その後の総務省

 総務省のフューチャースクール推進事業は、小学校分と中学校・特別支援学校分があります。一年先行した小学校分は3年間の事業を終えて終了しました。残る中学校・特別支援学校分も今年度で終わりを迎えます。
 教育の管轄は文部科学省なのに、なにゆえ総務省が関わるのか。その点、散々論難されてきました。社会全体のことを考える中で教育のICTを総務省が考えることは不自然なことではないはずですが、体制不信の立場からすれば厳しい目を向けないわけにはいかないのも必要なことだと思います。
 中学校・特別支援学校分が残っているとはいっても、すでに最終年度ということもあり、フューチャースクール推進事業自体は各地で粛々と進展しているという感じです。

 先日やっと平成24年度予算が成立したということもあり,各省庁の仕事もようやく本格始動といった感じのようです。
 総務省は何やっているのかというと、安倍政権のもとで「ICT成長戦略会議」を設置して議論を進めようとしています。
 ただ、今回の会議には「教育」の文字は入っていません。
 事業仕分けなどで叩かれた記憶も新しいですから,総務省としては「教育」の文字をあえて除外したと見るのが妥当なのでしょう。
 それでも会議の議事論には小宮山委員の発言として、教育についても触れた方が良いという発言がなされています。

 現政権は、口を開けばアベノミクスだ、経済成長だということに関心が向いており,もろもろの施策もそちらの文脈に絡めてざるを得なくなっているようです。
 こういう場合,教育界に向けては「人材育成」という言葉で様々な要求が高まるわけで,「人間形成」を矜持とする立場にとっては苦々しい。かといって、一方でいじめ問題を契機として「道徳教育」の教科化要求が教育再生実行会議などから飛んでくるのも、矢継ぎ早で不穏な空気を感じます。
 この辺は目的や内容の明確化といった丁寧に手続きが必要な話で,乱暴に「経済成長の手段として教育を扱うな」とだけ吐き捨てることは、主張としてはともかく、現実的な学校教育においてできません。
 であるとすれば、むしろ成長戦略の中に「教育」をちゃんと位置づけてもらった上で,議論を積み重ねて目標と手段を明確化すべきなのですが、そういう風になっていないというのが、少々残念なことでもあります。

タブレット時代の教育向けアプリ

 タブレット端末を導入する学校も出てきています。
 どんなタブレット端末を導入するにしろ,授業で活用できるアプリの存在は重要です。

 私の一押しは,手書きノートアプリ「Note Anytime」です。
 5月14日に待望のAndroid版が正式リリースされました。これでiOS版,Windows 8版とラインナップが揃いました。
 データ形式に互換性があり,クラウド上のデジタルキャビネットサービスに登録すれば,複数の端末上にあるノートを同期させることが出来ます。
 どんなタブレット端末だろうとNote Anytimeを使えば同じ操作性で手書きノート作成が出来ますし,好きなタイミングでメインの端末を引っ越すことも出来ます。PDF形式などのデータに書き出すことも簡単にできるので,データ資産を残すことも難しくありません。学習記録を残すにもピッタリだと思います。
 無料提供であることも有り難い点です。

 先日,新たなキラーアプリを発見しました。
 こちらはWindows 8用で発売前ですが,「ピッケのつくるプレゼンテーション」というアプリです。
 タブレット端末を教育や学習に活用する際に欲しくなるアプリは,プレゼンテーションアプリ。iPadだと「Keynote」という有名なアプリがあります。最近では「QBプレゼン」とか「ロイロノート」といったアプリも登場しています。
 Windows 8ならばPower Pointがありますが,シンプルな操作性で小学生にも分かりやすいプレゼンテーションソフトとして「ピッケのつくるプレゼンテーション」がEDIXで新たに公開されていました。
 iPad版の「ピッケのつくるえほん」から派生して開発がスタートしましたが,Windows 8タブレットの良さが活かせるように,プレゼンテーションをテーマとした形へと発展したようです。
 開発版を試用した学校での評判も良さそうで,発売時にはこのアプリを利用したプレゼンテーションコンテストを開催するなど大々的にプロモーションする予定のようです。

 1人1台タブレット端末環境はまだまだ早いとは思いますが,1グループ1台タブレット端末や先生用として導入するタブレット端末には,「Note Anytime」と「ピッケのつくるプレゼンテーション」のようなアプリが必ず入っているというのが当たり前,という風になるでしょう。

