東京ビッグサイトの教育ITソリューションEXPO(EDIX)が初日を迎えました。改めて言うまでもなく、EDIXは文教市場のビジネス展示会(商談会)という性格の強い催しです。専門セミナーなども用意されていますが,同じく教育展示会であるNew Education Expo(NEE)が前面に押し出しているのに比べるとおまけといった感じです。
それでも文教ビジネスが健全に回ることが、結果的には教育にも好影響が及ぶことが望ましいことを考えれば,EDIXに出展する企業とコミュニケーションをとって、ちゃんと把握することが大事だと思います。
商売絡みになると現場の先生方にとっては無縁な世界で、教育委員会や自治体関係者,私立学校や塾関係者がメインになりがちですが,むしろ実際に教壇に立つ先生や教員志望の学生がこういう場に触れるべきだと思います。(関東近隣の教員養成の授業で展示会見学レポートを課題に出してもいいくらいです。)
同時に、こういう機会に教育関係者が考えていることを伝えることも必要です。実際,驚くほど教育関係者と文教業者とが意見交換する機会は少ないのですし、一部の専門家や研究者がアドバイスするだけでは十分ではありません。業者のプレゼンを聞きながら,質問を投げ掛けたり,感想を述べてみることだけでも、お互いのコンセンサスを生み出せると思います。
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今年のEDIXは、昨年までのタブレット熱もだいぶ平熱に戻り、それぞれのソリューションを地道に育てている成果を披露しているといった印象です。
ただ、見た目の華やかさの一方で、先の見えない文教ビジネスの長いマラソンに耐え忍ぶ苦しさのようなものも透けて見えてきます。
一部の企業は国内市場とは別に海外での実験事業や市場開拓を模索し始めていますし,文教市場で馴染みのメーカーの出展がなかったり、Windows8問題にも象徴される見えない端末動向の行方など,すべてがハッピーというわけではないようです。
乗れるバスに乗る。みんながそのことに焦っているようでもあります。
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まだまだ詳しくみれていないブースが多いので、あれこれ回ろうと思います。
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第4回教育ITソリューションEXPO
今年も東京ビッグサイトで「教育ITソリューションEXPO(EDIX)」が開催されます。定点観測的に,今年も情報収集で会場をめぐろうと考えています。
今年はいつもの西ホールから東ホールにお引っ越し。長方形の会場になるので少しは回りやすくなるのかな。
残念ながらセミナーには申し込めなかったので,会場をめぐって,たまに都心でうろうろしたいと思います。
タブレット端末の学校への入り方
学校にタブレット端末を導入するといったニュースがあちこちで聞こえてきます。総務省のフューチャースクール推進事業は国レベルの実証事業でしたが、都道府県・市町村レベルで試験的あるいは実用投入する方向が示されたところもあります。
そもそもタブレット端末といった学校備品(と一応しておきます)は必要なのでしょうか。必要だとして,その入り方は1人1台なのでしょうか。
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もともと日本の学校は、学校設備や教材整備を重要視してきた伝統があるため、今日でも表面的には設備や教材について深刻な問題には直面していないとみなされています。
たとえば、児童生徒は教室に机と椅子が用意され,部屋の前に教卓と黒板が存在する風景をほぼすべての学校で想定することが出来ます。教科書は義務教育において無償給付制度がありますし、高校段階でも何らかの形で教科書は確保されるはずです。
しかし、その陰に隠れて、実は様々な備品や道具の整備や更新が不足していることは、世間で大々的に話題されることがありません。昨今では家庭の経済状況によって、自己負担する学習道具や教材を満足に購入できない事例も伝え聞きます。問題は給食費未払いだけではないのです。
学校図書室の蔵書の具合も,市町村ごとに力の入れ方が異なっているため,新しい図書が定期的に揃えられるところもあれば,なかなか入らないところもあります。更新の問題は特に深刻で,ぼろぼろの図書がばりばりの現役であることは珍しくありません。
