台湾人の信仰心は厚い。各地に多数の寺院が建てられている。国内総生産のかなりの部分が寺院建造にまわされる。キリスト教、仏教など世界宗教と違って、民間信仰は庶民の信仰であり、多種多様な神様が祭られる。王爺、媽祖はじめ、天公、城隍、孔子、関帝などは地域住民の守護神として親しまれている。祖先崇拝も広く守り伝えられている慣行である。
地域住民の守護神である神様は多くものを要求しない。豪華な神殿ができるのは信者の厚い信仰心の証である。人々の暮らしがよくなれば、守護神の株も上がるとでもいうか、経済が発展し、生活水準が向上すると、景気のいい信者が王爺廟や媽祖宮に一層の繁栄をもたらす。寺院の「香火旺盛」は地域社会の経済力をも反映するのである。このような信者を多数抱える神様は例外なくつやのいい顔となっている。きれいな装いの割には顔が黒く見える。これをみて信者が満足する。線香の煙で神様の顔色が黒く光ってみえることはすばらしいことである。
航海の安全を守る神様は媽祖婆として知られる女性守護神である。港町をはじめ各地に天后宮と呼ばれる宮殿を構えている。この高雄天后宮のほか、鹿港、員林、東港、台南、台北など多くの媽祖宮の存在がが知られている。毎年、旧暦3月に各地でそれぞれ別々に「媽祖生」を祝う習わしがあって、この女神の誕生式典が各地で賑やかに繰り広げられる。
媽祖が海の守護神なら、王爺や城隍は地域住民の男性守護神である。王爺は各地で祭られ、宮殿を構えている。台湾のいたる所に王爺宮または城隍廟が一般住宅群の中に建てられ、地域住民の日常生活と一体化されている。王爺は住民にとって父母官であったことできわめて親しい関係にある。
王爺と媽祖はそれぞれ本家と分家の関係を持ち、身分の相違があるようで地域住民の保護のために各地を巡視するほか、里帰りや報告のための「割香」と「進香」を定期的に行うが、徒歩300キロの苦行に多数の信者が同行する行事は実にセンセーショナルなイベントである。