20120927 iPad出前授業−小学校編(ノートアプリNote Anytime)

 徳島県のデジタルコンテンツ事業に関連して,上勝町にある小中学校に出前授業に出かけ始めました。上勝町は映画「人生,いろどり」の舞台となった町です。

 小中学校にはiPadが10数台導入されていて、これを使って児童生徒がデジタルコンテンツ制作に触れることを通して、県としての人材育成を盛り上げていこうというのが事業の趣旨だときいています。

 というわけで,この日は昨日の中学校に続いて、小学校の出前授業です。

 小学校では,中学校が写真や動画を中心とした制作になるのとは少し雰囲気が違って、新聞やポスター,チラシ制作といった雰囲気になっています。いままでも紙など使ってやっていた取組みでもあります。

 今回はiPadを使って新聞,ポスターやチラシを作る事になったわけです。

 けれども,iPadを使っている皆さんはなんとなく想像できるかと思いますが、実はiPadで新聞やポスター,チラシづくりをするのは「できなくはないがたいへん」。

 いままで,紙の上に想像力をぶつけて自由に作品を作ってきた小学生に,iPadのアプリを使って同じようなものをつくれというのは,パソコンでつくること以上にハードルの高いことです。何故かというと,それほど柔軟性のあるアプリがないから…。

 AppleのPagesやKeynoteがあるじゃないか!

 CMを見るといとも簡単に作品を作れそうな雰囲気が伝わってきますよね。素晴らしいデザインのテンプレートもあるし、図形を動かすのも指一本で簡単そうです。

 けれども,新聞づくりはテンプレートでできるものじゃありませんし、図形だって異動や拡大縮小ができればいいってわけじゃありません。

 テキストボックスを頑張って組み合わせれば,それなりの作品を作ることはできないわけではありませんが、皆さんはPagesやKeynoteがシンプルさを追求するあまり,一つのボタンや階層にいろんなものを詰め込み過ぎていることから目をそらしているのです。

 しかもPagesもKeynoteも自由線を描くことができません。消しゴム機能もありません。手書きの文字を見出しに使いたい時にはどうすればよいのでしょう。

 準備段階から,この問題は私を大いに悩ませました。

 他にも選択肢は模索しました。ポスターづくりをするのだからドローアプリ(iDrawやTouchDraw)を使ったらどうだろうか、あるいはノートアプリの中から使いやすいものを探そうか。けれどもどれも一長一短。使っていると何かしら自由がきかない感覚に陥るものばかりです。(neu.シリーズのアプリは無料だし,いい線いっているのですが,デザイン等がアメリカン過ぎるのが残念)

 いろいろ提案してみたものの、結局は一番馴染みのあるのはワープロだから、ワープロアプリのPagesにしましょう,というのが前日までの予定だったのです。そのための研修も先生たちに向けてしてありました。

 ところが運命は,中学校で私たちが写真共有に苦労している間に,新しいアプリをもたらしてくれていました。それがNote Anytimeです。

 MetaMoji社がこの度リリースした新しいノートアプリ「Note Anytime」を知ったのは,中学校の出前授業から帰ってきて,バタンと倒れて起きてから見たニュースでした。

 さっそくダウンロードして試してみたところ鳥肌が立ちました。

 いままでのノートアプリが備えてきた機能をほとんどサポートし、しかもPDFなどの読み込み書き込みもでき,初代iPadでもストレスなく軽快に使え、操作も直感的です。それでいて無料でリリースされていたのです。

 これは使えるんじゃないかと思いました。

 けれども,いままでPagesを前提にお話してきたのに,出たばかりのアプリを当日になって持ち出して,子どもたちに使ってもらおうというのは,ちょっと躊躇いもありました。正直なところ、迷ったままで朝から小学校へ向かうことになりました。

 少し早く小学校に着いて,機器について若い男性の職員の方からの質問に答えていた時に相手から,どうも子どもたちはPagesの操作が大変みたいだということを聞きました。

