THE WALL (リコー)

 株式会社リコーには「TAMAGO Lab.」というプロジェクトがあり,ビジネスに役立つ卵的なソリューションを生み出す活動をされています。

 主にモバイル端末用アプリの開発を通してアイデアの提案をされているのですが,その中には学校で使うにも面白そうなものがいくつかあるのです。

 たとえば会議資料の配付や回収の便利な「Smart Presenter」は,少人数での話し合いの場で資料配付するには手軽なアプリです。(本格利用の場合は別途サーバーソフトを購入することで350名までの会議ができます。)

 「Idea Card」というアプリは,個々の端末でデジタル付箋を作成して,司会者端末にどんどん共有していくことができるアプリです。班活動のときのアイデア出しに便利だと思います。

 他とは少し違うテイストのアイデアが盛り込まれたアプリを開発しているのがリコーの「TAMAGO Lab.」なのです。

 2013年11月に,新しい卵として「THE WALL」がリリースされました。

 これはWebとiPhoneアプリを組み合わせたWebベースのディスカッションツールです。Webブラウザ上に表示したホワイトボードは,ペンと消しゴムで自由に書き込むことができて,ページも増やすことができます。

 ページは小さなサムネイルで一覧できるだけでなく,サムネイルをドラッグ&ドロップしてページに貼り込むことも可能です。サムネイルはクリックするとページジャンプをするので,簡単なハイパーカード的作品を作ることもできるのです。

 基本機能はこれだけのシンプルなものです。工夫次第で複雑なハイパーリンクスライドを作ることもできるというわけです。

 しかし,このTHE WALLの肝はそこじゃありません。

 THE WALLに書き込まれたデータを保存したり,再度開いたりする方法がユニークで,他にはなくエレガントなのです。

 THE WALLのデータを保存する場所としては,ユーザーのGoogle Driveを指定するようになっています。Google Driveに保存できることは少しもユニークではありませんが,それは核心ではありません。重要なのは,どうやって個別のユーザーのGoogle Driveに保存させるかなのです(保存場所などは要望次第でDropboxやEvernoteにすることは技術的に不可能じゃありませんから)。

 THE WALLでは各ユーザーにiPhoneアプリをダウロードさせて,それぞれの端末上でGoogle Driveの利用承認の手続きを最初の一回だけ行ないます。あとはWeb画面にある保存ボタンを押して出てくるQRコードを使って,Web画面で作業したデータと各ユーザーのGoogle Driveを紐づけ,インターネット上で保存処理するように動かすのです。

 つまり保存は,画面の保存用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。  逆に開く場合も,画面の開く用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。

 QRコードを読み取るだけで,みんなで見ているパブリックなTHE WALLと,自分だけ閲覧できるプライベートなGoogle Driveとをデータが行き来するのです。しかもログイン手続を一切省いて(すでに承認済みだから)。

 電子黒板と生徒用の端末とをリンクするために電子黒板にQRコードを表示させて端末で読み取るという仕組みはすでにありましたが,Google Driveといったプライベートな領域をつなぐところまでは届いていませんでした。

 個人ストレージというプライベートな領域を,学校の電子黒板といったパブリックな領域と接合する方法も,ログイン手続きの煩雑さを考えると決して簡単なものではなかったわけですが,そこにiPhoneアプリを噛ませるというアイデアは実にエレガントです。

 この仕組みであれば,先生がTHE WALLに板書した内容は,各自がQRコードにiPhoneをかざすだけで各自のGoogle Driveに転送されるわけで,授業中に板書で忙しいために講義内容を聞き漏らすということも防げます。講義中は必要最低限のノートだけ取れば,板書はあとで保存できるからです。

 また,各自がTHE WALLを使って作成し,Google Driveに保存したデータを,教室の大画面に提示したい場合にも,各自のiPhoneでQRコードを読み取るだけで,自分のGoogle Driveから教室の大画面に転送されるため,先生が支援システムを操作したり,ファイルサーバから開いたりする手間が省けます。

 これはApple TVなどのAirPlay切り替えにも似ていますが,AirPlayと違ってQRコードを読み取るという物理的な行動が必要になるため切り替えミスを防ぐこともできます。

 THE WALLは,自由線と消しゴムとページ・サムネイルで作画するシンプルなHTML5ベースのディスカッションツールで,まだまだ進化する余地は大きいですが,iPhoneアプリを使った保存と開く操作のアイデアは他にはない素晴らしいアイデア機能です。

 自分一人で使う分には,iPhoneとQRコードを使う保存方法は回りくどいだけですが,それぞれプライベートな保存領域を持った者が関わりあう場で使うツールの保存方法としては理想的なやり方です。

 今後は,他のノートアプリと連携して使えるようオープンな形で発展して欲しいと思います。