことにも役立つ。二度三度と同じ内容に触れることで反復学習の効果も期待されるだろう。

実際の準備は…

・Googleドキュメントによる「毎時課題」配布テンプレートの作成
・毎時課題を紹介するオーディオ説明ファイルの収録
・教科書や講義資料の準備
・毎時課題に即した学習内容のオーディオ解説ファイルの収録
・これらのマテリアルをGoogle Classroomに予約投稿する設定

以上のようなことをしている。

毎時課題はGoogleドキュメントで調べ課題シートを作成して、「生徒にコピーを配布」モードでGoogle Classroomの課題に追加する。基本的には毎時課題の成果が日常的な学習進捗把握の材料となる。

オーディオファイルの作成には、パソコンにオーディオインターフェイスを使ってマイクを接続して音声収録している。

オーディオ収録環境
【パソコン】iMac (Mid 2011) - macOS High Sierra
【オーディオインターフェイス】EDIROL FA-101
【マイク】Shure BETA 58A
【収録用ソフト】Hindenburg Journalist Pro

収録したオーディオは、mp3形式でGoogleドライブに直接書き出し保存をしている。あとはGoogle Classroom上から呼び出し簡単に添付できる。今のところ受講生数が少ないのでGoogleドライブ共有でもアクセス数制限等の問題に直面していない。

Google Classroom上の投稿構成は、授業トピックを講義単位で括るために使用し、ちょっとしたコースウェア的になるようにしているが、一講義分にたくさんの投稿が並ぶと、リストが長くなるし、投稿の手間がかかるため、「出席確認(質問)/毎時課題(課題)/講義解説(資料)」の3投稿に絞っている。

利用者の増加のせいか、Google Classroomの投稿予約機能は設定した時刻にプラス5〜10分くらいの投稿タイムラグが発生するようになっている。そのため、3つの投稿予定は時間差で設定しているが、それぞれ5分程度の遅れを見込んだ時刻設定にしてある。

提出物は、Googleドキュメントで配布している調べ課題だが、学生達は他の授業で様々なやり方に触れているせいか、Googleドキュメント以外にも、手書きノートを写真撮影したものを提出したり、それぞれ利用しているアプリで課題に取り組んだものをPDF化して提出するものもあったり、千差万別である。その辺は私が対応できる範囲でOKにしているため、学生側から課題の取り組み方法について不満が出てくることはほとんどない。

授業時間中は、出席確認から始まり、調べ課題や解説講義に取り組んでいる最中に書き込まれる質問に返答したり、コメントを読みながらやりとりを行う。出席確認投稿に対する学生のコメントで受講生同士が受講していることの相互確認を行ない、オーディオ講義では前回までの取り組みや受講生からのフィードバックを全体に共有などして、講義授業の一体感や活動雰囲気を確保している。

ちなみにオーディオ収録のタイミングは,収録作業に慣れてしまったこともあり,当日の朝になっていることが多い。日付レベルでリアルタイムであることは同期感が高まるメリットはあるものの,収録を失敗した場合のリカバリー作業に時間的余裕がないことにもなるため,収録は前日に済ませるのが良いかと思う。

演習授業

パソコンの基礎操作に関する演習授業は、対面による授業であれば、大学のパソコン教室に配備されたWindowsパソコンを実際に操作して練習する形で進められてきた。

担当者は、パソコン教室の前方に用意された教員機を使い、実際の機器操作をデモンストレーションしながら受講生達を操作練習に誘ってきた。

遠隔授業となれば、パソコン教室のような統一的な機器環境が見込めない。学生達が自宅で扱える情報機器は、主にスマートフォンであり、一部の学生がパソコンを所有しているに過ぎない。

こうなると、受講生自身による演習部分の制約を受け入れて、教員からのデモンストレーションに重きを置いて進行する他ない。その上で、操作練習する演習部分について、可能な範囲で取り組んでもらうスタンスを取ることにした。

授業は、「実演動画」を視聴してもらうことが中心となっている。内容に応じてスライド資料があったり、演習課題が用意される。

実際の準備は…

・操作画面を中心とした実演動画の収録
・スライド資料の作成
・演習課題の素材、配布ファイル等の作成
・これらのマテリアルをGoogle Classroomに予約投稿する設定

実演動画は、担当者のカメラ映像と機器の操作画面映像とをスイッチャーで切り替えて収録できるようになっている。一つの動画は内容によって時間の長さが異なるが、10分〜15分程度を目安に作成している。

実演は、Windowsでの操作だけでなく、スマートフォン(iOS, Android)およびmacOSでの操作についても扱い、同じ課題を行なう際に各基本ソフトでどんな操作をするのか、可能な範囲で個別の動画を作成し実演している。

これまでパソコン教室や教員機がWindowsパソコンに限定されていたために、特定プラットフォームの実演提示に限られていたが、実演に使用できる機器が教室環境に縛られずに済むようになったため、マルチプラットフォームを踏まえた実演提示が可能となったことは遠隔授業のメリットとなった。

受講生達は、身近な端末の操作方法について学べるようになり、高額な出費で手にしたスマートフォンが日常使っていること以外にも活用できることを発見して、それが授業への関心や意欲にもプラスに働いている様子が感想やコメントからも窺える。