 ああ,そうか,やっぱり大変なんだ。これはもう提案してみるしかない。

 そう思って職員さんに話を持ちかけて「これどう思いますか」と聞いたら,職員さんもNote Anytimeのニュースや噂を聞いていたようで,「確かによさそうですよね」となり,すっかり盛り上がったのをいいことに2人で学校のiPadにさっそくインストール。

 というわけで,突然「小学生向けNote Anytime講習」を行なうことになりました。たぶん,日本でも10番目内くらいには入る早さじゃないかな?(小学校の先生の中にもiPadファンはいるので,さすがに1番じゃないだろうと思います)

 結果は上々。

 初めてのアプリですが、アイコンも子どもが踊っている感じが探しやすくて良かったし(大人ユーザーには評判悪いみたいですが…)、自由度や柔軟性の高さのおかげで子どもたちがやりたいことの多くにちゃんと使えていましたし、ライブラリもイラストが用意されているという点が子どもたちには嬉しかったみたいです。

 ボタンは「ペン」「消しゴム」「投げ縄」「テキスト」のツールと,戻る進むボタン,写真アルバムからのボタン,そしてキャビネットに戻ることが分かれば,あとはいろいろ試して慣れていってくれます。

 多少,メニューの言葉遣いや表記が難しかったり(ユニット書式とかDoneとCancelとか)、投げ縄の直後の表示状態にちょっと戸惑ったり(点線の囲みがちょっと印象が強いかな),ポスターつくるためのA3サイズがなかったり(それでもA4とかちゃんと用紙設定できるのは素晴らしい),基本図形がなかったり(直線や丸三角,吹き出しなど)でもう一歩というところもありますが、初めてのリリースでここまで完成させていることに,まずは拍手を送りたい。

 先生たちも自由に創作している様子を見て,初めてのアプリだけど好感を持ってくれたような感じでした。Pagesでつくったものも,PDFにして転送すればNote Anytimeに背景として引き継げるので,連携して使ってもいいかも知れません。

 6年生と5年生に使ってもらいましたが、どちらの学年も上手に使いこなしていました。5年生は元気な子も多くて、ライブラリ機能のダウンロードを試してみたりと,ちょっと先生にとってはハラハラする感じではありましたが、無料ということもあってとりあえずやってみたらうまくいって楽しそうでした。

 そんな感じで,作品づくりへの可能性が少し広がったかなと思えた出前授業でした。新しいアプリに感謝感謝。

 Note Anytimeは,もしDropboxアプリと連携させれば、PDFファイルをダウンロード/アップロードすることも可能になります。つまり,PDFの学習ワークシートをDropboxで配布して、Note Anytimeで書き込ませてDropboxに送ってアップロードするという作業フローが実現します。どちらも無料アプリで。
 (※連携するアプリケーションの選択方法がiOS5とiOS6とで変わっています。iOS5ではリストに10個程度しか表示できないそうです。そのため,連携可能アプリが多いと順番次第で選択できないことがあります。iOS6だとアイコン形式で表示をフリックすることで多くの選択肢の中から選べるようです。)

 さらに有料の追加機能(アドオン)もあって,手書き変換アドオン(600円)は,手書きの文字をテキスト文字に変換してくれるという優れもの。「7notes」という先行アプリで提供されている機能として,高い評価を得ています。

 小学生が,手書き変換機能を使うべきかどうかは議論の分かれるところですが,一つの道具としては用意されていてもよいのではないかと思います。漢字学習への影響云々という問題指摘も出てくるとは思いますが、要するに別途ちゃんと学習指導しているかどうかはアプリの機能一つで左右される話ではないのですから、その辺はちゃんと議論を交通整理すれば解決する話と思います。

 私としては,デジタルポートフォリオの活用のためにも,検索可能性を確保できる点で手書き変換機能は積極的に利用してもよいのではないかと考えています。

 というわけで,昨日今日はiPadの教育利用について,慌ただしく実践をしていたわけですが、さらに今回リリースされたNote Anytimeの衝撃に興奮さめやらぬというところです。皆さんもぜひ試してみてはいかがでしょうか。

20120926 iPad出前授業−中学校編(写真アプリを使いこなす)

