フューチャースクール推進事業の広島県実証校である藤の木小学校で公開研究会が行なわれましたので参観してきました。
藤の木小学校は昨年もお邪魔したので今回は2回目。大変熱心に取り組んでいらっしゃる学校なので,今回もたくさんの来賓がお越しになって授業を参観していました。
特に,文部科学省による学習者用デジタル教科書を利用した5年生の授業は大人気で,隣の教室でモニターから参観できるように準備されたほどです。
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公開されたのは2年生算数、3年生道徳、4年生道徳、5年生算数、6年生音楽でした。
2年生はたし算とひき算をテープ図を使って理解しようという授業でした。みかんの個数に関する問題文を読んで、これをタブレットPC上でつくったテープ図で使って理解し、説明する活動になります。赤テープと白テープを画面上で動かし、それぞれが何を表しているのか書き込むなどしていました。これをIWBに表示して共有するわけです。
3年生と4年生は道徳の授業なので、ICT利活用という意味では、最初の題材提示に使用する感じでした。DVDやイラストなどをIWBに提示して題材に引き込みます。
6年生は音楽室で楽器演奏の練習です。すでに決まっていた楽曲をそれぞれの楽器パートに分かれて練習をする授業です。それぞれがタブレットPCを操作して、収められている演奏データをお手本にしてパート練習をします。
さて、注目の5年生は「百分率とグラフ」という題材をデジタル教科書を使って学習します。また食べたい給食のメニューというアンケート結果を表にして、それを帯グラフ化していく活動となります。
百分率の計算をして、それを表に書き込み、帯グラフにするわけですが、授業の印象としては、だいぶデジタル教科書の操作方法に合わせ合わせしながら進められたな、というものでした。そういった苦労を別にすれば、先生は教師用のタブレットを片手に子ども達の画面を確認しながら机間指導ができるといった使い方も見せてくれましたし、子ども達の成果を即座にIWBに映して発表させられる点もわかりやすかったです。
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藤の木小学校では、教科の学習にICTを利活用するという基本方針をピシッと筋通そうとしている点に好感が持てました。
校長先生もとてもピシッとものごとを発言する方で、全体会の発表では大変わかりやすく取り組みの成果を述べられていました。
校長先生曰く、
最大の効果「児童の考えを電子黒板に転送できる」
最大の課題「授業が止まる」
とのこと。
授業が止まるという指摘も整理されており、「授業以前の問題」と「これまでの学びの文化をどうするか」「指導に関して」に整理され、具体的にこういうタブレット端末なら理想的といったものも挙げられていました。
こうした発表からも藤の木小学校は、従来までの学校教育が持っている良さを立ち位置として新しいICTをどのように活用できるのかを考えようとしている学校だといえるように感じました。
月: 2012年1月
[FS佐賀] 20120125 佐賀市立西与賀小学校公開授業
フューチャースクール推進事業の佐賀県実証校である西与賀小学校で公開授業が行なわれましたので参観してきました。
西与賀小学校のある佐賀県は,教育の情報化に関して積極的な県として有名です。FS推進事業以外にも絆プロジェクトや県独自の情報化モデル事業を展開するなどしています。
というわけで,西与賀小学校に行く前に,佐賀県庁の佐賀県教育委員会に寄って,県の教育情報化の取り組みについて教えてもらうことにしました。
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小学校の事であれば学校設置者は市町村になるので、本来は佐賀市教育委員会に出かけるべきですが、佐賀県全体が元気な理由を探りに県庁にある佐賀県教育委員会へ。教育情報化推進室の部屋を見つけて飛び込みしてみました。
お昼時直前のお忙しい時の「佐賀県の取り組みを教えて欲しい」という唐突なお願いにもかかわらず、担当主事の先生が資料を用意してくださりいろいろ教えてくださいました。
現在、佐賀県としては県独自の情報化事業を進めている最中で、そのロードマップは次のような感じとなっています。
・実証研究(H22〜23)
・実践、展開(H24〜)
・全国発信(H25〜)
現在は実証研究段階ということで、県教委として中高の協力候補指定し、平行して国の事業であるフューチャースクール推進事業や絆プロジェクトと連携していく形で進めているようです。
H24からは県下の県立学校全体に展開し、市町村立の小中学校についても各市町の教育委員会と連携して事業促進しようとしているので、結構テキパキと物事が進められている感じがします。
少し前に佐賀の県立高校の全生徒にタブレット端末を配布するというニュースがありましたが、これは展開フェーズの一環というわけです(報道では2013年度とあり、当初計画でいうところの全国発信の時期でもありますが…)。
こうしたアグレッシブな教育情報化の推進の契機はどこにあるのかを率直にお聞きしたところ、やはり現在の首長さんが情報化に対して積極的であることと教育長さんの理解というところにあるようです。
