Tickleが日本語対応

教育用プログラミング環境として注目を集める「Scratch」に触発されて生れたiPad・iPhone用プログラミング環境アプリ「Tickle」が2.0となり日本語にも対応しました。

Tickle – Sphero, Dash & Dot, Arduino, Drones, Ollie, Hue, Jumping Sumo, Robots, Smart Homes, Games, などプログラミングできる!

Scratchは,ブロック型プログラミング言語を使って画面中のキャラクターを簡単に動かしたり,環境を拡張することで電子部品の制御さえもできる幅広さを持っています。そのため,子供から大人までプログラミングに挑戦したい人たちの良い入門になっているようです。

もともとScratchは長らくパソコンの上で動かされてきました。昨今はWebベースになったりしていますが,タブレット端末向けとしての実績は始まったばかりです。そのため,なかなか登場しなかったScratchの代わりにScratchと似たような環境を作ろうという動きも出ていたのでした。

その一つが「Tickle」です。

“結果を楽しめる”プログラミング教育でないとだめ、Scratch由来のTickleがKickstarterに登場」(TechCrunch)

開発の経緯は上記のTechCrunch記事に詳しく書いてあります。この記事の当時はアプリ開発中で,現在のものとデザイン的に違っています(開発中は白基調だったものが,正式版は黒を基調としたデザインになっています)が,無事に完成してApp Storeで無償提供されています。

現在では,Scratchをタブレット向けに動作させた「ピョンキー」が登場し,従来のScratchで蓄積してきたノウハウや財産をiPadでも利用することができるようになっています。正統派のScratchをiPad上でも使用したい場合はピョンキーがお勧めです。

Tickleは初めからタブレット端末で使用することを前提として開発されたこともあり,操作性が良いことや,デザインがiPadアプリらしく奇麗であることなどが特徴です。そして,Bluetooth 4.0やWi-Fiなどの無線機能を使って,とても簡単にスマート玩具と接続して,それらを制御することができるというメリットがあります。

また,同じくワイヤレス(無線)で電子ボードArduinoの仲間である「LightBlue Bean」を制御する機能も搭載していますから,このボードが日本でも使えるようになれば電子工作の世界にもちょっとした新風が吹くかも知れません。

Tickle 2.0からは,日本語対応だけでなくiPhoneで動作するようにもなり,スマート玩具と手持ちのiPhoneをさっと繋げて遊んだりすることができます。まさにモバイル時代に合ったプログラミング環境としてこれから注目されそうです。

りん研究室は,Tickleの日本語対応について翻訳などお手伝いしました。

スマートロックと学校

 携帯電話やスマートフォンを常時持ち歩くようになって,いろんなものを代替するようになりました。

 たとえば小額決済や交通機関への支払はおサイフケータイで済ますことも出来るようになりましたし,デジタルカメラを別途持ち歩く必要もなくなりました。スケジュール管理やメモのための手帳も持つことが少なくなりました。

 デジタル情報として扱える物事をスマートフォンに集約して,これ一つを持ち歩けば事足りてしまうという便利さが生まれたわけです。もちろん善し悪しや使い勝手の問題には個別の議論がありますので,あくまでも重宝な選択肢の一つとして考えることが必要なのでしょうけれども,その上で便利に使えるのであれば,こうした変化は歓迎すべきことと思います。

 昨年あたりから注目が高まっているのは「スマートロック」市場です。

 スマートフォンに「鍵」の機能を持たせ,物理的な鍵を持ち歩かなくてすむようになります。すでに自動車には「キーレスシステム」が普及して,一般にも馴染みが出てきているところですが,それは鍵の変わりのキーレスリモコンが用意されているというのはご存知のこと。これをスマートフォンに代替して,家庭やオフィスのドアロックにも使おうというのがスマートロックです。

 今年から国内でも2つの商品が販売を始めました。「Akerun」と「Qrio」という後付け式のドア用スマートロック機器です。

 どちらもこの新たな市場に向けて意欲的な商品を開発し販売しようと立ち上げられたスタートアップ企業(ベンチャー企業)です。海外にも似たような商品が出てきていますが,物理的なものづくりに長けた日本からこのような商品が登場してきたのは頼もしい限りです。

