りん研究室は、教育と情報の歴史研究に取り組んでいます。正確には、取り組むための文献資料集めと整理をしている段階です。長い時間がかかっていますが。
歴史研究には年表づくりが必要で、初期にはExcelファイルやGoogleスプレッドシートで作成していました。シンプルな表形式は便利なのですが、記録したい詳細情報が大きくなると参照が難しくなる弱点もありました。
それで数年前からFileMakerを利用したデータベース管理に移行して、データベースファイルをDropBoxに保存しながら利用していたわけです。職場のiMacや持ち運びのMacBookでFileMaker Pro等を起動して更新作業するスタイルです。
データベースによる年表項目の管理自体は問題なく運用できて、とにかく情報収集とデータ更新が目下の課題です。
ただ、唯一問題が残っていて、それは私がiPad Proのヘビーユーザーなのに、iOS版のFileMaker GoアプリではDropBoxに置かれているデータベースファイルにアクセスできないということ。ファイルは読み込めますが、作業結果はiPadのみに保存されて、共有しているデータベースファイルとは別物になり反映されないのです。
情報収集に図書館等へ行く際、持ち込むのはiPad Proが多くなっているので、そこから作業できないのは辛い。
これを解決する方法は、FileMaker用サーバーを立てること。
しかし、これまでFileMaker用サーバーは自前で立てる必要があり、運用コストもかかる手間もかかる状態でした。
2016年9月、この問題を解決する「FileMaker Cloud」がファイルメーカー社から発表されました。Amazon Web Services(AWS)というクラウドプラットフォームに対応したLinux版FileMaker Serverの登場です。
日本でも2017年7月からサービスが利用できるようになったので、早速利用を試みました。
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FileMaker Cloudは、「AWSという外部に立てるクラウドサーバー」と「FileMaker Serverというデータベースサーバーソフト」の2つのセット商品と考えると初心者には分かりがいいと思います。
というのも、料金はそれぞれ別立てになっているからです。サーバー利用料とソフト利用料の2つ。
料金徴収の方法には選択肢があり、AWS(つまりアマゾン社)とFileMaker(つまりファイルメーカー社)のそれぞれ2社が用意したルールでそれぞれに徴収する方法と、AWS(アマゾン社)が一括して徴収する方法があります。
アマゾン社は、サーバーを時間貸しする料金体系がメインなので、一括徴収を選ぶとサーバーもソフトも時間料金で支払える特徴があります。ビジネス用途にはそういう方が便利なことが多いようです。
私のように「いつでもどこでもFileMaker使いたいんだよね」みたいな場合は、2社が別々に用意している割引制度を最大限利用するのが良いです。
FileMaker Serverは複数ユーザー利用が前提のソフトですから、お値段はそれなりに。FileMaker Licensing for Teams (FLT)というモデルは、普通に買うと最低クラス(5ユーザー向け)で約10万円/年間くらいします。(2ユーザー向けとか作ってくれるとちょっと嬉しいんですけど)
私は教育機関に勤めているので、アカデミックライセンスという形を利用して、約6万円/年間という料金でライセンスを取得しました。研究費はこれで吹っ飛んじゃいます。
AWSサーバーは環境を借りる手続きをすることになります。すでにAWSのWebサイトにはFileMaker Server用の環境セットがライセンスのタイプごとに用意されているので、今回は別々に料金を支払う用の「BYOL」タイプを購入する手続きを進めます。
この辺は全部英語で進むので、事前に「FileMaker Cloud入門ガイド」を読み、再度読みながら手続きを進めた方がよいと思います。AWSの知識や利用した経験がないと道に迷いやすいかもしれませんが、説明通りの手順を踏めばセッティングは可能だと思います。(追記:「FileMaker Cloud スターティングガイド」はさらに丁寧に解説してありますね。)
AWSのセッティングが終わると、AWSセッティング過程に入力したメールアドレスに対して、ファイルメーカー社へのリンクを含んだメールが届きます。そこからファイルメーカー社のWebサイトを開き、すでに購入したFileMaker Serverライセンス番号を入力してFileMaker Cloud用に変換手続きすることで、AWS側とFileMaker側が繋がって、利用が承認されるという仕組みです。あとは立ち上がったFileMaker用サーバーに接続するだけ。
晴れて、iPadのFileMaker Goからも統一的にデータベース更新作業ができるようになりました。
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しかし、このままだとAWSクラウドサーバーの時間貸し料金が膨れ上がって大変なことになります。
もともとAWSをセッティングする際に、サーバーを置く場所(リージョン)を選択したのですが、実はリージョンによって料金が違うので、こだわりがなければ安い米国のリージョンを選択しておくことになります。反応速度云々はあまり気にしなくてよいと思います。
それから、サーバーの性能が決まる「インスタンスタイプ」というものも、初期セッティング時には選択をしておかなくてはならなかったのですが、FileMaker Cloudの場合は「t2.small」タイプが最低条件です。そしてランクアップするごとに料金も高くなります。反応速度はインスタンスタイプで決まると言ってもよいと思います。
私はt2.smallを選択しました。動作はもっさりですが,WebDirect機能も使うことができます。複数接続だときつい感じかも知れません。残念ながらt2.smallではFileMakwerデータベースをWeb画面で操作するWebDirect機能を使うことができないようです。(当初できなかったのは、FileMakerデータベースファイルに対して「WebDirect構成」していなかっただけでした。)ファイルメーカー社の技術仕様ページにも「*メモ: FileMaker WebDirectでのt2.smallの使用はお勧めしていません。」と注意書きしています。
お一人利用で安さ優先ならt2.small。複数利用ならt2.medium以上といった感じです。料金も倍々に跳ね上がりますが…。
さて、その上で、通常の時間貸しタイプではなく、年単位契約による割引タイプ「リザーブドインスタンス」を購入するのが重要です。これはサーバーを年単位でリザーブしておく権利を買うものです。
すでにインスタンスを立ち上げてあるのに、またリザーブドインスタンスを買ったら二重買いになるのではないかと不安になるかも知れませんが、これはすでに立ち上げたインスタンスに対して、リザーブドインスタンスという権利を適用するという形をとるので、同じリージョン内に同じタイプのインスタンス(t2.smallとか)があれば自動的に適応されます。
リザーブドインスタンスの価格は、リザーブする期間と支払い方法(全前払い、一部前払い、前払い無し)によって変わります。私は米国リージョンのt2.smallを1年間リザーブしたので、137ドル(約1万5千円)を全前払いしました。
というわけで、FileMaker Cloudを使い始めるためには、少なくとも年間12万円程度(教育関係者は8万円)が必要という支出規模になります。(FLTに2ユーザー向けライセンス設定があって少しでも安価になれば助かるなぁと思います。)
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以上が、自分でFileMaker Cloudを立ち上げる際の大まかな流れやポイントです。
これとは別にFileMaker ProやFileMaker Pro Advancedを利用してデータベースやカスタムAppの設計開発をすることが必要なのはいうまでもありません。ちなみにFileMaker Serverには、サーバー接続用のFileMaker Proが付いてます。