MetaMoJi Share for ClassRoom発表

 11月12日,MetaMoJi社の「MetaMoJi Share for ClassRoom」という授業支援システムの発表会が行なわれました。これは同社のMetaMoJi Note/Shareを基盤として開発された学校向け製品です。

 あらかじめサーバーあるいはクラウドに児童生徒用のアカウントIDを登録した上で,協働作業できるシェアノートを配布して授業に利用するというシステムです。

 授業支援システムと一口に言っても,具体的にどんな機能で支援をするのかは製品によって異なります。

 一般的には,ファイルの配付/回収,端末画面の転送,教師端末における生徒端末画面の一覧/選択表示,問題やアンケートの出題と回答/集計,同一制作物の同時編集,端末同士の呼び出し/メッセージ交換,端末ロック機能などがあります。すべてを備えているものもあれば,一部に特化したものもありますし,具体的な実現方法や操作方法が異なる場合もあります。

 いずれにしても情報端末が複数台ある環境で,授業における教授学習活動を支援してくれる機能を持ったシステムの事を「授業支援システム」と呼んでいます。

 知識伝達色の強い授業を支援する場合,教材の提示あるいは配布,提出物の回収といった機能による支援が期待されます。つまり先生と生徒の間のやり取りを効率化することです。(一斉学習の支援)

 もう少し発展した使い方として,提出物を回収後,大画面に比較表示する機能の活用が想定されます。いままで生徒を前に呼んで板書させていた活動を効率化するわけですが,全生徒のその時点の学習進捗や成果そのものを授業に生かすことでもあります。(個別学習と一斉学習の相乗支援)

 ここまでくれば,グループ活動における個々の生徒の記録を交換することも難しくありません。グループ内の協働学習活動を支援し,グループ間の学習成果の比較検討を通して,構築的な知識獲得の活動を支援することもできます。(協働学習の支援)

 授業支援システムは,かように様々な学習活動や場面において,学習記録や成果を伝えたり,比較したり,掛け合わせたり,残したりする事を助けてくれる道具なのです。

 さて,MetaMoJi社が提供を始める授業支援システムは,何か目新しい特徴を持つのでしょうか。

 既存の授業支援システムのほとんどが,授業支援システムのために開発された「特別仕様システム」のようなものであり,ユーザーは教材あるいは学習成果であるワープロファイルやら写真ファイルやらのデータをそのシステムに託して利用するといったものでした。

 MetaMoJi社のShare for ClassRoomは,市販のデジタルノートアプリとして評価の高いNote/Shareシリーズを基盤としてシステムが開発されているため,様々な教材や学習成果データをデジタルノートとして管理できるメリットがあります。

 特別仕様で作ったか,市販アプリをもとに作ったのか,この点が決定的な違いです。

 私は,授業で扱う教材や学習成果のデータをデジタルノートとして記録し管理する事がとても重要であると考えています。MetaMoJi社の授業支援システムは,一般にも使われているデジタルノートをベースにした基本的な設計とポジションにおいて,他の製品と一線を画しているといえます。

 既存の授業支援システムでデータを扱う際,2つの方法があります。1)汎用的なファイルを管理する方法と2)独自形式で記録して管理する方法です。MetaMoJi Share for ClassRoomの場合は,後者2)に当てはまります。

 

 1)の方法は,ワープロのWord形式や一太郎形式,スライドのPowePoint形式,文書のPDF形式,写真のJPEG形式,動画のwmv形式やmp4形式といった馴染みのファイルを整理しながら扱います。私たちが日頃パソコン操作でやっている作業です。

 通常のファイル管理と同じである点で敷居は低そうですが,授業や学習が進んで扱うファイルの数が増え続けていくと問題が起こります。分散しているファイル同士の関係を忘れたり見極める事が難しくなり,記録を見返す事が困難になるのです。

 つまり,分散するファイルの形で授業や学習の成果が記録されてしまうと,それらを整理した形で振り返ることが難しくなるということです。

 小中学校において学習ノートが重視される事の意味を問い直してみると,もちろん学習した内容を整理するためでもありますが,授業の内容と学習の成果がノートに順を追って記録され,必要に応じて遡って確認できる事に意味があるのです。

 私たちはノート記録という型のある学習形式の習得を経て,複雑な情報整理や記録へと駒を進めるのであり,最初から煩雑なファイル管理の世界で学習を積み重ねるのはあまり勧められません。それはアナログでもデジタルでも同じです。

