教育用SIMというかたち

 足の踏み場もなかった研究室に若干の空間を確保してから,不思議なことにぽつりぽつりと来客があります。

 今日は,外部からのお客様と教育とICT関係でおしゃべり。

 数週間前から私の周辺で話題になっていたLTE網と法人IP-VPNを接続する方法による学校ネットワークの構築について,興味深いお話をいただきました。

 実は,私の頭にあったこの話題のイメージは,特定端末やモバイルルーターを用意するかたち止まりだったのですが,今日の対話で「教育用SIM」というかたちでの配布方法があるということにハタと気づかされました。

 お客様は「アカデミックSIM」と呼称していましたが,なるほど入学時にタブレット端末を配布するのではなく,学校専用SIMを配布するような風景があり得るわけです。家電量販店などで販売しているMVNO(仮想移動体通信事業者)の格安SIMのパッケージを配布する感じです。

 これでSIMロックフリー端末の意義もはっきり見えてきます。要するに学校で配布された教育用SIMを自分自身の端末に装着できれば,BYOD端末でどこにいようと学校ネットワークに直接接続できるわけです。家庭でネットの動画教材を閲覧することも問題なくできるでしょう。

 もちろん実際には格安の端末とセットに販売するというのが現実的な商売でしょうから教育用SIMのみが配布されるという風景は現実味は少ないでしょうが,今後タブレット端末の普及台数が増えれば増えるほど,余った端末の活用法として教育用SIMとの組み合せで学校の勉強に使うなんてことがあり得るのではないでしょうか。

 こうなるとApple社が導入し始めた「Apple SIM」の意義もはっきり見えてきます。Apple SIMとは通信会社に依存しないキャリア切り替え可能な「仮想SIM」とされています。つまり,SIMを入れ替えることなく利用する通信会社を端末上で切り替えられる(契約先を変更できる)というものです。

 端末を学校利用の管理下に登録した時点で,学校専用LTE網への接続が仮想SIMの切り替え選択肢として現れて,学校ネットワークに接続が可能になるということです。こうなると教育用SIMを配布することすら必要なくなるわけです。

 もちろん,一般のLTE網に自由に切り替えられてしまうと,学校ネットワークで用意したフィルタリングやコンテンツを利用できないですし,在校中に外部サービスやコンテンツを自由にアクセスできることからくるトラブルも懸念されるところです。

 しかし,そうしたトラブルへの対応を学ぶことも教育の役割であると考えたなら,むしろその様なシチュエーションは格好の教育環境や教材と言えなくもありません。どのように判断するかは自治体や教育委員会,学校が考えることになりますが,技術的にはそういう可能性に開かれているということです。

 学習者に向けた教育用SIMも面白そうですが,むしろ先生方が利用する校務用SIMの導入の方がより現実的に必要かも知れません。

 校務用SIMを装着した端末があれば,いままで職員室に限られていた仕事の場所が,教室を始めとした校内至るところで可能になります。また,先生方は校務用SIMの端末を家に持って帰って仕事をすることもできます。仮に端末を紛失した場合は,その校務用SIMと端末を遠隔で無効化することで情報漏えいにも対応できます。

 こうした事例が来年以降,あちこち現れてくるのではないかと思います。

egword Universal 2というワープロ

 最近は常用ワープロというものがなくなりました。 現在はテキスト情報はEvernoteに記録しておき,図形や画像系の情報はDropbox上のフォルダで管理して,必要に応じてそれらを取り出し組み合わせて使っています。

 原稿依頼の要望に応じて,Wordを使うことが多いですが,授業のハンドアウトはPagesにしてますし,結果がPDFでよければInDesignでやってしまいます。

 これまで長文作成の機会といえば2回の修士論文執筆ぐらいしかありませんが,その時に使ったワープロはNisus Writer 6.5とegword Universal 2でした。

 この2つが私にとっての常用ワープロでしたが,どちらも販売が終了し,サポートもされていません。 Nisus Writerは新しいバージョン(全く新たに作り直されたProというバージョン)に引き継がれているので,ワープロで何か書かなければならないのであればNisus Writer Proをチョイスするという感じですが,以前ほどではなくなっています。

egword Universal2.jpg

 egword Universalはグッドデザイン賞も受賞したMac用の日本語ワープロでした。 販売が終了してしまったのは,Macの売り上げが今ほど良くなかったためソフトウェア販売もとても難しい時期で,経営判断として会社が解散したためです。

 それにあの当時から日本語ワープロというのは商売にするには大変難しいジャンルでした。Microsoft Wordが絶対的な存在であり,その周辺を小さなソフトウェア達が取り囲んでいたため,ユーザーはそれぞれの選択に散らばってしまっていたからです。

 egwordはMac用の日本語ワープロとしては老舗のソフトで,歴史は長いし,技術力も十分で,常に前進していたソフトウェアでしたが,あなたも私もEGWORDという風にはシェアが拡がりませんでした。 MacがOS Xとなり,Intelプラットフォームに変わり,激変を続けても,egwordはそれにピタッと張り付き,最新技術を投入して進化していましたが,とうとう2008年に販売終了が決定されたのでした。

 egword Universal 2は最後のバージョンでした。 Mac用の日本語ワープロで,あそこまで機能や性能品質をバランスよく高めてデザインしたソフトは他にないと思います。