 学校において鍵といえば,それぞれの教室用の鍵がズラッとかけられたキーボックスの光景を思い浮かべる人は多いと思います。つまり「鍵」も学校教育とは無縁ではないのです。

 そして,特別教室やパソコン教室を利用する毎に,職員室まで鍵を取りに行くなんてことが今日でも続けられているわけですが,誰かが鍵を返し忘れたりすると次使う人が大変困ったりすることもよくある出来事です。

 また,休日に催し物で学校施設を使うとなると,責任上,誰か先生が出勤して付き合わなければならないことは当然ありますが,たとえば鍵だけ渡せばいいときでもわざわざ出勤しなければならないとか,鍵の返却が面倒くさいとか,そういう問題が今でも常に付きまとっています。

 学校のキーボックスを思い出すと,いかに鍵というものが大事なもので,その管理に気を遣わなければならないものなのかを,浮かび上がる印象から学ぶことが出来ますが,一方で,学校施設をもっと柔軟に利活用したいさせたい側の人間からすると,物理的な鍵一つひとつに気を遣わなければならないのは面倒です。

 実際,大学には学生カードをかざすことで解錠できる電子ロックドアが設置され,学内関係者であれば自由に利用できるスペースに備わっていることも少なくありません。こうした利便性にも配慮した鍵システムの導入は決して非現実的なものではないのです。

 ちなみにりん研究室にQrioがやってきました。

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 ゼミ生達とデジタル鍵の共有をすることで,資料を閲覧したいときやゼミの研究をしたいときに研究室への入室が出来るようにしたいと思って,実験的に導入してみた次第。

 AkerunとQrioは,基本的には同じような機能を持ちますが,デザインコンセプトの違いから使い勝手が異なっています。それからAkerunは事業者向けの製品も登場して,法人市場への拡大も目指しているようです。Qrioはまだ登場したばかりですが,ドアに2つロックがある場合に2台のQrioを連携させられる機能を持っていたり,家庭用としての使い勝手をこれからブラッシュアップさせていくのだと思います。

 ところで,学校の場合はこんな洒落たものが取り付けられるドアさえない,スライド扉で南京錠がロックだというところもあると思います。

 そんな場合は,スマート南京錠という選択肢でしょうか。「246PADLOCK」や「Noke」といったものがありますので,これはこれで検討してみると面白いかも知れません。

 そして,今は電子工作が注目を集めているご時世ですので,こんな大げさな商品を購入するのではなく,子供達に自作の電子鍵システムを開発してもらうという課題に取り組んでもらうのも面白い勉強になるかも知れません。その場合は,以前取り上げたRaspberry PiやPaSoRiを組み合わせて,生活の中に紛れ込んでいる非接触型ICカードを鍵代わりにするようなシステムを作ってみるのも面白いところです。

 そんなことに学校教育を開いていくことが未来への鍵になるかも知れません。

「Scratch」に集まる注目と「Tickle」

文字によるプログラミングの敷居の高さを回避して,処理の命令をブロックのように描いたビジュアル・プログラミング言語(ブロック型プログラミング)というものがあります。

これが,子供たち向けにプログラミングを教えることの重要性を訴える昨今の声とともに注目を集めています。現在最も有名なのが「Scratch」というビジュアル・プログラミング言語です。

2006年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボで開発され,世界中の言葉に翻訳されて利用されています。2015年8月12日〜15日にアムステルダムでScratchコンファレンス2015が開催されています。

教育を考えて生み出されたプログラミング言語には,BASIC(1964)やLogo(1967)などがあり,その後のLogoBlocks(1996)というグラフィカル・プログラミング言語の試みや,プログラミング環境であるSqueak(1996)に含まれたEtoysの存在に影響を受ける形で,Scratchが開発されることになります。また,『作ることで学ぶ』(オライリー2015)には,この辺の教育向けプログラミング言語と絡む「メイカーズ」と呼ばれる動きに至るまでの歴史の概略が記載されていますので関心があればこの本を読んでみてはどうでしょうか。