机や椅子のように児童生徒1人1台が用意されているもの。黒板や学校図書などのように集団で共有する分を用意するもの。ドリルや絵の具といった個人負担するもの。
学校で利用するもの(教育アセット/教育リソース)は様々な形態をとっているわけで、これらの更新維持コストが高いことも容易に察することが出来ます。厳しい財政状況の中では,学校の資産を守りきれず,最低限の条件をかろうじて維持することで済ませているのが実状でしょう。
たとえるなら、サポート期限が切れると言われているものの、目的を達成するためならWindows XPは問題なく動いてくれるので,高いコスト支払って新しいWindowsマシンに更新する行動には移れないといった感じです。
あえて乱暴に言えば,いま教育の問題につきまとう最大の頭痛のタネは「銭勘定」なのです。限りある予算を何にどう振り向けるのかという「決断」の問題でもあり,さらにそれに伴う「説明責任」の問題が議論の多くを消費しています。
タブレット端末を入れる必要性があるかどうかは、正直なところ理屈をこねることは出来ても、そう納得するかしないかは立場によって異なります。費用対効果の面で納得させることが出来るかと問われれば,それは他の学校備品と同様に難しいのが実情です。
それでも、なにゆえ教育に必要だと考えるのかを責任を持って説明し,費用的な負担を決断することが出来るかどうか。そこがタブレット導入の鍵でしょう。
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さて、学校へのタブレット端末…これはいったいどこからやって来たなのか。
2006年頃から千葉や和歌山の学校でタブレット端末を導入した教育の実験事業が民間主導でスタートしたのを皮切りに,いくつかの先進的な自治体でモデル校導入がなされてきました。
もっともこの時期の「タブレット端末」は「変形するペン入力型ノートパソコン」で、コンシューマ市場では主流でなく傍流。特別なもの感が強かったことは否めませんでした。
しかし、2010年のiPadの登場によって、「タブレット端末」は「板形状のタッチ入力デバイス」であるとの認識が広まり始め、コンシューマ市場もノートパソコン一辺倒状態が崩れ始めていきました。この3年間におけるタブレット端末とタブレットPCという棲み分けの目まぐるしさにはため息が出そうです。
佐賀県は、2011年より3カ年計画で県独自のICT利活用教育推進の計画を立て、これを後押しするために総務省のフューチャースクール推進事業や絆プロジェクトなどの予算を積極的に利用しました。さらに県と市町村との密接な連携を組んで、ペースの異なる市町村の足並みを緩やかに揃える仕組みによってタブレット端末などの導入が行なわれています。
2013年5月に、佐賀県内で一番目立つ武雄市が2014年度以降に全小中学校へのタブレット端末導入方針を表明しましたが、この決断の波はじわじわと他市にも波及していくことになります。ちなみに5億円の予算計上を見込んでいるとの報道もありました。
前後しますが,2012年6月には、大阪市教委が全小中学校にタブレット端末導入の方向性を表明。2013、2014年のモデル校導入を経て、2015年以降に全小中学校導入を目指すとされ、システム開発費も含めた予算は8億円を計上する方針と報道されました。
2012年9月には、千葉県袖ケ浦市が全小中学校に数台ずつのタブレット端末を導入することがニュースになりました。同市は、iPadを生徒が自己購入して学校で活用していることで有名な袖ケ浦高校があり、そうした実績が影響しているとも言われています。
2013年2月には、東京都荒川区がタブレット端末を2013年度にモデル校導入し、2014年度以降に1人1台の導入を準備し,ゆくゆくは1万台規模の整備を目指すといいます。2013年度は小学校3校で5000万円規模の予算。小学校24校と中学校10校に揃えるとなれば、単純計算で7〜8億円ということになります。
お分かり通り,タブレット端末云々の話は、特定の都道府県・市町村の取組みとして動いています。教育行政の取組みはすべからく、学校の設置に責任を持つ地方自治体単位で進められていきます。
小泉政権時代から現在に至るまで「地方で出来ることは地方に…」というスローガンのもと地域主権(分権)への行政改革が進められました。負担を地域に押し付けたのではないかという問題はありますが、国がコントロールすることから地域のことは地域でコントロールするようになってきています。
