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[ここからもともとの記事…]20210516
まったく蚊帳の外に置かれているので、まったく情報を持ち合わせていませんでしたが、こんなニュースが流れてきてしまったので情報をまとめておきます。
バッテリー膨張が発見されたとの報道
納入された端末とは?
徳島新聞社の端末写真が「納入業者提供」ということなので、納入業者である「アジア合同会社」さんのWebサイト(2021年6月末頃リニューアルし,一部リンク切れ)を調べると、GIGAスクール端末として納入したものと同型らしき端末の広告が掲載されていました。
こうしたことから、徳島市のGIGAスクール端末は左側に掲載されている「CHUWI社 Hi10 X」またはそれをベースにしたものと思われます。
Equipped with Intel’s Gemini Lake N4100 processor, featured 4 cores, 4 threads, and boosts up to 2.4Ghz. Overall performance improved by 100% compared to the previous Atom Z8350. Along with 9th gen UHD Graphics 600 GPU and advanced ULV technology, Hi10 X brings …
Intel社 Gemini Lake世代のCeleron N4100というCPUは2017年に登場して、そろそろ製造終了という位置づけのものなので、最新端末の処理速度や性能を期待するわけにはいきません。ただ、安価で価格相応な性能の端末が提供できるということで、性能を求めない購買層向けには馴染みのCPUでもあります。
なんで、この端末?
まず全国のこと。
GIGAスクール構想の実現事業とは、改訂された学習指導要領で目指している令和の学校教育を取り組むため重要な道具として、学習用端末を全国の小中学生に1人1台配布し、学校内ネットワークを整備する事業でした。計画実行に数年かけるはずが、コロナ禍の影響で2020年度末(2021年3月末)までに一気にやることになったという経緯があります。
この実現事業に伴う端末整備で「クラウド時代だからたとえばこんな端末導入してみては?」と示されたモデルがありました。それを「標準仕様」なんて呼んでしまったのは、ちょっとした失敗でしたが、なんと3つの異なるプラットフォームでモデルが示されたのです。それは画期的なことでした。
- Windows(日本マイクロソフト社)
- iPad OS(Apple社)
- Chrome OS(Google社)
この3つでした。
何を選択して導入するのかは、複数の候補から検討の上、それぞれの自治体の事情も加味して決定すること。ただし、安価に導入することも大事だし、先生達が異動することも考えてある程度共通にしておいた方がいいよね?ということも加味して、都道府県単位での共同調達も真剣に考えて!…というのが文部科学省の計画だったわけです。
各都道府県の担当者は慌てました。
都道府県ごとに対応は千差万別となり、市町村レベルの関係者とどれくらい協力しあえるかによって、調達の仕方も導入後の対応も変わっていきました。普段の関係性が透けて見えちゃうというわけです。
さて、徳島のこと。
GIGAスクール構想実現事業を担ったのは「徳島県立総合教育センター」の教育情報課のようです。
徳島県におけるGIGAスクール構想実現事業への対応の詳細を掘り起こすのは、なかなか難しく、一旦は情報が公開されるも、必要がないと判断されると消されてしまうので、残っている断片から推し量るしかありません。
県教育委員会が音頭を取って「徳島県GIGAスクール構想推進本部」が立ち上げられ、共通アプリケーションや活用に関する研修は県立総合教育センターで県単位にやるようです。しかし、入札に関する情報を眺めると調達は各市町村単位で実施する流れになっていたようです。
ちなみに徳島のIT関連を牛耳っているのは「公益財団法人e-とくしま推進財団」です。
プロフェッショナルな人たちの集まりのはずですが、あんまり今どきっぽくない雰囲気を持つ、不思議な団体です。GIGAスクールに関してもいろいろと支援していますが、やっぱり今どきっぽくない感じがします。う〜ん、不思議だ。
徳島市は?
