翻訳書をご恵投いただきました。「デジタル・ネイティブ」という言葉の生みの親でも知られるマーク・プレンスキー氏の”Teaching Digital Natives: Partnering for Real Learning“という本の邦訳『ディジタルネイティヴのための近未来教室 −パートナー方式の教授法−』です。
タイミングが悪くて,さっそく書店で購入してしまったあとで,職場に戻ったら届いていました。ははは…。いずれにしてもありがとうございました。
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翻訳者グループである「情報リテラシー教育プログラムプロジェクト」を存じ上げていなかったので,書店でお名前を確認しても,残念ながらお名前を知っている方がいない。
調べてみると東北大学の大学院情報科学研究科における「情報リテラシー教育専門職養成プログラム」の関係者の方々だそうです(現在は「情報リテラシー教育プログラム」に変更)。
情報リテラシー教育の現場にとっても,新しい教育方法を導入することが喫緊の課題という問題意識があったようで,そこで翻訳者グループが出会ったのがこの本ということのようです。
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ところで「パートナー方式」と訳された「partnering」とは何でしょうか。まったく新しい教授方法でしょうか。
パートナー方式が意図しているパートナーとは「生徒と教師が対等な関係でバディを組む」ことです。本書ではバディという言葉は使ってませんが,お互いの存在を尊重し,それぞれの役割で力を発揮できるように高めあう関係だと考えてよさそうです。
そういう関係にある生徒と教師が展開する互恵的な学習と指導が「パートナー方式」の教授法という事になります。
実際のところ,プレンスキー自身も著書の中で,従来の様々な教授方法と多くの部分が重なると記述しています。たとえば「生徒中心学習」「問題解決学習」「プロジェクト学習」「事例体験学習」「探究学習」などの名前を挙げているのです。
つまり,本書はこれまで様々提案されてきた指導方法や教授方法を「partnering」という考え方で再整理し,まとめたものといえます。 同様に,教育おける様々な「不易流行」の要素を「動詞スキル(不易)」「名詞ツール(流行)」として提示しているといった感じになっています。
ちなみに「動詞スキル」とは行動目標や学習場面のような生徒が達成すべきスキルのことで,「名詞ツール」とはそのために使用する道具のことです。
用語が独特なため邦訳語の選択はかなり苦労されたようですが,プレンスキーがこの本で企図したことは大変シンプルで,積もり積もったリソースを先生達に見通しやすいように多くのTipsとともに提示し直したということです。
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プレンスキーの考えとしては,「partnering」も教師の動詞スキルとして捉えたかったのであり,日本語にした時の「パートナー方式」では教授法における名詞ツール的な印象が漂ってしまう点が難しいところです。
(追記:つまり,パートナー方式というのは流行り廃りするものではなく,教師の本質的な技能として根ざしているものだと考えたいわけです。)
「Real Learning」という原題の言葉にあるように,現実と直截的な学習がこれからのデジタルネイティブ達の教育にとって重要であると考えているわけですが,それは同時に,訳者の解説にもあるように,デジタル移民にとっても従来までの様々な経験と責任の今日的な見直しを迫る学習も含んでいるのだと思います。
多少手強いですが,なかなか興味深い本です。