こうした教育的な取り組みと,2008年に解禁されたiPhoneアプリ開発によるゴールドラッシュ,カードサイズの安価なワンボードコンピュータ「Raspberry Pi」やドローンと呼ばれるマルチ・コプターの登場,家電を始めとした日常生活の中の物がインターネットを介して繋がり合うことで可能性を広げるInternet of Things(IoT)の分野がビジネス的にも注目を集めていることが,昨今のプログラミング教育や電子工作への注目に繋がっていると考えられます。

Scratchは,自分で作ったキャラクターに命令ブロックなどを組み合わせて動きを付けることによって作品を作り上げていくプログラミング環境です。見た目ブロックで取っ付きやすそうですが,本格的なプログラミング言語と変わらないため複雑な作品を作ることもできます。そうした柔軟性が人気となって,この夏も様々なワークショップやイベントでScratchによる表現作品づくりが盛んです。

Scratchを使ったプログラミング教育への関心の高まりは,ご時世的に「IT人材の育成」といった課題から来ているものも少なくありませんが,文化的な観点からすれば,日常生活に深く入り込むに至った表現手段(コンピューティング)を使って自己表現や感情表現していくことを,ごくごく当り前にできる世界を目指したいという思いが大きくなっているからです。

Scratchというビジュアルプログラミング言語は,万能選手ではありませんが,そのひとつの有力なツールとして,普及し始めているということになります。

ところで,Scratchの周りには,ブロック型プログラミングという特徴が似ている別のプログラミング環境があります。思いつくものの名前を列挙すると,Snap!BlocklyHOPSCOTCHSctatchJrPyonkeeTickleプログラミン前田ブロックコロコロ工作ブロック)などです。Scratchと系統を同じにするものもありますし,かなり異なるものもあります。

Scratchは,現在の2.0はFlash技術を使って動いていたりするので,iPadでは,標準Webブラウザから直接利用することが出来ません。Flash対応ブラウザアプリを介して利用するか,Snap!を使うか,ScrachJSという実験的なサイトを利用するしかありません。あとはScratchの仲間として開発されたアプリを使う他ありません。

Scratchのバージョン1.4というものを移植したScratchアプリが「Pyonkee」ピョンキーです。名前こそ違いますが,中身は正真正銘のScratchなのです。iPadでビジュアルプログラミングする場合にはこれを活用する人が多いです。

最近,りん研究室が注目して関わっているのは,Scratchにインスパイアされて開発された「Tickle」というiPad向けのプログラミング環境アプリです。

こちらはScratchとは別に新たに作られたアプリで,キャラクターやデザインなどが違いますが,同じようにブロックプログラミングできるように進化中です。

なによりTickleが凄いのは,ドローンなどの実物の機器をプログラミングで動かせてしまうことです。ドローンといっても玩具サイズのミニドローンや,二輪ロボット,ボール型ロボットなど「スマート玩具」と呼ばれているものです。

こうしたものをBluetoothという通信で遠隔プログラミングして動かすことで,よりプログラミングという行為の醍醐味をスマート玩具などの動きという結果で味わうことが出来るというわけです。また同様に,Arduinoと呼ばれるマイコン回路をプログラミングしたり制御することが出来るので,電子工作の世界にも足を伸ばすことができそうです。

現時点では,日本で使える機器に制限があるため,謳われている全ての機器を入手して動かすことが出来ないというのが問題ですが,そうした課題を克服する中でScratchやTickleを使った実物プログラミング(フィジカル・プログラミング)の世界も拡がるかなと思います。

Windows 10がもたらす転換

 教育とICTに関わる以上,市場に投入される製品と無関係ではいられません。

 これまで私たちは「コンピュータ」を一つの箱に入った汎用電子機器として扱う時代を過ごしていました。当初はフロアを占めるほどの大規模なシステムだったものが,電子工学の進歩とともに小型化が進み,いまやスマートフォンとして手のひらの上に乗るようになりました。

