20120926 iPad出前授業−中学校編(写真アプリを使いこなす)

 徳島県上勝町の小中学校への出前授業が本格的にスタートしました。(参考リンク:徳島県商工労働部企業支援課「平成24年度 デジタルコンテンツ出前講座実施事業の支援校決定について」)

 ご縁があってiPadを活用したデジタルコンテンツ作成の授業を担当することになって、昨日今日と小中学校にお邪魔して児童生徒の前に立つことになりました。テーマは次のとおりです。

 中学校「iPadを利用した映像の撮影や編集、CMやポスターの制作について」

 小学校「iPadを利用したポスターや学級新聞の制作について」

 上勝町の小中学校には,それぞれ初代iPadが10台,iPad2が小学校に1台,中学校に3台という機器構成。電子黒板や液晶プロジェクタは数台という感じの設備です。

 本格的にスタートする前に、夏休み前から学校にはお邪魔して,先生たちにiPadの使い方講習もしました。慣れてない先生もいましたし、異動もあってゼロからのスタート。

 私も突然お邪魔する環境で何ができるのかといったところで悩んだりしましたが、改めてiPadの教育利用について整理していく中で,できそうなこともいろいろあることが分かってきました。幸い,有料アプリの購入を認めてくれるという教育委員会の寛大さもあって,準備に大きな苦労はありませんでした。

 26日に中学校を訪れてやったことは,デジタル写真のiPad上での扱いでした。

 作品づくりをするために写真が不可欠のことは多いですが、初代iPadで写真を扱うのにはどうしたらよいのでしょうか。

 まずiPad自体が,写真をどこに保存しているのかを紹介しました。標準アプリ「写真」です。意外とこのアプリ(?)は奥が深くて、写真や動画のしまわれ方をしっかりイメージしないと難しいのです。

 その奥深さの象徴が写真アプリ画面の上にある「タブ」です。条件によって「写真」「アルバム」と2つしかない場合もあれば、「写真」「フォトストリーム」「アルバム」「イベント」「撮影地」などと増えたりもします。

 まずiPadの中に保管されている写真をバラバラに閲覧する「写真」とそれをまとめて整理する「アルバム」があることを紹介しました。アルバムは自分で作ることもできます。

 そしてどうやって写真を取り込むのか…。

 iPad2にはカメラが付いていますから,カメラアプリを使って撮影すれば自動的に写真アプリに保管されますが、初代iPadは残念ながらカメラがありません。

 そこでコンパクトデジタルカメラと組み合わせるという方法をとることにしました。幸いデジカメは活動に十分な数が用意されていました(規模が小さい学校なので台数はそんなに必要ない)ので,デジカメで撮影した写真や動画をメモリカード経由で転送する方法を紹介したというわけです。これならアダプタを用意するだけでOK。

 メモリカードを初代iPadに繋げれば,写真の取り込み機能が自動的に動き始めますので、実際に目の前で撮影した写真を取り込んでもらいました。

 それが分かったら,さぁ実習!

 まだ中学校のことを知らない私に向けて,学校のことを伝えるための4コマ作品を写真で作ってくださいという課題を出しました。

 デジカメとiPad2を持ち出して,学校中に散らばって素材となる写真を撮影してくれました。そして物語っぽく4つの写真を並べて,いざ発表。いま撮ったばかりの自分たちや先生の写真を使った作品はやっぱり盛り上がりますね。物語になっていなくても,無理やり物語に仕立てる強引さもウケて楽しかったです。

 というわけで出前授業修了。

 え?という感じですが、まぁ,こんなところから興味をかき立てないとね。次回から本格的にやっていきます。

 写真アプリに関連して,先生方からの相談。

 パソコンに整理保管してある写真をiPadに転送するにはどうしたらよいか?

 この要求は,デジカメの写真を取り込むより難しいのです。

 一つはiTunesソフトを使って同期する方法。けれども,これは複数台に転送するには手間がかかるし、必要な写真がある毎に毎度同期するのが大変。

 そこでフォトストリームを活用するという方法がもう一つ。

 フォトストリーム機能を使えば,同じApple IDで使用している場合に限って,パソコンとiPad同士でフォトストリーム内の写真を共有できます。お互いが新たに保管した写真をネット経由で自動的に共有できるので手間がない。

 しかしこの方法は,フォトストリームという大きなフォルダにとにかく放り込んで共有するという感じなので、順番だとかフォルダごとの整理とかができない。しかもフォトストリームは1000枚(あるいは30日間)までの制限付きなので,溢れると古いものから消えていくのです。