さて、動画収録には、少々トリッキーな環境を構築してある。

動画収録環境
〈デモンストレーションマシン環境〉
【パソコン】Mac mini Server (Late 2012) - macOS Mojave
【仮想環境】Parallels Desktop 15 for Mac - Windows 10 Home
【iOSデバイス】iPhone 6iPhone 6s
【Androidデバイス】Pixel3
【画面転送ソフト】Reflector TeacherAirParrot

〈映像収録マシン環境〉
【パソコン】Mac mini (2018) - macOS Mojave
【オーディオインターフェイス】Audient EVO4
【ビデオキャプチャ・スイッチャー】Blackmagic Design ATEM Mini
【画像転送受信ドングル】EZCast 4K
【マイク】Shure SM7B
【カメラ】SONY RX0
【カメラ】SONY HDR-MV1
【映像収録ソフト】Wirecast Pro
【音声キャプチャソフト】Audio Hijack
【動画編集ソフト】Vrew

実演提示するための機器と映像収録するための機器は別々にしてある。通常、これらが一緒であると、操作画面を収録する際に便利であることも多く、利用できる機材が限られている場合にも都合がよいが、マルチプラットフォームで実演をする負荷を考えると分けた方がフリーズ対策にもなる。

デモンストレーションは、mac OS上で動作する仮想環境上のWindows 10を中心に行ない、スマートフォンはiOSとAndroidの画面転送機能(AirPlay等)を使って、仮想環境と同じマシンの画面に集約表示できるようにした。そのデモンストレーションマシンの操作画面をさらに画面転送アプリ(AirParrot)から受信ドングル(EZCast 4K)に送って画面収録できるようにしている。この辺がトリッキーである。

映像収録マシンは、接続されている映像キャプチャ・スイッチャーATEM Miniで切り替えられた映像を録画する。録画に使っているWirecastは、本来は配信用ソフトウェアであり、もっと安価な時に購入してずっと使い続けているが、いまでは高額なソフトとなってしまった。代替ソフトとしてはOBS Studioがある。

撮影は、カメラ映像で動画の内容を説明したあと、操作画面の映像に切り替えて実演提示を行う。基本的に一発撮りで、多少のミスがあっても撮影中にリカバリーして、編集をせずにYouTubeにアップロードする。

一部の参考動画では収録時間が40分〜60分程度になってしまい、言い間違いなどの修正が必要になるものもある。その場合は動画編集ソフトVrewに読み込ませて編集作業を行なっている。

Vrewを使うと機械学習を活かした字幕生成を行なってくれる。さらに認識した音声テキストを編集することができるが、これは字幕テキストとは別であり、音声テキストの編集が動画の編集と連動するようになっている。そのため削除したいセリフ部分を文字で削除すれば、映像の方もその部分が削除されて便利である。その他にも沈黙部分を短めに詰める機能など使う。

オンラインによる遠隔授業においては、学生側の通信料金コスト負担の問題が取り沙汰され、なるべく授業に関わる通信データ量を下げるように呼びかけが行われている。YouTubeを実演映像の保存先にしているのは、YouTubeが備えている動画の圧縮や配信に関しての技術的なメリットを享受できるからである。

こうしてYouTubeに限定公開された動画は、Google Classroom上の投稿でリンクされて受講生が視聴できるようになる。この際、演習授業では一講義分を「出席確認(質問)/実演動画(資料)/毎時課題(課題)」という3投稿で構成し、それらを投稿予約機能を使って時間差で公開していく。

授業時間中は、動画視聴がひと段落して実際の操作練習のタイミングになる頃にたくさんの質問や様子の報告が限定公開コメントに上がってくるので、個別に返信を行なう。

パソコンやデバイスのトラブルを文字だけで遠隔サポートすることが如何に大変かは、経験された方ならお分かりになると思う。

もちろん、それを見越した解説や実演を動画に盛り込むことは必須だが、それでも想定していないパターンのトラブルや説明が不足している事柄は残るもので、授業時間中に飛んでくる受講生からのコメントはなかなか興味深い。

Google Classroomはコメントに画像を貼り込めないため、こちらからは基本的に文字ベースで確認事項や手順を伝えるほかない。学生からは、場合によって課題添付の形でスクーリーンショットを送ってくれることもあるので、それを頼りに問題を把握して返答することもある。

問題所在を確認するために、使用しているデバイスは何かといった初歩的な確認から始まり、視聴した動画の何本目の、何分何秒あたりが説明と実際とで異なるのかを確認するなど、遠隔サポートのノウハウを駆使しながらやりとりは続いていく。

確かに対面による授業の方が、直接画面や状況を把握して、問題解決のためのアドバイスを提示しやすい。しかし、今回の遠隔による演習授業の試みを通して、こちらからは動画による実演提示でマルチプラットフォームに対応した丁寧な解説が届けられ、対する受講生は自分の馴染みのデバイスを利用して、実際の操作を練習したり、アドバイスを得るにしてもトラブルを自己解決しなければならないという状況に直面することで、かなり積極的な授業(アクティブとまでは言わないが…)を展開できているのではないかと思われる。

ただし、どうしても学習課題の設定時には環境制約が伴うため、課題目標を低めに設定しなければならないことも起こる。「トラブルを自己解決する経験」は聞こえはよさそうであるが、そもそも解決できないトラブルが起こらない程度にはハードルを低くする必要もある。

