NHK for SchoolとiPad2

【朗報】2013年8月31日頃からNHK for Schoolの動画がタブレット端末上で再生できるように対応が始まりました。iPadやiPhoneでも再生が可能です。

 この春から、NHKの学校放送とデジタル教材のサイトがリニューアルして「NHK for School」の名のもと公開されました。
 日本における有力教育コンテンツサイトとして学校現場で活用されています。放送された番組の内容紹介だけではなく、動画や発展教材なども提供されていますから、初めて知る人達は驚くほどです。
 今日、ポストを覗いたら、その「NHK for School」の利用ガイドが届いていました。全国の学校・教育機関に配布されているそうです。せっかくリニューアルされたわけですから、最大限活用してもらおうと宣伝に力を入れているようです。

 ここで、いよいよその真価を発揮するのはタブレット端末でしょう。
 タブレット端末を使えば手軽にNHK for Schoolの動画を電子黒板に表示したり出来ます。なぜなら、ノートパソコンよりもタブレット端末の方が使い始めまでの操作が簡潔で、パッと接続、パッとアクセス、パッと表示が実現できるからです。
 というわけで、タブレット端末の代表格といえば「iPad」。日本でも発売予定の「iPad2」は外部画面出力が可能になりましたから、様々なコンテンツを手軽に提示する道具として関心が高まりつつあります。
 が… iPadの標準ブラウザはFlash未対応。
 NHK for Schoolは、ばりばりのFlashサイトです。公開されている動画はほとんどがFlashビデオのため、iPad標準のブラウザでは見ることが出来ません。
 あっちを立てればこちらが立たず…。
 というわけで、ここはAndroidタブレット端末の出番となります。
 NTT DOCOMOからは「Optimus Pad」という製品がすでに発売済み。
 auからは「MOTOROLA XOOM」という製品が発売されています。
 どちらもFlashを利用できますし、その他にWebやメール、YouTubeもGoogleマップも利用できますから、ネットから引き出せるコンテンツを利用する分には魅力的なタブレット端末です。
 NHK for Schoolも、タブレット端末からの活用事例を紹介すれば、多くの関心を集められるのではないかと思います。
 これから数年は、電子黒板がさらに普及する過程で、コンテンツを操作するデバイスとしてのタブレット端末が徐々に注目を高めていくと考えられます。

 さて、我らがiPad2は、Flashで固められた日本の教育コンテンツの前に為す術もないのでしょうか。
 これに関しては2つほどトピックスがあります。
 一つはiPadアプリ「Flash対応ブラウザ」。もう一つは、「予定されているFlash Media Serverの追加機能(HTTP Live Streaming機能)」です。

 iPadでFlashを利用したサイトを見たい場合、確かに標準ブラウザ(Safari)はFlashに非対応なので閲覧することが出来ません。
 しかし、App Stpreには「Puffin」というFlash対応ブラウザが115円で発売されています。これを導入すると多くのFlashサイトを見ることが可能です。
 ちなみにNHK for Schoolも閲覧可能。大型画面版でなければ、サイトのほとんどの動画を再生することも出来ます。ただし、映像はカクカクで、音声は普通に流れます。これはNHKニュースなどのページでも同様です。
 Flashを利用したサイトを利用しなければならない場合に、ちょっと便利です。

 Flashを利用した動画は、基本的にはFlashに対応したブラウザでしか見ることが出来ません。しかし、ビデオ自体はFlash独自というわけではないので、技術的にはFlashの皮をはがして流すことが出来るようになっています。
 先日、Flashを流す側(サーバー側)のソフトに追加が予定されている新機能として「HTTP Live Streaming機能」というものが発表されました。
 これは、Flashの動画をFlash以外の方法で流すことが出来る技術。そしてこのHTTP Live Streamingは、iPadが標準で対応しているのです。つまりFlashの動画をiPadでも見ることが出来る可能性が生まれたわけです。
 残念ながらFlashのアニメーションやインタラクティブな操作部分は関係がないため、Flashで作ったサイトがiPadで見られるわけではありません。
 しかし、この技術を使えば、Flash版とHTML5版のサイトを同じ素材で作ることが出来るので、iPadにも対応しやすいというメリットがあるのです。
 リニューアルしたばかりのNHK for SchoolがHTML5に対応するのは、まだ3年から5年くらいかかりそうですが、将来的にはNHK for SchoolもHTML5へ移行して、さらに利用を加速させるようになると思われます。個人的願いも込めて。