そんな県としての積極的な雰囲気と一緒になって、県下の市町も密接に連携しながら情報化に取り組んでいるというのが佐賀県の現状のようです。
当然、市町村レベルになるとそれぞれ体力が異なるのでしょう。そこで国の事業などに積極的に参画することでこれを補おうとしているようです。
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さて、話をFS実証校の参観に戻しましょう。
西与賀小学校の公開授業は、1年生の算数、4年生のコース別の算数、6年生の総合的な学習の時間が公開されました。
今年度の研究主題が「ICTを利活用した算数科学習」というところにあり、そのための授業デザインの構築をしていることがポイントでした。
授業を「(課題を)つかむ」→「見通す」→「さぐる」→「まとめる」という流れとして見立てて、ここにICT機器をどのように活用していくのかをデザインしていこうとしたようです。特に「さぐる」の部分にこそ協働学習が活かされることになるので、ここを「学びタイム」と名付けて大事にしようとしています。
学びタイムでは、自分自身で作業する活動もあれば、子ども達同士が伝え合い学び合う活動もあり、それらを通して思考力や判断力、表現力の育成も狙っているようです。
実際の算数の授業だと、1年生では20よりおおきなかずについて学習する際に、タブレット上に現れたたくさんのペンギンのイラストを数えるやり方を子ども達一人一人が考えたり、隣りの子とペアになって考え合ったりする学びタイムが確保されていました。
4年生は習熟度別のコースに分かれた分数の授業が行なわれてました。「どんどん」と「こつこつ」と「じっくり」コースの3つです。レディネス別とのことなので、分数という学習の難所を子ども達の実態に合わせて適切に指導するための配慮となります。
やはりここでもそれぞれ学習タイムが確保され、コース毎の違いはあれど、それぞれ個別的な学習と協働的な学習が展開していました。
こうした授業の最後には、まとめの時間として子ども達が各自のタブレットPC上で振り返りをノートしていくようになっています。
ちなみに6年生は総合的な学習の時間で、学校で過ごした6年間を振り返ってまとめた「西与賀っ子の伝統」というプレゼンをつくってきたようです。今回は、つくったスライドに合わせて発表リハーサル。グループごとにIWBを操作して発表を行ない、他のグループがアドバイスするという活動をしていました。
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実は、西与賀小学校で特徴的に思ったのは、タブレットPCを積極的に電子ノートとして使っていこうという取り組みでした。
授業中に配布されるワークシートは学習者用デジタル教科書とともに導入された電子ノートを使ったもの。これにどんどん書き込んだものは、最後に書き出されてOneNoteというソフトに貼り込むようにしています。そして振り返りもOneNote上に書き込んで、毎時間の成果がどんどん蓄積されるというわけです。
こうすれば過去の学習をさかのぼって参照することができますし、授業で扱われた友達のワークシートも一緒に貼り込まれたりするので振り返って比較もできるようです。
残念ながら家にタブレットを持ち帰ることもできず、家から参照できるような状態にネットワークが開かれていないので、家庭学習に役立てることができていないようですが、これもプリンタを各クラスに導入するなどして、電子ノートをプリントアウトして持ち帰っても見られるようにする計画があるそうです。
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佐賀県の情報化の賑やかさとは打って変わって、むしろ堅実にICTを利活用している印象でしたし、かと思えば電子ノートというかなり野心的な取り組みを積み重ねているというところに、やはり佐賀の底力を感じた参観でした。
[FS長野] 20120120 長野市立塩崎小学校公開授業
フューチャースクール推進事業における長野県実証校である塩崎小学校で公開授業がありましたので参観してきました。
長野は大学時代を過ごした地なので,久し振りに訪れたいなという個人的な思いもあって参観を申し込んだところがありました。勝手知ったる土地とはいえ,徳島から行くのは初めてなので,なかなか大変でありました。
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塩崎小学校は東日本地域に属している実証校なので,使用しているタブレットPCは,CM1と呼ばれる取っ手の付いた小さいタイプのもの。50インチのIWB(電子黒板)が各教室にあって,児童のタブレットPCから画面転送できるようになっています。
今回の公開授業は,児童の親御さん達の授業参観も兼ねた形で行なわれました。そのため基本的にはすべての学年で公開授業が行なわれましたが,塩崎小学校の重点研究対象となっていたのは1,2,3年生東組(各学年に東西2クラスある)の算数や国語でした。
残念ながら今回は授業公開だけで,研究会とか協議会は設定されていませんでした。
