無線LANアクセスポイント考

 学校設置用の無線LANアクセスポイントはマインドシェア的にはCiscoの独占状態なので面白みがないですが,家庭用の無線LANアクセスポイントは地味に興味深いです。

 ネット依存問題も賑やかになってきたのでフィルタリング機能が再度スポットライトを浴びそうなのと,多くのメーカーでスマートフォン設定アプリが登場していることなどです。

 たとえばフィルタリング(悪質サイトブロック)については「ファミリースマイル」というネットスター社のサービスをIOデータとNECの無線LANアクセスポイントが搭載しています。

 フィルタリングに関しては必要性がある一方で,機能的に十分でないとか使いにくいとか,対処方法として無理筋なところも無くはないのですが,サービス自体は地道に改良改善されているので,ニーズがあれば積極的に使っていくことが大事と思います。

 有料サービスであるということが,なかなか利用されづらい大きな理由なのかも知れませんが,何か妙案はないものでしょうか。

 また最近はモバイルデバイスに設定アプリをリリースしているメーカーも多く,たとえばIOデータ社は「こどもフィルター」というアプリをリリースしていますし,よく似たものとしてエレコム社も「こどもネットタイマー」というアプリを出しています。

 アプリから「WiFi接続のオン/オフ」ができるという機能があるのは面白いなぁと思いました。Bluetoothと組み合わせてWiFiの電波発信も停止してくれる機能があると,嬉しいなと思いのですが,さすがにそれはコスト的にも難しいでしょうか。

 正直,こんなに電波を浴びている生活は,あまりよろしくないと思うので,必要がなければ電波発報をやめる機能(スマホの機内モードみたいなもの)をアクセスポイントにも付けて欲しいと思う次第です。

 昨今は,近所で無線LANアクセスポイントを使う家庭が増え,しかも遠くへ届かせるためのハイパワーな製品も増えて,電波が混信状態。家の中なのに,突然繋がらなくなる事態も増えています。

 それと似たような状況になっているのが,情報機器などの展示会場。それぞれのブースでたくさんのモバイル機器を展示するため無線LANを使うので,展示会にもかかわらずネットワーク接続が不調となり,デモンストレーションできない事態が当たり前になりつつあります。

 そして,私たちの関心が向いている学校という場も,これからデバイスが増えてくると同じような問題を抱えることになります。

 電波・電磁波が健康に及ぼす影響を懸念している方々は,そのようなデバイスの利用や無線LANアクセスポイントが設置されることに不安と疑問を感じています。これは私自身も考えなければならない問題と捉えているのですが,利便性と安全性をどうバランスさせるべきかを常に考える必要があると思います。

 そのためにも,先ほど書いたように,必要な時に電波発信をオンにして,不必要な時は電波発信を停止できるスイッチ機能を付けるべきだと考えています。そうした選択可能性があって初めて,バランスをどうするかの議論も可能になるからです。

 いまのところは教室設置で常時電源オン方式ではなく,ワゴンに端末と無線LANアクセスポイントをセットにして,必要に応じて各教室のコンセントにLANケーブルと電源ケーブルを挿して使うのが妥当かなと個人的には考えています。

 また,一度にたくさんの台数のモバイル機器が無線LANを利用する場合の問題は,すでにそうした課題に対応した製品を開発している企業もありますので,なんでもかんでもCiscoではなくて,たとえばメルー・ネットワークの製品を使うといった他の選択肢を考慮できるようになることが大事なのだろうと思います。

 無線LANは確かに便利です。それだけでなく私たちは携帯電話のような広範囲な電波通信を日常的に便利に利用しています。

 これらの利便性と,また一方で抱える問題をよく理解して,必要に応じた選択が出来るようにすることが大事と思います。

覚書

・iPad2 日本発売 2011年4月28日
・iOS 6 リリース 2012年9月19日
・Windows 8 リリース 2012年10月26日
・Android 4.2 リリース 2012年10月29日
・Surfece RT 日本発売 2013年3月15日
・Surface Pro 日本発売 2013年6月7日 (Office付き)
・Windows 8.1 プレビュー版 2013年6月26日
 RTM8月下旬 搭載版 年内

