私の情報環境

サーバー分散型ミニブログMastodonは、確かにTwitterに登録した頃の訳のわからなさを思い出させてくれる点で後継っぽさがあり、注目を集めています。

インスタンスと呼んでいるサーバー単位の登録が基本で、いまは公式っぽいドメインを獲得して構築した個人によるインスタンスに登録が集中している状態です。そこを含めて、実験段階かなと思います。

いろいろ仕切り直しをしているところで、私自身の情報環境をスナップショットしていないことに気がつきました。教育やICTのことを論じる私がどんな利用程度のユーザーなのか、記録しておくことも大事かなと思います。

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■端末機器
MacBook Pro (2014)
iMac (2011)
iPad Pro 12.9
iPhone 6s
Chromebook 11 (DELL)
Chromebox
Keyboad PC
Mac mini
Apple TV (2nd/3rd/4th)
Amazon Fire TV
Raspberry Pi (1/2/3)

■周辺機器
Apple Magic Keyboard (ワイヤレスキーボード)
Apple Pencil (iPad Pro用ペン)
Ricoh PJ WX4141 (単焦点プロジェクター)
Ricoh GX7000 (ジェルジェットプリンタ)
Scansnap iX500 / iX100 (書類スキャナ)
AirMac Express (無線LANアクセスポイント)
Logicool Webcam / Spotlight (ウェブカメラ / ポインタ)
テプラPRO SR5500P (テプラプリンタ)
ZOOM F8 (マルチトラックレコーダ)
Cintiq 13 HD (液晶ペンタブレット)
Transporter Sync (自宅クラウドストレージ)
Insta 360 nano / Air (360度カメラ)
Giroptic 360 / iO (360度カメラ)
QuietControl 30 (ワイヤレスヘッドホン)

■サービス
Dropbox
Google
iCloud
Office365
Adobe Creative Cloud
Yahoo!
Amazon / AWS
Radiko
niconico
Evernote
Omni Sync Server
MetaMoJiクラウド
Edmodo
SlideShare
RealtimeBoard
Pocket
SoundCloud
WordPress
GitHub
Scratch
Twitter
Facebook
LINE
Skype
通販系
銀行系
etc…

■ソフトウェア
Safari
Chrome
Gsuit
Microsoft Office
iWorks
FileMaker
Outlook
Nisus Writer
Calendars 5
GEMBA Note
Notability
LiquidText
Papers 3
PDF Expert
Acrobat Reader
Scanbot
Prizmo
Note Always
Jedit
Ulysses
iA Writer
Scrivener
Google Keep
Evernote
OmniGraffle
OmniOutliner
iThoughts
Graphic
MarsEdit 3
Blogo
MetaMoJi Note / Share
ATOK
Post-it Plus
Kindle
dマガジン
iBooks
SmoothReader
Flipboard
Reeder 3
Reflector
AirParrot
Transmit
Prompt
Coda
duet
Astropad
GarageBand
Gadget
etc…
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目的に応じてたまに使うものが他にもたくさんあるのでここに書いたものは普段使うものとすぐ使えるようにしてあるものという感じになります。

やはり完全にクラウド環境ベースの構成だなと思います。クラウド環境ベースにすると複数のデバイスやサービスやアプリ間でデータを連携利用することがやり易くなります。

クラウド環境ベースの一つ手前の世代は、ローカルネットワーク内でファイルサーバー(共有フォルダ/ファイル共有)を利用するという形があり、職場に張り付くような仕事であればこれで不満はないのでしょう。たとえば学校はその傾向が強いと思います。

ところが、世間的にはクラウド環境ベースへと物事が移行していて、利用できるデバイスやサービスやアプリもそれを前提として変化してきているので、逆にクラウドを使わない前提だとできることが限られたり、変に面倒くさくなってしまいます。

特にデバイス単位ではなくアカウント単位に情報環境がデザインされてきていることに対応できないと、導入するデバイスそのものを有効活用できないことはもっと認識されるべきだと思います。

