関西大学初等部の研究発表会に参加してきました。
昨年初めて参加し,そこで見た思考スキルを育成する取組みがどのように展開しているのかを確かめたくて今年も参加しました。
思考ツールを活用した授業実践は全国数あれど,それを小学校の全学年を通したカリキュラムに位置づけて扱おうとしているのは関西大学初等部くらいでしょう。そういう意味でも大変注目を集めています。
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今回,思考スキルを学習する「ミューズ学習」と総合的な学習の時間を組み合わせた5年生の実践を見せてもらい,その協議会に参加しました。
実は,この2時間(ミューズと総合)は「私たちにできる国際貢献」を考えるというテーマで繋がっていました。それゆえ,思考スキル(方法)を扱うミューズ学習の時間で「国際貢献」(内容)に引っ張られてしまうといった課題も見出されるものでした。
協議会の場は,そのような方法と内容の混乱についての指摘を中心として展開していたのですが,そこから興味深いテーマがあることに気がつきました。
思考スキルを6年間かけて習得するのが関西大学初等部の特徴ですが,思考スキルの習得,つまり設定された6つの思考ツールの理解と活用習得は6年間かけるほどのことはありません。それ自体は1年生から4年生までの間に達成できるでしょう。
であれば,5,6年生は思考スキルを高度に使いこなすことが求められることになるわけですが,それは思考ツールを複雑に組み合わせて使うことを意味するのでしょうか。
私はそこに「他者」の設定が加味されるようになるのだと解釈しました。
それまで自分や友達同士での理解のために思考ツールを用いて整理したり解釈したり組み立てたりしていたわけですが,それがある程度達成できれば,今度は思考ツールを持たない者とのコミュニケーションを前提とした活動へと進むのではないか。
確かにこれまでも先生や友達という他者に対して説明をするために思考ツールを利用することは行なわれてきたと思われますが,先生も友達も思考スキルを共に学んだ者同士であり,同じプラットフォームを共有する者として本質的な他者とはいえません。
むしろ,思考ツールというプラットフォームを共有しない者に対して,思考ツールを使って考えた物事をどう伝えるのか,どうコミュニケーションとるのかということは,高次な他者とのやりとりともいえます。
もしかしたら,今回のミューズ学習はそのような視点で構成することで,内容に引っ張られることを防げたのではないかとも思えたのです。
というのも,総合の時間は外部から大学生を招いてグループ毎に活動するという授業が展開されたわけで,大学生と児童達とのコミュニケーションは,そのような高次な他者とのやり取りだと思えるからです。
ミューズ学習の時に「大学生に思考ツールを使ってどう伝えるのか」という目標が明確化されていれば,内容の議論へと引っ張られることを少しは防げたのではないかと思います。
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こうした具体的な授業づくりに関する課題を着実に解決していくことで,思考スキルの学習の取組みが前進していくことが期待されます。
思考スキルという捉え方は,特別なものではなく,むしろ世界的には当たり前の学習主題でもあります。もっと広く認知され,当たり前のように取り入れられるようになることを期待したいところです。
タグ: 教育
20130109 NHK関係者来研
徳島での日常も再開した頃。東京から今年初めてのお客様。
NHK学校放送番組を制作している皆さんがりんラボを訪問してくださいました。昨年12月に行なわれた「NHK教育放送企画検討会議」に出席させていただいた際に,私の話に興味を持っていただいたことがきっかけのようです。
学校放送番組は毎年いくつかの新番組をスタートさせますが,そのためにパイロット番組を一本制作して,それをもとに学校の先生方や専門家,研究者の意見を拾いながら企画を練ったり膨らませたりします。今回は,とある算数番組について,私にもそのインタビューが回ってきたというわけなのです。
番組についての感想と気がついた点などをお話ししながら,こうすると面白いのではないか,こうすると分かりやすいのではないか,番組側で用意する教材はこういう感じのものがあり得るのではないか…などなどおしゃべりしながら意見交換してました。
今後は協働的な学びも積極的に取り入れられるようになるのではないかという動向のお話とともに,教材も共通のものだけではなく個別に異なる素材が用意されたコンボレーションを促すものに発展することも面白いのではないかという話。また「反転授業」というキーワードも最近はちらほら注目されていることなどを伝えると関心を持たれたようです。
お相手は少なからず教育番組制作の経験を積み重ねられてきた方々なので,番組制作に関して素人の私が何を語っても太刀打ちできるはずがありませんが,いくつかの教育動向については初耳であったようなので,私の知る範囲で情報提供させていただきました。
何かお役に立ったのかどうかは,正直なところわかりませんが,久し振りの来客で研究室を少し掃除できたことはよかったなぁと思います。^_^;
20130105 東京出張
新年は東京出張から始まりました。
堀田先生を中心に動いている「義務教育段階の情報教育に関する次世代教育課程の教育内容に関する研究」でフューチャースクール推進事業実証校の視察報告をするためです。
参加している先生方は様々な分野に分かれて研究を積み上げられており,その情報共有と今後の方向性のすり合わせなどが行なわれました。
私はどちらかといえば渡り鳥のような人間なので,旅回りの報告とか,方々の動向を把握することしかできないので,ぼちぼち研究者から教育写真家への転身を勧められたくらいです。そのうち写真集でも出版しようかと思います。
それはともかくとして,次期学習指導要領を見据えた検討作業はあつこちで少しずつ始まっており,こうした議論の立ち上がりの時にどれだけ材料を揃えておけるかが重要なポイントとなるだけに,今年,様々な成果が期待されるというところなのだと思います。
日本の学校に大画面はあるか?
日本の学校の大画面といえば「黒板」や「掲示板」ということになりますが、ほとんどの教室に常設されているでしょうから,更新問題はあれど導入問題は考える必要もないと思います。ここで話題にしたいことは,テレビを始めとした大画面メディアのこと。
このブログでは「メディアプアな日本の中等教育」「テレビも少ない日本の学校」という記事でテレビの設置台数について話題にしてきました。
グラフで視覚化すると,中学校と高等学校(中等教育段階)のテレビ導入台数が満足できるものではないということが浮かび上がったわけです。
しかし,こういう問いも生まれます。
「テレビが少ないのはわかった。でも,何か大画面を実現する機器が別にあればよいのではないか?」
確かに,テレビ番組やデジタル教材を表示させる方法はテレビだけではありません。大画面であれば電子黒板とか,プロジェクタとかもカウントすべきではないのか?
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あらためて文部科学省の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」から大画面にあたる項目を取り出して,グラフに足してみました。
小学校
中学校
高等学校
特別支援学校
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再度,普通教室に注目して設置台数の割合を書き出してみると…小学校 96%,中学校 55%,高等学校 20%,特別支援学校 42%には大画面が備えられていることになります。
テレビだけに着目したときよりも少しマシな数値になりましたが、小学校を除いて満足できる数値ではないことは変わりません。また当然ながら,それらが「常設状態にあるとは限らない」という問題はありますし、「頻繁に活用されている状態にある」かもわかりません。
学校までもがメディアにまみれることを恐れたり懸念する考え方もあるとは思いますが、学校という場がメディアを適切に使いこなしたり遠ざけたりする距離感を育むための環境にないのは問題が多いと私は思います。