 徳島県上勝町の小中学校への出前授業が本格的にスタートしました。(参考リンク:徳島県商工労働部企業支援課「平成24年度 デジタルコンテンツ出前講座実施事業の支援校決定について」)

 ご縁があってiPadを活用したデジタルコンテンツ作成の授業を担当することになって、昨日今日と小中学校にお邪魔して児童生徒の前に立つことになりました。テーマは次のとおりです。

 中学校「iPadを利用した映像の撮影や編集、CMやポスターの制作について」

 小学校「iPadを利用したポスターや学級新聞の制作について」

 上勝町の小中学校には,それぞれ初代iPadが10台,iPad2が小学校に1台,中学校に3台という機器構成。電子黒板や液晶プロジェクタは数台という感じの設備です。

 本格的にスタートする前に、夏休み前から学校にはお邪魔して,先生たちにiPadの使い方講習もしました。慣れてない先生もいましたし、異動もあってゼロからのスタート。

 私も突然お邪魔する環境で何ができるのかといったところで悩んだりしましたが、改めてiPadの教育利用について整理していく中で,できそうなこともいろいろあることが分かってきました。幸い,有料アプリの購入を認めてくれるという教育委員会の寛大さもあって,準備に大きな苦労はありませんでした。

 26日に中学校を訪れてやったことは,デジタル写真のiPad上での扱いでした。

 作品づくりをするために写真が不可欠のことは多いですが、初代iPadで写真を扱うのにはどうしたらよいのでしょうか。

 まずiPad自体が,写真をどこに保存しているのかを紹介しました。標準アプリ「写真」です。意外とこのアプリ(?)は奥が深くて、写真や動画のしまわれ方をしっかりイメージしないと難しいのです。

 その奥深さの象徴が写真アプリ画面の上にある「タブ」です。条件によって「写真」「アルバム」と2つしかない場合もあれば、「写真」「フォトストリーム」「アルバム」「イベント」「撮影地」などと増えたりもします。

 まずiPadの中に保管されている写真をバラバラに閲覧する「写真」とそれをまとめて整理する「アルバム」があることを紹介しました。アルバムは自分で作ることもできます。

 そしてどうやって写真を取り込むのか…。

 iPad2にはカメラが付いていますから,カメラアプリを使って撮影すれば自動的に写真アプリに保管されますが、初代iPadは残念ながらカメラがありません。

 そこでコンパクトデジタルカメラと組み合わせるという方法をとることにしました。幸いデジカメは活動に十分な数が用意されていました(規模が小さい学校なので台数はそんなに必要ない)ので,デジカメで撮影した写真や動画をメモリカード経由で転送する方法を紹介したというわけです。これならアダプタを用意するだけでOK。

 メモリカードを初代iPadに繋げれば,写真の取り込み機能が自動的に動き始めますので、実際に目の前で撮影した写真を取り込んでもらいました。

 それが分かったら,さぁ実習!

 まだ中学校のことを知らない私に向けて,学校のことを伝えるための4コマ作品を写真で作ってくださいという課題を出しました。

 デジカメとiPad2を持ち出して,学校中に散らばって素材となる写真を撮影してくれました。そして物語っぽく4つの写真を並べて,いざ発表。いま撮ったばかりの自分たちや先生の写真を使った作品はやっぱり盛り上がりますね。物語になっていなくても,無理やり物語に仕立てる強引さもウケて楽しかったです。

 というわけで出前授業修了。

 え?という感じですが、まぁ,こんなところから興味をかき立てないとね。次回から本格的にやっていきます。

 写真アプリに関連して,先生方からの相談。

 パソコンに整理保管してある写真をiPadに転送するにはどうしたらよいか?