 それか、NHK for Schoolのアプリがリリースされるのが早いかも。
 今取り掛かっているのが済んだら開発検討してみても面白そうだなと思います。

東京出張

 東京に出張しました。
 4月15日に文部科学省で「学校教育の情報化に関する懇談会(第12回)」が行なわれるというので、傍聴したのです。
 今後の教育の情報化の行方を見通す「教育の情報化ビジョン」策定のための最後の懇談会です。昨年度のうちに終わるはずでしたが、東日本大震災の影響で今回まで延びてしまっていたのでした。
 ネットによる動画配信が行なわれましたので、わざわざ東京に行かなくても内容を知ることはできましたが、私自身が現場の雰囲気を知ることを大事に思う質なので、傍聴申込をした次第です。
 末端ながら総務省のフューチャースクール推進事業に関わっている人間としては、文部科学省の学びのイノベーション事業に強く影響を与えるだろうビジョンの策定現場について知っておきたいという動機もありました。

 先回の総務省・研究会への傍聴を経験して、過度な期待を抱かないことに決めたので、懇談会の内容に対しては、特別な感想はありません。あらためて、骨子作成の段階までが大事だったのだなということと世代のアンバランスを確認した程度です。
 「教育の情報化ビジョン」は、座長と事務局がもう少し作業した後、正式版が公開されると思います。
 私としてはご縁があって関わっているお仕事を通してビジョンをより良く運用していくことしか出来ないのかなと思います。

 短い滞在時間の間には、パナソニック教育財団を資料調査のために初めて訪れたり、5, 6年ぶりとなった教育関係の古書店であるヤマノヰ本店での古本探しなど、それなりに充実していました。

教育の情報化ビジョンの行方

 もうすぐ平成22年度が終わり,平成23年度がやって来ます。
 平成22年度中に策定される予定とされたものはあれこれありますが,教育と情報に関連して一番注目されているのは「教育の情報化ビジョン」でしょう。
 学校教育の情報化に関する懇談会で検討され,3月16日に予定されていた第12回を最終機会としてビジョンが示されるはずでした。
 しかし,ご存知の通り,3月11日の大震災の影響のため,この回は取り消され,構成員間でのメールのやり取りによって最終的な検討に代える 延期とされ,調整の上で4月中に開催される予定となり,その後にビジョンも発表するとされたようです。(追記:当初の記述は誤りでした。こちらの記事を参考に訂正します。)
 ここ数日,従来は熟議カケアイのサイトに保存していたこれまでの議事概要を文部科学省サイトにも転載するなど,いよいよビジョン公開に向けて準備に入り始めた動きを見せています。

 すでに「教育の情報化ビジョン」の骨子本文案は掲載されていますので,これまでの慣例からすれば部分的な修正を除き,素案内容が正式なビジョンとして策定されることになると思います。
 ビジョンの章立ては次のようなものになっています。

  • 第一章 21 世紀にふさわしい学びと学校の創造
  • 第二章 情報活用能力の育成
  • 第三章 学びの場における情報通信技術の活用
  • 第四章 特別支援教育における情報通信技術の活用
  • 第五章 校務の情報化の在り方
  • 第六章 教員への支援の在り方
  • 第七章 教育の情報化の着実な推進に向けて

 懇談会構成委員はもちろん,4つのワーキンググループに集まった外部の方々を加えた有識者による議論が盛り込まれた内容です。
 この教育の情報ビジョンが2020年に向けて日本が取り組むべき施策の方向性を指し示していると位置づけられるわけです。

 しかし残念ながら,学校教育の情報化に関する懇談会において,これら項目や工程に関する優先順位の議論は,最後の最後まで行なわれませんでした。
 月並みな批判の言葉を使うなら,ビジョンの内容は総花的で,長期に及ぶ取組みの過程で早期に取り組むべきものと積み重ねた上で取り組むべきものといった計画を組むために必要な指針は明示されているとはいえません。
 各項目はどれも重要であり,どれも可及的速やかに取り組むべきなのだという風に彩られています。
 「これはビジョンだから…」
 という指摘もあり得るでしょうが,個別項目のビジョンだけでなく,「教育の情報化」という総体的な取組みに対する展望を示す中に,2020年なりそれ以降への見通しを持った流れを描くことも含まれてよいはずです。
 ところが,その部分について教育の情報化ビジョンが何をどうしたのかといえば,附属資料として高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が策定した「新たな情報通信技術戦略工程表」を添付した形で終わっているのです。
 この工程表は懇談会の議論が反映されたものではありません。
 工程表は2011年度をスタートラインとして,非常に多くの取組みを「よ〜いドン!」とスタートさせ,2020年に向けてどの取組みも期間がぼよ〜んと延び続けるように描かれています。工程表としての鮮明さを欠いています。
 そのうえ,教育情報ナショナルセンターといった運用停止が決定したものについて,体制や機能強化に関する記述もそのまま。これを添付したものを新しいビジョンとして提示することに,実質的なプラス効果があるのか疑問です。
 なぜこんなことになってしまっているのでしょうか。