 幸い,Mac OS X Mavericksにegword Universal 2をインストールしてアップデータをかけると,正しく表示されない部分はあれど,まだ動作するようです。もうサポートもされていませんが,久し振りに引っ張り出して使い始めているところです。

教育系SNSは日本で普及するのか

 教育系SNSとは,教育利用に特化したFacebookあるいはmixiであると喩えることが出来ます。教育に特化しているわけですから,そこには授業や教育課程,評価などの要素が加わっているわけです。

 教育系SNSは,授業支援ばかりでなく,授業と家庭学習をつなげたり,先生同士をつなげて教育リソースを交換するなどの手助けをしてくれます。また保護者を招き入れて授業の進捗を見てもらったり参加してもらうことも出来ます。

 古くは「学級王国」と揶揄され閉鎖的だと批判もされてきた日本の学級も,新しい指導方法やツールによって,ますます世界に開かれるとともに,そのような世界に抗していく弛まぬ努力がいままで以上に必要となってきているのです。

 教育系SNSは,一般的なSNSほど外界と接続するわけではない点で,公道ではなく自動車教習所のような空間になり得るのかも知れません。SNSの持つ利便性を教育学習に生かしつつも,その光と影を学ぶことが期待されているのだと思います。

 「教育系SNS」は,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム/サービス)が注目をされてからの言葉ですが,これと似たものはeラーニングシステムなどに見られます。  専門的にはLMS(ラーニング・マネジメント・システム)あるいはCMS(コース・マネジメント・システム)といわれるシステムの中に含まれ,古い呼び方をするなら「電子掲示板」によるソーシャルなコミュニケーションの展開が企図されていたわけです。

 現存するものは,だいぶ現代風になって柔軟に使えますが,当時のシステムはメニューや機能の区分あるいは場所が決まっており,レクチャーとコミュニケーションを有機的に繋げるのが難しい代物でした。掲示板に書き込むことも敷居の高さがありました。

 それがSNSといったコミュニケーション手段の台頭で,ネット上でのグループ対話のしやすさが増したように思われます。Twitterが「つぶやき」という考え方を前面に出したことで,素朴な疑問を文字にする活動に力を与えたともいえます。

 それまでは高等教育や先進的な高等学校で使われるのがせいぜいであったLMSでしたが,教育系SNSの登場によって,小中学校段階での活用にも可能性が見いだされてきました。

 教育系SNSが盛んなのは,やはり米国です。  大小様々なサービスが展開していますが,有名なのが「Edmodo」と「Schoology」の2つです。どちらも日本語化されており,日本からも利用できます。

 もっとも,どちらも日本語化については言語切り替えに対応したという段階で,サービス全体が日本語化しているというわけではありません。しかし,さすが大手の教育系SNSだけあって機能はどちらも充実していて使いやすいです。

 ちなみに,EdmodoはFacebookにイメージがよく似ており,シンプルな使い勝手です。Schoologyはコース概念をハッキリと打ち出して,LMS的な使い方にも対応しているといった印象です。それぞれの長所短所があります。

 日本産の教育系SNSも登場してきていますが,Edmodoの日本語化によってサービス強化の動きも強まっていくのかも知れません。機能競争はもちろんですが,むしろ日本の学校で使ってもらうためには学校の実情に合わせてサービスを手厚くできるかどうかも問われてくるわけで,単に高性能であればよいということはありません。

 教育系SNSが日本の学校に普及するのかどうか。

 もちろん,学校のICT環境整備に大きく影響を受ける事柄です。月並みに書けば,現在のところは,まだ普及を議論することさえできないといった段階。

 しかし,情報端末とネットワークを組み合わせる利用方法において,自分たちの活動を記録する場所をインターネット上に確保する必要があることも事実で,その選択肢の一つが教育系SNSであるということも確かなことです。

 今後どのように利用したらよいのかを研究していくことは大変重要だと思います。

Macintosh 30th

 米国時間1月24日はMacintoshというパソコンが初めて発売された日です。今年で30周年になります。

 パーソナルコンピュータ自体はそれ以前から様々なものが登場していましたが,今日のパソコンシーンに大きな影響を与え続けてきたのはMacというパソコンです。

 私自身が初めて直接触れたのは大学に置いてあったMacでした。それまではNECのパソコンのユーザーでしたが,大学のMacでインターネットとQuarkXpressを体験してからずっとMacユーザーです。30年のうち20年ほどのつきあいとなります。初めて購入したMacはPowerBook Duo 280cでした。

 私も仕事の場面ではWindowsマシンを使う機会が多いので,基本的に両刀遣いといったところですが,愛着が湧くのはMacの方であることは隠しません。その分,酸いも甘いも分かりますので,道具の選択について特別頑固なつもりはありません。私はWindowsも楽しむし,iOSもAndroidも面白がります。