 というわけで,すでに撮影してある写真を手間無く共有するって大変だなぁといった感じだったのですが、iOS6になってから新しく「共有フォトストリーム」というものが登場しました。

 これは何でもかんでも放り込むフォルダだった「フォトストリーム(自分のフォトストリーム)」と違って,目的別のフォトストリームを自分で作れるというものです。

 一般的には自分の写真をWebで公開する機能として宣伝されたり受け止められましたが、外部公開する機能だけでなく、公開しないで自分だけでいくつもフォトストリームがつくれちゃうという機能でもあるのです。

 たとえば,中学校なら「1年生フォトストリーム」「2年生フォトストリーム」「3年生フォトストリーム」という3つのフォトストリームをつくっておくと、希望するフォトストリームに写真を選択的に流す(保管する)ことができるのです。

 他にも教科別フォトストリームとか,班別フォトストリームとか,そういうふうに分けておくと,実際に使う時に写真が見つけやすいというわけです。

 しかも,フォトストリームはネットワーク経由で自動的に同期されますから、わざわざにiPadをパソコンに接続して作業する手間がいりません。パソコン上に整理保管された過去の写真から必要に応じて共有フォトストリームにコピーをしてあげれば,すぐに各iPadに届くというわけです。

 共有フォトストリームは,学校でiPadを使う場合には,かなり有用な機能ですが、残念ながらサポートしているのはiOS6から…。iOS5.1.1までしか対応しない初代iPadの場合は従来のフォトストリームのみです。

 そして,まだ調べ足りず不明なのですが、共有フォトストリームにも制限があるのではないかということです。もしかしたら従来のフォトストリームの1000枚制限の中に含まれるかも知れませんし、あるいは別の制限ルールがあるかも知れません。

 というわけで,長期に保管する場所として共有ストリームを使うことは難しそうなのですが、その点が不明なことを除けば,とても重宝する機能です。

 そんなこんなで,授業が終わった後も中学校にあるWindowsパソコンとiPadの接続について,あれこれお手伝いしてから、帰路につきました。次回は,修学旅行などの行事が挟まって,少し先になりそうです。

iBooks テキストブックの登場

 Apple社が教育関係のプレゼンをするというので話題が盛り上がってました。発表されたのは、電子教科書の使用を想定した新しいバージョンの電子ブックリーダーアプリのiBooks 2と、電子ブック製作アプリのiBooks Author。iBooksとも連携するiTunes U アプリでした。

 もちろん、こうした発表内容はサプライズ慣れした噂好きの私たちにとって予想範囲内。けれども、それをAppleがどれだけエレガントに実現したかを楽しむというのが、毎度のパターンです。

 果たして、今回もAppleは彼ららしいやり方でソフトウェアを披露しました。ステージにはこれまでの基調講演でお馴染みのフィル・シェラー氏が登壇。動画をまだ見てないのですが、きっといつもの調子でプレゼンを進行したのだと思います。

 今回の発表は三つのソフトウェア以外にも、アメリカの主要教科書出版社による高校教科書のiBooksテキストブック版リリースというニュースもありましたから、確かに教育関係の発表だったと言えます。

 しかし、すでにお分かりの様にiBook Authorというソフトは電子教科書を作るためだけに使えるのではなく、ごくごく普通に電子書籍製作ソフトとして使えることは明白です。

 これまでもePUBファイルの書き出し機能を持ったワープロソフトやレイアウト編集ソフトはあったわけですし、パブーのようなWebサービスもあったわけですから、それらで電子書籍を作成することはできたはずです。

 けれども、現実的にはそう盛り上がっていたわけではありませんでした。出来上がるものがPDFの劣化した程度のものでは、電子書籍である必要性、あるいは魅力に欠けるのですから当然のことでした。

 今回発表されたiBooks 2とiBooks Authorがこの問題を解決しようとしたことは、発表されたものをご覧になればわかるでしょう。これは昨年リリースされていたOur Choiceという電子ブックアプリをベースに構築された電子書籍デザインの様です。

 決して派手ではないけれども、マルチタッチの電子ブックの操作感として快適さを感じさせる動きは、一つの到達点なのだと思いますし(もちろん、プロの中には満足してない人も居るでしょうが)、だからこそ今回の発表が成立するのだなと想像されます。