徳島市教育委員会は「子どもの学び推進プロジェクト検討チーム」を組み、3回ほど会議を行なってきたようです。そこでGIGAスクール端末についても少し議題に上っていました。
そして徳島市は、2020年6月2日付で情報提供依頼をWebサイトに掲載しました。
このようにOSの種類をWindowsに決め打ちした上で情報提供願いを発出し、情報が提供されたあとで「徳島市GIGAスクール学習環境整備事業(1人1台タブレット端末)に係る公募型プロポーザルの実施」を行なったようです。(タイミングを逃して仕様書等の中身を確認できませんでした。)
こちらがその選定結果。
みごと「アジア合同会社」さんが落札された…という結果です。ちなみに選定委員会の面子が気になりますが、情報がなくその正体は不明です。少なくとも私は関係していません。
というわけで、アジア合同会社さんの提案通り、同社の扱っているCHUWI社の端末がGIGAスクール端末として徳島市の小中学校に納入された…というのが、ここまでの情報で見えてきた筋書き。
ようやく最初の話題に戻れるというわけです。
CHUWI社 Hi10X
まずはCHUWI社。
かつては中国の経済特区として有名で、今では世界的なテクノロジー先進都市である深圳にある会社です。2004年ごろから音楽プレーヤーを開発していたようです。
コンピュータや新しもの好き界隈では、CHUWI社というのは安価な端末を提供する会社としてAmazonなんかでもよく見かけたりします。
ガジェット系YouTuber(ちょっと珍しい品物を動画で紹介・レビューしている人々)にとっても、それらの商品をよくネタとして取り上げることから、なじみ深かったりします。
Hi10Xはどんな感じ?
それでは、あらためてCHUWI社のHi10Xについて。
Equipped with Intel’s Gemini Lake N4100 processor, featured 4 cores, 4 threads, and boosts up to 2.4Ghz. Overall performance improved by 100% compared to the previous Atom Z8350. Along with 9th gen UHD Graphics 600 GPU and advanced ULV technology, Hi10 X brings …
徳島市の小中学校に納入されたGIGAスクール端末がHi10Xそのものであるかどうかは、正確なところ分かりません。あくまでも推測です。
しかし…
- 「徳島市GIGAスクール学習環境整備事業」落札社は「アジア合同会社」であること
- 端末回収騒動の報道で掲載された写真に「バッテリーの不具合が見つかったタブレット端末の同型」とあること
- その写真の端末と、アジア合同会社が新聞に出稿した広告のタブレット端末Hi10Xの筐体がほぼ一致すること
- 当該広告に掲載されたHi10Xの税込み価格が4万5千円に近い価格であること
以上の断片的な要素を総合すると、徳島市GIGAスクール端末がHi10Xまたはそれをベースにした端末である可能性は高いと考えられるのです。ここでは、Hi10X同等品と考えることにして話を進めます。
早速、ネットで「CHUWI Hi10X」に関する情報を検索すると、いくつかレビュー記事が見つかりました。
性能はそれなりではあるけれど、総合的には好意的な評価のレビューは多いです。
(Amazonの情報によると市販品はCPUをN4120にアップグレードしたHi10XRというモデルが登場した後、従来のXモデルを終了して、XRをXに改称したようです。ただし、アジア合同会社の扱うものはN4100っぽいです。)
中国製タブレット端末も、ピンからキリまでありますので、全体的な印象はあまりよろしくない傾向にあります。
しかし、CHUWI社の端末は完ぺきではないけれど面白い構成になっているものも多いので、これらレビュー記事のように好意的な評価も多いのです。「安いには安いなりの訳がある」ことが分かっていれば、素敵な端末…というわけです。
端末整備事業の選定委員会の人々が、どれくらいそのことを了解した上でGoサインを出したのかは、選定委員会の議事録の情報公開を請求するなりしないと見えてこないですが(こら、そこの関係者は記録抹消しようとしないっ!)、この愛らしい端末を熱心に進めてくる業者がいれば、「ああ、この人達が面倒見てくれるだろうし、価格も安いから、悪くないかな」と思ったとしても、不思議はないと思います。
(一応、書いておきますが、私は冗談半分に文章を書く人でもあります。必要に応じて割り引いておいてください。)
気になる情報も…