 そういった「箱の中のコンピュータ」という捉え方を軸にしていた時代には,基本ソフトと呼ばれるソフトウェアが大きな関心事だったこともよく知られたことです。オペレーティングシステム(OS)とも呼ばれている基本ソフトとして,「UNUX/LINUX」「Windows」「Mac OS X」「iOS」「Android」といったものが知られていますが,実はその他にも多くの種類が存在し,必要に応じて様々な場所で使われてきたのでした。

 学校のパソコン教室や普通教室へのコンピュータ導入の際,この基本ソフトの選択は,一般的には市場占有率の高い「Windows」を選ぶことが多くありました。それだけ利用率が高いため,多くの業者も対応方法やノウハウを保有していることも理由です。それでも実際には,バージョンアップという改変が何度かあり,新しい機能や知識を学ばなければならないという手間はあったわけです。これに対抗する位置にあったのは「Mac OS X」ですが,近年認知度は高まってはいるものの,市場占有率や学校導入率は小さいのが実状です。

 その後,スマートフォンやタブレットといったモバイル端末の市場を切り拓いた「iOS」(iPadの基本ソフト)が注目を集め,一気に市場を席巻しました。その後は対抗品である「Android」が躍進したため,市場における勢力関係は拮抗しているといったところです。パソコン用基本ソフトである「Windows」や「Mac OS X」は外野から連携を強めようとしてきたわけです。

 要するに,私たちがパソコンやモバイル端末を扱う際には,「基本ソフト」が何かを気にしなければならない世界が広がっているということです。

 ところで,すでにコンピュータは日常生活で使う道具の中に埋め込まれ,それらがつながるようになってきています。パソコンとモバイル端末もインターネットのサービスを利用するために改変され,Webサイトが閲覧できる機能さえ最低限備えていれば,情報活用作業の多くができるようになっています。これは基本ソフトやそれに対応するソフト/アプリは重要でなくなってきたことを意味しています。インターネット上のサービスがそれを代替するからです。

 インターネットのやWeb技術こそが新しい時代の「基本ソフト」であって,それを基本ソフトとは呼ばず「クラウド基盤」と呼ぼうというわけです。

 一つ一つの具体的な機器や端末を動かす部分には依然として基本ソフトが存在しますが,それはクラウド基盤に接続するための条件でしかないというわけです。

 こうした流れが「iOS」や「Android」の普及を後押しし,「Windows」の勢いを衰退させ,「Mac OS X」などにも注目を向けさせる状況を作り出したのです。私たちが使いたいのはインターネットのサービスなのだから,それに都合のよい機器と基本ソフトであれば何でもよくなったわけです。

 しかし,現実はそれほどうまくいきません。まだ途上であるということもありますが,インターネットに接続してWebを閲覧できるといっても,個別の機器やソフトの性能や癖の違いによって,同じサービスを同じように享受できないことも多々あります。対応機種やソフト,あるいはバージョンが限られるといった形で制限を受けます。

 ここに「基本ソフト」を統一する余地が残っているというわけです。

 何か一つの基本ソフトが占有する状態にすれば細かな違いを気にする必要はない。そして今まではバージョンアップという改変によって新旧の差が生まれていたものを,これからはインターネット経由で無料で自動的にバージョンアップし,みんなが快適にサービスを利用できる状態を維持した上で,サービス利用料でビジネスをしようという考えが主流になりつつあります。

 それを実現しようとしているのが「Windows 10」という新しい基本ソフトであり,それは「クラウド基盤で動くサービスを利用するための基本ソフト」として再定義されました。

 いままでの定義「箱の中のコンピュータを利用するための基本ソフト」からの転換です。

 「Windows 10」はパソコンだけでなく,スマートフォントタブレットなどのモバイル端末にも共通に開発されています。そこで同じアプリを共通して動かすことができるとされています。今まで以上に機器の連携はスムーズになるのが特徴です。それらはすべてインターネットを経由して有機的につながるわけです。