 
 一方,2)の方法は,独自の形式で記録しファイルをやり取りすることになります。このやり方は,様々なデータを統合的に記録管理できる点でメリットがあります。

 学習ノートを再現するように授業内容や学習成果を蓄積できれば,学習の振り返りをする際にも記録を容易に遡る事ができます。

 MetaMoJi Share for ClassRoomの特徴は,「授業の記録」がデジタルノートと同じ形式(のシェアノート)でやり取りされて残るため,学習ノートにおける個人の「学習の記録」と容易に統合できる点にあります。

 このように「授業の記録」と「学習の記録」の対応を保って記録を残せるということが,学習を個に返す上で大変重要です。

 

 ただ,この方法では,特定製品にロックインされてしまう問題を孕んでおり,データの永続性という点で不安視されているのも確かです。

 私たちの学習成果を特定製品のデータ形式で蓄積したとして,その製品を使い続けなければならないのか。仮にその製品が開発中止になった場合にどう対処すればよいのか。こうした問題は常に意識しておくべきと思います。

 幸い,MetaMoJi社のNote/Shareアプリは認知度や評価も高く,ビジネスや日常生活でも多く使われています。「学校の中だけで使う独自アプリ」という枠に囚われていません。これが他の授業支援システムと異なるMetaMoJi Share for ClassRoomの優位なポジションです。授業や学習の記録を普段使っているデジタルノート形式で残せれば,学校に閉じてしまうことが少ないといえます。

 (※また当然の事ながら紙の学習ノートの併用も前提とした議論です。アナログとデジタルのノートの組み合わせ方は,それ自体が一つの研究対象になりえます。)

 辛口な事を書けば,MetaMoJi Share for ClassRoomは,まだ登場したばかりの後発製品です。先行製品を無批判に真似た部分は多いし,学校で使うためのツボを押さえた機能にはまだ乏しいといえます。

 たとえば,生徒端末の画面一覧機能は,授業支援システムの基本でありMetaMojI社の製品もそれを機能として実装していますが,それだけでは不十分なのです。一覧表示はモニタリング目的には合致しますが,それを児童生徒への提示目的に使おうとした途端,一覧表示や選択表示ではまったくニーズに応えられないのです。

 具体的には,比較表示の際に生徒の名前は消せなければなりません。モニタリングの際には表示する必要があるものも,児童生徒達に見せるとなれば,誰の画面かを伏せた方がよい場合もあるのです。(大きく表示した画面に「モニタリング」という文字が表示されるということにも本当なら抵抗感を感じなければなりません)

 さらに,比較表示される生徒端末の画面は,整列するだけではダメで,自由位置にも配置ができなければなりません。自在に動かしてグルーピングする必要があるからです。その上,その比較画面にかぶせるように自由に書き込みができなければなりません。

 モニタリングではなく,生徒の画面そのものが提示素材となって説明対象となっているのですから,そこに先生が自由に解説書き込みできなければ意味がないのです。

 こうした機能は,まだ多くの授業支援システムで実現には至っていません。画像保存などして似たような事を再現できますが,本来そうした手間を支援するのが授業支援システムの押さえるべきツボなのです。既存のシステムも含めて授業支援システムはまだまだ進化しなければなりませんし,現在の形を一度壊す必要があるのかも知れません。

 

 私は,こうした進化を実現できる一番近いところにいるのがMetaMoJi Share for ClassRoomだと考えています。それは同社のデジタルノートアプリNote/Shareのもつ実績や技術面からそう考えています。まだまだ備えて欲しいものが多いのも事実。しかし,今後着実に進化してくれることが期待できるのも確か。

 だから私は「本当の意味でデジタルノートを基盤とした授業支援システムが動き出します。今後の進化を刮目すべき製品です」とエンドース文を贈りました。

 理想的には,一般の私たちが日常や仕事で使用しているNote/Shareアプリが直接,必要に応じてMetaMoJi Share for ClassRoomシステムに接続する形がよいのです。今回発表された時点では,デジタルノートとシェアノートのデータ交換が可能であるといったところに留まっているのだと思いますが,それらがもっと融合する事になると思います。

 今後は個人のデジタルノートと授業のシェアノートの橋渡しがどれだけ柔軟に操作できるのかがこの手のシステムにとって大変重要な課題になると考えています。

 

 可能性を秘める技術が学校教育に生かされる事を心から願っていますし,それは今回の製品に限らず,他のどんな会社のどんな製品についても同様です。