今年もICT活用教育アドバイザー

 昨年度(平成27)は,文部科学省「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」に関わって,ICT活用教育アドバイザーとしてお仕事をしました。

 臨機応変に仕事をさせてもらえたので悪い印象もなく(逆に言えば好き勝手してご迷惑をおかけしたので私の悪評は増したと思いますが),断る理由がなかったので今年度もアドバイザーリストに名前を連ねることになると思います。(今年度の関連ページ

 とはいえ,昨年度の仕事について,事業全体の視野で考えをまとめることができていないのは残念だったので,今年度はもう少しその辺の考えを深めたいと思います。

 ちなみに,昨年度の仕事は,次のような報告書にまとめられています。 

「地方自治体の教育の情報化推進事例―ICT活用教育アドバイザー派遣―」報告書
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1370125.htm  

 この報告書は「自治体の持つ課題」を7つに類型化して掲載しています。

  1. ビジョンや目的が明確でない
  2. 推進計画が立てられない
  3. 推進体制ができていない
  4. 予算要求のための根拠が明確でない
  5. モデル事業の進め方に問題がある
  6. 調達のための知識が不足
  7. 活用推進の仕組みができていない

 この類型化は,自治体と,そこで一緒に議論した人間にとっては,少々取っ付き難いというか,何というか。自分たちのことを分析した時に「〜がない」とか「不足」とか言うのは納得できますが,初めからこう分類表現されてそこに自分たちを当てはめるとなると,心理的な抵抗感や違和感があるように思います。そのことを意見できなかったのは後悔しています。 

 一方,アドバイザーとしてのアプローチに関して,各人各様だったとはいえ,類型化のような整理が行なわれず,報告のみになってしまったことで課題として残りました。

 昨年度は事業自体に許された時間が短期間だったことも,未整理の原因でした。今年度がどうなるのかは見当もつきませんが,少しは前進するといいなと思います。

 ちなみに,ICT活用教育アドバイザーの中の一人として私が個人的に考える課題へのアプローチ項目は次のようなものです。すべての課題に対応するものではありませんが,こういう項目は確認しておきたいなと思うところです。

「現状認識の整理」
「技術的可能性の理解」
「地域としての願望整理」
「教室での利用場面を思考再現」
「鳥瞰的なシステム概略図の作成」
「国・都道府県と自治体の施策比較」
「教職員のICT環境の見直し」
「関係部局の協業体制の構築」
「関係者の継続的なコミュニケーション」

 今年度はどこかを担当するのか,しないで終わるのか分かりませんが,あれこれ心配されている教育システムに関する問題についても意識をしながら,このお仕事も考えてみたいと思います。

20160108 滋賀県近江八幡市ICT整備検討会議

 文部科学省「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」の派遣業務の一環で滋賀県の近江八幡市を担当しています。2回目の検討会議がありましたので出席しました。

 前回は教育の情報化に関する動向全般や学校にICT整備をするにあたって考えなければならないことなどを雑多にお話したようなところがありました。どうしても機器導入が目立ってしまうことと,導入成果について学力向上(特に試験成績)の結果を求められるため,そうした論点が気にされがちです。そのようなことももちろん,もう少し「何を目指したいか」というところでイメージを具体化することの重要性をアドバイスしたところでした。

 今回は,同じ調子で時間を消費しないように,実際の機材をいろいろ持って行って,持ち込んだもので環境を構築する一部始終を見ていただきながら話を進めてみようと考えました。目指すイメージの具体化がある一方で,そうはいっても機器の一つ一つを整備する時の細かな配慮も欠かせないわけです。機器や部品などその配置や配線など意識していただき,実際のアプリやWebサイトなどを見ていく中で検討しようというもくろみでした。

IMG 0675

 実際に機材を運ぶのは大変でしたし,その場で構築するというのは結構難しい部分もありました。あらかじめ完成形を想定して持ち込んだものの,改めて持ち込んだ端末全部に無線LANルーターの接続設定をするのはその場ではできませんでしたし,新しく購入した機器でドライバが無いと動かなかったものもあったりで,要するにスムーズにいくまでが大変という事態を「そのまま」見ていただくことはできたように思います。