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ICT機器の利用に関しては,どのクラスもIWBを利用しており,この辺に関してはFS推進事業が2年目であることから問題なく日常に溶け込んでいるようです。
授業の導入時に先生がIWBにデジタル教材や資料を提示し,まずはクラス全体で考える一斉学習の形から始まって,個別・協働の場面でタブレットPCを利用するといった基本的な流れの授業が多かったです。
1年生算数は大きい数の数え方をIWB上で児童に操作させながら全員で確認した上で,タブレットPC上に問題を作って友達同士で出題し合う活動をしていました。
2年生国語ではようすをあらわすことばを教科書から選び,タブレットPC上で短文を作るといった課題で利用をしていました。
3年生算数は,まとまりを考えながら加減乗法の計算問題を解くために,用意されたワークシート上で図を描きながら答える作業をしていました。
4年生国語はタブレットPC上のワークシートに取り組むといったかなりシンプルな利用法でしたし,5年生算数でも多角形について辺や角に着目しながら調べる作業をタブレットPC上で行なう作業で,6年生国語では,使われなくなった言葉と現在使っている言葉の組み合わせをいろいろ探しながらタブレットPC上のワークシートにまとめ,クイズにしてクラスで共有するといった使い方でした。
親御さんたちの参観もあるせいか,先生の中には緊張されていた方もいらっしゃいましたが,それぞれの授業は無事に展開したようです。
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ICT機器の利活用として派手さはなく,わりとオーソドックスな感じで利用されているといったところでしょうか。今回は算数や国語といった教科が多かったことも,そんな感想につながる理由かも知れません。
参観している親御さんの会話から「パソコン使った授業で学力が上がってくれないとねぇ…」といった声が漏れ聞こえてきたことは印象に残りました。
ICTの活用によって学力が上がるのかどうか,上がるという研究はあるものの,賛否両論あって議論の尽きないテーマですが,親御さんの不安はいつの世も単刀直入だなと思った次第です。
学力向上ももちろんそうですが,ICTを活用したならではの新しい学習活動の提案をすることもこの時代においては必要なことかなとも思います。
iBooks テキストブックの登場
Apple社が教育関係のプレゼンをするというので話題が盛り上がってました。発表されたのは、電子教科書の使用を想定した新しいバージョンの電子ブックリーダーアプリのiBooks 2と、電子ブック製作アプリのiBooks Author。iBooksとも連携するiTunes U アプリでした。
もちろん、こうした発表内容はサプライズ慣れした噂好きの私たちにとって予想範囲内。けれども、それをAppleがどれだけエレガントに実現したかを楽しむというのが、毎度のパターンです。
果たして、今回もAppleは彼ららしいやり方でソフトウェアを披露しました。ステージにはこれまでの基調講演でお馴染みのフィル・シェラー氏が登壇。動画をまだ見てないのですが、きっといつもの調子でプレゼンを進行したのだと思います。
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今回の発表は三つのソフトウェア以外にも、アメリカの主要教科書出版社による高校教科書のiBooksテキストブック版リリースというニュースもありましたから、確かに教育関係の発表だったと言えます。
しかし、すでにお分かりの様にiBook Authorというソフトは電子教科書を作るためだけに使えるのではなく、ごくごく普通に電子書籍製作ソフトとして使えることは明白です。
これまでもePUBファイルの書き出し機能を持ったワープロソフトやレイアウト編集ソフトはあったわけですし、パブーのようなWebサービスもあったわけですから、それらで電子書籍を作成することはできたはずです。
けれども、現実的にはそう盛り上がっていたわけではありませんでした。出来上がるものがPDFの劣化した程度のものでは、電子書籍である必要性、あるいは魅力に欠けるのですから当然のことでした。
今回発表されたiBooks 2とiBooks Authorがこの問題を解決しようとしたことは、発表されたものをご覧になればわかるでしょう。これは昨年リリースされていたOur Choiceという電子ブックアプリをベースに構築された電子書籍デザインの様です。
決して派手ではないけれども、マルチタッチの電子ブックの操作感として快適さを感じさせる動きは、一つの到達点なのだと思いますし(もちろん、プロの中には満足してない人も居るでしょうが)、だからこそ今回の発表が成立するのだなと想像されます。
このような電子ブック製作ソフトが無料で個人に配布される様になることは、衝撃的といって良いのではないかと思います。
もしこれが有料だったり、学校関係者のみ配布といった形であったなら、たぶんこの様に話題にはならないでしょう。教育とそれほど縁のないと考えている人にも開放されているというところがAppleらしいやり方です。
