前提変化をどう広めるか

昨年(2017年)9月からNHKスペシャルで「人体神秘の巨大ネットワーク」というシリーズが放映されています。この年末年始に再放送もあり、私もあらためて録画したところです。

NHKの「人体」という番組名を聞くと、教育と情報界隈の人々の中であるものを思い出す人たちがいます。それは、1997年に発売されたマルチメディア教材の「マルチメディア人体」です。

新シリーズのプロローグ回でも紹介されていましたが、28年前にも同種のテーマ「驚異の小宇宙 人体」という番組が放映されていました。その当時の番組で製作されたCG映像素材などを利用して開発された教材が「マルチメディア人体」で、様々な賞もとり、マルチメディア教材の歴史を振り返る時に取り上げられたりします(参考資料:「デジタル教材の系譜・学びを支えるテクノロジー2回「人と森林」「マルチメディア人体」」/東京大学BEAT)。

1994年頃は「マルチメディア元年」と称されたことや、Windows95もリリースされ、当時CD-ROMで様々なインタラクティブコンテンツが登場しては話題になっていました。教育向けのものは「エデュテイメントソフト」なんて呼ばわり方もされていました。

現在はネット配信時代ですから、NHKの番組サイト「人体神秘の巨大ネットワーク」にアクセスすれば、様々なコンテンツを閲覧することができます。

それでも、マルチメディア教材について振り返ってみる、よい機会ではないかと思います。

それで、話はNHKスペシャルの新シリーズ。

28年も経過して新たなシリーズが製作されれば、当然のことながら28年間に分かってきた最新情報をもとに番組内容が構成されます。

今回の目玉は、28年前に考えられてきた「脳が他の臓器や細胞を一極制御する」という人体の仕組みイメージが、研究の成果で「あらゆる臓器や細胞が対等に情報をやりとりする巨大ネットワーク」という人体の仕組みイメージに置き換わったこと。

こうしたパラダイムシフトで分かった新たな人体イメージを伝えるのがこの番組の内容です。

しかし、研究の成果とはいえ、28年前に放映したり、マルチメディア教材にまでした内容の前提が、こんなにガラッと変わってしまったわけで、素朴に考えると大変なことです。

当時は決して間違っていたわけではないけれど、今にしてみれば十分でないと分かったという前提変化。

番組は28年前の進行役であるタモリさんを再起用して、同じ人が最新知識を学ぶという演出で、これを馴染ませていこうとしているわけですが、さて、人体イメージが世間的にも「巨大ネットワーク」へと変わるのは、どんな閾値の超え方をした時だろうかと、ちょっと思いを巡らしてしまいます。

というのも、学校教育の文脈でも、19,20世紀的な「伝達的知識習得」イメージに固執しない21世紀的な「協働的知識創造」イメージの浸透が求められているわけで、なんだか人体の仕組みと似ているような似ていない様なという気になったからです。

先生という専門職の人々でさえ、そのイメージを理解したり、馴染んだりするのに苦労していることを考えると、前提変化をどう広めるのかという点で、今回のNHKスペシャルの受け止められ方が気になるところです。