確かにアカウントの管理は大変です。セキュリティの問題も気を使わなければなりません。私自身も主要なサービスはセキュリティ設定で2段階認証などかけています。しかし、そうなるとサブ・デバイスとの連携が必要になることも多いので、それもまた面倒という側面はあります。

とはいえ、もう世の中はクラウド環境は当たり前でアカウント単位で情報を管理する時代です。クラウド環境の利便性とアカウント管理の手間を天秤に掛けたとしても、前者が勝るのは明らかで、むしろそのように全体を仕向けていくようにすることが大事なのだろうと思います。

LiquidText (リキッドテキスト) – iPad Proに相応しいアプリ選

追記20200816
LiquidTextは,その後も順調にアップデートを繰り返し,昨今ではWindows版とmacOS版がリリースされるに至ってインターフェイスも統一されました。
(これを書いている時点で期間限定で20%OFFセールをしています。)

アノテーション機能が柔軟になったり,マルチドキュメントの管理ができるようになったり,今後はサブスクリプションでクラウドサービスを立ち上げるようです。アプリからサービスへの転換でシンプルさがなくなるのは残念ですが,複数の端末からクラウドで連携できるようになるのは重要です。

現在でも情報整理を伴うPDFビューア兼アノテーションアプリとしての独自性は陰り無く,定番アプリとして対価を払う価値はあると思います。

PDF文書を読みながら情報や要点の整理の作業をしたいことがあります。書類に下線やメモなどの書き込みをするだけでなく,必要な部分を抜き出して整理するということです。

書込み(アノテーション)をする作業であれば多くのPDF閲覧アプリがその機能を持っていますが,部分を抜き出して整理する作業ができるアプリとなると限られます。

それを非常にエレガントに実現してくれているアプリが「LiquidText」(リキッドテキスト)です。まずはプロモーション動画を見てください。

PDF文書にハイライト線を引くだけでなく,その部分を右側のワークプレイスと呼ばれる領域に抜き出して情報整理できるのです。

その上で,自由に書込みが出きる機能もあります。最新バージョンのプロモーション動画も見てみましょう。

私たちがタブレット端末でやりたかったことの一つは,こういう直感的な情報整理作業ではなかったでしょうか。こうした情報整理をもとに,さらに新たな報告書をまとめたり,整理した結果を発表するための資料を作成したりということだと思うのです。

私自身は国の行政機関や様々な団体から公表されている文書(PDF文書)を読む際に,このリキッドテキスト・アプリを使用しています。たとえば新たな学習指導要領のために審議された結果をまとめた答申は,大変長いPDF文書で,これを印刷して読み解いたとしても情報整理が大変です。

そこでこのリキッドテキスト・アプリに読込ませて,気になる部分をワークプレイスに抜き出し,抜き出した情報の繋がりをつけながら読み進めると,そこまでの要点を可視化したものと合わせて,全体を見通しやすくなります。これは時間を置いて再度文書を読むときにも,自分で作成したワークプレイスのおかげで,再理解の時間も短縮されるメリットがあります。

liquidtext_toushin

「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」のPDF文書を読込んで情報を抜き出したところ。

リキッドテキスト・アプリ自体は無料で配布されています。PDF文書を抜き出し読みするだけであれば,それで十分です。そして,追加機能を使いたい場合には,有料で追加購入することになります。

たとえば文部科学省のPDF文書はいろんな事情から一つの文書を複数のファイルに分割して配布していることが多いのですが,これをバラバラに扱っていると大変です。そこで,リキッドテキストには複数の文書をまとめて閲覧作業できるMulti-Document(マルチドキュメント)という追加機能がアプリ内課金で購入できるようになっています。これは便利です。

一方,リキッドテキストは自由な書込み(アノテーション)機能は有料です。他の無料ノートアプリでできるアノテーション機能が有料というのはちょっと理不尽な気になるかも知れませんが,リキッドテキストの一番の特徴が抜き出した情報の整理であることを考えると,この辺が逆になっているのは仕方ないかなと思います。

上記の2つの機能は1200円で購入することになり,それでリキッドテキスト・プロにアップグレードしたということになります。(マルチドキュメント機能だけは600円でバラ売りしています。)