 この問題には行政論理といった修正困難な要素が大きく関わっています。
 けれども,もう少し別の角度から考えてみましょう。本当にそれは修正なり,もう少し妥当なものへと前進させることは出来なかったのでしょうか。
 多少意地悪とは思いますが,懇談会構成員に目を向け,この懇談会がどのような人々によって進行されていたのかを確認してみることにしましょう。
 以下が,構成員の名簿を生年順に並べたものです。
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【学校教育の情報化に関する懇談会・構成員22名】
生年  年齢
1945  66  村上 輝康  株式会社野村総合研究所シニア・フェロー
1946  65  安西祐一郎  慶應義塾大学理工学部教授
1949  62  三宅なほみ  東京大学大学院教育学研究科教授
1950  61  若井田正文  世田谷区教育委員会教育長
1951? 60  重木 昭信  株式会社NTTデータ顧問、社団法人日本経済団体連合会高度情報通信人材育成部会長
1953? 58  市川  寛  東京書籍株式会社編集局ソフトウェア制作部部長
1953  58  馬野 耕至  読売新聞東京本社メディア戦略局専門委員
1955  56  西野 和典  九州工業大学大学院情報工学研究院教授
1956? 55  大路 幹生  日本放送協会放送総局ライツ・アーカイブスセンター長
1956  55  玉置  崇  愛知県教育委員会海部教育事務所所長
1958  53  陰山 英男  立命館大学教育開発推進機構教授
1959  52  関口 和一  日本経済新聞社産業部編集委員兼論説委員
1960  51  野中 陽一  横浜国立大学教育人間科学部准教授
1961  50  天野  一  社団法人日本PTA全国協議会副会長
1961  50  小城 武彦  丸善株式会社代表取締役社長
1961  50  中村伊知哉  慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授
1962  49  新井 紀子  国立情報 学研究所社会共有知研究センター長
1964  47  堀田 龍也  玉川大学大学院教育学研究科教授
1972  39  國定 勇人  三条市長
?     五十嵐俊子  日野市立平山小学校校長
?     千葉  薫  仙北市立生保内小学校学校支援地域本部地域コーディネーター
?     宮澤賀津雄  早稲田大学IT教育研究所研究員(研究総括)
 ※公開されている情報を収集して生年を付させていただきました。「?」は推定または不明です。年齢は2011年から生年を単純に引いただけですので正しくないものもありますが,おおよその世代を知るのが目的なのでご容赦ください。
 (計22名:30代 1名/40代 2名/50代 11名/60代 5名/不明 3名)
===
 
 構成員のほとんどが50,60代であり,30,40代はごく限られた人数です。
 上位世代が情報化を議論するのにふさわしいとかふさわしくないという議論をしたいわけではありません。しかし,このような極端にアンバランスな年齢構成は,本当に次代のための議論をするのに適していたのでしょうか。
 確かにワーキンググループのメンバーの年齢構成も加味する必要があるかも知れません。もう少し多様性が確保されている可能性もあります。
 しかし,肝心の親会の構成員がほとんど50,60代で,ネット世代との掛け橋となる30,40代が少数では,そもそも発言回数的にも不利であり,10,20,30,40代の問題意識をどれだけ議論に反映し得るのか,し得たといえるのか,はなはだ疑問です。
 振り返れば,長年の専門的経験にもとづいて未来や新しい教育を見通して発言された多くの知見は,無意識のうちに上位世代が下位世代のために展望を指し示してあげているというような構図になっていないでしょうか。
 本来ならば,この日本がガチガチと組み上げてきてしまった制度や条件のために,次の世代が取り組みたがっている新しい試みが思うようにできないといった問題を解決するのが重要ではないのか。
 それを上位世代がいまだにメインを陣取って,自分たちの方がよく分かっているからと,代わりに新しい試みを描いてしまおうとしていないのか。
 そうした善かれと思っているお節介を国家規模的にやってしまっていないかということを今一度考えてみなければなりません。

 教育の情報化ビジョンは,確かに従来までの知見の集大成です。
 この国はここに書かれた事柄に取り組んでいかなくてはなりません。
 しかし,このビジョンには,余白がなさ過ぎる。
 老婆心が集積され,粗削りな挑戦を後押ししているとは言えない。
 優先順位を付けることさえ放棄したビジョンは,私たちがその先を見通すように導くどころか,今後いつも振り返って配慮しなければならない文書になっている。
 
