佐賀県・県立高校 電子教材導入トラブル(その後)

 佐賀県の県立高校で教材を一斉にダウンロードしようとしたものの時間内に完了しないなどのトラブルが発生した件で続報があり,目的の教材についてはSDカード(USBメモリ)経由で導入が完了したことが伝わってきました。

職員が手作業で教材インストール 県立高タブレット」(佐賀新聞)
「タブレット授業、週明けにも本格開始」(読売新聞)
「タブレット不具合に教育委員も苦言」(佐賀新聞)
「さが教育新流 全国初の取り組み準備不足」(佐賀新聞)
「佐賀県のタブレット障害問題、日本MSは「デバイスの問題ではない」」(マイナビ)
「【EDIX2014】佐賀県教育委員会のICT導入、明らかになった課題とは」(リセマム)
「県立高タブレット、インストールほぼ完了」(佐賀新聞)

 一部の記事にあるように,催事の中とはいえ公での関係者発言もあり,どうやら今回のトラブルの主な原因が技術的には…「教材配布サーバーのキャパシティが十分でなかったこと」そうした事態を招いたり大きくしてしまった周辺問題として…「教材配布方式がメモリ媒体経由にできなかったこと」  「普段から個々の端末や無線LAN接続に少なからず問題があったこと」 が分かってきました。

 利害関係者の見解を鵜呑みにすることはできませんが,最初の導入作業に成功した高校もあった報道や,無線ネットワーク設備に相応のコストをかけたとする発言を信ずるならば,教材配布サーバー側の能力不足は十分有力な原因候補になります。

 もちろん,そうは言っても無線ネットワークにつながらない端末,すぐに接続が切れてしまうなどの問題が発生することは十分考えられる事態であり,これに対処する術であるはずのメモリ経由導入が著作権の関係で制限されていたということについて,もう少し慎重に対応できていれば,1ヶ月も待たせる事態は回避できたかも知れません。

 そういう意味で「見通しが甘かった」部分は責められるべきかも知れませんし,これについては謙虚に反省して次年度以降改善していただきたいところです。

 県立高校入学生へのタブレット端末購入と活用を推進されている副教育長が,教育ITソリューションEXPOで講演するというので傍聴しました。この件についてどんな発言をされるのか興味があったからです。

 講演自体は,佐賀県の取り組みについて過去から今後に至るまでのことをきっちり準備された通りにお話されていました。それに補足する形でスライドが挟まれ,今回の一件についても少なからず触れていました。

 メモがないため言葉は正確ではありませんが,発言の要旨は「各社の教材データが様々な形式と容量であったため,ダウンロード作業が想定通りにはいかなかった」ということでした。また著作権への配慮から教材会社との契約でメモリ経由のインストールができなかったという報道記事にもあるような説明がなされました。

 同じ講演内で,無線ネットワーク環境については国のフューチュースクール推進事業の成果などを参照して,特別に配慮したシステムを導入するため予算申請を行ない議会に認めたもらったことを語っていらっしゃったので,ネットワーク関係が貧弱であったと想像することは難しくなります。実態は調べてみなければ分かりませんが。

 副教育長の説明は,多少前のめりな雰囲気が漂うとはいえ,責任者として妥当な内容であり,むしろ優等生的なものだとさえ聞こえます。タブレット端末導入の目的がICT利活用そのものではなく,あくまで生徒の学習に貢献するツールなのだという金言も添えている以上,単に金言に沿って取り組んでくださればよいだけです。

 あえて問題を指摘するなら,この事態について,ここまで報道がなされたことについて鈍感すぎるということです。事態について公的な説明を発信する必要があります。

 どうも副教育長を始め関係者は「地方自治体での先進的な実証事業に一つなのだから,一つ一つのトラブルはあって当然で,いちいち公に正式な説明をする必要はない」と考えているようですが,佐賀新聞だけでなく読売新聞,朝日新聞など大手新聞社のWebにも記事が配信された以上,一地方の先進的な取り組みの成否は全国の教育情報化を推進する関係者にとっての成否にも影響する問題になっていることを自覚すべきです。