リキッドテキストは,開発者であるCraig Tashmanさんが,ジョージア工科大学で研究開発されていた成果を実際のアプリとして販売したものです。

LiquidTextのYouTubeチャンネルには,2010年頃に研究開発していたこのアプリの原型ソフトのデモンストレーション動画が公開されています。

リキッドテキストの「リキッド」とは「液状の」という意味。

つまり,Craig Tashmanさんは抜き出した文字のカタマリを液状に見立てて,くっつけ合えるようにすることで,抜き出した情報同士を簡単にグルーピングできるようにしたのです。 私たちがポストイットでやっている作業をもう一歩進化させるためのアイデアということになります。

さらに,PDF文書をピンチ操作すると部分的に縮んでつぶれるように表示するというアイデアを使って,遠く離れたページ同士を同時表示することを可能にしました。それをキーワード検索機能に絡めたところは,現実の紙ではできないことです。

「こんな作業をするなら確かにパソコンじゃなくてタブレット端末だよね」と言えるアプリは数少ないですし,リキッドテキストはまさにそんなアプリの一つだと思います。

ただ,アプリに対しては好き嫌いがあり得ますので,こういうPDF文書の読み方はしないので私には合わないという人もいると思います。それでも,使わずして食わず嫌いなだけであれば,それは大変もったいない話です。PDF文書をもとに情報整理作業をする必要のある人には要チェックなアプリです。

コンピュテーショナル・シンキングについて

今回は「プログラミング教育」「プログラミング的思考」「コンピュテーショナル・シンキング」に遡るお話。

平成29年度告示予定の学習指導要領で,小学校は総則において「児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を各教科等の特質に応じて計画的に実施することが盛り込まれました。

遡ると,中央教育審議会の答申の「情報活用能力とは、世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉えて把握し、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力のことである。」(37頁)という記述に対する補足説明で,これには「プログラミング的思考」も含まれると明記されたからです。

さらに遡ると,「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」の「議論の取りまとめ」には,プログラミング的思考に対しての補足説明で「いわゆる「コンピュテーショナル・シンキング」の考え方を踏まえつつ、プログラミングと論理的思考との関係を整理しながら提言された定義である。」と書いてあります。

というわけで,そもそもの出発点である「コンピュテーショナル・シンキング」(computational thinking)って何?ということになるわけです。

今回は定義に関する議論はひとまず置いといて,言葉の出所を見てみたいと思います。

英語版Wikipediaの項目には,1980年頃にシーモア・パパート氏が初めて使ったなどと解説されています。

しかし,「コンピュテーショナル・シンキング」が注目を集めるようになったきっかけはJeannette M. Wing氏が書いたマニフェスト的論文「Computational Thinking」が2006年に掲載されてからだとされています。

このWing氏の英語論文と,日本の「情報処理」誌(情報処理学会)に掲載された日本語翻訳版がインターネットで公開されています。

論文「Computational Thinking」
http://www.cs.cmu.edu/afs/cs/usr/wing/www/publications/Wing06.pdf

翻訳「計算論的思考」
https://www.cs.cmu.edu/afs/cs/usr/wing/www/ct-japanese.pdf

ちなみに「Computational Thinking」の日本語訳は「計算論的思考」。

もしもプログラミング教育が行なわれることになった背景について議論をするのであれば,この論文を一読することは大事なことです。

さて,ここで余計な手出しをするのがりん研究室の悪い癖。

せっかく翻訳していただいた日本語版ですが,柔らかいものしか読めなくなってしまった私には,一読してもすっと内容が入ってこないのです。

[追記:「情報処理」誌のご意見アンケートにも「■翻訳の表現が硬く,この記事が掲載されている意義がつかみとれませんでした.(匿名希望)」とあった…う〜む]

それだけ私が情報処理分野に疎いということなのだと思うのですが,一方で,もっと一般の人が読みやすい文体に直してもよいのではないかと思ったのです。

コンピュテーショナル・シンキングとは,ごくごく一般の人々も持つべき基礎的能力であるとWing氏は主張しています。であれば,一般の人に読んでもらうことを意識した翻訳バージョンがあってもよいのではないかと思いました。