 教育とコンピュータという観点で考えると,市場はすっかりWindowsですがMacの影響力はそこかしこに見受けられます。

 操作スキルを中心とした世界観の中では,どうしてもOfficeが必要だとか,Macは使い方が分からんとかの話になりがちで,極端に多様性が排除された景色になってしまうのですが,私は教育の場にいろんな機種やタイプの端末が偏在するようになるといいなと思っています。そうした観点で従来まではMacをもっと押していたし,ここ最近ではiPadなどのタブレット端末も注目したいよねと主張しているわけです。いまあるWindows以外の選択肢をもっとプッシュしたいわけです。

 これから1人1台ではなく1人複数台の世界が,時間はかかれど当然のようにやって来る時代に向けて,どんな教育を構想すればいいのか。さらに面白いカリキュラムや指導方法といったものが,ますます模索可能になってくるのだと思います。

 そうした未来に向けてのわくわくするような気持ちを抱きつつ,しかし一方で,はやくも30年や40年という時間を過ごしてきてしまった私たちの足どりを,いま忘れないうちに捉え直しておくことが,現在の私の課題です。

 Mac 30周年の今年は,この分野ますます面白いことになりそうです。

無線LANアクセスポイント考

 学校設置用の無線LANアクセスポイントはマインドシェア的にはCiscoの独占状態なので面白みがないですが,家庭用の無線LANアクセスポイントは地味に興味深いです。

 ネット依存問題も賑やかになってきたのでフィルタリング機能が再度スポットライトを浴びそうなのと,多くのメーカーでスマートフォン設定アプリが登場していることなどです。

 たとえばフィルタリング(悪質サイトブロック)については「ファミリースマイル」というネットスター社のサービスをIOデータとNECの無線LANアクセスポイントが搭載しています。

 フィルタリングに関しては必要性がある一方で,機能的に十分でないとか使いにくいとか,対処方法として無理筋なところも無くはないのですが,サービス自体は地道に改良改善されているので,ニーズがあれば積極的に使っていくことが大事と思います。

 有料サービスであるということが,なかなか利用されづらい大きな理由なのかも知れませんが,何か妙案はないものでしょうか。

 また最近はモバイルデバイスに設定アプリをリリースしているメーカーも多く,たとえばIOデータ社は「こどもフィルター」というアプリをリリースしていますし,よく似たものとしてエレコム社も「こどもネットタイマー」というアプリを出しています。

 アプリから「WiFi接続のオン/オフ」ができるという機能があるのは面白いなぁと思いました。Bluetoothと組み合わせてWiFiの電波発信も停止してくれる機能があると,嬉しいなと思いのですが,さすがにそれはコスト的にも難しいでしょうか。

 正直,こんなに電波を浴びている生活は,あまりよろしくないと思うので,必要がなければ電波発報をやめる機能(スマホの機内モードみたいなもの)をアクセスポイントにも付けて欲しいと思う次第です。

 昨今は,近所で無線LANアクセスポイントを使う家庭が増え,しかも遠くへ届かせるためのハイパワーな製品も増えて,電波が混信状態。家の中なのに,突然繋がらなくなる事態も増えています。

 それと似たような状況になっているのが,情報機器などの展示会場。それぞれのブースでたくさんのモバイル機器を展示するため無線LANを使うので,展示会にもかかわらずネットワーク接続が不調となり,デモンストレーションできない事態が当たり前になりつつあります。

 そして,私たちの関心が向いている学校という場も,これからデバイスが増えてくると同じような問題を抱えることになります。

 電波・電磁波が健康に及ぼす影響を懸念している方々は,そのようなデバイスの利用や無線LANアクセスポイントが設置されることに不安と疑問を感じています。これは私自身も考えなければならない問題と捉えているのですが,利便性と安全性をどうバランスさせるべきかを常に考える必要があると思います。

 そのためにも,先ほど書いたように,必要な時に電波発信をオンにして,不必要な時は電波発信を停止できるスイッチ機能を付けるべきだと考えています。そうした選択可能性があって初めて,バランスをどうするかの議論も可能になるからです。

 いまのところは教室設置で常時電源オン方式ではなく,ワゴンに端末と無線LANアクセスポイントをセットにして,必要に応じて各教室のコンセントにLANケーブルと電源ケーブルを挿して使うのが妥当かなと個人的には考えています。

 また,一度にたくさんの台数のモバイル機器が無線LANを利用する場合の問題は,すでにそうした課題に対応した製品を開発している企業もありますので,なんでもかんでもCiscoではなくて,たとえばメルー・ネットワークの製品を使うといった他の選択肢を考慮できるようになることが大事なのだろうと思います。

 無線LANは確かに便利です。それだけでなく私たちは携帯電話のような広範囲な電波通信を日常的に便利に利用しています。

 これらの利便性と,また一方で抱える問題をよく理解して,必要に応じた選択が出来るようにすることが大事と思います。