『デジタル社会の学びのかたち 教育とテクノロジの再考』

新バージョンが出ています。


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  A・コリンズ/R・ハルバーソン 著(稲垣忠 編訳) 『デジタル社会の学びのかたち 教育とテクノロジの再考』 北大路書房 http://www.amazon.co.jp/dp/4762827908

 新しい書籍が出ます。

 

 ”Rethinking Education in the Age of Technology: The Digital Revolution and Schooling in America”(→amazon.com)という洋書の翻訳本です。

 教育とテクノロジの関係について様々な見解が飛び交っているようですが、じっくりと深く考えてもらえているかどうかと問えば、残念ながら、印象や直感、あるいは個人的経験から意見を述べるものが多いのではないでしょうか。

 この書は、アメリカの事例や歴史を用いてはいますが、この問題を深く掘り下げた内容となっています。  米アマゾンでの評判も悪くないですし、翻訳版には日本の読者向けの座談会記録も用意されていますので、この分野に関心のある方は是非。推薦のことばを引用します。

 

推薦のことば

 「コリンズとハルバーソンは、学校をデジタル時代に連れ出すために、さらには学校を超えて、テクノロジが教育を豊かにするための、大胆なビジョンを示している」
 アダム・ガモラン ウィスコンシン大学マディソン校教育学部長

 「学校は問題を抱えたコンセプトである。コリンズとハルバーソンはなぜそうなのか、 私たちには何ができるのかについて、確信をもっている」
 ロジャー・シャンク 元エール大学およびノースウェスタン大学元教授  『学習・eラーニング・研修におけるストーリーと学習』の著者

 「学校の内外で行われたここ何十年かの研究を描くことで、コリンズとハルバーソンは、テクノロジが現在の教育に対してどのような課題と、新たな機会を投げかけているのかについて、鋭く、一貫性のある分析をしている。テクノロジに満たされた世界を生きる将来の世代が何をするべきか、関心のある親、教育者、学生にとって読んでおくべき1冊である」
 カート・スクワイア ウィスコンシン大学マディソン校  『コンテンツからコンテキストへ −−経験をデザインするテレビゲーム』の著者

 「力作だ。著者は広範な事象を取り上げるだけなく、それを深いレベルでまとめあげている。鋭く(時に息をのむほどの)洞察を、現在の苦境にあえぐ教育に投げかけている。それは、デジタルという特権を与えられたテクノロジ・リッチな日常生活と、私たちが学校とよぶ、時代遅れの産業モデルの学習との間で綱引きが起きているという真実である。私は本書を教育について真剣に考えているすべての人に勧める。歴史的な事実としてだけでなく、未来の世代を担うすべての人々、教育学や社会学を学ぶ者、教師、親、デザイナー、生涯学び続ける人々への願いでもあるからである。コリンズとハ ルバーソンは今日のグローバル化・ネットワーク化・『フラット化』(フリードマン)が進む社会において新たな『ホーレス・マン』に十分なり得るのではないだろうか」
 コンスタンス・ステインケラー ウィスコンシン大学マディソン校  『教育工学としてのMMOG(多人数オンラインゲーム)』の著者

 「学校の外で、あるいは生涯にわたって学習者に広がりつつあることをふまえて教育の本質を再考することは、今世紀に私たちが取り組むべき中心的な課題の1つである。コリンズとハルバーソンは、第2の教育革命を描いている。テクノロジをいかした社会デザインがもたらす価値や機会が、どのように学習環境をこれまで主流だった『学校』から拡張されていくべきか、そしてされていくのかを示している。教育に関心のあるものすべてが読むべきだ」
 ロイ・ピー スタンフォード大学  『テクノロジ・平等性・学校教育』の著者

 この翻訳本は、稲垣忠先生に声をかけられた仲間で作業しました。

 稲垣忠(東北学院大学)

 亀井美穂子(椙山女学園大学)

 小川真理子(椙山女学園大学)

 林向達(徳島文理大学)

 金子大輔(北星学園大学)

 益川弘如(静岡大学)

 藤谷哲(目白大学)

 深見俊崇(島根大学)

 というわけで、私もお手伝いをさせていただきました。いやはや、大変な作業でした。共同作業のおかげでなんとか終わったようなものです。

 そんな苦労の末の一冊、ぜひご一読を。

研究発表「日本の教育情報化の実態調査と歴史的変遷」

 徳島県FS実証校である東みよし町立足代小学校の公開授業の翌日に岡山大学へ移動して,JSET(日本教育工学会)研究会で研究発表しました。

20121027 日本教育工学会研究会@岡山大学
林向達「日本の教育情報化の実態調査と歴史的変遷
 日本教育工学会研究報告集, 12(4), pp139-146
発表原稿PDF
https://dl.dropbox.com/u/6195338/rin_jset20121027.pdf
(Googleドライブ:https://docs.google.com/open?id=0BxBSvLJGifj0S1RrZ3JRMWs4SGc)同一ファイル
発表スライド
http://www.slideshare.net/kotatsurin/jset20121027
(グラフ:編集利用可能)
コンピュータ整備台数内訳.ai
https://docs.google.com/open?id=0BxBSvLJGifj0SmRDZDJIQ1VON28
コンピュータの周辺機器台数.ai
https://docs.google.com/open?id=0BxBSvLJGifj0UTNubVhrcV9RTkE

