教育情報化の風景にパソコン機器は欠かせないが、教育市場に強くコミットしてきた会社の一つとしてアップル社がある。
創業者の一人,Steve Jobs氏が2011年10月5日に他界したことを契機に,彼自身とその会社への注目がさらに高まり,Jobs氏公認の伝記が刊行されたこともあって多くの歴史的エピソードも広く読まれることになった。
そのような歴史的なエピソードの一つが,このWWDC1997における開発者とのチャットである。WWDCはアップル社のコンピュータ(Mac)向けのソフト開発者が集まって研修や情報交換をするイベントである。
1985年,Steve Jobs氏は自らが創業したアップル社を社内闘争に敗れて追放される。それからNeXT Computer社やPixar社を生み出したことはご存知の通り。
1997年、経営的にはほぼ倒産寸前だったアップル社に舞い戻ってきた創業者は,次々と社内改革を行ない、次々と開発プロジェクトを終了させていた。Macの互換機を他社がつくることも禁じた。
開発終了が宣言されたものには「ニュートン」や「オープンドック」といった開発者に人気のプロジェクトも含まれ、その技術にエネルギーを注いでいた開発者からは強い非難がアップル社に向けられたのであった。
こうした背景のもと,WWDCで行なわれた異例のチャットはSteve Jobs氏が開発者と直接コミュニケートすることで,アップル社の取り組みについて理解してもらうことが目的であった。
そこでJobs氏は,現在のアップル社が何を考え何を目指しているのか,開発者は今後何を取り組むべきなのかを説いた。
特にビデオの50分20秒あたりから始まるやり取りは,印象的だ。このエピソードについて書いているeWeek記事を引用しよう。
例えば、1人の開発者がジョブズ氏はAppleの問題解決について何も分かっていないと言ってやじった。ジョブズ氏はこの開発者はおそらく正しいと認めておいて、顧客価値について語った。
「開発者は顧客体験が第一、技術はその次という姿勢でなければならない――逆はない。わたしは恐らく誰よりも多くこの点で過ちを犯してきたし、それを証明する傷も負った」とジョブズ氏は語った。
「顧客体験が第一,技術はその次…」という部分は,実際のJobs氏の言葉では次のように語っている。
「私たちは利用者体験から技術へと逆向きに取り組むべきで,技術を先にして如何に売るかを考え出すなんてすべきじゃない」
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教育の世界にも授業の「逆向き設計」という言葉があり、求められている結果から評価及び授業設計を考えていくことが重要であると説いている。
こう考えると,Jobs氏やアップル社が目指したものづくりが教育的な発想と親和性が高いのもうなずけるというものだ。
私自身はこうした考え方でつくられた教育向けICT機器を「学用品としてのICT機器」という言葉で表現したいと思っている。ぜひとも多くの企業がこうした考え方で商品開発されることを願っている。
しかし,とあるブログの「やめることの難しさ」というエントリーを読むと,それが如何に大変なことなのかも分かるから,悩ましい限りだ。
「利用者体験から技術へ…」がなすべき手順であることは、間違いないと思っているんですが、実際はいろんな所に落とし穴がありますね。
利用者体験として、利用者の意見をそのまま取り入れると、多機能すぎて結局つかえないものが出来たり、こちらの聞き方が拙くてトンチンカンなモノを作ったり….
ある人の使い勝手を追求すると、別の人からクレームきたり….
日々勉強と苦渋の選択の繰り返しです。
実は最初私は、利用者がいる現場に入るのに色々なカベがあるものだと思ってました。
最近の学校はセキュリティに気をつけていながらも、ちゃんとした手順を踏めば意外と開かれているものだと、ようやく気が付きました。
トム・ウージェック:塔を建て、チームを作る
http://www.ted.com/talks/lang/ja/tom_wujec_build_a_tower.html