 それでも,こうした液晶プロジェクタを設置できましたし,インターネットに接続してサイトを見たり,動画を見ることができました。この日は教育委員の皆さんも出席していただきましたが,話だけではなかったところで,理解していただけた部分も少しはあったかなと思います。

 その日は,現地宿泊して翌日は自分一人で市内を散策していました。派遣は次回が最後となりますが,また違って議論ができるといいなと思います。

20151015 文部科学省「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」全体会

 2015年10月15日に文部科学省「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」全体会が東京で開催されましたので出席しました。これはICT環境整備をしようとする自治体を応援するために文科省持ちでアドバイザーを派遣する事業です。そこで蓄積されたノウハウを全国の他の自治体とも共有することが目的です。

 先にお知らせしたように,私もアドバイザーの一員となっていますので,午前中の授業を終えてから飛行機に飛び乗って参加した次第です。

 

IMG 3842

 

 アドバイザリーボードには37名が登録しています。ご都合のつかなかった方を除いて,多くの人たちが全体会の場に集い,派遣された場合の段取りやアドバイス活動に利用する過去の記録や報告物の説明を受けたりしました。

 また,この日はワークショップも盛り込まれて,架空の自治体の資料を題材として,その分析やアドバイスに資料をどのように活用するのかといったことをグループに分かれて取り組みました。

 アドバイザーに就任した方々のバックグラウンドや現在の立場は様々なので,分析するときの枠組みや切り取り方も様々で,大変勉強になったワークショップでした。一般的に自治体や学校への助言活動というと個々人に依頼があって,それぞれの経験やノウハウで対応していました。つまり助言活動にも場数の違いで経験に差が出てしまいます。

 助言機会の富んでいる人はより富み,機会の乏しい人は乏しいままといった感じで,そこで経験が共有されることもほとんどありませんでした。従来であれば,教え子や弟子に経験を伝授していくといったこともあったのですが,教育の情報化分野は後継者問題(若い関係者不足問題)に直面していることもあり,なおさら経験が局所化してしまい,全体の展開につながらない懸念が生まれています。

 今回の全体会とワークショップは,助言者の立場の人間が一堂に会したという意味でも大変貴重な機会だったと思います。今回の事業は自治体における教育の情報化やICT環境整備を促進することが目的ではありますが,裏側では,この分野に関わる関係者同士のネットワーク形成や経験の共有が進むことに大きな意義があるように思います。それらがうまく次の世代の人々にも引き継がれる(あるいは踏まえてもらえる)ように残していくことが大事だなと感じた会でした。

 

ICT活用教育アドバイザー

 文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」における「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」に関して,ICT活用教育アドバイザリーボードが設置されました。

 参考記事:「公立校の情報インフラ整備に指南役 文科省が派遣」(日経新聞 20151004)

 これから学校教育の情報環境を整備する自治体に対して,文部科学省もちでアドバイザーが派遣される代わりに,他の自治体の参考になるようなガイドや情報を整理してまとめなさいという交換条件です。

 いったいどんなアドバイザーが揃っているのか,それが一番問題とも言われていますが,強者揃いの中に,力不足を承知で私も名前を連ねています。枯れ木も山の賑わいというか,面白いのが一人いた方がよいでしょうと推薦されたご縁です。プロフィールは顔以外ちっとも面白くないですが…。

 基本的には申請書に書かれた取り組み内容に照らして,事務局がアドバイザーをマッチングするため,特定のアドバイザーをご指名いただくことはできません。ご縁があれば,お手伝いしに行くことになると思います。

 文部科学省によるアドバイザー派遣自体に効果や意味があるのかという疑問はあるかと思います。とはいえ,少なくとも特定地域の教育情報整備をより良く進めるお手伝いができることには一定程度の価値があると考えます。

 また,事業自体の成否よりは,むしろ文部科学省としてのスタンスを表明している事業なのだとご理解いただく方が現実的かも知れません。

 学校設備の地域格差が大きく開きつつある現実の中で,情報環境整備という側面からでもその差を埋めることができないものか。そういう焦りのようなものが,こうした形で出てきているのだということを国民の皆さんに読み解いて欲しいというのが本音なのだと思います。

 教育と情報の歴史研究をしている私としては,他のアドバイザーの皆様の実績や過去の偉業を知る良い機会なので,内側からいろいろ記録を残せたらいいなと思っているところです。