遠隔授業準備は、やはり授業や課題の内容吟味も大事になってくる。

収録環境

作業をする研究室が、必ずしも静粛な環境ではなく音声収録に向いていない。

映像や音声のメディアを利用する場合、やはり音響部分の聴取品質が高くないと、満足感も高まらないし、逆に視聴している際の疲労感が高まってしまう。オンライン授業やビデオ会議が疲れる一因には、音の良し悪しが少なからず関係しているとも考えられる。

そのためオーディオ関連は、これまでもマイクの種類を変えたり、音質調整するソフトウェアを変えたりといろいろ工夫を重ねてきた。

マイクに関しては、一般的に「コンデンサ」型マイクが集音感度に優れているとして勧められることが多く、そのような事例報告が多いことも手伝って、USB接続できるコンデンサ・マイクが選ばれやすい。しかし、もともとの収録環境が静けさを確保できない場所である場合、感度の良いコンデンサ・マイクよりも、感度の低い「ダイナミック」型マイクを利用した方が都合が良いこともある。

利用するシチュエーションに応じて適したマイクを選択していくことになるが、その際、USB接続タイプのマイクでなければ、オーディオインターフェイスと呼ばれる周辺機器を併せて購入しなければならない。このオーディオインターフェイスも、本来であれば使用するマイクに必要なパワーや仕様を持っているかどうかを確認する必要があり、安価なものを一つ買えば済むといった簡単な話にはなっていない。問題なく使えても、音質を良くする観点からパワー不足である可能性は少なくない。

私が導入したShure SM7Bは、ダイナミック・マイクの中でも最も集音感度が低いマイクとして知られている。そのおかげで余計な環境ノイズ等を拾わないメリットはあるが、パワーのないオーディオインターフェイスと組み合わせると、本来収録したい音声も小さく集音されてしまう。入力つまみを最大限に上げても小さいわけだが、このつまみを最大限に上げていることが機器からのノイズを大きくしてしまう別の問題を生む。ダイナミック・マイクを使用する場合、パワーに余裕のないオーディオインターフェイスは気をつけなければならない。

なお、映像収録に関しては、固定カメラを用意することと画面映像を収録できるように機材設定している以外に特別な配慮はしていない。強いて書くなら撮影用ライトが確保してある。

クロマキー処理をして、合成による映像づくりが行えるように道具立てはしているものの、実際に運用するには面倒が多そうなので、現時点では活用していない。グリーンバックを背に画造りをしても楽しそうだが、普段の研究室を背景にしても(散らかっている恥ずかしさを除けば)特段困らない。

新型コロナ禍による遠隔授業提供の試みより以前から、音声収録やネット配信等の試みを続けてきた経緯もあり、こうした細々としたこだわりのようなものが積み重なって、現在のような裏舞台が出来上がっている。(機材も手持ちのものを新旧組み合わせている。)

ただ、結局は「授業」や目的の活動になるべく取り組みやすい環境・条件を作りたいということを目指して来たのであり、継続的に目的の活動が行えるよう利用環境をシンプルに維持することが大事だ。

収録がパッと取り組めて、結果をザクッと放り込んで、提供する側も視聴する側もある程度の予測が可能なルーチンに基づいて進行させながら、その中に面白みを割り込ませるような構造。奇をてらったものは何もないが、持続的に取り組めることを重視すると、そうした方が内容吟味の方にエネルギーを割ける。

おかげで毎回の準備において機材や収録環境で手を煩わされることは滅多にない。毎回の授業で扱う内容に関連する準備に手こずることはあっても、これは純粋に授業内容準備であるから省きようがない。

こうした調子で、遠隔授業に取り組んでいる真っ最中である。

動画中継のススメ

感染症予防に端を発して,様々な催事が開催中止となり,一部の企画でオンライン配信する形を模索する動きが起っています。

教育・学術界隈でも,この時期に開催される予定だった研究会や学会が同様な動きをとっています。

以前から研究会や学会をネットに動画中継する試みは散見されますが,必ずしもポピュラーではないのが実情です。

動画中継が難しい理由

なかなか普及しない理由はいくつかあります。

○映像撮影・配信向けの機材準備・運用のノウハウが別途必要になる。
○配信範囲を制御したり,視聴側とのやり取り等が難しい。
○配信内容によっては著作物使用許諾等の権利処理が必要な場合がある。
○記録された映像を残した場合の取り扱いを考える必要がある。
etc..

まず,映像撮影と配信に関する知識と技能が新たに必要になるのは,大きなハードルです。でもこれは,一度乗り越えればなんとかなりますし,昨今はわりと敷居が低くなっています。後でご紹介します。

中継すること自体は容易になってきましたが,配信範囲を制御したり,視聴者を管理したり,配信中にイタンラクトしようとするとまだ難しさがあります。この辺がノウハウ部分になるのかも知れません。

研究会や学会における情報発信は,オリジナルの情報も多いとは思いますが,どちらかといえば他者の知見を参照しながら新しいものを発掘する作業にもとづくことが多いので,他者の著作物を映像で見せざるを得ない場面が発生することも少なくないわけです。ここで権利処理問題が出てきます。

次に,配信には「中継」と「録画」があります。中継配信とは「ライブ配信」「生中継」「生放送」のようなもので,撮影しているものを即時配信処理して,可能な限りリアルタイムで視聴してもらう試みです。