文部科学省は、国レベルの将来を見据えなければならない立場上,ある程度は前のめり的な方針を立てる必要があります。一昔前なら、ひも付き補助金でも確保して、全国の教育委員会に対して号令をかけることも出来たかも知れませんが,いまはそういう時代ではなくなりました。
国が示した行き先は方向性として把握し,乗れるバスに乗れる自治体から乗り込むというというのが日本の教育行政の実情です。そして資金不足や行き先を決められずにバスを見送っている自治体が多いというのが現実です。
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タブレット端末を学校に入れるやり方は、現実としていろいろあり得ます。
バラバラにバスに乗れば,遠距離直通バスに乗った自治体と短距離バスを乗り継ぐ自治体とで「差」が付くことは当然ですし,バスを見送っている自治体と「格差」がつくことも本来は避けなければなりません。
その方法は、必ずしも似たようなバスに乗ることだけではなく,いま学校教育自体が見直されなければならない時代における様々な道のりを様々示して、自転車でも歩きでも歩ませることだと思います。
タブレット端末を1人1台入れるか、パソコン教室を置換える形で入れるか,学級に数台単位で入れるのか。どれが正解ということでもなく,必要に応じて選択できることが望ましいし,それがコスト的にできないすれば,他の手段も考える。ただそれだけのことなのだと思います。
できることから考えたいですね。
20130427 iPadを教育に活用しよう@Apple Store 銀座
2013年4月27日にアップルストア銀座のシアターフロアで「iPadを教育に活用しよう:先駆者に聞く実践とアプリケーション選びのコツ」というイベントがあり,登壇してきました。
書籍『iPad教育活用7つの秘訣』に登場したメンバーによるイベントとして企画され,紙面だけでなく直接本人がプレゼンすることで教育活用の秘訣を伝えることが目的でした。
私はコラム執筆組ですが,韓国の事情についてコラムを書いた佐賀県の中学校に勤めている中村純一先生と一緒に「日本と韓国、それぞれの課題」という題目で対談(掛け合い?)をしました。
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イベントについては、KDDIの野本さんが詳細なレポートを執筆公開されていますので、そちらを参照された方が雰囲気が伝わると思います。あとTogetterにもまとめられたようです。
2時間のイベントに11名の登壇者というのは、「じっくり」というよりは「テキパキ」と進めるくらいのボリュームです。ある意味メリハリのあるイベントとなりました。
登壇者の皆さんは、いろんな機会に発表やプレゼンをされている方々なので,スライドを効果的に使って印象的なプレゼンテーションをされていました。
もっとも私は上手で印象的なプレゼンを聞くよりも、もう少しiPadの教育活用について本音のところの話をじっくり聞いたり話したりしたかったので,今回のイベントの組み立ては少し残念だったのですが…場所がアップルストア銀座ですから、仕方ないですね。
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私たちのパートは,だいぶ時間が押していましたし、後ろにスーパープレゼン分野で知られる高校生の山本恭輔君が控え,さらには書籍のクロージングで登場している小池幸司氏と杉本真樹氏のパートが残っているので,ご一緒していた中村先生には申し訳なかったのですが,かなり巻き巻きの早口で私たちのパートを始めました。
日本についてのお話は最小限にして,韓国の事例を前面に中村先生からお話を伺う感じで構成しました。ほとんど打ち合わせしていなかったので,お互い即興で掛け合いプレゼンテーション。
韓国の有名な受験競争の話題から始まり,そのような教育文化の中に居る教師の日常という視点から,有名な教材コンテンツ提供サービスの「i-Scream」の紹介とクリック先生の問題、塾に行けない子や地方で十分教育が受けられない子のための「サイバー家庭学習」、教育情報総合サービスの「EDUNET」の話しなどに触れました。(詳しくは野本さんのレポートで。)
触れられなかった話題は山のように残っていましたが,それはまた中村先生にFacebook上で話題提供していただくことにして,早めに発表を切り上げました。