 文部科学省が昭和62年度から継続して行なっている教育の情報化の実態等調査について,コンピュータと周辺機器の整備について過去のデータを整理しグラフ化したのと,1985年以降の教育情報化に関する歴史年表をまとめたものです。
 電子黒板や1人1台端末,デジタル教科書といったキーワードで人々の関心が高いはずの「教育の情報化」という領域ですが,実はその実態や歴史を知る手ごろで正確な情報はほとんどありませんでした。
 実態に関しては,毎年調査結果が更新され提示されていますが,文部科学省が出す資料のグラフをコピペするだけでは見えないものもあります。今回はコンピュータと周辺機器に絞って,経年的かつ視覚的にも実態が反映されるようにグラフ化しました。
 歴史に関しては,強いて挙げれば文部科学省「教育の情報化に関する手引」という文書が,教育の情報化の進展に関して解説していますが,それを除けば,年表を掲げて広い範囲を概観しているものは,ほとんど無いと思います。
 まあ,忘れたい過去もたくさんありますでしょうが,逆に,たくさんの取組みをちゃんと繋げて見る努力も必要で,今回作成した年表はそのための基礎資料となるはずです。

 この研究は,もうしばらく集中的に情報収集して,データを充実させていこうと思います。そのあとはライフワーク的に史的記述を進めていければと思っています。
 なお,年表作成にあたっては細心の注意を払って情報の確認をしているつもりですが,紙面スペースの関係上,言葉足らず情報が不足していたり,誤解を招く部分があったり,明らかな間違いもあるやも知れません。お気付きの点ありましたら,ぜひ情報お寄せください。

20110918 日本教育工学会大会発表スライド

 首都大学東京で行われた日本教育工学会 第27回大会にて一般研究発表をしました。国内の教育情報化の取り組みに対して学会などの研究者共同体がすべきことを少し論じました。お越しいただいた皆様ありがとうございました。
一般研究発表
「学校の情報通信環境整備事業の導入過程における問題と課題」
(日本教育工学会第27回大会,2011年9月18日(日))


AERA「Research Points」
http://www.aera.net/?id=314
情報処理学会「提言/プレスリリース」
http://www.ipsj.or.jp/release/pressrelease.html
 