もう一つ,録画配信は,撮影映像を記録しておき,撮影対象の催事が終了して以降に配信する形です。録画をそのまま配信する場合と,編集作業を施してから配信する場合などがあります。

中継配信していた映像を同時に録画しておいて,中継以降に録画配信することもできます。しかし,その場合,録画配信をいつまで可能にしておくのか,録画された映像の権利を誰が持つのか,再利用に対してどう対応するのかといった課題が盛りだくさんでやって来ます。

現時点で,公開状態にあるものは,関係者の暗黙の緩やかな合意によって細かな問題を一端保留にして動画共有を優先していることも多いです。

ざっくり考えても,以上のような問題が思いつくわけで,これらに対応することを考えると,そうそう気安くは動画中継に手が出せなくなるのも分かります。

それでも動画中継は有用

考慮しなければならない事項があるにしても,動画中継にはいろんな有用性があります。

端的には遠隔地との映像視覚的な情報共有が可能であること。テレビ放送のことを考えれば,全く同じではないにしても,その威力を理解することはできます。

冒頭に書いたように,感染症予防に関わる催事の開催中止の代替企画として,直接集会することなく遠隔地の人々と情報共有する際の手段として中継配信を利用することができるのは,大きなメリットです。

時間的な調整と各自が場所を確保できれば,集まる場所の確保といった手間を省くことができます。また,記録を残せるという意味でも便利です。昨今では音声認識技術が向上してきていますから,会議の文字起こしも自動化できるようになってきています。

気軽に実施する事例として,たとえば,私たちは何年か前から,ちょっとした洒落のつもりでネット上のビデオ会議システムを使った集いを継続してきました。

今回,その活動で行なっているテレビ会議の中継配信方法を紹介したスライドが作成されたので,ご紹介します。

スナック・ネル的オンラインコミュニケーション術
https://docs.google.com/presentation/d/1j23K0CCa5u86kRJA_lBUS5ZWV5pZVIcznrTgwzamlVs/edit?usp=sharing

ビデオ会議サービスのZoomとYouTube,それとFacebookの3つを組み合わせているところが特徴的です。

いわゆる「ビデオ会議」と「ウェビナー(Webセミナー)」の2つのタイプを合わせたものになっています。その上で,ウェビナーの視聴者同士の交流が可能なようにFacebookグループを用意して,同時進行的にコメントや好きにやり取りをしてもらっているのです。

この方法は,動画中継を気軽に覗いてもらうためスピーカーとフロアを分離する形をとりつつ,緩やかにつながりあうことを狙ったものです。

手続きや見映えはともかく,気軽に始めようということが大事です。

動画中継実施のタイプ

あらためて,研究会や学会をオンラインで実施する場合,「中継内容」「配信形式」「視聴者行動」の組み合わせでタイプ分けができます。

【中継内容】には,ある場所に集っている様子をネット中継する「現場中継」と,いろんな場所から参加しているビデオ会議の様子を中継する「多元中継」があります。
【配信形式】は,中継動画を「公開配信」するか「限定配信」するか,「リアルタイム配信」するか「録画配信」するか,などがあります。
【視聴者行動】とは,視聴者が「視聴のみ」なのか,チャット等で「参加する」のかどうかです。チャットやフィードバックのシステムを使ってコメントしてもらうこともあるし,映像や音声で接続してもらってある程度対等に質疑応答するといった方法も考えられます。

オンライン催事の趣旨や目標に沿って,どう組み合わせてタイプ構成するのか考える必要があります。

動画中継に必要なツール

中継内容によって配信に使うツールは決まってきます。インターネット接続は当然用意するとして,最低限次のようなものが必要です。

【現場中継型】
ハードウェア:映像を配信する端末,配信を確認する端末,Webカメラ,イヤホン,マイク,各種ケーブル等
ソフトウェア:Webブラウザ,動画配信サービスの登録(YouTubeやFacebookなど),動画配信アプリ(OBSなど)
【多元中継型】
ハードウェア:映像を配信する端末,配信を確認する端末,Webカメラ,イヤホン,マイク,各種ケーブル等
ソフトウェア:ビデオ会議サービスの登録とアプリ(Zoomなど),Webブラウザ,動画配信サービスの登録(YouTubeやFacebookなど)

単に現場を中継するだけであれば,スマートフォン一つで手軽に可能です。

しかし,催事をしっかり中継することを考えると,音声と映像をちゃんと届けられるように機材準備する必要がありますし,そのため機材を操作する人が別立てで居た方がよくなります。

ソフトウェアやサービスも,目的に応じて準備する必要があります。

現場中継するだけであれば,たとえばYouTubeに登録してセッティングすれば可能になるため無償で実現できます。Facebookの場合も同じです。使うソフトはWebブラウザだけで済みます。

専用の動画中継アプリといったものもありますが,特別な理由がなければ使う必要はありません。仮にその必要があってもOBSというアプリはネット上に無償で公開されているのでやはりコストはかかりません。

中継配信のプラットフォームはYouTubeやFacebook以外にも,Periscopeニコニコ生放送といったものがあります。それ以外にも手軽な配信サービスはいろいろありますが,催事中継向けがどうかは検討が必要です。

多元中継の場合は,ビデオ会議システムを使いますが,サービスによって無償のものや有償のものがあります。たとえばZoomは有償サービスですが,40分制限付きならビデオ会議機能のみ無償で使えたりします。