 催事の場での関係者の講演や発言が報道されれば,それなりに伝わることも確かですが,なにより当事者自身の正式見解を公的な方法で発信することが誤解を正したり,問題解決に貢献することも事実です。早く正式な説明を発信することをお勧めします。

 佐賀県の県立高校入学者のタブレット端末購入と活用については,ネット上に様々な形で情報が伝搬しています。そうした経路で出回る情報の方が真実を伝えている可能性もあるかも知れません。また,そうした情報が伝搬されることについて私は否定しませんし,私自身も情報収集の際には吟味をすることがあります。

 しかし,そうした情報の多くは,問題の切り分けをするどころか,便乗して問題を膨らませていることの方が多いように思います。

 教材ダウンロードが完了しなかった問題を論じているはずが,そもそもタブレット端末の購入の義務化決定が問題だと論じてしまったり,関係者や担当者の利害について勝手に思いをはせたり,確認されていないことを原因として事実と異なる批判を展開したりする傾向が少なからずあります。

 あるいはそれが真の問題や原因なのかも知れませんが,誰にも事実が共有できていないところで,そのような議論を展開されても,それは議論の浪費というものです。

 今回の一件や佐賀県での取り組みについて,部外者の私たちにできる事は,皆で共有できる事実を丹念に確認しながら,それを踏まえて必要に応じて発言や介入をし,場合によっては黙って推移を見守るくらいしかないのだと思います。

佐賀県・県立高校 電子教材導入トラブル

 佐賀県県立高等学校で今春入学者から一律に購入となったタブレット型学習端末で使用するための電子教材を導入(インストール)するにあたってトラブルが発生し,ニュースとして報道されました。

タブレットで教材DLできず 県立高34校」(佐賀新聞)
「佐賀県立高タブレット、教材のダウンロード間に合わず」(朝日新聞)
「授業用タブレットで不具合続出...開始に大幅遅れ」(読売新聞)
「授業用タブレット不具合続出 佐賀の県立高:九州」(読売新聞)
「授業用タブレット不具合 文科省が実態調査へ」(読売新聞)

 総務省フューチャースクール推進事業や文部科学省学びのイノベーション事業に関わった人間として,今回の事態が発生したことは大変残念に思います。

 報道内容だけではトラブルの原因を正確に特定することは難しく,たとえば「ダウンロードに時間がかかって完了できなかった」ことと「エラーとなってインストール作業が中断した」ことでは,全く異なる原因を考えなければなりません。

 原因を正確に把握した上で,避けられたかも知れない問題については,何が足りなかったのかあるいは何を怠ったのかを考えていく必要があります。

 ところで,直近の国の事業で示された成果は,こうした事態を回避するのに十分なものだったのか。そのような問いも投げ掛けられるでしょう。

 佐賀で起こったトラブルを回避できなかったということは,国の事業成果に不足があるか,国の事業成果が利活用されなかったか,あるいは想定外のトラブルであったなどが考えられます。

 今回のケースはどれにあたるのでしょうか。もう少し情報を集めてから考えてみたいと思います。

[追記]
 後日,こんな報道がされました。 「県立高タブレット端末導入でICT研修会」(佐賀新聞)

20140425 大阪市学校教育ICT活用事業推進会議

 事業に関わるアドバイザーとコーディネータ(どちらも研究者)が集まる推進会議が大阪市の教育センターで開催され,新任コーディネータとして初出席しました。

 アドバイザーの先生と他のコーディネーターの先生方,計8名の方とは面識はあるので,私の面倒くささも先刻承知。事務局の皆さんに慣れていただくのに多少時間はかかると思いますが,なるべく迷惑かけないように分け入ってみようと思います。

 今回は今年度初めての会議なので,取り組みの方針やスケジュール確認,そして来年度から全市展開するための「大阪市スタンダード」をつくるべく,授業づくりに関する枠組みのようなものを検討するといった内容でした。

