2020年2月29日-3月1日に長野県・信州大学教育学部で日本教育工学会(JSET)の春季全国大会が開催される予定でした。
しかし,新型コロナ肺炎の感染拡大防止の社会的な動きに対応するため,現地での全国大会開催は中止。予定されていた発表は「されたもの」として扱うことが決定されました。
その上で,この機を捉えて試行的にオンラインで開催することが提案され,学会側の柔軟な承認と開催校の手腕によって短時間のうちに条件が整えられていきました。こうして緊急事態に直面したピンチをチャンスに変えて,JSET全国大会が試行的にオンライン化されることになったのです。
その裏舞台紹介に関しては開催校からすでに情報発信されています。
「学会全国大会のオンラインでの試行開催の運用メモ」日本教育工学会2020年度春季大会実行委員会(信州大学)
https://cril-shinshu-u.info/archives/1473
私自身は,いろんな事情から事前申込ができずにいて,開催される場合でも居住地・徳島と開催地・長野という遠距離を移動して参加すべきか悩んでいる状態でした。そこへオンラインで開催するニュースが届き,さっそくオンライン学会のための参加申込の手続きをしたわけです。
参加者側から
新たな設けられたオンライン開催(試行)への申込受付は,前日(2/28)までを締切として特別に用意されたものです。
段取りは通常の事前申込と同じで,Web上の申込が済むと2通のメールが届きます。一つは「申し込み確認メール」,もう一つが「決済完了通知メール」です。そして「決済完了通知メール」に参加者向けの学会WebページURLが掲載されています。講演論文集PDFもそのページからダウンロードできます。
上記の開催校の裏舞台紹介でも書かれているように「オンライン開催向け情報」は別途Webページが用意されることとなり,ビデオ会議システムZoomを利用したオンラインの学会会場の情報は,基本的に別途用意された側を参照することになりました。
付加的に急きょ準備されたため,当然のことながらWeb導線が煩雑になってしまうのは仕方ないことでした。
たとえば,今回のオンラインに参加する/しない発表者の情報はPDFにまとめられましたが,そのPDFは現地開催向けのWebページにリンクが用意され,オンライン開催向けWebページに進んでしまうと見落としがちでした。
また,会議室へのURLを掲載したPDFは,上のPDFとは別途用意されたため,多少混乱することもありました。くわえて別途Webページ版も用意するなど,間口を広げる配慮が,うまく機能する場面もあったし,逆に迷いを誘う結果ももたらしていたところはあったと思います。
Zoom会議室への参加は,Zoomアプリのインストールに成功し,少しばかり操作等を覚えれば,視聴する分には問題はなかったのではないかと思います。それぞれのセッション進行も,事前の説明資料も用意されたり,事務局側が段取りイメージを固めていたこともあって,ほぼ問題がなかったと思います。このあたりは短時間にも関わらず,いろんな想定をして準備を整えた信州大学の皆さんの功績です。
質疑は「手を挙げる」機能を利用することで発言の意思表示を行なって,司会者から指名を受けてからマイクをONにして発言する流れでした。
当初私は,初代iPad ProからZoomに参加していましたが,このiPad版だと,質疑応答に少々問題が発生していました。
iPad版Zoomアプリは,チャットと参加者一覧を画面内の脇に常時表示できない(画面中央を陣取ってしまう)問題があるのと,「手を挙げる」ボタンが参加者一覧と別メニューに用意されている問題(パソコン版は参加者一覧に統合されている)がありました。
そのため,質疑応答の際に,参加者一覧を表示して他の参加者の「手を挙げる」様子を眺めつつ手を挙げることが難しく。タイミングを逃すことや,手を降ろし忘れるといったことも起りがちでした。
その上,初代iPad Proのパワー不足か,それともiPad版全般の問題なのか,ビデオ会議の通信がたまに目詰まりのように止まってしまうことも起っていました。調子が良い範囲なら快適ですが,この目詰まりが質疑応答のタイミングでやってくると相手の発言を取りこぼしてしまうこともありました。(1日目は途中からMacを併用し,2日目はMacを使いました。)
会議室の切り替えは,会議室URLを選択すれば,退室確認アラートに答えることで簡単に切り替えができます。