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ツールの魅力もさることながら、今回のiBooksテキストブックがどの様なデータ形式を採用したのかが重要です。
この点でもAppleは上手に攻めてきました。
しばらくデータ形式が標準規格のデータ形式なのか、既存の電子書籍データ形式か、新たな独自データ形式か、不明でした。ようやく判明したのはiBooks形式と呼ばれるもので、ePUB3形式に独自タグの拡張を施したものであるという事でした。
つまり、ePUB3だと考えればいいのです。
基本はePUB3形式で電子ブックを製作し、iBooksで体験できるリッチな機能を利用したければ独自タグをサポートすれば良いということです。逆にいえば、独自タグを無視できるePUB3リーダーならばiBooks Authorで作ったiBooks形式の電子ブックを他機種でも読むことができる可能性があります。
さらに言えば、iBooks Authorでは作成編集できない縦書きや細かな組版制御も、ePUB3なのですから、別のツールを組み合わせて使用すれば実現可能でしょう。別にiBooks Authorの進化を待つ必要はありません。先へ進みたい、もっと高度なことがしたいのであれば、高性能なePUB3編集ソフトを導入すればよいのです。
その上に独自タグをサポートすれば、iBooks2でリッチな操作感を楽しむことができるというのだから、あなただったらどちらを選びますか?と問いかけているのです。なんともうまいやり方です。
これも皆さんは察しがつくと思いますが、iBooks独自タグの詳細が今後明らかになった時、それを他社のリーダーがサポートしてはいけないとまだ決まっていません。むしろApple的にはデファクトの拡張タグになればと考えているに違いありません。(訴えてくる可能性はあるかも知れませんけど)
要するにAndroid上にiBooks互換リーダーが登場してきて、無料のiBooksテキストブックを再生することができるようになるでしょう。となれば、MacだけとかiPadだけということも直に意味のない議論になります。製作環境も独自タグさえ分かればMacでなくてもいいのです(iBooks Authorが使いたい場合は別ですが)。
WebブラウザのWebKitで行なった覇権への道のりを、電子書籍リーダーにおけるePUB3を味方につけることで再現しようとしていると考えられます。
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iBooksに追加されたノート機能やiTunes Uの新たな展開も非常に興味深いのですが、それについてはまた改めて。
とにかく、今回の発表はAppleなりのePUB3本格始動の号砲であり、それを聞き逃した者は脱落していくのだということを理解しなければなりません。
〈追記〉上記の記事は、出張中にネットで集めた情報をもとに書いてます。残念ながらMacでiBooks Authorを実際に操作できていないので、事実認識が異なることもあります。たとえば、その後調べつづけているとiBooks形式はePUB3をベースにはしているが厳密にはePUB3ではない!と分析する専門家のブログも見つかります。iBooks形式ではePUB3が実現することができなくなっているという指摘です。ただ、iBooks AuthorにはePUB3書き出し機能があるからいいじゃないかとか、いろんな捉え方もあるようで、求めるものによって異なる意見が飛び交っています。
iBooks形式が厳密にePUB3かどうかの問題は、他機種の電子ブックリーダーでiBooks形式が読めるかも知れないとの予測を遠ざけてしまう点で残念な話ですが、互換リーダーを作ることを妨げることにはならないので、誰かが作ってくれることを期待しましょう。
むしろ、Appleの独自拡張が醜いとすれば、Googleがよりよい拡張規格を立ち上げて普及させる隙を与えることになりますから、この分野でも覇権争いが起こる可能性があるという予測を連れてきます。
いずれにしても、舞台はePUB3周辺で展開することは確かですから、今回のAppleの発表がePUB3の号砲であるという本記事の結論は変わりません。
もちろん私たちが魅せられているのはiBooks Authorというツールであり、
新しいICTカリキュラムは…
英国でBETTという教育とテクノロジーに関する展示会が行なわれている。毎年大規模に行なわれるので,世界中のICT活用教育関係者が注目したり参加したりしている。
さまざまなブースが構えられた展示会も賑やかだが,同時に開催されているセミナーや講演会なども盛りだくさんで,英国の教育大臣がスピーチする機会もある。
今年の教育大臣(Michael Gove)のスピーチがニュースになっている。
今年9月をめどに現在のICTカリキュラムを抜本的に再設計するための作業に着手するのだという。もっと時代に合ったものにするのだとか。
これだけならば,毎年行なわれるリップサービスみたいなものだが,どうもスピーチの内容が現在のカリキュラムについて過激に表現し,新しいカリキュラムの考え方が大胆でニュースらしい…。