20150930 岡山県新見市教育情報化推進協議会

 岡山県新見市で教育情報化推進協議会が開催され,外部識者として会議に出席しました。

 文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業(ICTを活用した学びの推進プロジェクト)」の「ICT活用実践コース」に岡山県新見市が採択されたことで,私にご依頼いただいた次第です。

 新見市は,これ以前から総務省「ICT絆プロジェクト」「フューチャースクール推進事業」および文部科学省「学びのイノベーション事業」を利用して市内の小中学校を実証校として学校の情報対応を試みてきた地域です。

 フューチャースクール実証校巡りをしていた私は,iPadを導入機器として選んだことでも話題となった新見市立哲西中学校にお邪魔をしたことがあり,2度ほど新見市に足を運んでいました。そんなご縁もあって,今回,外部識者としてお声がけいただきました。

 昨年には,新見市内6校の中学校に1人1台のタブレット端末が配布されました。

 先行して実証実験に取り組んでいた哲西中学校での成果を踏まえて,「ネットワーク環境」「1人1台タブレット端末」「教室の端末とIWB」「ICT支援員」という4点セットが重要性であるとして他校も整備したそうです。

 現時点で,各校の進捗は様々で,先生方のスキルや意識を醸成しながら,各校のテーマに沿った取組みを加速していくことが求められているようです。

 また対外的には,端末導入による成果を具体的に提示することが求められていて,端的に「学力向上」に結びつく何かしらの数値を求める声も強いのは,関係者として悩ましい課題です。もちろん,今回の新見市の事業は,学習指導の質の向上を通して,その先の学力向上を目指しています。とはいえ,決して小さくはない予算を使っての取組みです。分かりやすい成果を必要とする世界が隣り合わせていることは,どの地域の取組みでも同じことだと思います。

 ただ,ICTの効果に関して,次のように記している文献があります。

「(前略)学習に対する「ICT」の効果に関する議論は、あまりに曖昧で広すぎる。それはまるで、学校教育における本の効果はどのくらいかを尋ねるようなものだ。もちろん、それは本自体に左右されるし、読みのプロセスや学習者、そして期待される成果によっても異なる。同様に、コンピュータ代数システム(CAS)や補習用数学ソフトといった数学のソフトウェアで学習するのと、非同期型学習ネットワーク(ALN)、電子書籍、SMS、Google、コンピュータゲーム、知的認知システム、あるいはWikipediaなどを併用して学習するのでは違う。この点について、エビデンスに基づきながら導き出せる一般的な結論は、次の2点である。すなわち、1)ICT環境の効果は慨して、ICTの特徴のみならず、学習プロセスや成果をモニタリングし、制御し、振り返る生徒の能力によっても大きく左右される。2)以下に述べるように、様々なICTの特徴に合わせて、メタ認知的足場づくりを修正することができる、ということである。(後略)」

(OECD教育研究革新センター『メタ認知の教育学』明石書店2015、
217-218頁)

  つまり,ICTの効果は,活用に際して働くメタ認知の在り方に深く関係するのだとする考え方です。よって,そのようなメタ認知が育まれるためには,盲目的な利用に陥らないように学習活動への配慮をする必要があるということなのです。

 分かりやすい学力向上を示すのであれば,読書やICT活用よりも,ひたすらドリル練習でも繰り返せば結果を示すのは簡単です。しかし,ドリルを解くようなやり方ではこの時代の問題に対応できなくなっているというのが,そもそもの話の発端だとするならば,読書やICT活用をどのように運用すれば課題解決に結びつけられるのか,その能力こそ求められていると理解してもらう必要があるのだと思います。

 「メタ認知」や「自己調整学習」といった言葉は,専門領域では少々過剰摂取されすぎた感も無きにしもあらずですが,そろそろ一般社会における議論において理解してもらうべき段階に来た言葉なのかも知れません。

 今回の文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業(ICTを活用した学びの推進プロジェクト)」では,各自治体において,「メタ認知」の獲得について,どのように分かりやすく指標や記述を表していくのか,そのことが共通して通底する課題になっていくのではないかと私自身は思っています。

 岡山県新見市までは,徳島から電車に揺られて4時間。都合で岡山に前泊してから翌日会議で帰宅するというスケジュールでした。お出かけ前にいろいろあって大変でしたが,なんとか無事に行って帰ってきました。