ビデオ会議サービスは他にもSkypeとか,Wherebyといったものもありますが,それぞれ特徴がありますので使い比べてみる必要があります。

公開範囲の設定

おそらく,中継配信をするにしても不特定への全面公開ではなく,参加申し込みをした人だけ,会員だけ,料金を払った人だけ,といった限定的な公開をしたい場合が多いのだと思います。

YouTubeを使う場合,「限定公開」という設定を利用すればYouTube上から検索や閲覧ができず,URLを知っている人だけが直接視聴できるように限定できます。逆にいえば,URLが分かれば誰でも視聴できます。

限定した人にだけ教えるとともにURLを得た人たちは外部に漏らさないよう協力する必要があります。

少し手の込んだ事をして,動画をWebページに埋め込み,Webページにパスワード設定するという方法もありますが,この場合,視聴登録のような仕組みも合わせて採用しないと,パスワードが漏れれば誰でも見れます。

そこで,Facebookを使うと,グループ機能を利用して限定公開することが可能になります。

あらかじめ限定的に試聴させたい相手をグループに登録する手続きが必要になりますが,Facebookのライブ配信機能はグループ向けに限定配信できるので,グループに登録していない人は見ることができません。

ただし,この場合,試聴する者が全員Facebookアカウントを所有していることが前提となります。

MoodleやMOOCシステム等を利用して,そこに登録してもらった上で、システム内にだけ配信するという方法も考えられます。この場合はYouTubeの限定公開機能と組み合わせるパターンもあるでしょうし,独自の仕組みを利用する場合もあるかも知れません。

動画配信のプラットフォームとしては,ニコニコ生放送も実績あるサービスですが,こちらはある程度ニコニコ生放送の仕組みや文化的なものを理解しておく必要もあります。情報処理学会などは公式チャンネルを開設していたることからも分かるように,本格利用するには準備が必要です。

公開範囲の設定とともに,視聴者からのフィードバックをどのように得るかについても,段取りや使うツールの選択を考えなければなりません。

たとえば、昨今ではMentimeterslidoといったツールが注目されています。以前にはGoogle Form,responPadletのようなものも使われてきました。

音声が最重要で,映像は次

動画中継というと,映像がキレイに配信されることが重要だと思われがちですが,実は映像よりも音声がクリアに届くことの方が遥かに重要です。

そのため,現場中継の場合はマイクによる集音が成功しているかどうかが一番大事なチェックポイントです。

多元中継の場合は,参加者が必ずイヤホンを利用しながら参加することが重要になります。音漏れすると会議音声の品質がグッと悪くなるからです。

音が小さかったり,反響したり等,音声が聞き取りにくいと,中継配信は本当に役に立ちません。

映像もキレイであるに越したことはありません。たとえばスライドや資料を表示する場合に,文字が見えないと残念な気持ちになりますから,映し出されたスライドをカメラで撮影する時はできる限りアップにしたり,あるいはスライドを直接パソコンから共有配信できるとよいわけです。

しかし,再度書きますが,映像のキレイさは二番目。一番大事なのは音声をクリアに届けられることです。そのための準備や工夫は重要です。

機材選び

いまはスマートフォン一つで中継配信ができる時代です。

スマートフォンは「ネット回線+カメラ+マイク+イヤホン端子」が合わさった機器なので,これに配信アプリが加われば,即配信できるのも当たり前です。

Webブラウザを介してYouTubeやFacebook,もしくはビデオ会議のZoom等を使う場合には,機材の組み合わせを揃えなければなりません。

手っ取り早いのはノートパソコン内蔵のカメラとマイクを使うことです。ビデオ会議の場合,これにイヤホンを取り付けるパターンと,外付け式又はインカム式のマイクとイヤホンを取り付けるパターンなどがあります。

中継ではWebカメラを使った方が便利でしょう。Webカメラは「カメラ+マイク」が合わさったものをUSBケーブルでパソコンと接続できる周辺機器です。Logicool社のものが有名ですが,サンワサプライ社やバッファロー社のものもあります。価格の幅も広いです。

音声が一番重要であるという観点から,外付けマイク選びは大変重要になります。ただし,マイクほど奥が深く安易な選択をすると失敗しやすい機材はありません。

たとえばサンワサプライ社のマイク製品Webページを見るだけでも非常にたくさんの種類のマイクがあることがわかります。会場の音を集音する場合は無(全)指向性を選ぶことになりますが,それなりの性能を期待するとなると、お値段もそれなりになります。1万円以下のものを選ぶ場合は気をつけなければなりません。

また,企業のビデオ会議のような複数の人間が音を聞きながらも話をする状況では,個々人がイヤホンやマイクを持つようなことはできないので,スピーカーホンのようなものを使います。この場合,専用のものを使わないと快適ではないので,たとえばYAMAHA社のシステムのようなものが必要です。

もしも複数のカメラや映像ソースを切り替えたいとなると,専用ソフトウェアか,AVミキサー(スイッチャー)が必要になります。たとえば,ローランド社のAVミキサーは,複数のカメラからHDMIケーブルで繋げた映像を切り替えてパソコンにUSB入力できるものです。ただし,お値段はそれなりに。他にはCerevo社のLiveWedgeBlackmagicdesign社のATEM Miniといったものがあります。