EDIX2013 02

 教育ITソリューションEXPO(EDIX)が終わり,来月はNew Education EXPO(NEE)がやってきます。私も大阪会場で登壇する予定です。
 EIDXは文教市場向けの展示商談会なので,基本的には教育委員会や教育企業をターゲットとして展示が構成されています。有料/無料の専門セミナーも教育関係者というよりは関連業者の皆さんが最新動向を知るために参加しているといった感が強く,EDIXで共有されている内容が教育的に妥当なものかどうかは保留すべき部分も少なくありません。
 多くの皆さんは,EDIX関連の報道を見て,驚いたり,首をかしげたり,膝を叩いたり,遠い目になったり,いろいろな反応をされていると思いますが,必ずしもEDIXで見出される方向性が決定事項というわけではなく,その中から教育に携わる人々によって取捨選択され残るものもあれば消えていくものもあるというのが現実です。
 繰り返しますが,EDIXは文教市場の展示商談会です。売り込み側があれこれと提示してくるものを買い手側が吟味し触手を伸ばすか伸ばさないかを決するだけです。
 問題は,そのやり取りがあまりに乏しいものだから,売り込み側に買い手側のニーズが伝わっていないということですし,買い手側も売り込み側の意図を十分把握できていないことが多々あることです。
 来月行なわれるNEEは,その点を汲み取って,数多くのセミナーを主体とした催事となっています。多くの教育委員会に後援をお願いしている点などは,少しでも教育関係者との関係を深めようとする努力の表れだと思います。

 前回も書いたように,文教市場は先の見えないトンネルに入り込んだままです。
 いくつかの自治体がタブレット端末を導入するなど明るいニュースをもたらしているように見えますが,それが日本のメーカーにとって明るいかどうかもハッキリしません。
 ご存知のようにタブレット端末一つでも,Windows 8タブレット,iPad,Androidタブレットといった三大プラットフォームのどれを採用するのか問題です。いずれも海外メーカーが幅を利かし始めていることを考えると,日本メーカーを中心に回り続けていた業界にとっては悩ましい状況にあるといえます。
 そのうえ,一般消費者向けのタブレット端末としてはiPadやNexus7あるいはKindleという特定サービスに紐づいたような端末が普及している事実が,選択をいっそう難しくしているとも言えます。
 今までであれば仕事場にあるのはWindowsパソコンだから学校でもWindowsマシンを選択すればよいというシンプルな理屈で済んだものが,仕事場にも家にもiPadやAndroidタブレットが導入されてきている時代になって,今後もWindowsというプラットフォームの選択が妥当であるとは言い難くなっているといえます。
 そのような混沌とした状況を前提に,1人1台環境を議論すること事態が困難を伴いますし,日本のメーカーにとっての勝機が眠っているとは到底言えないのではないかとも思えます。
 もちろん日本のメーカーのことなど特別扱いして考えず,すべて対等に考えれば,いずれは日本メーカーも盛り返してくるはずとも思います。
 ただ,私には1人1台のタブレット端末という環境云々のもっと手前に,日本メーカーが得意としている商材をどんどん学校にとり入れる段階があってもよいのではないかと思うのです。
 それは,たとえば「テレビ」といったオーディオ/ビジュアル(AV)機器や「デジタルカメラ」といったイメージング機器ではないかと思います。

 このブログ記事「日本の学校に大画面はあるか?」でご紹介したように,日本の学校には「テレビ」あるいは「大画面提示装置」さえも十分行き渡っているとは言えません。
 「デジタルカメラ」「プリンタ」「ビデオカメラ」といった周辺機器に関しても,小中高校合算で計算した場合ですが,普通教室数に満たない台数しか配備されていません。(コンピュータ周辺機器台数のグラフ
 こうした数値を鑑みると,「1人1台タブレット端末」ではなくて,「1学級1台デジタルテレビ/電子黒板/実物投影機/プリンタ/スキャナ」「各学校に学年人数分のデジカメ/デジタルビデオカメラ」といった主張がされるべきではないかと思います。
 その多くが日本のメーカーが得意としているデバイスであり,いまや価格的にも安価で高品質なものを手に出来る成熟した商材です。こうした部分を新たな保守サービスと合わせて確保しにいく方が日本メーカーにとって敷居が低いのではないかと思います。
 もちろん,それは同様に海外メーカーにとっても参入しやすいということになりますが,そこは発想を変えた保守サービスで差別化していくことで攻めていくしかありません。
 確かに,手軽なタブレット端末は内蔵カメラによって,デジカメやビデオカメラのニーズを満たしてしまうかも知れません。実物投影機の代わりにも出来るかも知れませんし,ペーパーレス化でプリンタの必要性をなくすかも知れません。
 タブレット端末と大画面スクリーン/電子黒板があれば,多くのニーズを満たしてしまうという話に逆戻りしてしまうようにも思えますが,やはり,そこへ一足飛びに行くのではなく,多様なデバイスとのハイブリッドな構成を具現化していくことが,日本のメーカーにとっても,また現実的には学校教育にとっても良いのではないかと考えるのです。