 これはコンピュータとネットワークの技術が生み出す一つの理想像ではあります。

 Microsoft社はさらに会議のコラボレーションが促進することを目指した新時代のホワイトボードともいえるSurface Hubという機器を発表したり,専用のヘッドセットをつけることで見ている空間に3Dホログラフィックを合成して操作できるデバイスを発表しました。これらすべてがWindows 10で制御されることになります。

 通信さえできればあらゆるところでインターネットが利用できるのと同じように,あらゆるものでWindows 10という基本ソフトを利用できるようにする世界。そういうことが起こりつつあります。

 あらゆるものがつながり制御できる利便性を認めつつも,私自身はそのような地続き的なサイバー世界にどちらかといえば不安を抱きます。たとえばウイルスソフトもあらゆる機器に届くという事態になって被害が出る時の規模も桁違いかも知れません。

 インターネットで接続されている部分に限定しても,私たちは十分に制御できているとはいえません。いまは少なからず分断があるからこそ,かろうじて余裕を確保しているような気さえするのです。

 もしWindows 10が率先して描くような世界がますます現実化した時,私たちはどのように地続き的なサイバー世界と向き合えばよいのでしょうか。

 今回のWindows 10の発表は,近年衰退していたMicrosoft社がいよいよ反転攻勢に出たというビジネスストーリー的な面白さや,技術的なチャレンジといった興奮をもたらすニュースではあるですが,一方で,いよいよ未知の世界へと足を踏み入れる時期がやってきたことを告げるものでもあり,個人的には不安を感じたニュースでした。

 そもそもこれから学校にパソコンを導入する時,こうしたネットワーク中心の発想に転換した機器に対応できるだけの準備が教育委員会や関係者にあるかどうか,そういうところからして心配になっています。

パブリッククラウドサービス

 いよいよ師走も下旬に突入。クリスマスなどで賑やかな気分も漂ってきますが,片づけの変わらない宿題が積み上がっていて頭の痛い時期でもあります。

 最近,サーバーのお引っ越しやハードディスクの修復と古いデータの整理,そしてポッドキャストの編集など,パソコンの前で作業するばかりの日々。時間もあっという間に過ぎてしまいます。

 そういうこともあって,最近は「クラウド」について考える機会が多く,「パブリッククラウドサービス」と呼ばれるものへ関心を寄せています。

 
 そもそもクラウドというのは,インターネット上のサーバーシステムのための基盤技術で,一般の利用者にとっては意識する必要のない代物です。それでもクラウドという技術によってインターネットサーバーが支えられるようになったおかげで,私たちは至るところでインターネット絡みのサービスを快適に享受できるようになったのです。そういう意味では重要キーワードとして知っておきたい言葉ではあります。

 私が「パブリッククラウドサービス」が気になるというのも,私がWebサイトとかブログを自分自身で運営しようとする時に,こうしたクラウド技術のサービスを個人で利用できるからです。

 一般的に,Webサイトを構築するとかブログを解説する場合,「レンタルサーバー」というサービスや,「ブログサービス」というサービスに加入するか登録するかの方法と,自前でインターネットに接続したコンピュータを用意する「自前サーバー」という方法があります。

 レンタルサーバーやブログサービスを利用すれば,サービス提供会社がサーバーコンピュータを代わりに用意し貸してくれるので,自前でサーバーを用意する必要も管理する手間も省けます。

 いずれにしても,こうしたやり方は,どこかにサーバーコンピュータを用意するというやり方です。

 しかし,コンピュータの技術が進み「仮想化」という考え方が主流になってくると「コンピュータを用意する」ときに「本物のコンピュータを1台用意する」のではなくて,本物のコンピュータ1台を高速処理で素早く使い分けて「仮想のコンピュータ複数台分」として新しいサーバーコンピュータを用意するようになっていきました。