 この要求は,デジカメの写真を取り込むより難しいのです。

 一つはiTunesソフトを使って同期する方法。けれども,これは複数台に転送するには手間がかかるし、必要な写真がある毎に毎度同期するのが大変。

 そこでフォトストリームを活用するという方法がもう一つ。

 フォトストリーム機能を使えば,同じApple IDで使用している場合に限って,パソコンとiPad同士でフォトストリーム内の写真を共有できます。お互いが新たに保管した写真をネット経由で自動的に共有できるので手間がない。

 しかしこの方法は,フォトストリームという大きなフォルダにとにかく放り込んで共有するという感じなので、順番だとかフォルダごとの整理とかができない。しかもフォトストリームは1000枚(あるいは30日間)までの制限付きなので,溢れると古いものから消えていくのです。

 というわけで,すでに撮影してある写真を手間無く共有するって大変だなぁといった感じだったのですが、iOS6になってから新しく「共有フォトストリーム」というものが登場しました。

 これは何でもかんでも放り込むフォルダだった「フォトストリーム(自分のフォトストリーム)」と違って,目的別のフォトストリームを自分で作れるというものです。

 一般的には自分の写真をWebで公開する機能として宣伝されたり受け止められましたが、外部公開する機能だけでなく、公開しないで自分だけでいくつもフォトストリームがつくれちゃうという機能でもあるのです。

 たとえば,中学校なら「1年生フォトストリーム」「2年生フォトストリーム」「3年生フォトストリーム」という3つのフォトストリームをつくっておくと、希望するフォトストリームに写真を選択的に流す(保管する)ことができるのです。

 他にも教科別フォトストリームとか,班別フォトストリームとか,そういうふうに分けておくと,実際に使う時に写真が見つけやすいというわけです。

 しかも,フォトストリームはネットワーク経由で自動的に同期されますから、わざわざにiPadをパソコンに接続して作業する手間がいりません。パソコン上に整理保管された過去の写真から必要に応じて共有フォトストリームにコピーをしてあげれば,すぐに各iPadに届くというわけです。

 共有フォトストリームは,学校でiPadを使う場合には,かなり有用な機能ですが、残念ながらサポートしているのはiOS6から…。iOS5.1.1までしか対応しない初代iPadの場合は従来のフォトストリームのみです。

 そして,まだ調べ足りず不明なのですが、共有フォトストリームにも制限があるのではないかということです。もしかしたら従来のフォトストリームの1000枚制限の中に含まれるかも知れませんし、あるいは別の制限ルールがあるかも知れません。

 というわけで,長期に保管する場所として共有ストリームを使うことは難しそうなのですが、その点が不明なことを除けば,とても重宝する機能です。

 そんなこんなで,授業が終わった後も中学校にあるWindowsパソコンとiPadの接続について,あれこれお手伝いしてから、帰路につきました。次回は,修学旅行などの行事が挟まって,少し先になりそうです。

20120710-11 上勝小学校・中学校訪問

 徳島県上勝町という場所があります。山間部にあるのどかな町で,そこに小学校と中学校が1つずつあり,それぞれiPadを10台ほど導入しているのです。
 徳島県の商工労働部の企業支援課では人材育成を目的として「デジタルコンテンツ出前講座実施事業」を行なっています。その実施校として上勝町の小学校と中学校も選ばれました。そして出前講師が私になったというお話。

 2学期から2つの学校に通って出前講座を行ない,デジタルコンテンツをつくることになっています。えっと…「ポスターや学級新聞の制作」とか「映像の撮影や編集、CMやポスターの制作」とか書いてありますね。いま初めて知りました ^_^;
 本番は始まっていませんが,先生方への研修も合わせてやって欲しいという要望があったのでお邪魔してきたというわけです。
 簡単にiPadについての基礎知識とアプリをデモンストレーションしてました。中学校では生徒たちとも顔合わせをして,面白いアプリを見せてみんなで盛り上がっていました。

 どちらの学校も初代iPadなので,デジカメの写真や動画をどのように取り込むのかという点がネックになるところ。カメラ接続キットは購入してもらわないといけないなぁといった感じです。
 幸い中学校にはカメラ付iPad2が3台ほどあるので,それらも活用しながら作品のづくりをしていくことになりそうです。
 また,地デジや電子黒板に映し出す方法としてApple TVをデモすると,やはり便利そうだという話になりました。