 午後からの会議に出席する前に,午前中,自分が新たに担当する「むくのき学園」に訪問することが出来ました。

 以前訪問したのは「中島中学校」の校舎の方だけで,そちらから「啓発小学校」の敷地に中学校がお引っ越しした形なので,現在の敷地への訪問は完全に初めてでした。

 (ちなみに,中島中学校・旧校舎は特別支援学校として利用されるとのこと。ちょうど26日に中学校校舎お別れ大同窓会が開催されるとのことで,きっと地域で賑やかに集ったのではないかと思います。)

 1年生から9年生までが同じ敷地で学んでいるわけですが,もともと小学校校舎は規模が大きかったこともあり,建て増しすることなくすべての児童生徒が納まったようです。それなりに年季の入った校舎であり,建物や備品のそこかしこに歴史を感じさせる面影があります。

 道路一本挟んだ敷地に元は地域の施設だったものを転用した2つ目の体育館が用意され,各学年2クラスの間には学習室が用意されています。また,もともと小学校にはランチルームがあって利用していたようです。

 そして,各学級には70インチ相当の電子黒板が設置され,3年生から9年生まで1人1台のiPadを用意されているという環境となりました。もちろん電子黒板用パソコンとApple TVも用意されています。

 やはり70インチ程度あってようやく黒板と張り合う感じで設置できるので,「これは良い選択をした」と心の中で賞賛していました。しかし,面白いことに「70インチもいらんかったかな」という声も関係者からちらち聞くので,活用を進めてその声がどう変化するのかこれから興味深いです。

 歴史ある校舎で新たな小中一貫校としてスタートを切った「むくのき学園」における学校づくりは,私が想像するよりもはるかに大変なことだと思います。ゼロからではない分,2つの文化をどう折り合い付けて融合させるのかというより難しい問題があるからです。

 また校区外から新たに「むくのき学園」に入学転入してきた児童生徒たちもいます。その子たちや保護者にとっては,真新しい環境や文化への期待と不安がいろいろ混ざりあっている感じなのかなと思います。

 始まったばかりの学校の様子を一通り見せていただき,まずは1年生から9年生までが集う学校自体の雰囲気をどう作り上げていくのかが最優先なのだなと感じました。

 一方で,ICT活用や英語教育など教育事業モデル校としての役目を務めなければならない現実もあり,この数年間は先生方にとっても大変慌ただしく,場合によっては苦しい期間になるかなとも案じています。

 機会があれば,できるだけ覗きに行こうかなと思っているところです。

 すでに他のICT活用モデル校7校は1年目の取り組みから2年目に入り,授業づくりを刺激する枠組みの具体化にコマを進めるようです。

 教育センターとしては,さらに教員研修の機会を設けて,管理職や教員を対象にひろく普及させる計画も練っています。モデル校の公開授業も各校2人が出席するように方針が決められたそうなので,今年度で一気にICT活用を全教員共通課題に持ち込もうという意気込みが伝わってきます。

 それとはまったく別個に,この日(25日),大阪市の平成26年度補正予算案が提示され,ました。「平成26年度予算(当初+補正案)について~『大阪の再生』への確かな歩み~」と題し,再選した橋下市長が改めて様々な事業を打ち出してきたわけです。

 その中には,この事業についても「全小中学校へのタブレット端末の貸し出し(平成26年12月〜)

 補正 2億4,800万円」(フリップ10~16)とあり,スタンダードモデル作成と教員研修事業に合わせて,実際の機材についても提供する準備を示したのは,理屈として真っ当だと思います。ちなみに補正予算にはその他にも教育関係の項目がいろいろ含まれています。

 率直に書けば,こうした追い風のほとんどは政治の側から吹いているので,学校教育の側にとってみると思わぬ強風に髪が乱れ始めているといったところかなと思います(関西色に合わせると「乱れる髪の毛もないわ」と落とすべきところかも知れませんが…,もうちょっと受け入れてもらえるまでふざけは控えめにします)。