 今回,そういう方向性の提案として唯一目新しかったデバイスは,パナソニックブースで展示されていたデジタルハイビジョンビデオカメラ「ぼうけんくん」(HC-BKK1)だけでした。
BKK1.jpg
 参考展示されたものはHDMI受信機とセットでライブ映像配信が可能になっており,また,Windowsパソコンに受信ソフトを入れても同様に動画転送できます。(Windows用だけってのが残念で,これがMac OSXにも対応すればベター。願わくはiOS用アプリで自由に動画転送できると活用が広がります。)
 いまさら単機能デバイスを増やす発想が古いとか,だから日本のメーカーは凋落するのだという批判もあるとは思います。けれども,こういうAVデバイスに存在価値を見出す柔軟性を持つことが大事ではないかと私は思います。
 少なくともタブレット端末を構えて写真や動画を撮影するよりも,虫眼鏡スタイルで対象を捉えるスタイルの方が,指導や学習活動の物語としても味わいがあるように思います。

 EDIXは,大変規模の大きな展示商談会であり,ある種の教育ICTの最新動向を見聞きするには大変有益な場所です。しかし,それが必ずしも私たちの未来ではありませんし,もしかしたら,私たちかたどるべきパスは別の道筋かも知れないことも,受け手として理解しておくべきだと思います。
 私が上に書いたことも,EDIXというのぞき窓に寄り添った場合の一提案や夢想に過ぎません。たとえば他にもEdTechと呼ばれるインターネット技術を基盤とした教育・学習サービスの取り組みからのアプローチもあり得ますし,特別支援教育やユニバーサルデザインにおける取り組みからのアプローチも大変重要だと思います。
 どのようなアプローチでどのようなパスを辿ることが誰にとって良いのか悪いのか。そういった事柄についてもっと知見を広げたり,積み重ねていく必要があると思います。

EDIX2013 01

20130515_edix.jpg
 東京ビッグサイトの教育ITソリューションEXPO(EDIX)が初日を迎えました。改めて言うまでもなく、EDIXは文教市場のビジネス展示会(商談会)という性格の強い催しです。専門セミナーなども用意されていますが,同じく教育展示会であるNew Education Expo(NEE)が前面に押し出しているのに比べるとおまけといった感じです。
 それでも文教ビジネスが健全に回ることが、結果的には教育にも好影響が及ぶことが望ましいことを考えれば,EDIXに出展する企業とコミュニケーションをとって、ちゃんと把握することが大事だと思います。
 商売絡みになると現場の先生方にとっては無縁な世界で、教育委員会や自治体関係者,私立学校や塾関係者がメインになりがちですが,むしろ実際に教壇に立つ先生や教員志望の学生がこういう場に触れるべきだと思います。(関東近隣の教員養成の授業で展示会見学レポートを課題に出してもいいくらいです。)
 同時に、こういう機会に教育関係者が考えていることを伝えることも必要です。実際,驚くほど教育関係者と文教業者とが意見交換する機会は少ないのですし、一部の専門家や研究者がアドバイスするだけでは十分ではありません。業者のプレゼンを聞きながら,質問を投げ掛けたり,感想を述べてみることだけでも、お互いのコンセンサスを生み出せると思います。

 今年のEDIXは、昨年までのタブレット熱もだいぶ平熱に戻り、それぞれのソリューションを地道に育てている成果を披露しているといった印象です。
 ただ、見た目の華やかさの一方で、先の見えない文教ビジネスの長いマラソンに耐え忍ぶ苦しさのようなものも透けて見えてきます。
 一部の企業は国内市場とは別に海外での実験事業や市場開拓を模索し始めていますし,文教市場で馴染みのメーカーの出展がなかったり、Windows8問題にも象徴される見えない端末動向の行方など,すべてがハッピーというわけではないようです。
 乗れるバスに乗る。みんながそのことに焦っているようでもあります。

 まだまだ詳しくみれていないブースが多いので、あれこれ回ろうと思います。

第4回教育ITソリューションEXPO

 今年も東京ビッグサイトで「教育ITソリューションEXPO(EDIX)」が開催されます。定点観測的に,今年も情報収集で会場をめぐろうと考えています。
 今年はいつもの西ホールから東ホールにお引っ越し。長方形の会場になるので少しは回りやすくなるのかな。
 残念ながらセミナーには申し込めなかったので,会場をめぐって,たまに都心でうろうろしたいと思います。