曰く,「現在のカリキュラムはとても取っつきにくく,意欲をかなり喪失させ,全然活気がない(the current curriculum is too off-putting, too demotivating, too dull.)」とか「現在のカリキュラムは英国の学生たちを技術変革の最前線で働けるようにはしない(the current curriculum cannot prepare British students to work at the very forefront of technological change)」など…。
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一部のWeb記事では,WordやExcel,PowePointの代わりにプログラミング教育に力を入れるのだという解釈をしている。
大学におけるコンピュータ・サイエンスを盛り上げようという文脈が語られたり,今どきの子どもたちはスマートフォン・アプリのプログラミングもしているといったエピソードも交えて話題になっているようなので,確かにプログラミングも新しいICTカリキュラムの射程に含まれるのだろう。
ただ,それは単に最前線に関する分かりやすいトピックスがそれらであるというだけで,ことの本質は,変革する世界に学校教育とカリキュラムを合わせようとする,その動きそのものである。
そういう意味では「学びのイノベーション」なんて名前を付けて何かをしようとしていた某国の取り組みは,発想としてはいい線をいっているし,それを主導できる世界的な人材も国内にあるのだから,やっと英国詣主義から抜け出すチャンスであった。けれども,政治の不安定さと経済不況がそれを不意にした…とでも書いておこうか。
英国も同じ条件ではあるし,教師教育の問題,実際に組み立てられるカリキュラムに対する批判など課題も山積していて,今回のスピーチ内容が実現するのかどうかはいつもながら怪しいが,それでも,今回のスピーチに目新しい点があるとすれば「Disapplying the Programme of Study」という考え方である。
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Gove教育大臣は「Disapplying the Programme of Study」として,新しいカリキュラムを、従来のように教育プログラムを開発して、教師研修をし、すぐ廃れてしまうGCSESテストを課すという手法では「やらない」と宣言した。
「学校におけるテクノロジーは,もはや政府によって細かにマネジメントされません。教育課程を引っ込めることで,学校と教師が何をどのように教えるのかに関して自由にし,私たちが知るICTに大変革させます。(Technology in schools will no longer be micromanaged by Whitehall. By withdrawing the Programme of Study, we’re giving schools and teachers freedom over what and how to teach; revolutionising ICT as we know it.)」
そこに大学や企業がいろんな教育プログラムやリソースを提供する余地が生まれる…なんてことなども述べている。
その他にも「An open-source curriculum」なんて言葉など,いやはやカリキュラムをいくらか生業としている人間にとっては垂涎ものの単語がオンパレードなスピーチであるが,こんなことを一国の教育大臣がスピーチするのだから,リップサービスで済まされるものではない。
英国における教育の情報化は,学校と教師レベルに裁量を与える本格的な段階へと突入しそうな勢いである。それがどの程度のものになるかは,今後の行方を注視したいところだ。ってまた英国詣が賑やかになるのかな。
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日本の場合,学校教育に関する学校や教師の裁量が限定的なものになっていることや,それを引き起こしている複雑奇怪な権限分散制度の問題など,改善したら良いと思われる事柄はとっくの昔から判明しているのであるが,残念ながら時間がかかっている。
フューチャースクール推進事業などでは,事業の中で各学校にある程度の予算枠ようなものがあり,学校の裁量で若干のリソースをそろえられるという点など,現実として良い効果が確かめられている。ICT支援員さんが常駐していることもICT活用に幅の広さを生んでいる。
もう少し学校が自分たちのカリキュラムに向きあうための権利やリソースを提供するという方向に向かわないと,日本の学校教育は,旧きものに縛られていることから抜け出すだけでも相当な労力を強いられ,新しい変革する世界に対応することに体力を向けられなくなってしまうように思う。
新しいICTカリキュラムの中身も確かに大事だが,実は新しいICTカリキュラムを学校自身がつくっていける環境整備をするという点,もっと考えなければならない。