 渦中の人々にすれば変にハードル上げられても追いつかないというのが正直なところ。そこで,どうすれば前向きな歩み寄りへと踏み出せるのか,その一歩や次の二歩目を丁寧に考えないといけないなと思います。

 会議自体は,先行している物事をいろいろ学べたという点で大変興味深いものでした。まだ要領を飲み込めていないので,根掘り菜掘り聞いたりしてしまいましたが,とりあえず各学校での取り組みを今後も見守っていくという感じでスタートするようです。

大阪市 学校教育ICT活用事業

 本年度から大阪市の学校教育ICT活用事業に関わることになりました。新しい出来た小中一貫校である「むくのき学園」(大阪市立啓発小学校・大阪市立中島中学校)のコーディネータとしての仕事です。

 国が進めていた「フューチャースクール推進事業」「学びのイノベーション事業」の方向性を積極的に地域の学校教育で推進していこうという意欲的な取り組みです。事業自体はすでに昨年度から7校のモデル校によって開始され,ニュースにもなっていました。

 今回,新たなモデル校として開校したばかりの「むくのき学園」も参加することになり,そのコーディネータも新規に追加することになったわけです。関西に近くて,iPad大好き研究者を探したら私が居たみたいな感じだと思います(半分冗談です)。

 小中一貫教育に関しては,様々な議論が展開していることはご承知の通りです。法律上で「中等教育学校」が規定されている中高一貫教育とは異なり,小中一貫教育は法律による明確な定義がありません。

 小中一貫研究をされている西川信廣・牛瀧文宏らの定義として次のようなものがあります。 「小中一貫(連携)教育とは,小学校教育と中学校教育の独自性と連続性を踏まえた一貫性のある教育をいい,第一義的には小中9年間の教育課程の構造的理解を通した教師の指導力向上を目指す取り組みである。」 (『小中一貫(連携)教育の理論と方法』ナカニシヤ出版2011)

 この西川・牛瀧の見地からは,教師の変化に一貫教育の意義を着目しているということになります。実際,小学校と中学校という学校文化が異なる教育をつなげるのは,先生方の仕事を大きく変えざるを得ないわけで,挑戦的な試みといえます。

 一方,小中一貫に対しては批判的な立場も少なくありません。たとえば,9年間を通した教育の効果について,まだ十分な効果が示されていないともいわれます。また,学校統廃合の問題は,地域の学校が失われる立場にとって深刻な問題として受け止められています。

 小中一貫教育に対する様々な議論は,確かに有機的に繋がってはいますが,分けて考えていかないと建設的な未来を見通すことが難しくなることも肝に銘じておきたいところです。

 私が関わる「むくのき学園」は施設一体型の小中一貫校であり,同じ屋根の下で児童生徒が学ぶ形の学校です。これから学校を見学する予定なので,雰囲気については後日ご紹介するつもりですが,学校のWebサイトを除くとすでに様々な取り組みを重ねている様子が伝わってきます。

 モデル校には同じく施設一体型の小中一貫校である「やたなか小中一貫校」が参加して,先行して取り組んでいますので,そこの成果も教えていただきながら,コーディネータとして「むくのき学園」の取り組みを見守っていけたらと思います。

 従来の小学校・中学校の名前は残っているものの,一貫校として新しい学校が出発したばかりですので,学校の文化を作り出すことで一生懸命な時期だと思います。

 私の役目は,外部の人間としてその取り組みを言葉にして返したり,対話の相手としてICTに関しても何か気付いてもらったりすることだと思います。慌てずにじっくりと学校の成長を見せていただくつもりです。  

重版予定『デジタル社会の学びのかたち』

 翻訳に関わった書籍『デジタル社会の学びのかたち:教育とテクノロジの再考』に重版がかかりそうとのこと。

 訂正の問い合わせがあったので,誤字や訳の通りが変なところも含めて訂正情報を送りました。意識朦朧と翻訳していた自分を恨みたくなりますが(すみません>_<;),訂正が通ればだいぶマシになると思います。