表面的な情報で紡ぐなら、お安いものを買って、一緒に苦労も買いました、めでたしめでたし…という展開。
ただ、こういう端末は実際に使ってみたり、詳しく調べた人の情報が貴重です。次のレビュー記事が、充電について大変サラッとさわやかに重大なことを書いてくれています。
先端がType-Cですが、本来は丸形コネクタが付くような充電器です。
「CHUWI Hi10 X レビュー。低価格を維持したままAtom沼を脱出した中華タブレット、価格と性能は最強!」(Till0196のぼーびろく)
Type-C端子のタブレットといえばUSB PDのおかげで、スマートフォンや他のタブレットは市販品で代用が簡単にできるのですが、このタブレットは12V/2Aしかでない充電器でないと充電できない設計なので、USB PD充電器が使えないようになっています。
このタブレットの充電器は、「Type-Cの革を被ったDCプラグの充電器」です。
Type Cとしては、規格違反ですし、「USBとしてこの設計はどうなの」と思ってしまいます。
CHUWIとしては、「DCからType Cにしてやったぞ」という感じなのでしょうが、あまりにも強引です。一部のサイトでは、USB PD対応と書いてるので、誤解をされ兼ねないです。
引用部分から要点を繰り返すと…
- Hi10XはUSB Type-C端子を備えていて、純正充電器もType-Cをもち、それで充電することになっている
- Hi10Xは「12V/2A」でしか充電できない仕様。充電器もそれ専用に作られている。
- にもかかわらずType-C端子を使っているため、誤解を招きかねない状況にある。
- これは現行のUSB Type-C規格からすれば規格違反といえる。
ということのようです。
何が問題なのか?
実は、USB Type-C規格による充電は、もともとがややこしい問題を抱えています。
簡単に言えば、「端子は同じなのに、充電できたりできなかったりする」問題です。
Type-C端子というのは、表裏のないコンパクトな共通の接続端子として開発され、スマートフォンを始めとしてノートパソコンなどにも導入が進んでいるUSB端子の一つです。
ところが、端子は共通化したものの、どれくらいの電気を通すかは事情によって異なるため、Type-C端子が付いている充電器でも、ものによってパワーが異なる事態になっていたのです。
それらを交通整理して規格化したものが「USB PD」(USBパワーデリバリー)規格でした。
というわけで、今日、Type-C端子による充電機能を備えるならば、USB PDに対応することが求められますし、それが難しいとしても、Type-C端子にはいろんな電圧・電流が流れてくることを想定して安全に動作するハードウェアを製造することが重要になってきます。
さて、CHUWI社のHi10Xはどうでしょう?
上記の情報からだとType-C端子接続で「12V/2A」という電圧・電流を想定した造りのようです。
- Type-C端子を使っているため、誰かが間違えて他社の異なる電圧電流の充電器を接続する可能性がありますが、適切に対処しているでしょうか?
- USB PD規格では「12V/2A」はオプション扱いです。充電器が「5V」に対応していないと規格違反です。このように現行規格に沿わないままType-C端子で接続して充電する製品は望ましいでしょうか?
こうした点が懸念事項としてあるということです。
もしかして、冒頭に取り上げた「端末のバッテリー膨張」問題は、こうした充電系の懸念事項と無関係ではないかも知れません。そうだとすれば、現在回収点検した問題のない端末も、今後、純正品以外の充電器で充電した場合に問題が発生する可能性がなくはないのです。
家庭への持ち帰りも積極的に推奨されています。
充電器まで持って帰るのが面倒とか、家に同じType-C端子を使った充電器があるのでそちらを接続してしまったとか、逆に、規格違反の充電器を家庭の機器に接続してしまうとか、そういうことは今後も起ることを想定しておく必要がありそうです。
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追記
Amazonのレビューを見ると、激ヤバな充電仕様であることを指摘しているものがいくつも。CHUWI社の充電器を他社のType-C機器に間違って接続してしまうと機器を壊してしまうとも。この調子だと、阿波踊り問題とともに頭を悩ませる問題となりそうです。
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追記
徳島県立高等学校などに導入されたCHUWI社のタブレット端末は機種が異なるため、ピン型の充電端子が別途備わっています。