 このような電子ブック製作ソフトが無料で個人に配布される様になることは、衝撃的といって良いのではないかと思います。

 もしこれが有料だったり、学校関係者のみ配布といった形であったなら、たぶんこの様に話題にはならないでしょう。教育とそれほど縁のないと考えている人にも開放されているというところがAppleらしいやり方です。

 ツールの魅力もさることながら、今回のiBooksテキストブックがどの様なデータ形式を採用したのかが重要です。

 この点でもAppleは上手に攻めてきました。

 しばらくデータ形式が標準規格のデータ形式なのか、既存の電子書籍データ形式か、新たな独自データ形式か、不明でした。ようやく判明したのはiBooks形式と呼ばれるもので、ePUB3形式に独自タグの拡張を施したものであるという事でした。

 つまり、ePUB3だと考えればいいのです。

 基本はePUB3形式で電子ブックを製作し、iBooksで体験できるリッチな機能を利用したければ独自タグをサポートすれば良いということです。逆にいえば、独自タグを無視できるePUB3リーダーならばiBooks Authorで作ったiBooks形式の電子ブックを他機種でも読むことができる可能性があります。

 さらに言えば、iBooks Authorでは作成編集できない縦書きや細かな組版制御も、ePUB3なのですから、別のツールを組み合わせて使用すれば実現可能でしょう。別にiBooks Authorの進化を待つ必要はありません。先へ進みたい、もっと高度なことがしたいのであれば、高性能なePUB3編集ソフトを導入すればよいのです。

 その上に独自タグをサポートすれば、iBooks2でリッチな操作感を楽しむことができるというのだから、あなただったらどちらを選びますか?と問いかけているのです。なんともうまいやり方です。

 これも皆さんは察しがつくと思いますが、iBooks独自タグの詳細が今後明らかになった時、それを他社のリーダーがサポートしてはいけないとまだ決まっていません。むしろApple的にはデファクトの拡張タグになればと考えているに違いありません。(訴えてくる可能性はあるかも知れませんけど)

 要するにAndroid上にiBooks互換リーダーが登場してきて、無料のiBooksテキストブックを再生することができるようになるでしょう。となれば、MacだけとかiPadだけということも直に意味のない議論になります。製作環境も独自タグさえ分かればMacでなくてもいいのです(iBooks Authorが使いたい場合は別ですが)。

 WebブラウザのWebKitで行なった覇権への道のりを、電子書籍リーダーにおけるePUB3を味方につけることで再現しようとしていると考えられます。

 iBooksに追加されたノート機能やiTunes Uの新たな展開も非常に興味深いのですが、それについてはまた改めて。

 とにかく、今回の発表はAppleなりのePUB3本格始動の号砲であり、それを聞き逃した者は脱落していくのだということを理解しなければなりません。

〈追記〉上記の記事は、出張中にネットで集めた情報をもとに書いてます。残念ながらMacでiBooks Authorを実際に操作できていないので、事実認識が異なることもあります。たとえば、その後調べつづけているとiBooks形式はePUB3をベースにはしているが厳密にはePUB3ではない!と分析する専門家のブログも見つかります。iBooks形式ではePUB3が実現することができなくなっているという指摘です。ただ、iBooks AuthorにはePUB3書き出し機能があるからいいじゃないかとか、いろんな捉え方もあるようで、求めるものによって異なる意見が飛び交っています。

 iBooks形式が厳密にePUB3かどうかの問題は、他機種の電子ブックリーダーでiBooks形式が読めるかも知れないとの予測を遠ざけてしまう点で残念な話ですが、互換リーダーを作ることを妨げることにはならないので、誰かが作ってくれることを期待しましょう。

 むしろ、Appleの独自拡張が醜いとすれば、Googleがよりよい拡張規格を立ち上げて普及させる隙を与えることになりますから、この分野でも覇権争いが起こる可能性があるという予測を連れてきます。

 いずれにしても、舞台はePUB3周辺で展開することは確かですから、今回のAppleの発表がePUB3の号砲であるという本記事の結論は変わりません。

 もちろん私たちが魅せられているのはiBooks Authorというツールであり、

手書き認識と教育クラウド

 今回の駄文は、7NotesというiPadアプリを使って入力しています。このアプリがどのようなアプリなのかをご存知でない方もいらっしゃるかも知れません。これは、最近発売された文書作成アプリです。そして、その特徴は独自の手書入力機能(mazecと呼ばれています)を有していることです。
 従来までもタブレットPCには手書き文字入力機能が存在していましたので、それ自体は目新しいものではありません。教育らくがきでも、かつてThinkPadのタブレットPCで駄文を入力した経験があります。今回のアプリが面白いのは、手書き文字を認識しておきながら、文書に手書き文字がそのまま使われるという見た目が大変アナログな文書作成アプリなのです。
 残念ながらブログに使うためには手書き文字のままというわけにはいかないため、今回は従来と同じく文字変換していますが、手書き文字のままで作成すればPDF出力するという形で利用することが可能です。