機材は凝り出したらキリがない

素人にできる動画中継のクオリティを高める方法は,安定高速なインターネット接続を確保することくらいです。

パソコンやカメラ,マイクといった機材も性能の高いものを使うのが良いに決まっていますが,正直なところ,これはキリのない世界です。

正直に申せば,ちゃんと動画中継したいなら,素人は頑張らずに,プロに任せた方がいいです。その方がプロの知識と機材を利用できて,仕事に失敗がない。

ただ,プロに頼むことができない事情もあったりします。

私たち自身で中継配信ができる!そういうことが可能になったというのもこの時代の有り難さでもあります。自分たちの都合に合わせて,いろいろ組み合わせながらも情報発信や共有をするのは楽しいことです。

今回は動画中継の勧めでしたが,学校教育においては動画教材を制作するということが古くから取り組まれてきています。配信はともかくとして,動画を制作することは,これからますます機会が増えていくと思います。

RasPi4iPadPro

小さな実力者

2012年に登場した安価な小型コンピュータ「Raspberry Pi」(ラズベリーパイ:ラズパイ)は,第4世代モデルが登場するまでに至って,なお世界中で人気のコンピュータです。

名刺入れサイズ面積の厚さ3センチ弱の箱に納まるミニサイズながら,立派なコンピュータで,1万円を切る価格で提供されていることが特徴です。

オープンな基本ソフトであるLinuxと各種ソフトが動くパソコンとして,また業務用に匹敵するLinuxサーバーとしても使えます。小さなLinux環境。

英国ラズベリーパイ財団によって,もともと教育向けを主眼として開発されたこともあり,コンピュータサイエンスやプログラミング教育で利用されることも多いです。中高の教科「情報」で使う学習ツールとしても適しているのではないかと思います。

ただ,この日本では,まだそれほど浸透している気配はありません。特に学校教育の導入事例は大変限られていると思います。

理由は,いろいろ考えられますが,端的には,ラズパイがデスクトップパソコン的に使わざるを得ない機器だからだと思います。

たとえば雑誌『子供の科学』関連で企画された「ジブン専用パソコン」はセレクトパッケージとして大変人気で売れ切れ状態の商品ですが,明らかに据置き指向の構成です(一式持ち出せますが…)。

はじめよう!ジブン専用パソコン(子供の科学)
http://prog.kodomonokagaku.com/jibun/index.html

独自の筐体パッケージを提供する「Kano」や「RasPad」のようなもありますが,つまりは如何様にでもなるDIY的な利点が,大量に導入というときの選択肢になりにくいということかも知れないのです。

Kano
https://kano.me/row/store/products/computer-kit-touch
https://kano.me/row/store/products/kano-pc
RasPad
https://www.raspad.com

せっかく小型で比較的安価なコンピュータをもっと活かせないものか。

Linux環境を一つずつ

Linux環境は,教科「情報」やコンピュータ科学を学ぶ中で,良い土台となるものの一つです。なにしろ本物のコンピュータですから。

でも,GIGAスクール構想の端末候補には入れてもらえなかった。

いやいや,1人1台学習者用端末というのは仮の姿,実は着々と進みつつあるのは1人1つLinux環境なのです。

Windowsは「Windows Subsystem for Linux」という互換機能を提供してLinux環境を付加しています。mac OSはもともとUNIXというLinuxのお父さん(?)と互換です。Chrome OSはAndroidと同じでほぼLinuxでできています。iOSは家出(?)しましたが元はmac OS(UNIX)の家系です。

ほとんどのコンピュータがLinux環境と縁があることになります。

なので,GIGAスクールのモデル端末のどれを選んでもLinux環境と付き合うことに…ああ…ならないのが一つありました。iOS/iPad OSです。親戚のくせして自分の環境を使わせてくれません。

そこで,ラズベリーパイの登場です。

シンプルに独立したLinux環境をプラスすれば,端末個別に存在する細々とした違いを気にすることなくLinux環境を確保して操作することができます。

そこで,今回はまず,iPad Proにラズパイを組み合わせることをご紹介してみようと思います。実は,新しいRaspberry Pi 4なら,ゲーブル一本でiPad Proに接続することができるのです。

RasPi4をiPadProにつなぐ

ラズパイZeroという超小型版をUSBで接続することから始まったテクニックなのですが,ラズパイ4がUSB-Cコネクタを採用したことから名刺サイズ版でも可能になったとのこと。

Pi4 USB-C Gadget(Ben's Place)
https://www.hardill.me.uk/wordpress/2019/11/02/pi4-usb-c-gadget/
Connect your Raspberry Pi 4 to an iPad Pro(Raspberry Pi F.)
https://www.raspberrypi.org/blog/connect-your-raspberry-pi-4-to-an-ipad-pro/

大ざっぱな手順はこうです。
1) 別のパソコンでラズパイ用の基本ソフトを入手する [LINK]
2) 手順通りにラズパイをセットアップする
3) ラズパイを最新状態にアップデートする
4) ブートローダーのアップデートをする [LINK](最近は済んでいて不要かも)
5) 情報提供ブログの箇条書きの通りに設定する [LINK]
6) iPadアプリを用意してアクセスする
こんな感じ。