そしてその主張について様々な講演や解説をしているWing氏の動画を拝見したところ,彼女自身はとても明るくて優しい感じの方で,なのにとてもエネルギッシュかつ分かりやすく内容を伝えようとしている姿が印象に残りました。丁寧に説得するような文体の方が,ご本人の雰囲気にも合っているのではないかと思えたのです。

というわけで,諸々の失礼や課題の件はあとで考えるとして,とにかくコンピュテーショナル・シンキングに関する主要論文を読んでもらいやすい形にしよう。学習用として翻訳し直そうと取り組んだのが次のものです。

学習用翻訳「計算論的思考」 
https://ict.edufolder.jp/archives/1278

訳が十分こなれているとは言えませんし,内容に関して誤解している個所もあるかと思います。いろいろフィードバックをいただければと思いますが,とにかくいろんな人に読んでいただきたいので,拙い翻訳を紹介させていただきました。

追記

学習用翻訳「計算論的思考, 10年後」
https://ict.edufolder.jp/archives/1286

教育関連パブリックコメント 201702

電子政府の総合窓口で募集しているパブリックコメントの中から教育関係をピックアップしました。

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児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案に関する意見募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495160378&Mode=0

「児童福祉法施行規則第一条の三十八の厚生労働大臣が定める基準案」及び「児童福祉法施行規則第三十六条の四十六第四項の厚生労働大臣が定める基準案」に関する意見の募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495160379&Mode=0

「第3期教育振興基本計画策定に向けた基本的な考え方」に関するパブリックコメント(意見公募手続)の実施について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000874&Mode=0

いじめの防止等のための基本的な方針の改訂等に関する意見募集の実施について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000876&Mode=0

平成28年度教科用図書検定調査審議会 教科書の改善について(論点整理)に関する意見募集
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000877&Mode=0

「保育所保育指針の全部を改正する件」に関する御意見募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495160408&Mode=0

「学校教育法施行規則の一部を改正する省令(案)」及び「学校教育法施行規則第五十五条の三等の規定による特別の教育課程について定める件(案)」に関するパブリックコメント(意見公募手続)の実施について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000879&Mode=0

学校教育法施行規則の一部を改正する省令案並びに幼稚園教育要領案、小学校学習指導要領案及び中学校学習指導要領案に対する意見公募手続(パブリック・コメント)の実施について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000878&Mode=0

子ども・子育て支援法施行令の一部を改正する政令案に対する意見募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095170110&Mode=0

子ども・子育て支援法施行規則の一部を改正する内閣府令案に対する意見募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095170120&Mode=0

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いま「デジタル教科書」を議論すること

今年初の東京出張です。

がけいただいたこともあって、出かけました。参加したのは日本教育メディア学会が主催するワークショップデジタル教科書のメリット・デメリットを考える」でした。

率直に書けば、残念な気分になったというのが感想。

議論された内容に関しては、目新しいものはありませんでした。そうであれば、テーマ設定や議論の切り口を工夫することになりますが、そうした面も面白味があったとはいえませんでした。

つまり、素材は悪くなかったけれど、美味しい料理にはなってなかったわけです。あとは、なぜそうなってしまったかというメタ的な分析の対象として楽しむほかになかったということになります。

このタイミングに「デジタル教科書」を議論する意義は何なのか。日本教育メディア学会という学会が企画することの目的は何なのか。議論展開の目標は何なのか。

本来は議論を掛け合わせていく中で、こうした諸々を再発見して再定義できれば議論自体は面白くなっていくのですが、それぞれのご意見を拝聴してキレイに並べただけだと、モヤッとしたままになって「で、今日は何がしたかったの?」ということになりがちです。それなら、それぞれの登壇者の著作やインタビュー記事を読んだ方がまとまっていますから。

もちろん、キレイに整理するのが大事な場合もテーマ設定によってはあり得ます。つまりイントロダクションが必要なテーマの場合で、ディスカッションの目的もそうした入門的位置づけの場合です。しかし、そうであれば、そういう人選をすることや、議論展開もそういう風にアレンジしていくべきです。