 ビジョンが公開された後,私たちは解釈を繰り返し,解説を繰り返し,2020年に至るまで,見通しの悪い議論を繰り返すことになるかも知れません。

テクノロジーとリベラルアーツの交差点

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 米国2011年3月2日にApple社が「iPad2」を発表しました。
 療養中のジョブズCEOが登壇して,堅実にブラッシュアップを施したデバイスをお披露目したのです。
 ・2倍速く
 ・3割薄く
 ・1割軽く
 ・表裏カメラ
 ・iOS 4.3と新アプリ
 ・10時間バッテリーの維持
 これらを変に奇をてらわずにAppleの職人仕事で現物化したのがiPad2です。
 他社も最大限のスピードで追いついてきていますが,最終的な製品を芸術的なモノとして仕上げる部分において,ほとんどの追従製品(Copycat)が魂を込め忘れています。そのことをiPad2はあらためて白日の下にさらしてしまいます。
 昨今,ジョブズ氏がスピーチする際に登場する「テクノロジーとリベラルアーツの交差点」スライドは,単に企業理念というだけでなく,製品から何を漂わせるべきかの重要な核心部分を表現しているのだと考えられます。
 後継問題が頻繁に取り沙汰されるApple社ですが,おそらく,これが後継に伝えるべきApple哲学だとジョブズが考えており,それを単に社内だけではなく社外の顧客にも伝えることで,単なるイノベーション企業に終わらない方途を見出そうとしているのかも知れません。

 iPad2の発表は,待ち望んでいたものを素直に形にしてくれていることにホッとするとともに,再びワクワク感を抱くのに十分な内容でした。教育における活用にもさらに幅が広がりそうです。たとえば
 ・完全な画面の外部出力
 ・カメラ
 ・ビデオチャット機能
 の3つは,教室で使用する教育ツールとしての可能性を拡げます。
 初代iPadでは画面の外部出力が特定のアプリや場面に制限されていましたが,iPad2では制限なく画面で見ているものを外部出力できるようになりました。これで,iPad2に収めたコンテンツや興味深いアプリを自由に大画面テレビに表示できます。
 カメラは様々な対象を記録するのに役立ちます。子ども達の学習の様子をパチリと撮影して,授業内にすぐにリフレクションする(見返す)ことも出来ます。ノートや作品を教室の前の実物投影機のもとまで運ぶ余裕がないシチュエーションでは有効です。
 ビデオチャット(FaceTime)は,リアルタイムの交流学習の際に役立つでしょう。Skypeなどのビデオチャットツールと違って操作が手軽であることは,授業に使うツールとして安心感があります。交流学習みたいな授業は滅多にありませんが,滅多にしない特別なときだからこそ操作が簡単なツールは有り難いのです。
 これらはいずれも「先生にとって」のiPad2の魅力ですが,そうした教授ツールとして役立つことが証明されて初めて,学習ツールへの可能性も受け入れられる余地が生まれるのだろうと思います。

 初代iPadが発表されて1年がすぎました。
 iPadが発表されたことに触発され,日本で初めてのiPad教育利用に関する集いを開いたのが昨年3月でした。
 あれから1年。タッチデバイスの教育利用に関する動きは山のように登場し,実際にiPadを導入して教育実践に取り組んでいる現場もあります。
 私自身は,その後,総務省のフューチャースクール推進事業に関わることになってしまい,iPadを学校教育に導入させるために始めた個人活動を本格展開させることが出来ずにいます。
 けれども,様々な人々がiPadに触発されて新しい試みにオープンになっています。
 もともとタッチデバイスが導入されること自体を目的とするのではなく,こうした新しいツールを足掛かりに,教育に関わる人々の学びがオープンになっていくことを期待していたので,個人的にはこの流れは良い流れだと考えています。
 私の関心は,テクノロジーとエデュケーションの交差点という,支線の小さな交差点ですが,そこで少しでも新しくオープンな流れが生まれることを期待しています。
 そういう意味で,テクノロジーとリベラルアーツの交差点を意識したApple製品は,常に強いインスピレーションを与えてくれます。今回のiPad2もきっと大きな(しかし静かな)影響を与えていくだろうと考えています。