 そんなこんなで,電気屋のセールスマンみたいなことをして,とりあえずは片づけておきたい基礎的情報の提供は終了。
 次回は夏休み過ぎてから,いよいよコンテンツづくりの本番です。
 地域に貢献できるからと気軽に引き受けたものの,後期は職場の授業と出前講座といろいろ慌ただしい日々になりそうです。さて,体力が持ちますかどうか…。

教育ITソリューションEXPO 2012

 2012年5月16日から東京ビックサイトで「教育ITソリューションEXPO」を開催しています。せっかくなので教育ICTに関する最新動向の調査をするため参加してます。
 かなり大規模な展示会で、主要企業が何らかの形で出展してることもあり、情報収集には良い機会。しかし、平日開催であることや、来場者も教育企業や自治体関係者、大学関係者が多いため、小中高校の先生方にとっては距離が遠い催事でもあります。
 少しでも情報が伝わればと思って会場からのツイートをしてみたりしますが、前述したように客層が硬い人たちばかりなので、私以外のツイートはほとんどないといった状況ですし、大して反応もないのでちょっと寂しいところ。
 まぁ、教育展示会としては老舗のNEW Education Expoが別にあり、そちらは教育現場との距離も近いので、うまく棲み分けていると考えればいいのかも知れません。

 さんざん教育のICTを追っかけているお前が展示ブースを見て回ることに意味があるのか、と思われてしまいそうですが、展示そのものよりもお客さんの反応を見に行っている部分も大きいのです。
 私自身にとってはだいぶ見慣れた商品やサービスを、普通の来場者は喰いついてるのかどうなのか…。
 今回、会場を回って感じたことは、目新しいものは多くないということです。
 ハードウェアに関していえば、電子黒板ソリューションが目立っていましたが、液晶やプラズマによるディスプレイの大型化というわかりやすい進化を除けば、電子黒板としての機能は何年も前からすでに出来上がっている状態。大手電機メーカーの決算に関する昨今のニュースを思うと、価格の問題は簡単じゃないことも感じます。
 また、情報端末に関しては、シャープの学習端末が目立って展示されている以外は、いずれも控えめな露出といった風で、学習者用情報端末に主役としての勢いはありません。タイミング的にWindows8待ちの中途半端な時期であることも原因でしょう。Androidに関してはフラグメンテーションやマシンパワー不足などがあともう一息で解消するという、これまた中途半端な時期だけに、本腰が入らないのも仕方ないのでしょう。
 ソフトウェアは、様々な企業が趣向を凝らして開発していますが、部分的な目新しさを除くと、ジャンルとしてはタイプがほぼ出尽くしているので、見た目や使いやすさで差別化をしていくくらいしかないといったところです。
 それでも教育の情報化市場の拡大を期待して、様々な企業がいまある商材を持ち寄って熱烈アピールをしているわけです。また、そうしたものに初めて接する来場者も少なくなかったりします。

 幸い、フューチャースクールや学びのイノベーション、絆プロジェクト、教育スクウェア×ICT、DiTT実証実験などの実践事例が充実してきたこともあり、単に商品が存在するのではなく、具体的な活用と共に示されていることは今までにない傾向です。
 また、デジタル教科書に関しても、実際のデジタルコンテンツの充実と関係する団体や政府の動きの活発化もあって、盛り上がりが感じられるようです。
 こうした雰囲気が良い方向へと展開していくことを願いつつ、一方で、道具を活かすカリキュラムや教育方法の蓄積がますます重視されなければならないのだと思います。

新しいICTカリキュラムは…

 英国でBETTという教育とテクノロジーに関する展示会が行なわれている。毎年大規模に行なわれるので,世界中のICT活用教育関係者が注目したり参加したりしている。

 さまざまなブースが構えられた展示会も賑やかだが,同時に開催されているセミナーや講演会なども盛りだくさんで,英国の教育大臣がスピーチする機会もある。

 今年の教育大臣(Michael Gove)のスピーチがニュースになっている。

 今年9月をめどに現在のICTカリキュラムを抜本的に再設計するための作業に着手するのだという。もっと時代に合ったものにするのだとか。

 これだけならば,毎年行なわれるリップサービスみたいなものだが,どうもスピーチの内容が現在のカリキュラムについて過激に表現し,新しいカリキュラムの考え方が大胆でニュースらしい…。

