EDIX2013 02

 教育ITソリューションEXPO(EDIX)が終わり,来月はNew Education EXPO(NEE)がやってきます。私も大阪会場で登壇する予定です。
 EIDXは文教市場向けの展示商談会なので,基本的には教育委員会や教育企業をターゲットとして展示が構成されています。有料/無料の専門セミナーも教育関係者というよりは関連業者の皆さんが最新動向を知るために参加しているといった感が強く,EDIXで共有されている内容が教育的に妥当なものかどうかは保留すべき部分も少なくありません。
 多くの皆さんは,EDIX関連の報道を見て,驚いたり,首をかしげたり,膝を叩いたり,遠い目になったり,いろいろな反応をされていると思いますが,必ずしもEDIXで見出される方向性が決定事項というわけではなく,その中から教育に携わる人々によって取捨選択され残るものもあれば消えていくものもあるというのが現実です。
 繰り返しますが,EDIXは文教市場の展示商談会です。売り込み側があれこれと提示してくるものを買い手側が吟味し触手を伸ばすか伸ばさないかを決するだけです。
 問題は,そのやり取りがあまりに乏しいものだから,売り込み側に買い手側のニーズが伝わっていないということですし,買い手側も売り込み側の意図を十分把握できていないことが多々あることです。
 来月行なわれるNEEは,その点を汲み取って,数多くのセミナーを主体とした催事となっています。多くの教育委員会に後援をお願いしている点などは,少しでも教育関係者との関係を深めようとする努力の表れだと思います。

 前回も書いたように,文教市場は先の見えないトンネルに入り込んだままです。
 いくつかの自治体がタブレット端末を導入するなど明るいニュースをもたらしているように見えますが,それが日本のメーカーにとって明るいかどうかもハッキリしません。
 ご存知のようにタブレット端末一つでも,Windows 8タブレット,iPad,Androidタブレットといった三大プラットフォームのどれを採用するのか問題です。いずれも海外メーカーが幅を利かし始めていることを考えると,日本メーカーを中心に回り続けていた業界にとっては悩ましい状況にあるといえます。
 そのうえ,一般消費者向けのタブレット端末としてはiPadやNexus7あるいはKindleという特定サービスに紐づいたような端末が普及している事実が,選択をいっそう難しくしているとも言えます。
 今までであれば仕事場にあるのはWindowsパソコンだから学校でもWindowsマシンを選択すればよいというシンプルな理屈で済んだものが,仕事場にも家にもiPadやAndroidタブレットが導入されてきている時代になって,今後もWindowsというプラットフォームの選択が妥当であるとは言い難くなっているといえます。
 そのような混沌とした状況を前提に,1人1台環境を議論すること事態が困難を伴いますし,日本のメーカーにとっての勝機が眠っているとは到底言えないのではないかとも思えます。
 もちろん日本のメーカーのことなど特別扱いして考えず,すべて対等に考えれば,いずれは日本メーカーも盛り返してくるはずとも思います。
 ただ,私には1人1台のタブレット端末という環境云々のもっと手前に,日本メーカーが得意としている商材をどんどん学校にとり入れる段階があってもよいのではないかと思うのです。
 それは,たとえば「テレビ」といったオーディオ/ビジュアル(AV)機器や「デジタルカメラ」といったイメージング機器ではないかと思います。

 このブログ記事「日本の学校に大画面はあるか?」でご紹介したように,日本の学校には「テレビ」あるいは「大画面提示装置」さえも十分行き渡っているとは言えません。
 「デジタルカメラ」「プリンタ」「ビデオカメラ」といった周辺機器に関しても,小中高校合算で計算した場合ですが,普通教室数に満たない台数しか配備されていません。(コンピュータ周辺機器台数のグラフ
 こうした数値を鑑みると,「1人1台タブレット端末」ではなくて,「1学級1台デジタルテレビ/電子黒板/実物投影機/プリンタ/スキャナ」「各学校に学年人数分のデジカメ/デジタルビデオカメラ」といった主張がされるべきではないかと思います。
 その多くが日本のメーカーが得意としているデバイスであり,いまや価格的にも安価で高品質なものを手に出来る成熟した商材です。こうした部分を新たな保守サービスと合わせて確保しにいく方が日本メーカーにとって敷居が低いのではないかと思います。
 もちろん,それは同様に海外メーカーにとっても参入しやすいということになりますが,そこは発想を変えた保守サービスで差別化していくことで攻めていくしかありません。
 確かに,手軽なタブレット端末は内蔵カメラによって,デジカメやビデオカメラのニーズを満たしてしまうかも知れません。実物投影機の代わりにも出来るかも知れませんし,ペーパーレス化でプリンタの必要性をなくすかも知れません。
 タブレット端末と大画面スクリーン/電子黒板があれば,多くのニーズを満たしてしまうという話に逆戻りしてしまうようにも思えますが,やはり,そこへ一足飛びに行くのではなく,多様なデバイスとのハイブリッドな構成を具現化していくことが,日本のメーカーにとっても,また現実的には学校教育にとっても良いのではないかと考えるのです。

 今回,そういう方向性の提案として唯一目新しかったデバイスは,パナソニックブースで展示されていたデジタルハイビジョンビデオカメラ「ぼうけんくん」(HC-BKK1)だけでした。
BKK1.jpg
 参考展示されたものはHDMI受信機とセットでライブ映像配信が可能になっており,また,Windowsパソコンに受信ソフトを入れても同様に動画転送できます。(Windows用だけってのが残念で,これがMac OSXにも対応すればベター。願わくはiOS用アプリで自由に動画転送できると活用が広がります。)
 いまさら単機能デバイスを増やす発想が古いとか,だから日本のメーカーは凋落するのだという批判もあるとは思います。けれども,こういうAVデバイスに存在価値を見出す柔軟性を持つことが大事ではないかと私は思います。
 少なくともタブレット端末を構えて写真や動画を撮影するよりも,虫眼鏡スタイルで対象を捉えるスタイルの方が,指導や学習活動の物語としても味わいがあるように思います。

 EDIXは,大変規模の大きな展示商談会であり,ある種の教育ICTの最新動向を見聞きするには大変有益な場所です。しかし,それが必ずしも私たちの未来ではありませんし,もしかしたら,私たちかたどるべきパスは別の道筋かも知れないことも,受け手として理解しておくべきだと思います。
 私が上に書いたことも,EDIXというのぞき窓に寄り添った場合の一提案や夢想に過ぎません。たとえば他にもEdTechと呼ばれるインターネット技術を基盤とした教育・学習サービスの取り組みからのアプローチもあり得ますし,特別支援教育やユニバーサルデザインにおける取り組みからのアプローチも大変重要だと思います。
 どのようなアプローチでどのようなパスを辿ることが誰にとって良いのか悪いのか。そういった事柄についてもっと知見を広げたり,積み重ねていく必要があると思います。