韓国・『デジタル教科書の健康調査報告書2009』要約抜粋粗訳

 2010年7月27日付けで,韓国教育学術情報院(KERIS)のWEBサイト上で公開された「デジタル教科書の健康調査報告書」について,報告書の要約部分を参照して,研究結果を概観する。
 同報告書は正式名を「デジタル教科書活用が学生と教師の健康に及ぼす影響の分析研究」としており,デジタル教科書実験校を対象として,高麗大学校の研究者が中心となって調査研究したものである。
 研究手順として,国内外のデジタル教科書及び健康関連の文献調査,国外デジタル教科書事例の調査,デジタル教科書を1年以上使用した小学生を対象とした面談調査,デジタル教科書実験校の教師と専門家のグループ討議による健康障害の問題分析を行なっている。
 研究結果は次のように要約されている。
 以下は報告書内の要約を抜粋し粗訳したものである。
【注意:誤訳チェックは行なっていない。研究結果に関する記述部分については,原文を参照することを強くお勧めする。】
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(前段略)
 第一に,デジタル教科書が常用される場合の健康機能障害の問題を把握するため,文献研究を通して,コンピュータを活用した類似の学習環境で想定される主な健康機能障害の原因を探索した。
 研究の結果,身体的症状としては視覚的症状,筋骨格系に関する症状,全身に関連する症状,皮膚に関する症状などが主な問題であり,心理的症状としては学業燃え尽き症状,学業ストレスなどが最も主要な問題だった。
 第二に,デジタル教科書を1年以上活用した小学生を対象に実際に経験したデジタル教科書に関係する健康上の問題を把握するため面接を行ない,現実的に着手可能な解決策を提示しようとした。
 研究の結果,デジタル教科書に関わって現在現われている身体的症状と,今後懸念される健康問題に関してより深く検討していく必要があると分かった。いま現われている身体的・心理的症状は軽微なものとはいえ,デジタル教科書の長期間利用を想定したとき,今回現われなかったが今後現われてくるであろう問題について,早期の予防的な健康管理を実施する必要があると考える。
 また,デジタル教科書は,様々な伝達メディアと教育方法で,学習への興味誘発し,学習の深化を可能にするという特徴があるが,一方で,情報の過負荷によって学生の注意・認知が適切に制御されなくなると,情報処理過程を阻害して学習効果を減少させてしまうことも考慮しなければならず,何かしら補完の仕組みが必要であることがわかった。
 第三に,デジタル教科書の活用が生徒と教師の健康に及ぼす影響を知るため,フォーカスグループディスカッションを通じて実験校の担当教師と関連分野の専門家による認識確認を行なった。
 研究の結果,環境的領域に関する健康上の問題は,電磁波の懸念,学生達のデジタル教科書使用に関わるコンピュータ用の机椅子の必要性,教室の空調,照明に対する懸念等があった。
 身体的領域に関する健康上の問題としては,潜在的な視力低下,不適切な姿勢,コンピュータの発熱による環境への不快感等があり,心理的領域に関する健康上の問題としては,疲労感やストレスに関わる健康問題が懸念された。利用や体験に関わる性急さやフラストレーション,教師と生徒との間における相互作用の困難さが一部あったという見解もあり,これに対する長期的な対策の準備が必要であることも分かった。
 第四に,デジタル教科書の使用環境に対する電磁波測定の研究結果では,学生達が使うコンピュータの電磁波は憂慮するほどの数値ではなかったものの,問題点は発見された。
 教師用コンピュータの周辺には電子機器が多く,学生よりも電磁波をたくさん受けることが分かった。これは配置や環境調整で解決できると考えられる。学生達の場合,標準的な50cmの距離であれば電磁波の問題はないが,タブレットPCを使う姿勢によって,距離が急に近づいたときには電磁波の数値が上がるので,これに対しても姿勢調整の必要性があるとわかった。
 第五に,デジタル教科書の活用による健康機能障害の分析のため類似の実験研究を調べると,ドライアイ症状の測定で,デジタル教科書の群と書籍型教科書の群を有意水準5%検定で比較した結果,眼表面疾患指数(Ocular Surface Disease Index)や毎分の瞬目率,涙液層破壊時間などにおいて,両群に有意な差は見られなかった。手根管症候群の測定でも,デジタル教科書の群と書籍型教科書の群を有意水準5%検定で比較した結果,正中神経および感覚神経の検査で両群に有意な差は見られなかった。脳波測定では,デジタル教科書の群と書籍型教科書の群を有意水準5%で検定し比較した結果,覚醒時の安定状態と問題解決過程の大部分の波長帯で両群に有意な差は見られなかった。
 (中略)
 この研究では,一小学校を対象としたため,対象数が少なく,解釈にあたっては慎重を期すべきだと思われる。
 第六に,デジタル教科書の健康機能障害的な部分を測定するツールが無かったので,まず先行研究の文献考察を行ない,デジタル教科書を1年以上使用した小学生を対象とした面接を行なった。これらと1年以上教えた実験校の教師と専門家からのフィードバックを分析して,調査ツールの開発研究を試みている。
 (中略)
 以上の研究結果を踏まえて,デジタル教科書活用時の健康機能障害軽減のための取組み案を以下の3領域で提示してみる。
 1番目,デジタル教科書の使用環境に対する取組みでは,個人のタブレットPC使用時に学生との距離を最低限50cm以上になるようにする必要がある。(中略)
 2番目,デジタル教科書を使用する場合の身体的な取組みとして,現在のデジタル教科書運用にかかわる急激な視力低下の問題よりも,潜在的な視力低下が懸念されるので,これが測定できる信頼性の高い検査基準ガイドラインが必要だということと,授業でデジタル教科書を使用する時間の調整,またタブレットPC内に一定時間経過後にリラックスできるような動画を搭載すること,そして健全なタブレットPC活用の生活習慣が維持・管理できるようなプログラムを開発することが必要である。
 3番目,デジタル教科書を使用する場合の心理的な取組みとし,デジタル教科書を使用する授業への集中に伴って,精神的な疲労感やストレスが現われるので,これに対する解決策としてデジタル教科書の運用,教師による教科時間の配分調整ができるようタブレットPCのパフォーマンスのアップグレードが必要であり,タブレットPCを通じて起こる学業燃え尽きや学業ストレスを管理するプログラムを開発し,デジタル教科書を使う学生達の心理的健康の維持管理をしなければならない。
 以上のように,対象が学齢期の成長する児童と教えている教師であることを考慮した上で,デジタル教科書に関わる現在あるいは潜在的な健康問題についての正確な実態の把握と予防策が具体的に用意され,今後適用されなければならないし,定期的に管理が行なわれるようなマニュアルの開発などが必要だと思われる。
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 以上の要約の後,報告書では調査結果とデータを含めて研究内容が詳述されている。
 このような研究成果は,日本における教育の情報化事業にとっても大変参考となる知見であり,分野を超えた専門家が連携して持続的に取り組む必要のある研究課題と考えられる。
オリジナル: http://www.keris.or.kr/board/pb_board_print.jsp?bbsid=board01&ix=16253
(以上,Facebookノートより転載)