しかし、残念ながら今回の企画はテーマと人選とファシリテートがちぐはぐで、正直なところフラストレーションの溜まるものでした。その証拠は、たびたび議論がデジタル教科書ではないところで展開したまま、それをデジタル教科書の議論として接合していく動きが乏しかったことからも伺えます。

もっとはっきり申し上げれば、今回のテーマに関して、このテーマ設定内容と人選であれば、本来は東京まで来て参加しなかっただろうと思います。

そもそも「デジタル教科書」自体がアウトデーテッド(今さら)なこと。乱暴にいえば、文科省の検討会議や各種審議会で面白くもない方向で決着がついた話です。扱うならそれなりに面白い論点に味付けする必要がありますが「デジタル教科書のメリット・デメリットを考える」では弱すぎます。

人選も不思議なものです。

新井紀子先生は確かにデジタル教科書懐疑派としてメディアに顔を出されていた方ですが、新井先生自身の関心はすでに東ロボくんやその次に移っていて、新井先生をデジタル教科書議論に呼び寄せること自体はかなり注意して戦略的に対応しないと、新井先生自身の関心にすぐ持って行かれてしまいます。そのことを分かっていたのかどうか、分かっていたとしても、今回は新井先生を上手に活かせませんでした。

石戸奈々子先生はデジタル教科書教材協議会(DiTT)の関係者であり、メディアにもデジタル教科書推進派として登場したことがある人ですが、やはりそれだけの人ではなくて、今回も「慶應義塾大学」と「NPO法人CANVAS」の関係者として登壇していることから分かるように、それほどデジタル教科書一辺倒な人ではありません。ご自身も「私、ここでは推進派にされちゃってますけど」と自分の立場の設定に不満を漏らすくだりが持ちネタになっていて、今回もその言葉が出てきました。だから、石戸先生を呼びたいときはそのネタを封じ込めるところから議論を始めないとご本人の本当によいところを引き出せないで呼んだだけになりがちです。

学会会員である小笠原善康先生や山本朋弘先生は、それぞれの専門的知見からデジタル教科書を論じることができる方々ですが、逆に言うと新井先生、石戸先生というゲストとどう絡ませるか次第ということになります。小笠原先生は長いご経験から蓄積された歴史的な観点でデジタル教科書を論じられますし、山本先生は現場での取り組みについての知見とデータ分析経験からデジタル教科書の学校でのあり方を論じられる人のはずです。今回もそれぞれのプレゼンではそうした内容を話されていました。

中橋雄先生はメディアリテラシー研究界のエースの1人でNHKなどでも仕事をされ活躍しています。研究における冷静沈着な姿勢は大変高い評価を受けていて、人柄も優しくチャーミングというか紳士的な方です。今回も個性豊かな登壇者やフロアの意見を忍耐強く傾聴して、上手にまとめられていました。もしもこれがイントロダクションを目的にしたディスカッションやイベントであれば、理想的な司会進行だったと思います。ただ、私は、今回のディスカッションはそうであるべきではなかったと考える派です。もっと中橋先生は登壇者とフロアに対して打って出ていくべきでした。

総じて、今回はテーマ設定と人選と議論のファシリテートがちぐはぐであったという結論に達することになります。

他にもこの手の催事はあるでしょうし、今回だけを取り立てて言及するのはフェアじゃないのだと思います。それに、この企画に関して、私自身も無関係ではなく、たぶんこの文章はやっかみで書いていると思われても仕方ない部分もあります。えぇ、そうですとも、私を登壇者か司会者に呼ばなかったことを少し恨んでもいます(半分は本音ですが、半分は冗談です。念のため)。

ただ、それにしても、素材はよかったというのに上手く料理できなかったことはもったいなかったなと素直に思います。私が関わったら、料理にもならなかったでしょうけど。

いずれにしても、関係者の皆さんと参加者の皆様お疲れ様でした。次回はもっと面白い議論が聞けることを祈って。