手順5)の中でいくつかファイルを編集したり作成したりする必要があるのが面倒ですが,当該ブログにアクセスしてコピペしながら作業すれば,少しは省力化できます。

といっても,これだけでは初めての人にはまったく分からないので,機会をみつけて動画で紹介できればと考えています。

セッティング作業には,別途ディスプレイと,マウス,キーボードが必要になりますが,作業完了してしまえばラズパイ単独をUSB-CケーブルでiPad Proにつなぐと起動して,iPadの設定アプリで「Ethernet」項目が現れます。

あとは,決め打ちで設定したIPアドレスに対してSSH接続をすると,このEthernetを経由してiPad Proからラズパイを操作できるようになるというものです。

ところで,ケーブル一本でつながるのはシンプルでいいものの,長時間作業しているとiPad Pro側のバッテリーを使い切ってしまうのではないかという素朴な事実が浮かび上がります。確かにそうです。

シンプルな構成でも数時間なら問題ないので,出先はこのスタイルで運用するとしても,デスク作業の際はやはりiPadを充電しながら接続したい。

USB-Cコネクタが2つ付いているUSBハブを挟めば,ACアダプタからiPad Proとラズパイに通電しながら運用できます。仮にUSB-Cコネクタが一つで残りUSB-AコネクタしかないハブでもラズパイにつなげるケーブルをA->Cにすることで同じことができます。
(確認済みですが,ハブやケーブルによってはうまく動作しない可能性はあります。写真はサンワサプライのものです。 https://direct.sanwa.co.jp/ItemPage/400-HUB075BK

ラズパイを扱うためのiOSアプリ

iPadからラズパイを操作するにはアプリが必要ですが,そのためのアプリはいくつか候補がありますのでご紹介します。

PiHelper - ラズパイアシスタント
https://apps.apple.com/jp/app/id1369930932

このアプリはラズパイを遠隔管理する目的で開発されたもので,今回の用途にドンピシャだと思います。CPUやメモリ,ディスク容量の表示やSSHとSFTP接続機能があり,再起動や停止メニューもあって便利です。慣れてくると使い勝手の要望がいろいろ出てきそうですが,手始めとしてのPiHelperは申し分ないです。

VNC Viewer - Remote Desktop
https://apps.apple.com/jp/app/id352019548

Linux環境というのは文字ばっかりのテキストコマンドライン環境がベースですが,もちろんウインドウ表示するグラフィカルデスクトップ環境も用意されています。しかし,その場合iPad Pro側はVNCという方法でラズパイを覗かなければなりません。そのためのアプリがVNC Viewerです。

Textastic Code Editor 9
https://apps.apple.com/jp/app/id1049254261
テキストエディタ LiquidLogic
https://apps.apple.com/jp/app/id1458566442

そもそもLinux環境で何をやるのかは人それぞれですが,コーディング(プログラミング)作業をする人たちにとってはエディタソフトは必携です。いろんな選択肢がありますが,ここでは2つご紹介。SFTP接続することでラズパイ上のファイルを読み書きできます。

Blink Shell
https://blink.sh

ラズパイとiPadをSSH接続するときに一番紹介されるのがBlinkです。といってもApp Storeでは有料アプリ。実は中身は公開されているのですが,アプリの仕上げを自分でしなければならず,そう簡単ではないので手間代ですね。

Prompt 2
https://apps.apple.com/jp/app/id917437289
Code Editor by Panic
https://apps.apple.com/jp/app/id500906297

これもBlinkと同じく有料のSSH接続アプリが「Prompt 2」です。その会社が出しているエディタアプリ「Code Editor」も有料ながら使っています。個人的な好みで以前購入していたので,これらを使っています。

プログラミング学習(高校編)

さて,これで何をするのかというお話も少し。

中高の新しい教科書は採択や検定段階なので,たとえば「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」とか,共通教科「情報Ⅰ」におけるコンピュータとプログラミングの具体的教材レベルの情報は少ないのが実情です。

高等学校 情報(教科書教会)
http://www.textbook.or.jp/textbook/publishing/high-info.html
中学校 技術・家庭(技術分野)
http://www.textbook.or.jp/textbook/publishing/junior-technique.html

ただ,高校に関しては文部科学省の教員研修用教材が公表されています。

文部科学省の「高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材」の第3章「コンピュータとプログラミング」がベースイメージになるのでしょうか。

高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材(本編)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416756.htm
第3章 他プログラミング言語版
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1421808.htm

Python版の第3章108頁にある「Mu」エディタはラズパイ用もありますので,問題なく使うことができます。

Mu for Raspbian - Instructions
https://codewith.mu/en/howto/1.0/install_raspberry_pi

もっともiOSには「Pythonista 3」という有名Python開発環境アプリがあるのでPythonの場合はそれを使った方がいいかも知れません。

Pythonista 3
https://apps.apple.com/jp/app/id1085978097

正直なところ,文部科学省の教員研修用教材は環境構築に関しての記述は皆無で,チュートリアル的でないところは少々不親切です。検定教科書はもっと見栄えがよくなるんでしょうけれど…。

プログラミング学習(中学編)

中学校の方はいくつかヒントになりそうな資料が上がっていますが,見たところ双方向のところはScratch 1.4のMESH機能を使っていたり,Linux環境はあんまり出番がないかぁ…。

中学校 技術・家庭の広場(東京書籍)
https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/kyokah/chu/gijutsu-katei/
平成30~令和3年度用移行期資料 中学校技術・家庭 技術分野(開隆堂)
https://www.kairyudo.co.jp/contents/02_chu/gijutsu/h33iko/index.htm