手書き認識と教育クラウド

 今回の駄文は、7NotesというiPadアプリを使って入力しています。このアプリがどのようなアプリなのかをご存知でない方もいらっしゃるかも知れません。これは、最近発売された文書作成アプリです。そして、その特徴は独自の手書入力機能(mazecと呼ばれています)を有していることです。
 従来までもタブレットPCには手書き文字入力機能が存在していましたので、それ自体は目新しいものではありません。教育らくがきでも、かつてThinkPadのタブレットPCで駄文を入力した経験があります。今回のアプリが面白いのは、手書き文字を認識しておきながら、文書に手書き文字がそのまま使われるという見た目が大変アナログな文書作成アプリなのです。
 残念ながらブログに使うためには手書き文字のままというわけにはいかないため、今回は従来と同じく文字変換していますが、手書き文字のままで作成すればPDF出力するという形で利用することが可能です。

 現時点ではiPadの処理能力の限界に足を引っ張られているため、細かいところでまだ実用段階に至らないと感じる部分も多いのです。それでも、野心的な試みを一先ず形にして出したという点は大きく評価してもよいのではないかと感じています。
 何よりも教育の文脈で考えたときに、手書き文字を認識しておきながらそのまま文書として残せるという仕組みは、大きな可能性を秘めていると言えます。
 つまり昨今、デジタル教科書議論の中でも取り上げられているデジタルノート(電子ノート)の具現化に大きな一歩となる応用技術だと考えられるのです。
 学校教育における手書き入力とキーボード入力の使い分けや移行タイミングについてはまた別に考えるとして、この技術を学習用デジタルノートに応用すれば、子どもの手書き文字をノートに残せる一方、文字データとしても認識されているので後々の検索が可能となり過去のノートへのアクセスが容易になるというメリットが生まれます。
 これは教育クラウドとも連動した重要なメリットです。
 仮に教育版のオンラインストレージサービス(Dropboxのようなもの)が実用化されたときのことを想像します。
 子ども達はセキュアな個人のストレージ(ディスク)領域を持ち、通っている学校に登録してリンクさせ、通常はクラスのフォルダの中に自分のストレージ領域を見つけて利用します。学年があがったり、上の学校に進学しても登録を変更し、自分のストレージ領域をあらたな学校やクラスのフォルダから覗くだけです。そしてノートや作品を保存し続けていきます。
 このような個人ストレージ領域を持つ方法だと学校側は学校サーバーで個人情報を保持して管理をする必要から解放されますし、進級や進学の際のデータ移行や削除の手間を大幅に低減できます。学校教育から卒業後は、完全に個人のものですから、そのまま個人用のクラウド・ストレージとして利用を続けるか、個人で破棄・移行すればよいことになります。学校教育在籍中は無償かアカテミックプライスで提供してもらい、卒業後に有料サービスとして有償化するビジネスモデルを構築してもらえたらと思います。
 さて、このような教育クラウドの世界で、過去の手書きノートを後から参照したい場合を考えるとします。
 手書きノートを単にカメラで撮ったとか、スキャナで画像として保存した等の記録では、小学校から高校大学までに溜まった膨大な記録から希望のものを電子的に検索することは大変困難です。なぜなら、検索しようにも対象とするキーワードが文字データになっていないからです。
 しかし、あらかじめ手書き文字が文字データとして認識された状態のノートとして保存・記録されていれば、これを電子的に検索することができます。
 現実的に過去のノートを参照する機会やそのニーズがあるかどうかは、また別の議論になるかも知れませんが、膨大なデータを管理する側からすると、この技術が実用化されることは大きな飛躍を持たらしてくれることには違いないはずです。
 教育的な観点からしても、過去の学習履歴にアクセスしやすくなるというのは、学習指導上もちろんのこと、学習者自身にとっても過去の学習履歴を振り返ることで学習を深めるという手段を支援してもらえる点で大変意味のあることです。

 と、ここまでずっと手書き文字を変換しながら駄文を綴ってきました。率直に書けば、それなりの長さの文章を手書き入力するのは、不慣れもあってやはり疲れてしまいます。キーボード入力にもそれなりのメリットがあるというわけです。
 しかし、手書きのゆっくりしたペースというものにもそれなりの良さがあるのではないか、そんなことを感じてみたりもします。
 ドン・ノーマン氏の『インビジブルコンピュータ』にはまだほど遠いですし、あえて手書きにこだわるべきかどうかの議論もあるとは思いますが、このような形でコンピータが透明になっていくのは大事な進歩だと思います。まだまだ磨いていく必要はありますけどね。
 フューチャースクール推進事業では、こうした最新動向に十分キャッチアップできませんが(それは悲しいかな、事業計画が先にあるためなんです)、議論は積極的にしていくつもりです。むしろICT絆プロジェクトなんかの方が取り組みやすいかも知れません。それともNTTグループのプロジェクトかな。
 りんラボはいつもの如く、勝手に動向追いかけていきます。