先月は出張月間で,ほとんど更新できませんでした。
その代わり,久し振りに都心の書店に寄ることができたので,買いすぎに注意をしながら書籍を物色。
このところ,某国トップの傍若無人振りやそれなりの立場にある人々の不可思議な言動が目立ったことが影響してか,心理学系の新刊は,知性と行動の関係とか認知バイアスなどをテーマにした書籍が多く並んでいるように感じられました。
『「バカ」の研究』(亜紀書房)は,一見するとふざけたエンタメ系の一般書かと思えますが,なにやらフランスで大まじめに刊行された書物の翻訳本。いろんな専門家によって執筆されたオムニバス構成です。
最初の方の「知性が高いバカ」という論考では「知性」について,「アルゴリズム的知性」と「合理的知性」の2種類があるという説を紹介しています。
「アルゴリズム的知性」が,物事の意味を理解して論理的に思考することができる力で,「合理的知性」の方が,現実の状況を考慮しながら目標実現のため意思決定できる力だとされます。
(実際には,この説を唱えているキース・スタノヴィッチ氏(トロント大学名誉教授)は前者を「タイプ1処理」「手段的合理性」,後者を「タイプ2処理」とか「認識的合理性」「分析的処理」という言葉を使って合理性の研究として議論しているようです。)
だとすれば,知性の高い人が「バカ」なことをするのはちっとも矛盾することじゃない…というわけです。
また,この本には,ハワード・ガードナー氏がインタビューに答える形で参加していました。私が購入したのも,ガードナー氏の部分が気になったからでした。
私たちが発達心理学者ハワード・ガードナー氏について知っているのは,『認知革命』とか『MI:個性を生かす多重知能の理論』などの書籍で,能に関する多重知能/多元知能理論であったりします。というか,そこで止まっています。
インタビューは,インターネットの影響に関するもので,多重知能にとってどうなのかという質問に対する応答もあります。ガードナー的には総合的にはデジタルメディアは多重知能にとって有益だと考えているようですが,とはいえ人間の脳というのは長い年月で進化するものだから,ここ数十年のテクノロジーの進歩にすぐ順応するようなことはなく,「デジタル脳」という考え方にも同意はしないといったことも述べています。
実のところ,このインタビューはガートナー氏が「三つの美徳」と呼んでいるものをインターネットのせいで人は失いつつあるという悲観から始まっていて手厳しい見解。(三つの美徳は本でご確認ください)
確かにこの本で検討されているいろんなかたちの「バカ」がインターネットを介して拡散されるような状況では,それに対してこちらが余程見通しのよさをもって接しないと,呑み込まれてしまうリスクが高いということかも知れません。
『インテリジェンス・トラップ』(日本経済新聞出版)にもアプローチは違いつつ重複する情報は多いけれど「知性のワナ」に対することがいろいろ書かれており,同じく興味深い。
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私自身も知識やインターネットなどにどっぷりつかって25年くらいにはなるので,バイアスやらトラップやら,引っかかるものには引っかかり続けているだろうわけなので,できるだけ自戒的に思考しようとは努力している。
ただ,そうはいっても,どこまでも自分のことだから,いわゆる「知性の死角」というものから逃れられるわけもない。だから他者と相互批判的だったり,互恵的である必要があるのかなとも思う。