いやぁ,ちょっと待って。

もっとラズパイ+iPad Proで面白いことができるはずなんですが,それはやはりコンピュータサイエンス部みたいなマニアックな活動向けかなぁ。

CS研には手を出すな!…みたいな。

 

1人1台端末に関する報道

20200123「小中学校にパソコン1人1台 特需を喜べないメーカー」(日経新聞)
20200126「社説:1人1台PC 投資に見合う教育効果あるか」(読売新聞)
20200127「1台27万円? 小中学校に「PCを1人1台」で膨れ上がる予算」(週刊ポスト)
20200130「【動画】小中学校のパソコン1人1台 「1台27万円」のケースも」(NEWSポストセブン)
20200131「差額はどこに?小中学生に元値8.5万のPC配布も「費用1台27.8万円」の怪」(MONEY VOICE)
20200131「Atom搭載の富士通「ARROWS Tab」が1台27万8000円、渋谷区の小中学生向けパソコンは”ぼったくり”なのか」(BUZZAP)
20200201「1台27万円?小中学校に「PCを1人1台」で膨れ上がる予算」(Togetter)
20200201「渋谷区の児童用27万円のパソコンは高いのか?実際に考えてみた」(かえざくらのつぶやき)
20200202「「1台27万円」はぼったくりなのか?」(稲田友@note)

昨年末に閣議決定された経済対策にかかわる令和元年度補正予算案の採決が,この数日に行なわれる予定です。

(2) Society5.0時代を担う人材投資、子育てしやすい生活環境の整備
①学校のICT環境整備 233,043(百万円)
 (イ) GIGAスクール構想の実現 231,805(百万円)
  (i) 高速大容量のネットワーク環境の整備 129,565(百万円)
  (ii) 学習者用コンピュータの整備 102,240(百万円)
 (ロ) その他 1,238(百万円)
  先端的教育用ソフトウェア導入実証事業費 1,000(百万円)
  教育現場におけるローカル 5G活用モデル構築事業費  238(百万円)

教育の情報化分野に関わる私たちにとって,GIGAスクール構想関連の予算が含まれていることもあり,俄然注目度は高まります。

補正予算に関する審議が衆議院予算委員会等で行なわれるにあたって,いくつかの関連報道がなされました。

20200123「小中学校にパソコン1人1台 特需を喜べないメーカー」(日経新聞)
20200126「社説:1人1台PC 投資に見合う教育効果あるか」(読売新聞)
20200127「1台27万円? 小中学校に「PCを1人1台」で膨れ上がる予算」(週刊ポスト)

読売新聞社の社説は「配備されるPCを使ってどのような授業をするのかが、見えていないことである。1人に1台が本当に必要なのか」と問いますが,学校での情報環境の整備問題と授業での適切な活用問題をごちゃまぜに問題構成するのは,良い問いとは言えません。

こうした迫り方による批判視が「配備されたPCを使うこと」自体の目的化を生む圧力となっていることに気付かなければなりません。

週刊ポストの記事は,補正予算案で確保された巨額の予算枠に対する懸念を素朴に表明したもの。端末整備したら終わりにはならなず,いわゆるシャドーコストと呼ばれるものを見込むと額が膨れ上がることを指摘しています。

読売新聞社説と同じく,巨額な予算に対して懸念を感じているわけですが,それ自体の否定というよりは,考えている以上にお金がかかる可能性の指摘という点で違います。もちろん,その可能性も憂慮すべき問題ではありますが。

週刊ポストの記事では,取材協力者として私のコメントも掲載されました。

「端末を配置すると、管理する人件費が一体でついてくる。保守や支援員の人件費を継続的につけるか、初期段階での教員への研修などを通じて教員自らできる体制にするか。いずれかしかない」

週刊ポスト』2月7日号 137頁より

この分野に関する全般的な情報の提供を電話で長時間やりとりさせていただき,コメントはそれをもとにしたものです。

「端末配置に管理人件費が一体でついてくる」という言い方は,呑み込みにくいですが,要するに,人件費として費目が立てられないところにそのコストを入れ込むには端末費用に含ませるやり方もある,ということを語っていただけです。

PCや端末の活用が「従来の学校教育を大きく変える可能性がある」という読売新聞社説の指摘は正しく。学校教育を変えるためのマンパワーを始めとした諸コストは,今までちゃんと掛けてこなかったツケも合わせて,私たちが考えている以上に掛かってしまうかも知れない懸念があるのです。

こうした方向への選択を「うまくはやれないのだから,やはりやめましょう」と回避し現状維持に持ち込むこともできなくはないけれど,令和にまでなって,諸々の世界情勢や時代水準を鑑みた時,妥当だとも言えない。

とすれば,覚悟を持って前に進んで,もちろん掛かるコストも柔軟性と緊張感を持って監視調整していく努力をするしかないのではないかと思います。

今回,ノンフィクション作家の方に取材申込をいただき,東京と徳島で電話を使って情報提供をしました。貴重な体験させていただきました。

ちにみに,記事本文の穏当さに比べると,印刷雑誌の煽り見出しは少々センセーショナルな味付け。週刊誌の売り込み手法として,これは編集部の方々のお仕事なのだと思います。そうした点も興味深いです。