ただし,オンラインでの入室退室はすべて把握されているので,誰かが入退室するたびにそのことが通知されますし,参加者一覧で誰が参加しているのかも把握できる状態にあります。この辺が,対面型の学会と違うため,ちょっと覗くとか,部屋の外から聞くような距離感での参加は気持ち難しくなります。
もっとも,参加者と座長以外は基本的にビデオOFF,マイクOFFで参加しており,表示される名前に関して特に設定ルールがなかったので,偽名を使ってずっと視聴する形の参加も可能だったといえば可能です。
一方,対面型の学会ならば,挨拶もせず,話をしていなくても,参加している姿を見かけるだけで生存確認や近況を拝察するといった意識掛けができますが,オンライン学会の場合,相手が完全に気配を消してしまうと認識できる可能性はゼロになります。仮に名前を発見しても,相手が発信行為をしていなければ様子を伺い知ることはほとんど無理です。
今回は懇親会もオンラインで開催するという試みが行なわれ,司会をしてくださった先生のおかげで,いろんな方の声や様子を聞くことができたのは良かったと思います。しかし,これが恒常的に行なわれるかどうかは,工夫をしないと難しいかも知れません。
シンポジウムはZoomからYouTubeライブへ配信する形で公開されました。
質問などはZoom側のチャットから拾うことになりましたが,実際のところ視聴者の書込みが賑やかだったのはYouTube側のチャットでした。ただし,YouTubeへの配信は30〜40秒程度遅れるため,チャットのタイミングも少し遅れてしまうことになります。それもあってZoomチャットからの質問受付けになったのだろうと思います。ただ,Zoom側のチャットは発表者や参加者に書込みが通知されるという特徴もあってか,書き込むのを遠慮している感じでした。
視聴者側のバックチャンネルのことまで開催側が配慮するのは変な話ですが,現実の場を共有していない分だけ,参加者からのちょっとしたアクションを上手に集めて進行に反映させる工夫が必要なのかも知れません。それでいて,ある程度自由というか開放感が伴っていないと視聴者からのアクションが生まれないという難しさも課題です。
JSET全国大会のオンライン開催(試行)は,シンポジウムの成功によって無事に幕を閉じました。短時間の準備にも関わらず,この結果は開催側にとって大成功だといって差し支えないと思います。
さて,残るは参加者側の問題ということになります。
今回の試行は有志による参加が中心であり,それなりに知識・経験を前提できたことと,不参加だった発表者の部分が時間的空白になったおかげで,参加者に時間的余裕があってことが成功に寄与していたと思います。
しかし,オンライン学会を本来のスケジュールで本格実施すると,同時進行している発表会議室間のタイミング合わせは今回よりもっとシビアになるし,画面を切り替えるだけとはいえ,その操作は慌ただしいものとなります。今後はトラブルが発生した場合に復帰作業をする余裕を確保する必要があるかも知れません。
一方で参加側の視聴スタイルは柔軟になります。従来も発表を聞きながら自分の発表準備等を内職するといった行為はあったわけですが,オンラインになると飲食しながら視聴が可能になりますし,複数端末を使って複数の会議室を同時視聴することも可能になります。良いことなのか悪いことなのかは,正直なところわかりません。
また今後,オンライン学会に移行した場合,会期日の予定をそのために確保することをしなくなる人もたくさん現れると思います。自分の身体を開催地に縛りつける必要がなくなれば,そのために貴重な時間を確保するといった判断が難しくなる人もいると思います。自分の発表部分だけ参加し,あとは別の予定を入れてしまうことも可能ですから,学会員としての共同意識が薄れてしまうといった懸念も起り得ます。
もちろん,すべてをオンラインにするのではなく,オフライン学会もしっかりと開催しつつ,その一部をオンラインにするとか,別に小規模のオンライン学会を開催するといった形など,いろいろな手法を組み合わせればよいことだと思います。その辺の全体像をどうするかはこれからいろいろ試していけばいいのではないかと思います。
というわけで,長らく願っていた学会のオンライン開催が,多くの方々の参加のもとに実現したことは,とても嬉しい出来事。今回の経験が,次につながることを期待したいと思います。
あらためて,今回のオンライン開催に尽力された開催校の皆様と学会事務局の皆様に感謝しつつ,そのご苦労を労いたいと思います。