 曰く,「現在のカリキュラムはとても取っつきにくく,意欲をかなり喪失させ,全然活気がない(the current curriculum is too off-putting, too demotivating, too dull.)」とか「現在のカリキュラムは英国の学生たちを技術変革の最前線で働けるようにはしない(the current curriculum cannot prepare British students to work at the very forefront of technological change)」など…。

 一部のWeb記事では,WordやExcel,PowePointの代わりにプログラミング教育に力を入れるのだという解釈をしている。

 大学におけるコンピュータ・サイエンスを盛り上げようという文脈が語られたり,今どきの子どもたちはスマートフォン・アプリのプログラミングもしているといったエピソードも交えて話題になっているようなので,確かにプログラミングも新しいICTカリキュラムの射程に含まれるのだろう。

 ただ,それは単に最前線に関する分かりやすいトピックスがそれらであるというだけで,ことの本質は,変革する世界に学校教育とカリキュラムを合わせようとする,その動きそのものである。

 そういう意味では「学びのイノベーション」なんて名前を付けて何かをしようとしていた某国の取り組みは,発想としてはいい線をいっているし,それを主導できる世界的な人材も国内にあるのだから,やっと英国詣主義から抜け出すチャンスであった。けれども,政治の不安定さと経済不況がそれを不意にした…とでも書いておこうか。

 英国も同じ条件ではあるし,教師教育の問題,実際に組み立てられるカリキュラムに対する批判など課題も山積していて,今回のスピーチ内容が実現するのかどうかはいつもながら怪しいが,それでも,今回のスピーチに目新しい点があるとすれば「Disapplying the Programme of Study」という考え方である。

 Gove教育大臣は「Disapplying the Programme of Study」として,新しいカリキュラムを、従来のように教育プログラムを開発して、教師研修をし、すぐ廃れてしまうGCSESテストを課すという手法では「やらない」と宣言した。

 「学校におけるテクノロジーは,もはや政府によって細かにマネジメントされません。教育課程を引っ込めることで,学校と教師が何をどのように教えるのかに関して自由にし,私たちが知るICTに大変革させます。(Technology in schools will no longer be micromanaged by Whitehall. By withdrawing the Programme of Study, we’re giving schools and teachers freedom over what and how to teach; revolutionising ICT as we know it.)」

 そこに大学や企業がいろんな教育プログラムやリソースを提供する余地が生まれる…なんてことなども述べている。

 その他にも「An open-source curriculum」なんて言葉など,いやはやカリキュラムをいくらか生業としている人間にとっては垂涎ものの単語がオンパレードなスピーチであるが,こんなことを一国の教育大臣がスピーチするのだから,リップサービスで済まされるものではない。

 英国における教育の情報化は,学校と教師レベルに裁量を与える本格的な段階へと突入しそうな勢いである。それがどの程度のものになるかは,今後の行方を注視したいところだ。ってまた英国詣が賑やかになるのかな。

 日本の場合,学校教育に関する学校や教師の裁量が限定的なものになっていることや,それを引き起こしている複雑奇怪な権限分散制度の問題など,改善したら良いと思われる事柄はとっくの昔から判明しているのであるが,残念ながら時間がかかっている。

 フューチャースクール推進事業などでは,事業の中で各学校にある程度の予算枠ようなものがあり,学校の裁量で若干のリソースをそろえられるという点など,現実として良い効果が確かめられている。ICT支援員さんが常駐していることもICT活用に幅の広さを生んでいる。

 もう少し学校が自分たちのカリキュラムに向きあうための権利やリソースを提供するという方向に向かわないと,日本の学校教育は,旧きものに縛られていることから抜け出すだけでも相当な労力を強いられ,新しい変革する世界に対応することに体力を向けられなくなってしまうように思う。

 新しいICTカリキュラムの中身も確かに大事だが,実は新しいICTカリキュラムを学校自身がつくっていける環境整備をするという点,もっと考えなければならない。