文部科学省 事務次官
旧:森口 泰孝
新:山中 伸一

文部科学省 大臣官房 官房長
旧:前川 喜平
新:戸谷 一夫

文部科学省 生涯学習政策局 局長
旧:合田 隆史
新:清木 孝悦

廃止:文部科学省 生涯学習政策局 調査企画課

新設:文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 文部科学省 大臣官房 審議官(生涯学習政策局担当)
旧:上月 正博
新:大木 高仁

文部科学省初等中等教育局 局長
旧:布村 幸彦
新:前川 喜平 上月 正博
旧:文部科学省 大臣官房

審議官 新:独立行政法人 国立高等専門学校機構 理事

知る
気づく
つなげる
聞く(聴く)
解く
深める
試す
調べる
つくる
残す
話し合う
考える
生み出す
表現する
広げる
発信する
まねる
活かす

学校指定学習者用端末の現在未来

 どっちに転んでも文句や懸念が山積みなのは分かり切っていたことでした。

 とはいえ、今回の結果に「あ〜あ」感が漂うのは、どうしてでしょうか。

 既存の考え方を切り捨てられなかった旧態依然の選択行動に対してでしょうか。不振品を一掃する姨捨山のごとき場として文教市場を見るまなざしに対してでしょうか。日も浅く実績の少ないものに付き合わされる高校生達の悲哀に対してでしょうか。

平成26年度に佐賀県立高校全校で導入する学習者用端末の機種をWindows8に決定しました」(佐賀県教育委員会)
佐賀県教委、全県立高校でWindows 8タブレット導入を決定 iPadと比較検討して選定、2014年度から約7000人の新入生が活用」(PC Online)

 ご覧のように、佐賀県の県立高校で2014年度入学者が購入することになる指定学習者用端末に「Windows 8」タブレットが選ばれました。

 制服ならぬ「制端末」といったところでしょうか。

 この件は、文教市場における日本マイクロソフト(陣営)とAppleの対決として、あちこちで話題にされていたものでした。そして、初戦の場ともいうべき佐賀県で、日本MSが先勝したことになります。

 特に驚きはありません。

 教育委員会という組織が持っている論理の特性を踏まえれば,自然と導き出される結果でしょう。むしろ、事前に比較検討する機会をつくったことを考えれば、佐賀県教育委員会は極力公平であろうと頑張った方だと思います。

 しかし、Windows8が一般市場で苦戦している日本MSは捨て身でしょうし、Appleに比べれば公官庁付き合いの経験も豊富でしょうから、自らのWindowsクラスルーム協議会メンバーと結託してかなり動いたのではないかと思います。

 一方のAppleは、きわめてフェアな戦い方を通したのだと思います。もともと、割り切りこそがAppleやiOS製品の特徴ですから、その特性を認めてもらえれば教育分野においても十分選択される余地があると信じているのです。

 この一勝が今後を左右することは両者とも十分承知していたこととは思いますが、そこで捨て身で一心不乱か、悠然と用行捨蔵かが、勝敗を分けたのかも知れません。

 むしろ、今回のニュースには、学習用端末をめぐる難しい状況が反映されている点が興味深いです。

・タブレット端末は成長段階の機器で選択が難しい
・Android端末は推してくれる守護者を持っていない 
・Apple端末は入札に不向き
・Windows8の選択の先には端末メーカーの選択が待っている 
・管理者目線の選択と使用者目線の選択は一致するとは限らない
・教職員向け校務用パソコンの選択によって囲い込まれる現実がある
・クラウドによる囲い込みについてはあまり意識が向いていない
・選定理由を説得的なものにすることは(どんな選択でも)難しい
・選定責任の所在に関して願わくは曖昧にしておきたい傾向がある etc..