 つまりサービス提供側の会社にとっては,本物のコンピュータ1台で,サービスで貸すコンピュータ数台分を賄えるというおいしい話になるわけです。逆に言えば,コストが安くなるので低価格でレンタルできるようになる,あるいは無料でブログサービスを提供できるということにもなります。

 もちろん複数台に見立てるのにも限界はありますから,それなりに実物のサーバーを用意することもビジネスには必要になりますが,こうすることでたくさんのWebサイトを受け入れて管理すること(ホストすること)が出来るというわけです。

 しかし,インターネットが日常的に不可欠なものとなり,情報量や通信量が日々膨大に膨れ上がってきた今日,こうしたサービスに限界がやってきます。

 1つのサーバーにアクセスが集中したら対応しきれなくなってしまう問題です。契約したレンタルサーバーが高速なものでも,1つだけでは耐えられないですし,通信回線もパンクしてしまうかも知れません。

 デジタル教科書のデータをダウンロードしようとしたら,転送が極端に遅かったり,接続がエラーになったりした出来事がありました。無線LANネットワークに問題があったのではないかと指摘され,たしかにそのような問題もあったようですが,もう一つ,教材会社が用意したサーバーにアクセスが集中してしまったために問題が発生したという指摘されています。

 つまり,どんなに立派なサーバーコンピュータを用意していたとしても,1台用意しただけでは多勢に無勢。もっとサーバーの台数や複数の通信回線を用意して,アクセスを分散させて効率的に処理できるようにすべきなのです。

 しかし,教科書をダウンロードする時期は限られていますし,アクセスが集中するのは学校に登校している時間帯くらい。そのためにコストのかかる処理速度の速いサーバーコンピュータや高速通信回線を複数契約するのは予算的にも厳しいものです。それが悩ましい問題でした。

 もうお分かりかと思いますが,こうしたサーバー側の一時的な増強を実現しやすくするのが「クラウド」という技術です。

 サービス提供会社はあらかじめ世界中にサーバーコンピュータや高速通信回線を完備した「データセンター」施設という設備投資を行なっておき,それをたくさんの人々に切り売りするのです。しかも量り売りのように必要なタイミングで必要な処理能力や通信能力を指定して契約でき,使い終われば契約解除することができるので,コスト的にも融通が利くようになっています。

 しかも,専用のデータセンターで管理しているので,セキュリティやメンテナンスの問題も自前サーバーで管理するよりも優秀となっています。いまやこうした外部サーバー(クラウドサーバーとも呼びます)で情報を管理した方が安全であるという場合も少なくありません。

 私たちが日頃利用している通信販売サイトも,膨大な買い物手続を処理するためにクラウドサーバーが利用されており,クレジットカード情報や住所などの個人情報も当り前のようにクラウドサーバーで管理されているのはご存知の通りです。

 というわけで,最近,総務省の「学習・教育クラウド・プラットフォームのアイデア募集」にあるように,学習・教育クラウドを使った先進的な教育利用のための取り組みが賑やかになっています。

 これまでは校務システムに使うことなどが主に考えられてきました。たとえばNTTコミュニケーションズ「教育クラウドサービス」にも横浜市教育委員会の事例が掲載されています。

 しかし,もう私たちは様々なサービスを通じて間接的にクラウド技術の恩恵を受けることが出来るようになっていて,たとえばDropboxとかEvernoteとかGoogle Appsとか,そうした一般的にも使われているクラウドサービスが学習や教育にも役立つことを知っています。

 そして,面白いことに私たち自身で手軽にサーバーを作って運営することも出来るようになってきているということです。それで世界を相手にしたサービスを構築するということも出来るようになっています。

 それは現在の学校教育に直接関係することではありませんが,子供達が大人になって世界に向けて仕事をするようになる時には,そのような道具を避けて通ることが難しいわけですから,いまのうちにそのようなインフラ技術についても理解を深めておくことが大事になってくるのだと思います。

 ちなみに多くのクラウドサービスを支えているのが通販サービスのアマゾン社が提供している「Amazon Web Service」です。