 現時点ではiPadの処理能力の限界に足を引っ張られているため、細かいところでまだ実用段階に至らないと感じる部分も多いのです。それでも、野心的な試みを一先ず形にして出したという点は大きく評価してもよいのではないかと感じています。
 何よりも教育の文脈で考えたときに、手書き文字を認識しておきながらそのまま文書として残せるという仕組みは、大きな可能性を秘めていると言えます。
 つまり昨今、デジタル教科書議論の中でも取り上げられているデジタルノート(電子ノート)の具現化に大きな一歩となる応用技術だと考えられるのです。
 学校教育における手書き入力とキーボード入力の使い分けや移行タイミングについてはまた別に考えるとして、この技術を学習用デジタルノートに応用すれば、子どもの手書き文字をノートに残せる一方、文字データとしても認識されているので後々の検索が可能となり過去のノートへのアクセスが容易になるというメリットが生まれます。
 これは教育クラウドとも連動した重要なメリットです。
 仮に教育版のオンラインストレージサービス(Dropboxのようなもの)が実用化されたときのことを想像します。
 子ども達はセキュアな個人のストレージ(ディスク)領域を持ち、通っている学校に登録してリンクさせ、通常はクラスのフォルダの中に自分のストレージ領域を見つけて利用します。学年があがったり、上の学校に進学しても登録を変更し、自分のストレージ領域をあらたな学校やクラスのフォルダから覗くだけです。そしてノートや作品を保存し続けていきます。
 このような個人ストレージ領域を持つ方法だと学校側は学校サーバーで個人情報を保持して管理をする必要から解放されますし、進級や進学の際のデータ移行や削除の手間を大幅に低減できます。学校教育から卒業後は、完全に個人のものですから、そのまま個人用のクラウド・ストレージとして利用を続けるか、個人で破棄・移行すればよいことになります。学校教育在籍中は無償かアカテミックプライスで提供してもらい、卒業後に有料サービスとして有償化するビジネスモデルを構築してもらえたらと思います。
 さて、このような教育クラウドの世界で、過去の手書きノートを後から参照したい場合を考えるとします。
 手書きノートを単にカメラで撮ったとか、スキャナで画像として保存した等の記録では、小学校から高校大学までに溜まった膨大な記録から希望のものを電子的に検索することは大変困難です。なぜなら、検索しようにも対象とするキーワードが文字データになっていないからです。
 しかし、あらかじめ手書き文字が文字データとして認識された状態のノートとして保存・記録されていれば、これを電子的に検索することができます。
 現実的に過去のノートを参照する機会やそのニーズがあるかどうかは、また別の議論になるかも知れませんが、膨大なデータを管理する側からすると、この技術が実用化されることは大きな飛躍を持たらしてくれることには違いないはずです。
 教育的な観点からしても、過去の学習履歴にアクセスしやすくなるというのは、学習指導上もちろんのこと、学習者自身にとっても過去の学習履歴を振り返ることで学習を深めるという手段を支援してもらえる点で大変意味のあることです。

 と、ここまでずっと手書き文字を変換しながら駄文を綴ってきました。率直に書けば、それなりの長さの文章を手書き入力するのは、不慣れもあってやはり疲れてしまいます。キーボード入力にもそれなりのメリットがあるというわけです。
 しかし、手書きのゆっくりしたペースというものにもそれなりの良さがあるのではないか、そんなことを感じてみたりもします。
 ドン・ノーマン氏の『インビジブルコンピュータ』にはまだほど遠いですし、あえて手書きにこだわるべきかどうかの議論もあるとは思いますが、このような形でコンピータが透明になっていくのは大事な進歩だと思います。まだまだ磨いていく必要はありますけどね。
 フューチャースクール推進事業では、こうした最新動向に十分キャッチアップできませんが(それは悲しいかな、事業計画が先にあるためなんです)、議論は積極的にしていくつもりです。むしろICT絆プロジェクトなんかの方が取り組みやすいかも知れません。それともNTTグループのプロジェクトかな。
 りんラボはいつもの如く、勝手に動向追いかけていきます。