 確かに学習者用端末に関する議論が、どの端末を選定するのかという議論にすり替わっている問題も由々しきことです。

 本来であれば,具体的な学習と活用内容が明確にされて,それに相応しいかどうかを議論するなり判定するなりすべきところです。しかし、そのような情報は残念ながら開示されていないため、一般の私たちは単なる機種選択の話で受け止めるしかないのです。

 また、クラウドや標準規格に基づくアプリ実行やコンテンツ・データ交換を条件として、その条件を満たすものを指定学習者用端末とすべきであるという指摘もあるでしょう。

 理想的にはそうであるべきで,韓国などはそのような議論へと進んでいることはよく知られていることです。しかし、これも現状では、標準規格ベースで実用できるアプリやコンテンツ・データを具体的に提示できておらず、そのようなものを満たすように端末が準備されていない問題もあり,実現に至っていません。

 いずれにしても学校へのタブレット端末導入については、まだまだタイミング的に難しい時期であり、取り組まれている関係者の皆さんは、ある意味で相当困難なチャレンジをしているといえます。

 導入後に取り組まなければならない運用保守の様々な事柄に対応することも含めて,応援していかなければならないと思います。そして、積極的にその知見を公開して欲しいと思います。

 もっとも、あと数年すれば、クラウドと標準規格ベースによる学習端末の具体的姿も見えてくることになるでしょう。

 そのときになれば、今回のニュースも「あの時代は、まだまだ黎明期で機種ベースで議論せざるを得なかったなぁ…ははは」みたいな思い出笑い話になります。

 つまり、こうしたニュースは「Windows8 vs iOS」という捉え方ではなく、「SkyDrive vs iCloud」の戦いであり,「Office vs iWork」の戦いといった視点で捉えるべきなのです。

 Apple側は、秋に「iWork for iCloud」という、Webベースのワープロ、表計算、プレゼンテーションのアプリをリリース予定です。これはAppleのiCloudと組み合わせてWebブラウザ上で実行されるのでWindowsでも動作します。

 Microsoft側は、すでに「Office 365 Education」というサービスを展開しており,「Office Web Apps」というWebベースのアプリでSkyDriveとOfficeソフトとの連携を仕込んでいます。

 このようにクラウドとWebベースのアプリケーションは、すでに様々用意されていますし,今後ますます増えていくことになります。日本勢がこの部分のサービスについて、まだほとんど表沙汰にできていないことが悩ましいかぎりです。

 公官庁がGoogleサービスを利用して情報非公開設定を忘れた事件などがニュースになりましたが、便利さにおいては圧倒的に海外勢が強い現実に対抗すべく,早く日本の企業から便利で安心なサービスが提供されることを望みます。

【注意】
 Windows8端末に関して、日本MSが出している「Surface」というマシンがあります。このマシンには「RT」と「Pro」の2種類があります。佐賀のニュースに関係するのは「Pro」の方です(もちろん佐賀がSurfaceを指定したというわけではありませんが)。

 これとは別の「RT」に関してネガティブなニュースが流れていますが,これは必ずしも「Pro」には当てはまらないので注意して読みましょう。

東京国際ブックフェア & 国際電子出版EXPO 2013

 先日、東京で行なわれた「東京国際ブックフェア」と「国際電子出版EXPO」が開催されたので、その他の用事と兼ねて視察しました。

 教育分野において書籍や電子出版の動向は無縁ではありませんし、私自身が図書館司書資格の科目も担当しているのでこの分野の動向を勉強する意味でも通うようにしています。

 ブックフェアは20回目を数える節目の回でしたが、残念ながら数年は年を追う毎に規模や勢いを減じており、今回は目新しい話題にさえ乏しかったというのが正直なところ。

 この分野に詳しい方のブログを拝見すると、同様な感想をすでに開催前の案内状から読取っているぐらいでした。

 それは電子出版EXPOの方も大差はなく、ePUBのに沸いていた昨年に対して、今年度は大きな変化もなく、各社がそれぞれのプラットフォームやサービスをブラッシュアップして売り込みをかけているといったところ。

 AppleのiBook Store日本参入という変化も、この会場においては特に目立った話題にはされておらず、淡々とした雰囲気でした。むしろ老舗のボイジャー社が、かつて技術的には未成熟だった試みを再度今日の技術でチャレンジしたりと元気でした。

