新年の初ゼミ。
文献講読中の『ライフロング・キンダーガーテン』は最終章(第6章)の「創造的な社会」に至った。これは私が発表担当しながら読むことになった。
第6章は,これまで4P(プロジェクト,パッション,ピア,プレイ)を通して創造的な思考者を育むことを描いてきたミッチェル・レズニック氏が,「創造的な社会」に向けた難しさを承知しつつも,取り組みへの意欲を再度宣言するような位置付けだ。平坦ではない道のりを歩んでいくために,学習者や,親と教師,デザイナーと開発者に向けたヒントも提供している。
せっかくなのでヒント部分だけ抜き出しておこう。
学習者のための10のヒント(272頁〜)
- シンプルに始めること
- 好きなものに取り組むこと
- 何をすべきかがわからないときは,とにかくいじりまわすこと
- 実験することを恐れないこと
- 共に働き,アイデアを分かち合う友人を見つけること
- (自分のアイデアを加えるために)他のものをコピーしてもOK
- あなたのアイデアをスケッチブックに残すこと
- 構築し,分解し,再構築すること
- こだわりすぎると,うまくいかないかもしれない
- 自分自身の学びのヒントを作ること!
親と教師のための10のヒント(282頁〜)
- 発想:アイデアを喚起する例を見せる
- 発想:突き回すことを推奨する
- 創作:幅広い種類の材料を提供する
- 創作:あらゆる種類の作り方を受け入れる
- 遊び:作品そのものではなくプロセスを強調する
- 遊び:プロジェクトの時間はたっぷりと
- 共有:マッチメイカーの役割を果たす
- 共有:コラボレーターとして参加する
- 振り返り:(本気の)質問をする
- 振り返り:あなた自身の振り返りを共有する
(おまけ)スパイラルを続ける
デザイナーと開発者のための10のヒント(293頁〜)
- デザイナーのためにデザインする
- 低い床と高い天井をサポートする
- 壁を広げる
- 関心とアイデアの両方につなげる
- シンプルであることを優先する
- デザインを使う人びとを(深く)理解する
- 自分自身が使いたいものを発明する
- 小さな学際的デザインチームをまとめる
- 大勢の意見を取り入れつつ,デザインを制御する
- 繰り返し,繰り返し,そしてさらに繰り返す
それぞれのヒントに解説が加えられているし,ここまで読んできた読者にはそれぞれが何を意味しているかはすぐに理解できるだろう。
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この章には,レッジョ・エミリア・アプローチの話も登場する。
『ライフロング・キンダーガーテン』(生涯幼稚園)という書名は,筆者の所属している研究グループの名前であるとともに,個々人の創造力を最大限に伸ばすことができる学びのスタイルであるという考えを象徴するものだが,その具体的な姿をレッジョ・エミリア・アプローチに求めているわけだ。
レッジョ・エミリア・アプローチとは,ローリス・マグラッツィ氏たちがイタリアの小都市レッジョ・エミリアで始めた幼児教育の取り組みのことである。街と市民を巻き込んだ取り組みであることから,都市名が手法の名前として定着している。
モンテッソーリさんの教育アプローチがモンテッソーリ・アプローチであるのに倣えば,本当ならマグラッツィ・アプローチとでもなりそうであるが,そうでないところがレッジョ・エミリア・アプローチの特徴をよく表しているともいえる。つまり子供たちの育ちは社会そのものの営みと密接にかかわり合っているということだ。
こうしたアプローチの特徴的なこととして,本書でも取り上げられているのが「学びの可視化」であり,子供たちの取り組むプロセスをできる限り見える形で記録しアクセスできるようにすることである。
他と協働する際には,こうして可視化されたものを相互理解の材料として活用しつつ,クリエイティブ・ラーニング・スパイラルをぐるぐると回していくことが必要なのだろう。
著者も,さまざまな構造的障壁を打ち破る必要性と難しさについて考えを巡らしながら,創造的な社会に参加する子供たちを育むために時間と労力をかける価値がある取り組みだと締めくくっている。
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マグラッツィ氏の詩「100の言葉」は,あちこちの翻訳書に登場している。
今回も一部が引用されているが,その翻訳は訳書ごとに細部が変わっている。日本語にしたときの詩的な表現をどのようにアレンジするかによって,言葉や翻訳の程度は変わり得るが,いまのところ,どの翻訳も一長一短がある。実際に詩的に音読しようとしたときには微妙に変えてしまいたくなることが多い。
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こうやってあらためてゼミ講読をしてみて,Scrachやプログラミングに少々縁遠い学生たちでさえ,今回の本からいろいろ学べて面白かったと感想を述べている。本書『ライフロング・キンダーガーテン』はScratchに関心のある人びとがもっとたくさん読んで話題にしていてもよいように思う。