あとで、いろんな人から「話し足りなかったでしょw」と突っ込まれました。まあ、ほとんど何も語りませんでしたから,否定はしませんけれど ^_^;
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今回のイベントでは「iTeachers」というチームが提案され,書籍に登場した先生達が今後もあちこちでイベントや執筆原稿などでiPadの教育活用を広く情報発信していくことを宣言していました。(Facebookページ)
私は立場的にはサポーターなので,特にiTeacherとしての活動をする予定はありませんが,これらも含めて教育とiPadに関しての全体動向は引き続き注視していきたいと思っています。
「さんすう刑事ゼロ」
新学期が始まったということは,NHK学校放送も新しい番組がいくつかスタートしたということになります。
ご縁あってNHK教育放送企画検討会議に出席したことがあったので,早くから春の新番組を楽しみにしていました。
特定番組製作に関わってはいませんが,これもご縁あってある新番組の関係者の方々と事前の意見交換をしたことがありました。そんなわけで,今回のイチ押しは「さんすう刑事ゼロ」という番組です。
昨夏にパイロット番組が製作され,学校でも好評だったことから新番組と相成ったようです。ちなみに今日の学校放送番組(教育番組)はほとんどがインターネットで番組が公開されていますから,見逃してもネットで動画が見られます。
「さんすう刑事ゼロ」の主人公を演ずるのはモロ師岡さん。これだけでも一部の人々にはピピッと来てしまいますが,刑事サスペンスもののエッセンスを10分番組にぎゅーっと詰め込んだ贅沢なドラマづくりも視聴者をくすぐります。
実際に第1話と第2話が放送されましたが,反応は上々。
ネットの反応だけを見ていると,出演者の方たちのファンが集まってきて視聴しているようで,学校放送番組というよりは普通のミニドラマを楽しんでいるようなところがあります。
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番組のつくりを凝ったのはいいが,肝心の教育番組としての評価はどうか。
ドラマの世界観や脚本の面白さばかりに気を取られて,さんすう自体から注意がそれないか…という懸念は意見交換の時にも出てきた話題でした。それに刑事物というのは犯罪と隣り合わせですから,物語のベースが盗みに端を発していたりすることを問題視する立場もあるかも知れません。これは製作者側もそれなりに気を使っている部分のようです。
意見交換の場では私たちが交わした論点は,作り込みと毎回のねらいとのバランスをどちらも大事にすることでした。
昨年度の新番組「歴史にドキリ」は弾けた作りが個人的に好きな番組でしたが,授業で使うのは難しいところもありました。先生達にとっては,もう少し大人しい歴史番組の方が授業で見せやすいからです。一方で,子ども達にドキリ・ソングが好評だった面もあり,その辺がもう少しうまく噛み合えば…という課題が残りました。
「さんすう刑事ゼロ」もドラマとしての贅沢な作り込みが持ち味ですが,事件やトリックの奇抜さを前面に出し過ぎても算数の活用というねらいがぼやけてしまう懸念が心配されたわけです。
そこで,一つの解決策が「ドラマ展開のバターン化」だと思います。
この辺は第1話と第2話を見て,勝手に想像しているのですが,事件発生と推理と解決の展開順をパターン化し,できるだけ算数の謎が前面に出るように配慮した脚本を用意することを目指していると思います。
こうすると,動画を一時停止するタイミングも分かりやすくなるので,授業でも使いやすくなります。教室で考える場面も設定しやすいわけです。
そうした制約の中,出演者とゲスト出演者の魅力,脚本の面白さ,ドラマ舞台の贅沢で丁寧な作り,キャッチーなBGMの演出が番組の魅力を高めているのです。
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実際,私も繰り返し動画再生して見てしまうくらい面白いです。
ここから更なる算数の活用世界に導けるかどうかは先生や周りの大人次第ですが,このドラマの世界観を拝借しながら,発展的な内容を自分たちで事件化し,推理・解決するような活動が広がると面白いなと思います。
それにしても,ゲスト出演者のトップバッターが池田鉄洋さんで,第2回は小沢真珠さんとは,これはもはや学校放送番組の人選じゃありません。^_^ 記録に残るだけの番組ではなく,記憶に残る番組になるといいですね。