 他に印象に残ったのはBPS社の日本語縦書きビューアエンジン「超縦書」がCSSプロパティを豊富にサポートしているという点を売りにして頑張っていたことくらいでしょうか。もっともiOS向けはまだ着手していないため、マルチプラットフォームまではもう少し時間がかかりそうです。

 東芝ではAndroidタブレットのハードウェアとソフトウェアを極力チューンナップした手書き入力「TruNote」を展示していましたが、Web上のレビュー記事の印象と違って、まだこなれていない感が強かったです。説明員の人が理解不足だったせいなのでしょうか。

 その他にも同時開催中の展示会がいくつかありましたが、コンテンツ配信関連では、新しいビデオ圧縮技術の再生デモなどしていて興味深かったです。

 それから、徳島県がサテライトオフィスなどでクリエイターや制作会社の誘致のために出展しているのにびっくり。しかも昨年、県の事業でご担当いただいた方が声をかけてきてくださって2度びっくり。いやはや東京で再会するとは。

 というわけで、展示会はもちろん、それ以外にも国立国会図書館や古巣に寄ったり、研究会を冷やかしにいったりして東京滞在が終わりました。

3Dプリンターには2種類ある

 先日のNew Education Expoはもちろん、ニコニコ超会議や教育ITソリューションExpoにも展示登場していた3Dプリンター。

 「3D積層造形装置」と呼ばれており、製造業における試作品づくりでの利用はもちろんのこと、教育現場での利活用もその可能性が注目されているところです。

 一方で、様々な物体を生み出せるということから、殺傷能力を持つ拳銃の設計図が公開されて、一時期騒然となったこともあります。また、造形するための設計図データがあれば、いくらでも複製製造できるため、キャラクターグッズのようなものも無断で作れてしまう問題点が指摘されています。

 こうした3Dプリンターの光と影をワールドビジネスサテライトが特集したこともあり、ますます注目を集めているというわけです。

 私自身は、3Dプリンターを操作したこともない素人なのですが、いつも疑問に思っていました。  テレビなどで紹介されているように、プラスティックの樹脂を細かく積み重ねて立体造形していくのは技術的に理解できるのですが、その場合、造形する物体の底辺はいつも平らになってしまうのではないか?

 だから、つい最近まで、球のような立体物や複雑にデザインされた立体物は、複数の物体を組み合わせて出来上がっているのだろうと思っていたのです。

 たとえば、ボルトを締める「レンチ」を造形したという話を聞いても、あのクルクル回して稼働させる部分は、バラバラに作って後から組み立てたのだと思っていました。

 しかし、先日の展示会で解説を聞いて驚きました。  3Dプリンターには、2種類あって、単に積み上げて物体を造形するタイプ(これとて精度によってピンからキリまである)と、造形した後に後処理を施す高級タイプがあるというのです。

 この後処理とは、物体を熱して蝋を溶かす工程が含まれるとのこと。

 要するに、造形する際に、プラスティック樹脂などの素材だけでなく、空間の隙間を埋めるための蝋も噴射して造形し、後から溶かすことで内部に空間を生み出すことができるというのです。

 先ほどのレンチに関していえば、バラバラの部品ではなく、最初から完成品をイメージして造形することができるということなのです。

 プリンターという名前と、積み重ねる動作の紹介映像の印象が強くて、まさか最後にオープンで焼くような工程が入るとは想像していなかったので、そういう後処理機能をもった高級モデルがあると聞いて大変びっくりしました。

 そして、3Dプリンターが生み出す可能性にみんなが注目する理由もようやく分かってきたように思います。確かにこれなら何でも作れそうです。

 果たして3Dプリンターが日本の教育現場に入り込んで活躍する日が来るのかどうか分かりませんが、教材研究の過程で実際に立体教材を製作できるというのは興味深い話です。まして、児童生徒が何かを表現する道具としての可能性も今後広がるでしょう。

 まだまだ技術的なものとコストの面、光と影の課題も多い3Dプリンターですが、視覚的なデジタル情報だけではなく実物体の教材でも学ぶ手がかりとして存在感を出してくるかも知れません。