2019年6月25日。文部科学省と経済産業省から重要文書が公表された。
20190625「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」(文部科学省) 20190625「「未来の教室」とEdTech研究会 第2次提言」(経済産業省)
その前から,いろんな文書が発出されていて,追いかけるのが大変なくらいだ。
20190606「規制改革推進に関する第5次答申」(規制改革推進会議) 20190611「AI戦略 2019~人・産業・地域・政府全てにAI~」(統合イノベーション戦略推進会議|首相官邸) 20190621「学校教育の情報化の推進に関する法律案」(参議院本会議) 20190621「経済財政運営と改革の基本方針2019」(経済財政諮問会議|内閣府) 20190621「規制改革実施計画」(閣議決定)
基本的には政府の動きは連動しているので,表現は様々としても書いてある基本方針は同じようなもの。これらの中でも「規制改革実施計画」が閣議決定されたものという意味で重要になる。関連資料から教育の部分を借りて載せてみる。
パソコンを1人1台水準で市町村毎の格差が無いように調査・公表することや,パブリッククラウドの利用が可能であることを明確化することを決めた。その他,質の高い教育の実現やデジタル教科書の活用,個別最適化された学びの実現と教育の役割見直しについて,検討と必要な措置をすることになった。
必要な措置に,予算措置が含まれているのだとは思うが,そうは確約していないところに苦しさが滲む。あとの文書はひたすら考え方や方針を描くのに徹している。
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冒頭の2つの文書に戻ってみれば,文部科学省の示した文書には,やたらと「教育ビッグデータ」という言葉が踊る。経済産業省の方は「学習ログ」だ。
曰く,データを蓄積し教育ビッグデータとして分析するためにも,サービス提供者や使用者ごとに異なることがないよう,データやデータフォーマットの標準化が必要なのだと。諸外国の事例を見る観点もそこに集中した結果,我が国向けに「学習指導要領のコード化」が適当なんだと帰結する。
文部科学省の文書全体は,これ以外にも,先端技術の活用やら,ICT基盤としての端末とネットワーク環境整備についても言及されている。必ずしも教育ビッグデータばかりではない。とはいえ,逆に経済産業省の文書の方が,各種実証事業の成果を差し込んでいる分だけ文部科学省の文書以上に教育的な観点で提言を発信していて,なんだか文部科学省の教育の情報化は,すっかり総務省に毒されちゃったままな感もある。
もちろんこれは,新時代の学びを支える「先端技術活用」をどうするか考える文書なので,新時代の学びがどんなものかは守備範囲でないともいえる。
けれども,教育ビッグデータやら学習ログに関する語り口を読み込むにつれ,データ主体である学習者がどんどん従属的な立場に追いやられているような感覚が強まってしまうのだ。
サービス提供者やデータ分析者にとっての可用性や利便性を配慮した「データ」の整え方ばかりが優先記述され,学習者本人が自身の学習プロファイル(データ)に対してどれだけのオーナーシップを確保できるのかについては補足程度のことしか書きこまれていない。
本来であれば,36頁に補足された「欧州においては…」のくだりは,もっと前面に持ち上げ,日本でも学習者自身による学習プロファイル・データのコントロールについて大胆な提言なり方針を打ち出すべきだ。
それはとりもなおさず,1人1台端末という予算措置の当てもない話で足踏みを繰り返さず,1人複数アカウントによって複数のデバイスを利用した学習環境を考えるフェーズに飛び込むことでもある。
データのコード化やフォーマットの互換性は,そこに商機があれば民間企業がいくらでも努力して変換でも接続でもして乗り越えて,気がつけばデファクトスタンダードを作り上げてしまう。わざわざ政府が税金を使ってやることではない。
しかし,データ保護規則のようなルール作りは,国や政府のイニシアチブでやってもらわないと,民間企業の自助努力だけでは難しい。それはFacebookやGoogleの事例を見ても明らかである。
その上で,教職員や児童生徒学生に対して自分のプロファイルを記録するのに必要なアカウント付与の措置を何らかの形で実現すべきである。それは現実的には民間企業のサービスへの登録といった形にはなろうが,そのためにもアカウントに紐付くプロファイルデータについて本人の権利が約束される必要がある。
さらに他でも主張されているように,デジタル・シチズンシップ教育などの取り組みも一刻も早く充実化が目指されなければならないと考える。
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全体としてはいろいろなことが動き出しそうな雰囲気を感じるものの,いざ具体的な中身となると,どこから手を付けたらいいのか分かりにくく,マインドセットの変革といった精神論だけが残りそうな,そんな予感もする。